ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
国際物流の基礎知識
第二船籍制度とは?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2005 82 最近、日本の海運業界では「第二船籍制 度」が話題になっています。
第二船籍制度と はどういうものなのか。
どういう意味がある のか。
あるいは諸外国の事情はどうなのかに ついて解説します。
コスト競争で自国籍船が減少 日本の外航海運は一九八五年の「プラザ合 意」以降の急激な円高で国際競争力を喪失し ました。
日本には登録免許税や固定資産税と いった税制、さらに厳しい船員配乗要件や設 備・検査要件があり、それらが高コスト要因 となって国際競争力の維持が困難になってし まったのです。
これに対して海運各社は保有する船舶を便 宜置籍船に置き換える、つまりパナマなど海 外に置籍する船舶を増やすことで、競争力の 回復に乗り出しました。
その結果、一九七二 年のピーク時には一五八〇隻あった二〇〇〇 総トン以上の日本籍外航貨物船が、一九九〇 年には四四九隻、二〇〇一年には一一七隻、 二〇〇三年には一〇三隻まで減少しました。
二〇〇三年時点で日本の外航商船隊は一八 七三隻でしたから、およそ二〇年で全体の九 四・五%が海外の置籍となった計算になりま す。
海運各社は並行して日本人船員の削減も進 めてきました。
八七年に緊急雇用対策と称す るリストラを断行して以降、外国人船員との 混乗を加速させました。
その結果、一九八〇 年時点では三万五二〇八人の日本人船員が 活躍していましたが、その数は二〇〇二年に は二四一二人にまで減少しました。
こうしたフラッギング・アウト(便宜置籍船に置き換えることによる自国籍船の海外流 出)による自国海運の空洞化は、日本に限っ た話ではありませんでした。
海運先進国であ る欧米諸国でも同様の現象が起こりました。
これを受けて、欧米諸国では自国海運を強 化・保護するための優遇制度を創設していっ たのですが、その代表的なものが第二船籍制 度です。
第二船籍制度とは、本来の船舶登録制度 とは別に特定地域を定め、そこに登録された 船舶について、配乗要件、船舶税制、船員税 制、社会保障制度などを緩和する制度です。
諸制度の緩和を通じて自国船の維持・拡大を 図ろうとするものです。
日本では、日本籍船、 日本人船員の減少に歯止めをかけるために九 六年に国際船舶制度が作られましたが内容的 に中途半端なため制度として十分に機能して いません。
そのため今、第二船籍制度創設の 要望が高まっています。
主要国の第二船籍制度の現状について見て いきましょう。
最初に欧州での取り組みです。
欧州では八〇年代後半から第二船籍制度の導 入が活発になりました。
現在では英国、ドイ ツ、フランス、オランダ、デンマークなど多 くの国で第二船籍制度が導入されています。
欧州における第二船籍制度の代表格の一つ は、八七年七月にノルウェーで導入された 「ノルウェー国際船舶登録制度(NIS =Norwegian International Ship Registry )」 です。
この制度によってノルウェーでは船長 以下の外国人船員を出身国の賃金水準で雇 用できるほか、船によっては外国人船員のみ での運航が可能になりました。
また外国人船 員の所得税免除措置も講じられました。
一方、アジアでは韓国が「済州島船舶登録 制度」を開始しています。
日本籍船の制約条件 日本の取り組みはどうでしょうか。
日本で は九六年に日本籍の外航船に税制上の支援措 置を講じた国際船舶制度が導入されました。
しかしながら同制度では「船長および機関長 二人は日本人で、さらに日本政府承認の外国人船員でないと配乗できない」と定められて います。
このため、海技免状の手続きなどで 使い勝手が悪く、また税制の軽減度合いも低 く、日本籍船の減少に歯止めが掛かっていま せん。
日本籍船の制約条件は次の三つです。
?税制――高額な登録税と固定資産税 ?日本人の配乗要件 ?船舶設備・検査等の要件 このうち、まず?税制についてコンテナ船 第二船籍制度とは? 《第2回》 国際物流の基礎知識 商船三井 森隆行 営業調査室主任研究員 83 MAY 2005 を例に日本籍船とパナマ籍船の税金を比較し てみます。
日本籍船舶の登録税は八五一万円、 パナマ籍船の場合は一六三万円です。
一方、 固定資産税は日本籍船が年額二五三万円、パ ナマ籍船が年額九二万円です。
日本籍船はパ ナマ籍船の約三倍のコストになります。
日本では、船舶が不動産と見なされ、各船 籍港に登録する前に管轄の法務局に登記が必 要になります。
しかし日本以外に船舶を不動 産と見なす国はほとんどありません。
日本で も航空機は不動産ではなく動産と見なされて いますので法務局への登記は不要で、さらに 登録料も船舶に比べてはるかに安く設定され ています。
船舶だけが二重の手間と費用が必 要となっているのです。
次に?配乗要件です。
前述した通り、現在 の国際船舶制度では船長と機関長の二人の日 本人船員の配乗が必要です。
わずか二人の日 本人とはいえ、便宜置籍船に全員外国人船員 を配乗する場合と比較すると、およそ二倍の コスト高になります。
日本船主協会の試算に よれば、二三人全員がフィリピン人船員の場 合の年間船員費は六三万ドルであるのに対し て、国際船舶制度に従って日本人船長と機関 長二人の日本人プラス二一人のフィリピン人 船員を配乗した場合は一一二万ドルとなりま す。
一般に船舶管理コストに占める船員費の 割合は、四〇〜五〇%と言われているだけに、 国際競争力を維持するためには船員費を低く 抑えることはとても重要になります。
最後に?船舶設備・検査等の要件ですが、 日本籍船には諸外国に比べ厳しい要件が課せ られています。
その結果、二〇〇〇年以降の 日本籍船の新規登録は一〇隻程度にとどまっ ています。
今治市に海運特区を 便宜置籍船はその置籍国の法制に縛られる とともに、これらの国の政治環境の影響を受 けます。
そのため日本籍船と比較して法的安 定性に欠けます。
二〇〇二年にはパナマ籍タ ンカー「TAJIMA」の船上で日本人船員 が殺害されるという事件が起こりました。
こ れをきっかけに日本人船員に対する犯罪には 日本国の刑法が適用されるよう法律が改正さ れましたが、外国人同士の犯罪には日本の管 轄権は及びません。
船会社にとっても船舶の 安全性から便宜置籍国と同じ条件であるなら 日本籍がいいということになります。
こうした状況を背景に、日本船主協会が中 心となって、先に挙げた?税制、?配乗要件、 ?船舶設備・検査要件――の三点の緩和を働 き掛けようという動きが出始めています。
便 宜置籍国と同等の制度を創設することで日本 籍の船を増やそうというものです。
愛媛県今治市は海運、造船を中心に海運 関係産業が集積しており、この地域の外航船 主は五〇〇隻近い外国籍船舶を保有していま す。
そこで、今治市を「構造改革特区」とし て、ここを船籍港とする新たな第二船籍制度 を創設することで、「?新〞今治海事都市」を 作ろうという案が浮上しています。
昨年六月末に日本船主協会と今治市が共 同で構造改革特区提案を内閣官房構造改革 特区推進室に提出しました。
これに対して、 国土交通省は、「特区としては対応不可」と 回答しました。
ただし、日本船主協会と国土交通省で設置した「外航海運政策推進検討 会議」で引き続き検討しています。
第二船籍制度は欧州でスタートし、アジア 諸国にも拡大しつつあります。
米国は運航補 助という独自のルールで自国籍船舶の確保を 図っています。
外航海運会社は生き残りのために経済性を 無視することはできません。
しかし、このま までは近い将来、日本籍船はゼロになってし まいます。
第二船籍制度の創設は、日本の船 舶の安全保障や安定輸送の観点を踏まえたう えで検討されるべきではないでしょうか。
もり・たかゆき 1975年大阪商船三井船舶入社。
97年MOL Distribution GmbH社長、2001年 丸和運輸機関海外事業本部長、2004年1月より現 職。
主な著書は「外航海運概論」(成山堂)、「外航 海運のABC」(成山堂)、「外航海運とコンテナ輸送」 (鳥影社)、「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)など。
日本海運経済学会、日本物流学会、ILT(英)等会 員。
青山学院大学、長崎県立大学等非常勤講師、 東京海洋大学海洋工学部講師 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1972 1978 1980 1989 1994 1999 2003 日本の外航海運企業が運航する2,000総トン以上の 商船。
外国傭船を含む。
出所)平成16年版「海事レポート」国土交通省海事局 日本商船隊の構成変化 日本籍 (隻) 外国籍 森氏の最新著書 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)が 3月下旬に発売されました。
定価 920円(税別)。
クルージングの歴 史や船旅を満喫するためのノウハウ が紹介されています。
ぜひご一読く ださい。
(編集部)

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