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日米の中間流通を比較する
将来、日本では情報武装した大手企業による中間流通の寡
占化が進む。 欧米企業と同様の進化の過程を辿るのはほぼ間
違いない。 欧米企業はどのような問題に直面し、それをどう
克服してきたのかを再確認しておくべきだ。
カート・サーモン・アソシエイツ大橋進 ロジスティクス・サービス・ディレクター
棲み分け進む中間流通
日米の中間流通の相違点や類似点を論じ、今後の
方向性を探るのは非常に難しい。 皆目見当がつかない
からではない。 むしろ大方の認める中間流通の将来像
は、はっきりしている。 しかし、どのような過程を経
て、どのくらいのスピードでそこに近づいていくのか
が読みにくいのである。
米国や西欧で見られる卸業態の変化は数多くある
進化モデルの一つにほかならない。 日本も大筋で欧米
と同じような進化を辿るであろうが、その土台となる
社会インフラや文化の違いが必ず日本における中間流
通の進化形態に影響を及ぼすに違いない。
将来、日本では中間流通の「棲み分け」が進み、そ
の存在意義が明確になるという「将来像」は多くの
人々が認めるところであろう。 しかし、その将来像に
辿りつくまでのルートはあまりに多くなることが想定
される。 そのため、ひとつのシナリオでは語り尽くせ
ない。 そこが「難しい」である。
日本の中間流通がどのように変化していくのか。 考
えられるシナリオをいくつか挙げる前に、まずは中間
流通の「棲み分け論」について少し触れておこう。
これまで、製造業と小売業の間で、どちらかという
と全方位的に存在していた中間流通業者、換言すれ
ば必然性を持つかのごとく存在していた中間流通業者
は、近い将来、その存在意義を失う恐れがある。 それ
に代わって、社会が求める機能を提供できる、これま
でにないタイプの「情報武装した中間流通業者」が次
世代を担うはずだ。 この将来像こそが多くの人が賛同
する新たな中間流通業者の姿である。
「棲み分け」の形態には二種類ある。 大手製造業と
大手小売業との間で拡がりつつある直接取引による流
通部分を自らの機能から手放し、その他の部分を確
固として担っていくという形態が一つ。 そして、もう
一つは業界内部で機能特化した業者、取り扱い品目
を限定した業者、ある地域に特化した業者がそれぞれ
の強みを発揮しながら競争していくという形態である。
このように「棲み分け論」とは業界が分割淘汰され、
小さくなっていくというような否定的な意味ではない。
むしろ、それぞれの特徴を生かし、独自に業を拡大し
ていく新たな姿を意味している。 企業規模が縮小して
いくようなイメージとは程遠く、機能遂行能力を身に
付けた巨大中間流通業者が誕生する、というシナリオ
である。 つまり、中間流通業者の上位寡占の到来は
避けられない趨勢なのである。
米国中間流通の進化形態
米国の中間流通業者は「合理的取引」という理想
型を求め、様々な試みを経て自ら変化を繰り返してき
た。 その際、日本のように業界団体が主導して業界内
でのコンセンサスをとりインフラを整備する、という
手法は採用しなかった。 正確にいうと、とれなかった
のである。 力のあるメーカー、そして小売業者が業界
全体を左右するような新しい仕組みや新しい取引形態
に挑戦し、それが業界標準となった。
もちろん、新たな取り組みのすべてが合理的で、次
世代に通用するアイデアであったわけではない。 しか
し、考えに偏りのある取引は、より説得力のある新た
な方法ですぐに置き換えられ、姿を消していった。
パワーゲームであるとはいえ、米国では合理性を欠
く取引形態は業界を先導することができないのである。
早晩消えていく運命にある。 自社の提案した取引方
法が業界に支持されなければ、マーケットからの撤退
を余儀なくされる可能性もあるという厳しい環境下に
第4部寄稿
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置かれている。
簡単にいえば、米国の中間流通業は新しい機能の
提案の連続と、それらを包括する新たな概念の創出を
繰り返すことで進化してきたのである。
例えば、日用雑貨の卸業者がメーカーと小売りの間
に存在する意義とは、需給調整機能に重点に置いて
自ら在庫を抱え、リスクを肩代わりすることだった。
そうした機能を提供できたからこそ営業を継続させる
ことができたのだ。
ただし、在庫の維持は考えていたよりもはるかに大
きなリスクを孕んでいた。 小売りの需要予測が全くと
言っていいほど当てにならないこともわかってきた。
その結果、彼らは必然的に小売りとの連携を深める中
で、POSデータにその活路を見出した。 さらに、ア
イテムレベルでの需要見込みを在庫管理に反映すべく
DRP(Distribution Resource Planning:
物流所要
量計画)方式の在庫管理手法を小売りとの間で確立
しようと試みた。 ある卸業者はVMI(Vendor
Managed Inventory:
ベンダー主導型在庫管理)へ
傾倒し、また、ある卸業者はCRP(Continuous
Replenishment Program:
連続自動補充プログラム)
式の補充方式へと取り組みを進化させていった。
こうした試みの中で、小売りの店頭にある在庫はベ
ンダー側が数量管理を行い、さらに在庫の所有権もベ
ンダー側が持つ、という発想も生まれてきた。 クロス
ドッキングやラックジョバーにも取り組んだ。 これら
はすべて生き残りをかけてサプライチェーン上で「存
在意義」を示すための卸業者のアピールに他ならない。
つまり、米国の中間流通業者はメーカーと小売業の双
方に、独自の機能価値を訴求し、リスクをとることで
生き延びてきたのである。
もし、日本の中間流通業者が今までの枠組みの中
で生き残りを模索しているのであれば、将来性はまっ
たくない。 不合理な商慣習を打破し、様々な工夫を
凝らすことで初めて次の時代へのパスポートを手にす
るのである。
情報武装の重要性
次に米国の中間流通業者の「棲み分け」状況を物
流の観点から見てみよう。 図1はグローサリーメーカ
ーからどのようなルートを経て小売業の店舗に商品が
到達しているかを示したものである。 米国では二〇〇
〇年に四〇%を超える物量が小売業の物流センター
を経由した。 そして、卸を経由せずに直接小売店舗に
デリバリーされたものが二五%超だった。 すなわち卸
売業が扱ったのは全体の三〇%強にすぎなかったので
ある。
同様に日本でもメーカー・小売業の直取引や、D
SD(店舗直送)の比率が拡大し、逆に卸のセンター
経由が減少していくのは間違いない。 繰り返しになるが、だからといって一社一社の卸業者の事業規模が小
さくなるのではない。 中間流通ビジネスの全体規模が
縮小していく速度よりも、一部の大型中間流通業者
による上位寡占の進むスピードのほうが速いという点
に注目すべきである。 特に食品、医薬品、書籍などの
分野で上位集中が進み、それに日用雑貨品や衣料品
などが続くというシナリオになる。
米国ではKマートの破綻は情報技術への投資を怠
ったためだ、というのが定説になりつつある。 しかし、
これは何も小売業に限った話ではない。 長期展望に立
った情報技術への対策は中間流通業者にとっても不
可欠である。
しかし、中間流通業者の場合、メーカーや小売業
者よりも厄介なのは、情報のインターフェースがサプ
図1 米国グローサリー業界におけるプロダクトフロー(2000年)
卸のDC
店舗
小売センター経由
41%
卸経由
33%
店直(DSD)
26%
出典:カート・サーモン・アソシエイツ
メーカーのDC
小売りのDC
メーカー工場
店舗 店舗 店舗 店舗
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ライチェーンの上流側(メーカー側)と、下流側(小
売側)の両方にあるという点だ。 また、今後の事業展
開においてどのような業務機能を提供していくかによ
って、おのずと導入すべきシステムの規模や優先順位
も異なってくる。
目の前にあるシステムに闇雲に手を出すのは賢明で
はない。 例えば、「需要予測の精度が低いので、早速、
需要予測システムの導入を考える」という判断は誤り
だ。 中間流通業者の基本機能とは情報を「伝達」す
ることであって、情報を「加工・分析」することでは
ない。 もちろん情報を「加工・分析」してはいけない
といっているわけではない。 それ以前に、情報がきち
んと伝達できているかを考えてみることが肝心だ。
ここでいう情報とは、主に需給に関する情報であり、
POSの売上情報から始まり、小売りの店頭在庫情
報、プロモーション情報などである。 また、物流情報
としては、入荷・出荷予定情報、配車情報、検品情
報などに関しても精度とリアルタイム性を向上させる
必要がある。
卸業者にとって不要な在庫を抱えるほど危険なこと
はない。 とはいえ、そういった在庫リスクをその上流
のメーカーや、下流の小売りに押し付けられればよい
という安易な考えは大きな間違いだ。 サプライチェー
ンの中間在庫を削減するためには、クロスドッキング
オペレーションができるようシステムを構築すべきで
ある。
仮に、純粋な形でクロスドッキングができなくても
在庫品として入荷される貨物の可視性(ビジビリティ
ー)が高ければ、入荷予定貨物に対して注文を引き当
る(オーダー・アロケーション)ことができる(オ
ン・ザ・フライアロケーション)。 この場合、高度な
情報システムが在庫保有リスクを軽減するということ
になるだろう。
卸の機能としては、様々な側面から種々の分類がな
されるが、図2に示すものがもっとも一般的であろう。
卸業者が体質強化のため今後取り組むべき課題はた
くさんあるが、機能面からするとそれほど多くはない。
取り扱い製品の間口の広さや商圏の広さによって戦略
は異なるが、これらを優先順序だてて取り組んでいく
のが次の時代で生き残るための最善策である。
情報システム導入の留意点
システム強化が必要な分野は以下の三点に限定さ
れている。
?商品マスターをはじめとするデータベース機能
?需要と供給を結びつけるための受発注と在庫管理
?配送計画や棚割りソフトなどの特殊用途システム
これらは当然、?から順番に導入を進めていくべき
である。 ?の「棚割りソフト」などはPCベースで動
くスタンドアローンのものもあるが、多くの場合、最
初からデータベースと連携して作業できる本格的なソ
フトを選択したほうがよい。
システムに関しては「統合化(インテグレーショ
ン)」を鉄則として導入を進めていけば、ほぼ間違い
ないだろう。 これは米国の産業が試行錯誤を経てたど
り着いた最終結論である。 もちろん、その背景には急
速なテクノロジーの進歩がある。 十年前は理論として
は正しくても経済的に成し得なかったことが、現在で
は低価格で大量のデータを瞬時に電送、処理できるよ
うになっている。
もっとも、システムを統合化して導入する作業は、
口で言うほど簡単ではない。 まず、最終型がどのよう
店頭販売支援
イベント企画
商品開発支援
品揃え提案
在庫保有
需給情報伝達
小売センター在庫補充
店頭在庫補充
メーカーミックス
産地集荷機能
商品小分け機能
センター運営
輸送配送
商品マスター管理
販売データベース管理
受発注データ管理
貸倒危険負担
支払いサイト調整機能
店頭広告宣伝
プロモーションセール支援
品だし介助
棚割り提案
レイアウト提案
低
低
中
高
高
高
高
低
低
低
高
高
高
中
高
中
中
低
低
低
高
中
主な業務 システム強化の必要性
基本機能
需給調整機能
物流機能
情報管理機能
金融機能
図2 中間流通業者の基本機能 出典 : カート・サーモン・アソシエイツ
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なものになるのか、全体的な構図を練らなくてはなら
ない。 事業戦略を明確にし、中間流通業者としてどの
ような機能を市場に提供し、どのような付加価値を与
えていくのかを明確にすべきだろう。
そうした戦略が固まってからはじめて、どのような
情報システムを構築すべきかが見えてくる。 強調して
おくが、戦略構想が出来上がっていないのに、言葉に
引きずられて「統合システム」を導入しよう、などと
考えてはならない。 つまり、戦略を確定しないうちに
ERPパッケージの導入を考えるなどというのは本末
転倒である。
また逆に、わかりやすいシステムを次から次へと導
入していくのも「統合化」からますます乖離していく
ことにつながるのは明らかだ。 曖昧なシステムが多い
とそれぞれの結び付けるのに思わぬコストが発生し、
二重、三重のシステム投資を余儀なくさせられる。
ECRの再確認を
戦略を策定しなければならないのは情報システムだ
けではない。 事業戦略そのものを策定しなくてはなら
ないのは言うまでもない。 ビジョンや戦略は「ありが
たいお札」のようなもので、日々の業務になくてはな
らないものではない、と考える向きもあるが、これは
大きな間違いだ。 中間流通業者に限った話ではないが、
米国では事業戦略がなくては短期の事業計画も日々
のオペレーションも意味を持たないとされている。
日米の経営手法の大きな違いは、事業戦略に対す
る考え方と意思決定方法である。 戦略性とはOGS
M
(Objectives, Goals, Strategy and Measurement)
の手法に見られるようなストラテジックな考え方であ
り、意思決定方法とは米国企業におけるトップダウン
アプローチを指している。
いまや、日本の流通市場での台風の目はカルフール
やウォルマートといった外国勢であるが、各社が基本
に据えているのはECR戦略である。 日本では、EC
Rという言葉が何年か前に流行語になり、今では過ぎ
去った概念であると誤解する人もいるようだが、EC
R戦略こそが米国流通業、無論、中間流通業を含ん
だ上での流通業全般において、最も重要な戦略概念
なのである。
中間流通業者が自分の上流に位置する企業、すな
わちメーカーと、下流の小売業を視野に入れたとして
も、その接点だけで事業をデザインするのではもはや
時代についてはいけない。 今までメーカーが行ってき
た多くの事柄に手を伸ばし、同時に小売りが行ってき
た様々な業務をこなしていく姿勢こそ中間流通業に求
められる姿だ。
具体的には、例えば上流側で新商品の開発に参画
したり、下流側に対してVMIを展開するなどである。
食品分野であれば、例えば総菜メニューの開発といった積極的な取り組みが求められている。
三つに分類される日本の卸業
中間流通業は、様々な分類方法が考えられるが、資
本内容から見た場合には次のようなものがある。
?独立系卸業者
?メーカー系列卸業者
?商社系卸業者
冒頭で述べたように、いずれの業者にとっても「情
報技術で武装した中間流通業者」というのが未来の
姿である。 これまでの説明を通じて、五年後、あるい
は一〇年後に、今とは比べものにならないくらい進ん
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だ情報技術を駆使して、図2に示したような卸機能を
提供できる中間流通業者の姿が見えてきただろうか。
未来の姿がほぼ一様なイメージになったとしても、
ここで掲げた三種類の卸業者はそれぞれ違った発展形
態を示すだろう。 独立系の業者は取り扱い品目の間
口
(Lines of Business)
を拡大し、企業合併の道を歩む
であろう。 メーカー系列にある業者はメーカーの市場
支配力の低減とともにメーカー色が薄れ、系列からの
脱退を余儀なくされるであろう。 そして、商社系は商
社の強みであるオーガナイザー機能を発揮し上流、下
流へその業務範囲を広げていく。 ざっと、このような
シナリオが見えてくる。
現在の個々の企業が置かれている環境や様々な制
約条件があるため、現実の発展形態は企業ごとに無
数のシナリオにアレンジされていくであろう。 しかし、
行き着くところは同じである。 ゴールに到達するのに
何をなし、何をなさぬか、という数々の選択肢に的確
にこたえ、時をおかずに遂行していく以外、王道はな
い。
必ずしも米国流通業の辿った道筋を同じように辿る
必要はない。 しかし、彼らが現在到達している場所は、
はるかに日本の現状より進んでいる。 今謙虚な姿で、
米国から何を学び、何を移植すべきかを考えなくては
ならない。
「米国と日本は、文化も、インフラも、法規制も違
う。 現在、自社が行っているのがベストプラクティス
だ」などといっているようでは埒が明かない。 周りを
見ずに自分だけが良かれと思っていると気づいたとき
には取り残されていた、という例は歴史を紐解けば枚
挙にいとまがない。
今こそ、現在の枠組みを見直し、未来の正しい姿に
いかに合理的に近づけていくかを真剣に考え直すべき
だ。 確かに中間流通業はメーカーや小売りよりも見極
めが難しい。 しかし、現存する卸業者のうち、確実に
未来社会で生き残っている企業と、消えてなくなる企
業が出てくることは避けられない。
新規参入組になり得るのは、おそらく中間流通業を
営むようになる3PL業者と、B2Bビジネスにおい
て、インフラを持たずにウェッブ上で需給のマッチン
グをする業者くらいだ。 淘汰される業者は、勝ち組に
蹴落とされるのではなく、自社の変革ができないため
に自ら消えていくであろう。
ウォルマートの上陸で日本の流通市場は変革を余
儀なくされる。 それが、良いとか、悪いとかの論議で
はない。 メーカーと小売りの直取引が否応なく進んで
いく。 それにより、メーカーの戦略、小売りの戦略、
ひいては卸の戦略が大きく変わるのである。 米国から
何を学び、何を教訓とできるかは、個々の企業がどれ
ほど開かれた心を有しているかに掛かっている。
大橋 進(おおはし・すすむ)
カート・サーモン・アソシエイツ
ロジスティクス・サービス・ディレクタ
ー
25年以上にわたる、商社・消費財・コ
ンピュータ業界でのロジスティクスおよ
びサプライチェーン・マネジメントの経
験を生かし、現在同社にて国内外の小売
業、消費財のロジスティクスシステムの
構築に関わるプロジェクト多数に参画。
書物だけに頼らない、ロジスティクスの
現場で培った豊富な経験を生かしたコン
サルテーションを行っている
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