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DECEMBER 2002 68
一括物流ブームに湧く家電業界
「我々の業界では、まず最初に市場価格が
決まってしまう。 家電販売店はこの価格に合
わせざるを得ず、これを実現する販売管理費
で運用できなければ生き残れない」。 北海道
と東北エリアに強い営業基盤を持つ中堅家電
販売店チェーン、デンコードーの高橋正常務
は、家電業界をとりまく厳しい状況をこう強
調する。
家電販売チェーンの業界では近年、ヤマダ
電機とコジマによる売り上げ競争が社会的な
注目を集めてきた。 一方、業界内では、収益
性の高さから注目を集めてきた企業が三社あ
る。 全国展開にメドをつけつつあるヤマダ、
北関東で強いケーズデンキ、そして東北以北
を地盤とするデンコードーである。 各社に共
通しているのは、バイイングパワーにモノを
言わせて仕入れ競争に明け暮れるのではなく、
オペレーションの効率を高めることでコスト
競争力の強化に取り組んできた点だ。
とくに業界首位のヤマダには、物流をいち
はやく整備したことが競争力につながったと
いう業界内での?定説〞があった。 このため
売上規模がヤマダの五分の一に過ぎないデン
コードーが、二〇〇〇年一〇月に東北エリア
の七〇店舗を対象に一括物流センターを立ち
上げ、これを軌道に乗せたことは大いに業界
の注目を集めた。 この頃から家電業界に?一
括物流ブーム〞ともいうべき気運が生まれた。
業務プロセスを見直し一括物流
パートナーは電機系物流子会社
家電量販店のデンコードーが物流改革を進
めている。 2000年10月に東北地方で松下ロジ
スティクスと組んで一括物流センターを稼働。
その一年後には、今度は北海道で東芝物流と
一括物流を立ち上げた。 物流インフラの効率
化にメドをつけた現在では、需給調整の高度
化と、店頭での販売活動のユニークなIT化
に取り組んでいる。
デンコードー
―― アウトソーシング
舗に直接、注文を取りに来て、その日のうちに納品なんてことが少なくなかった。 きわめ
て融通が利いた」(高橋常務)。
ところが、この状況は九〇年代に入ると一
変した。 製品を作れば売れる時代は終焉し、
家電製品のライフサイクルがどんどん短縮。
家電メーカーは、消費者の移り気な嗜好に振
り回されるようになり、中間流通で多量の在
庫を抱えることはリスクでしかなくなった。
しかも末端の販売業態も、メーカーの意向
を反映しやすい系列店から、自らの意志で品
揃えをする量販店へと主役の座がシフトして
きた。 従来のようにきめ細かいサービスを与
えても、メーカーにとってはそれが自社製品
の拡販につながるとは限らない状況が生まれ
た。 こうして家電メーカーの多くが中間流通
のスリム化に着手し、このことがまた量販チ
ェーンの物流を見直させる圧力にもなった。
松下、東芝、三洋、日通でコンペ
一括物流を導入する以前、デンコードーの
店舗には一日あたり平均三〇〜四〇台の納品
車両が訪れていた。 しかも、繁忙期になると
この台数は五割増しになる。 店舗側ではトラ
ックが着くたびに入荷検品に立ち会い、納品
登録や支払いの事務処理などをこなさなけれ
ばならなかった。 「受品作業のために必要な
人材を、大型店舗では四、五人も雇っていた。
しかも、それだけコストと手間をかけても管
理精度の追求には限界があった」
一括物流ブームの背景には、メーカーが手
掛けてきた中間流通の変化がある。 家電メー
カーの多くはこれまで、販売会社や物流子会
社を傘下に抱えて流通の垂直統合を図ってき
た。 全国に存在している系列販売店に対して、
きめ細かい納品や事後サービスを提供し、こ
れを武器に自社製品の販売力を高めるという
戦略だ。
こうしたメーカーの方針を受けて、家電販
売店の側には、メーカーの系列店のみならず、
独立系の量販チェーンについても従来、商品
の仕入れ機能を供給側に頼りきってきた面が
ある。 デンコードーも例外ではなかった。 「か
つて家電メーカーの物流拠点は基本的に県単
位で配置されていた。 メーカーの担当者が店
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ここで使っていた人件費を削減できれば、
販管費を圧縮できる。 コスト競争力の向上に
もつながる。 そう考えたデンコードーは、九
九年末に一括物流を導入するための物流コン
ペを開催した。 入札に応じたのは、松下ロジ
スティクス、東芝物流、三洋電機ロジスティ
クス、日本通運の四社。 前述した通り、家電
メーカーの側も中間流通のスリム化に躍起に
なっていた時期だったため、販社の倉庫の空
いたスペースや人材を外販で活かす道を模索
していた。 結果としてコンペに家電系の物流
子会社の顔ぶれが揃うことになった。
実際、既存施設の活用を前提としていたた
めか、物流子会社は日通より安い入札価格を
提示してきた。 デンコードーとしても、家電
業界の事情に精通した電機系子会社が低コス
トで請け負ってくれるのであれば、それに越
したことはない。 さらに松下ロジスティクス
の場合は、松下電器産業の経営幹部が熱心に
アプローチしてきた。 こうした点を評価した
デンコードーは、コンペから約二カ月後に松
下ロジスティクスをパートナーに選んだ。
しかし、それからが大変だった。 松下ロジ
スティクスにとっても、量販店の一括物流を
本格的に請け負うのはデンコードーが初めて
の経験。 施設こそ松下の販社が宮城県の富里
町に持っていた既存施設の一部を使うが、オ
ペレーションの仕組みは手探りで構築する必
要があった。 システム構築の過程では、デン
コードーと松下ロジスティクスの方針の食い
デンコードーの本社に隣接した大型店舗「仙台南店」
作業量を事前に予測し、これに基づいて体制を整えるようになった。 以来、現場が大混乱
するような事態は発生していない。 二回目の
年末繁忙期となった二〇〇一年末には、極め
てスムーズに業務をこなすことができた。
こうした経験は、松下ロジスティクスにと
っても大きな財産になったようだ。 当時、松
下グループの物流事業化を推進し、現在では
松下電器産業の物流統括グループを牽引する
立場にある今村元則マネージャーは、「デン
コードーさんの一括物流を受託したことが、
3PL的な業務を進める一つのきっかけにな
った。 ここで蓄積したノウハウがあったから
こそデオデオさんの一括物流も受託でき、こ
の一〇月から十二月にかけて広島、四国、九
州で物流拠点を立ち上げている」と言う。
デンコードーは、東北のセンターを稼働し
た約一年後の二〇〇一年十一月には、北海道
でも九店舗を対象とする一括物流を立ち上げ
た。 東北での入札時に評価の高かった松下ロ
ジスティクスと東芝物流の二社に声を掛けて、
より有利な価格を提示してきた東芝物流を選
んだ。 既存のインフラを上手く活用できる東
芝物流の方が、少ない店舗数でも融通が利く
という優位性があった。 情報システムなどは
東北で使っているものをそのまま流用し、ほ
どなく軌道にのせることができた。
店舗在庫を物流センターに集約
一括物流の導入効果は明らかだった。 従来、
一店舗あたり一日に三〇〜四〇台
が訪れていた納品車両の数は、原
則として一日一台になった。 商品
の受け入れに要する店舗側の作業
時間も、それまでの平均一八〇分
から二〇分まで短縮した。
さらに、このときの物流改革で
同社は、受品時に納品伝票をコン
ピューターに再入力していた作業
を、ハンディ端末でバーコードを
読んで処理するように変えた。 一
括物流の取り組みが軌道に乗った
のを見計らって?ノー検品〞にも
踏み切った。 二カ月間ほどのテスト期間を設
けて経過を観察したところ、納品精度がほぼ
一〇〇%に近いことを確認できたため店舗で
の入荷検品を廃止してしまった。 当初の計画
通り、デンコードーは店舗で入荷作業を担当
する人員を大幅に削減することができた。
かつて一括物流の導入を検討したとき、同
社は先行他社の失敗事例を徹底的に研究した。
そこで分かったのはソフト面の重要性だった。
一括物流センターを稼働したのに上手く機能
していないケースでは、イレギュラー処理へ
の対応などが全体の生産性を落としていた。
そこでデンコードーは作業ルールの徹底を図
った。 一括物流センター内のクロスドック処
理をするスペースで毎日、残る商品をゼロに
するという大前提を作ったのもそのためだっ
た。 センター内に不明な在庫を残さないため
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違いも発生した。
「当初、松下さんが出してきた提案は、極
めて硬直的なものだった。 松下製品だけを扱
っていた従来と同じような感覚で、伝票の事
前貼付などを他のメーカーさんなどにも要求
した。 彼らにとっては当たり前だったのかも
しれないが、我々としてはベンダーさんに協
力してもらわなければならないことが他にも
沢山ある。 反発を招くようなやり方では困る
ため、かなりの部分を見直してもらうことに
なった」(高橋常務)。
実際に二〇〇〇年一〇月に一括物流をス
タートしてからも、現場は混乱を極めた。 あ
るときなどはセンター作業が滞ったために入
荷待ちのトラックが何十台と並んでしまい、
交通整理のパトカーが出動する騒ぎにまで発
展してしまった。 また、初めて迎えた年末年
始の繁忙期には、平常時の五倍程度に膨れあ
がった物量に対応しきれず、松下ロジスティ
クスの経営幹部まで泊まり込んで事態の収拾
を図る必要があった。
このときの混乱は最終的に金銭問題にまで
発展した。 デンコードーの高橋常務は、「我々
としても店舗に商品が届かないために、かな
りの販売機会ロスを出した。 将来のためにも、
ここはあえて厳しく対応した方がいいと考え
て、たいした金額ではないが賠償請求をした」
と当時の状況を振り返る。
幸い、この年末繁忙期を境に松下ロジステ
ィクスの姿勢はがらっと変わった。 その後は
2001年10月に松下ロジスティクスと宮
城県富谷町で立ち上げた一括物流センター。
東北全域の70店舗をカバーする
の工夫である。
同様の狙いから、発注プロセスの標準化も
進めた。 「店舗からの発注はオンライン経由
しか認めないようにして、必ず本社のホスト
コンピューターを使うように統一した。 いっ
たんホストで内容をチェックし、ここから業
界VANを使ってメーカーに発注するように
している。 物流センターを構築するだけでな
く、業務プロセスの見直しにまで踏み込んだ
ことが我々の管理の特徴」と高橋常務は言う。
もっともデンコードーにとって、店舗への
入荷作業の効率化は一つ目のハードルに過ぎ
なかった。 あくまでも最終的な狙いは、全社
の在庫水準を適正化することと、これによる
店頭販売力の強化にある。
現在、同社は会社全体で三五日分くらいの
在庫を持っている。 これを削減するためには、
納品リードタイムの短縮が大きなカギになる。
通常、メーカーに商品を発注すると、納品ま
でのリードタイムは最短でも三日かかる。 し
かも売れ筋の商品ほど
メーカー在庫は切れてい
る可能性が高い。 この
ため店舗側は、店での
在庫を多めに抱えるこ
とで販売機会の損失を
防ごうとしてきた。 これ
がデンコードー全体の在
庫水準を押し上げる要
因になっていた。
こうした事態を打破するため、デンコードーは現在、一括物流センターに置く自社在庫
の比率を飛躍的に高めようとしている。 セン
ターに在庫があれば、従来のメーカー発注の
受注締め時間である一四時を一八時まで先送
りしたうえで、しかも翌朝の店舗納品が可能
になる。 つまり、従来は各店舗で負担してい
た在庫リスクを物流センターで肩代わりして、
これによって全体の在庫水準を引き下げよう
という試みである。
実際、すでに全売上高の二割程度の商品在
庫を物流センターに置いている。 「この比率
を将来的には八〇%まで高めたい。 そうなれ
ば店舗側で持つ在庫は五日分で充分になるは
ずで、現状に比べて半減できる。 こうした取
り組みによって全体の在庫を、現状の三五日
分から来期は二割減らしたい」と高橋常務は
意気込む。
センターフィーは一%の逆ざや
一般的に小売り主導の一括物流では、セン
ター内に置く在庫の所有権をどうするか、物
流拠点の使用料であるセンターフィーをいく
らに設定するかで、常に小売業者とベンダー
の見解が対立してきた。 小売業者としては、
本来はベンダー側が担うべき仕事を肩代わり
するのだからセンターフィーを取るのは当然
と主張する。 これは現行の日本の商習慣のな
かでは理解できる主張なのだが、問題はセン
ターフィーの価格設定を、取引面で優位に立
つ小売業者が一方的に決めることにある。
だからこそ一部の小売りチェーンが、物流
センターの運営委託先に支払う実費より、高
いフィーをベンダーからせしめ、そこで利益
を出すといった話が絶えない。 ただし家電業
界ではまだ相対的にメーカーの力が強いため、
法外なセンターフィーや委託在庫の要請は、
メーカーが拒否してきたという経緯がある。
デンコードーの場合も、センターフィー問
題などあり得ないと一笑に付す。 「センター
フィーと実際の運営費の差額で利益を出そう
などというのは邪道だ。 我々も店舗への納品
価格に対するパーセンテージでフィーを決め
ているが、ベンダーさんからいただいている
のは〇・五%くらいじゃないかな。 一方で松
下ロジスティクスさんに支払っているのは
一・五%以上ある。 完全に逆ざやになってい
る」と高橋常務は強調する。
多額の逆ざやをデンコードーが負担してい
るという主張については、複数の家電メーカ
ーの担当者が「それは実態とは違う」と否定
する。 それでも有力家電量販チェーンのなか
にあって、デンコードーの取引姿勢はフェア
で評価できる、とメーカー担当者が口を揃え
ているのも事実だ。
実際、デンコードーがセンター在庫を増や
していくにあたっても、ここでの在庫負担を
メーカーに押しつけるつもりない。 同社は
「在庫は買い取るのが当たり前。 そんなとこ
ろで楽をすれば全体のモラルが低下し、現場
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買い取り在庫を売上高の
80%まで高める方針
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の緊張感がなくなってしまう」と言い切る。
店頭での販売効率を高める工夫
デンコードーは、メーカーから小売り店頭
に至るシステム全体を高度化することで、競
争を勝ち抜いていこうという意識を強く持っ
ている。 だからこそ松下ロジスティクスと一
括物流の仕組みを作ったときにも、各ベンダ
ーに過度の業務負担が発生しないように留意
した。
同社が計画通り売上高の八〇%に相当する
商品を物流センターの在庫でまかなおうとす
れば、総取扱アイテムの約三割にあたる約六
〇〇〇アイテムを自ら管理する必要が生じる。
これだけの商品の適正在庫を維持するために
は、かなり高度な需給調整業務が不可欠にな
る。 デンコードーは、これを自分たちだけで
行うのは現実的ではないと考えている。 こう
した領域では、ベンダー側の能力をフルに活
かすというのが同社の基本的なスタンスだ。
こうした狙いからデンコードーは、九九年
頃から取引先にPOSデータをオンラインで
提供してきた。 ところが最近では、メーカー
に提供したPOSデータは生産活動には使わ
れてはいても、販社の担当営業マンのレベル
でデンコードー自身の在庫管理に活用されて
いるケースは少ないと分かった。
そこでデンコードーは、専用パソコンを取
引先に月額使用料一万五〇〇〇円で貸し出
すという取り組みをスタートした。 セキュリ
ティ機能を付加した端末からデンコードーのホストコンピュータに直接アクセスできるよ
うにして、当該メーカーの製品に関する売上
高の推移や、在庫状況などをすべて公開して
いる。 すでに主要取引先を中心に五〇社、九
〇台が稼働しているという。
こうして取引先の経営資源をフル活用する
一方で、デンコードー自身は店頭での販売業
務に注力しようとしている。 同社は今年六月
から、店頭の販売員すべてに無線LANを使
った携帯端末を持たせる試みを進めている。
富士通と組んで独自開発したこのユニークな
端末を使うことで、販売員が店頭で接客しな
がら、商品の在庫確認や配送車両の手配など
をすべて処理することを狙っている。
高橋常務は、この携帯端末を開発した経緯
を次のように説明する。 「あるとき私が店頭
に行くと、本来であれば一〇人くらい売場に
いるはずの社員が三人くらいしかいない。 調
べてみると、みんなバックヤードで事務処理
などをしている。 これでは、お客様を待たせ
ることになるし生産性も低い。 それで売場か
ら一歩も動かずに、バックヤードの業務を処
理できる仕組みを開発した」
考え方は単純だ。 従来はいったんバックヤ
ードに戻ってコンピューターを操作していた
在庫確認や配送車両の手配などの業務を、す
べて無線端末で遠隔操作してしまう。 投資総
額は約一億五〇〇〇万円。 ソフトは自社開発
のため、投資対象は約八〇〇台を導入予定の
無線端末だけだ。 これをリースでまかなうと
月額三〇〇万円程度の出費増になるが、これ
だけコストを掛けても、店頭での商談時間を
何割か増やせれば充分に採算は合うとにらん
でいる。
「ハード自体は簡単に導入できる。 本当の
ポイントは、その裏にある仕組みだ。 例えば、
バックヤードや物流センターにある在庫の情
報が不正確では、お客様に即答することなど
できない」(高橋常務)。 前述した通り、デン
コードーが一括物流を導入し、業務プロセス
を見直してきた最終的な狙いは店頭販売力の
強化にある。 一連の物流改革の集大成ともい
えるのが、この無線端末の導入なのである。
東北地方では現在、業界最強のヤマダが攻
勢を強めている。 これまでにヨドバシカメラ
やコジマの進出を凌いできたデンコードーに
とって、ヤマダとの戦いは当面の生き残りを
賭けた最終ハードルとも言える。 時間をかけ
て高度化してきたシステムは威力を発揮する
のか。 注目に値する。
(岡山宏之)
店頭の販売員を商談
に集中させるためユ
ニークな専用端末を
開発した。 約1 億
5000万円を投じて
800台を配備する
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