2002年12月号
リーダーシップ論

カテゴリー・マネジメントの意義

DECEMBER 2002 84 細分化と規模のトレードオフ 市場の成熟化に伴って、マーケティ ング活動の細分化が進んでいる。
かつ てのマス・マーケティングから、近年 では細分化を徹底した「1 ― To ―1(ワ ン・トゥー・ワン)・マーケティン グ」へと移行しようとしている。
需要サイドが細分化・個別化に向 かったことで、大量生産・大量消費 時代のパラダイムは崩壊した。
消費者 へのプッシュ型(プロダクト・アウ ト)からプル型(マーケット・イン) へと、企業は市場アプローチ方法を変 革する必要に迫られている。
「消費者 起点」や「顧客視点」という表現に 代表されるアプローチである。
しかし、今日においても供給サイド の生産性を維持するためには、一定以 上の規模の確保は必要である。
このよ うな需要サイドと供給サイドの相反の バランスを取るためには、いったん細 分化された消費者を、関連性や共通 要素で再び括り直し、管理可能なユ ニットにまとめることで、規模のメリ ットを実現することが必要になる。
具体的には、セグメンテーションな どの手法によって消費者を細分化し、 共通ニーズをもった消費者の集合を見 出し、その集合の評価を行う。
その集 合に十分な生産規模を満たすだけの購買力が存在するのかを測定するので ある。
すなわちマーケティングにおけ るセグメンテーションとは、消費者 (顧客)を、ある特定の共通要素(属 性軸)に従って分類(セグメント化) し、そのセグメントのまとまりとして の顧客ニーズを把握し、マーケティン グ・アプローチを行うことだと言える。
一般的にセグメンテーションを行う ための属性軸は、「1:人口動態的属 性軸」と「2:社会心理的属性軸」の 二つとされる。
人口動態的属性軸の 代表的なものは、性別、年齢、職業、 学歴、所得などである。
これはさらに、 「帰属特性」と呼ばれる性別や年齢の ように、本人には変えることのできな い生まれつきのものと、「達成特性」 と呼ばれる学歴や職業、所得など、個 人の特質や環境によって変わっていく ものの二つに分けられる。
この達成特性に当たる所得・学歴・ 職業をもとにした「社会階層」という 分類方法もある。
また、「ライフステ ージ」のように、家族形成という観点 からの属性分類も社会階層と同様の 分類方法に位置づけられる。
消費と いう観点から見ると、家族構成の変 化は大きな転換期なのである。
一方の「2:社会心理的属性軸」は、 このような外面的な属性とは異なり、 心理的な価値観などからセグメンテー ションを行う。
代表的なものが「ライ フスタイル」などによる分類である。
ECRにおける カテゴリー・マネジメント このようなマーケット・セグメンテ ーションは、メーカーにおいては従来 から活用され、体系化も進んでいる。
しかし流通業では、これまであまり活 用されていなかった。
メーカーのセグ メンテーションが、実際に購入が行わ れる店舗・店頭に反映されないのであ カテゴリー・マネジメントの意義 楢村文信 P&G ECRネットワーキング・マネージャー カテゴリー・マネジメントはECRにおける基本的手法の一つだ。
供給 サイドと需要サイドが共通の商品カテゴリーに基づいて管理することで、 サプライチェーン上のギャップの解消を目指す。
このコラボレーションが ロジスティクスにも大きな影響を及ぼす。
﹇第3回﹈ 85 DECEMBER 2002 る。
この両者のギャップが、今日のサ プライチェーンにおける需要と供給の ミスマッチの原因の一つになっている と筆者は考えている。
そして、その発 生原因まで遡ってギャップを埋めるの ではなく、対症療法的に処理してしま うことが、流通の働きをおかしくして いると見ている。
そこで、一つの解決策となるがセグ メント化された特定のグループに属す る消費者をターゲットとした流通管理 網の構築である。
それを実現するには、 セグメントの括りと商品・サービス分 類(クラスター)を、管理可能なユニ ットに整理して、店頭を起点にサプラ イ・チェーンの上流、つまり卸売業、 メーカーのマーケティング活動とリン クさせる必要がある。
これは、販売情報などの需要情報 を川上と川下でリアルタイムに共有す れば最適な供給体制が実現できる、と いって済ませられるほど単純な話では ない。
そのようにSCMを解説する向 きも一部には見られるが、それでは製 品供給の一つのパイプラインだけを近 視眼的に捉えたものという批判は免れ ないであろう。
実際の流通は網の目状 のネットワークであり、消費者そして 店頭は多様化している。
従って多次 元的な管理が必要になるのである。
ECRの取り組みではカテゴリー・ マネジメントと呼ばれる手法が小売業 に適用される。
まず商品・サービスの 管理ユニットを構築し、その中でセグ メンテーションの手法を使いながら需 要管理を行い、供給管理との連動を 実現しようとするのである。
また近年、 話題になっている「CPFR(コラボ レーティブ・プランニング・フォーキ ャスティング・アンド・レプレニッシ ュメント)」においても、カテゴリー・ マネジメントはそのビジネスモデルの 一部として組み込まれている。
消費財のSCM それでは筆者が身を置く消費財業 界(CPG、コンシューマー・パッケ ージド・グッズ)、特にFMCG(フ ァースト・ムービング・コンシューマ ー・グッズ)と呼ばれる分野では、実 際にどのようなSCMが実施されてい るのかを以下に解説していこう。
消費財業界と一口に言っても、加 工食品や酒、日用雑貨、化粧品、ア パレルなどさらに細かく業界を分ける ことができる。
欧米ではFMCG、つ まり消費財の中で先に列記したような 回転率の比較的早い商品群、という 分け方を行っている。
家電でも乾電池 などはFMCGに分類される。
そもそもECRは、主にこのFMC G業界を舞台としたモデルである。
F MCG業界では他の多くの業界と同 様に、市場の成熟化が進み、商品が 多様化し、ライフサイクルも短くなっ ている。
また小売店舗を通じた販売が 主流であり、店舗では特定メーカーの 専売店を例外として、複数メーカーの 商品が販売されている。
中間流通については、メーカーから 小売業への直販か、卸売業経由かと いう商流上の違いはあるものの、物流 経路としては工場と店舗の中間で流 通センターを経由するものが多い。
特 に日本の場合は流通段階が多く、小 売業とメーカーが協働(コラボレーシ ョン)するのではなく、単なる取引関 係にとどまっていることから、店頭で の需要情報が川上側では入手しにく い。
メーカーにとって比較的、供給管 理が難しい業界だと言えるだろう。
従来のプッシュ型から消費者起点 のプル型アプローチへの変革が求めら れている中で、世界の多くの消費財メ ーカーと小売業は店頭を起点とするア プローチへの変革を、カテゴリー・マ ネジメントと呼ばれる手法を用いて協 働して進めてきた。
カテゴリー・マネ ジメントによって、いわゆるBPR (ビジネス・プロセス・リエンジニア リング)を目指してきたのである。
同時に小売業において、カテゴリ ー・マネジメントはセグメンテーショ ン型のマーケティングを実践する手法 でもある。
このモデルを確立したコン サルタントのブライアン・ハリス博士 は、かつて筆者に「カテゴリー・マネ ジメントとは小売業の戦略的マーケテ ィングの手法だ」と説いている。
実際、カテゴリー・マネジメントは、 八〇年代に米国の食品小売チェーン を対象に開発されたものだ。
その後、 九〇年代前半にECRの実現手法の 一つとして取り入れられ、総合的な経 営手法として体系化された。
さらに近 年はヨーロッパ市場におけるECRの 取り組みの中で、その核となるビジネ ス計画の立案プロセスはさらに洗練さ れたものとなり、欧米の先進的な小売 細分化への対応と、 規模メリットの相反 同じ商品を大量に生産し た方が、安く作ることが出 来るし、品質も安定する 商圏や店舗が変わると、顧客のタイプ も変わるので売れる商品、その価格帯、 売れ行き、必要量も変わってくる 同じ商品を大量に買 い付けた方が安く仕 入れることが出来る 規模メリット 細分化対応 DECEMBER 2002 86 業では基本戦略の一つとなっている。
このカテゴリー・マネジメントは、 ECRの中では次のように定義されて いる。
「カテゴリー・マネジメントと は、消費者への価値提供に焦点を置 き、ビジネスの結果を向上させていく ことを目的に、商品カテゴリーを戦略 的事業単位として管理する流通業者 とサプライヤーの行うプロセスである」 さらにこの手法の特色として次の三 点が挙げられている。
1 小売業を経営するためにカテゴリ ーを戦略的なビジネスのユニット (単位)として考える 2 小売りとサプライヤーのビジネス 計画を融合させる 3 配送、補充、マーチャンダイジン グ、サービスを連動させる ここでいう、カテゴリーとは、消費 者がその購買選択において代替品あ るいは、関連すると考えている商品や サービスの集合であり、区別かつ管理 することが可能なものである。
マーチャンダイジングと ロジスティクスの統合 カテゴリー・マネジメントでは、販 売活動であるマーチャンダイジングと、 配送・補充などのロジスティクスを連 動させることを一つの特色としている。
これは、この連載の大きなテーマでも ある。
基本的に需要サイド、すなわち小売 段階では、セグメンテーションによっ て、商品やサービスへの消費者ニーズ の多様化に、きめ細かく対応すること で、顧客満足度を高めようとする。
し かし、個別の消費者ニーズに応えよう とすると、対応パターンのバリエーシ ョンが多くなり、オペレーションも複 雑になる。
結果としてコスト増や、エ ラーの発生する確率が高くなる。
また供給サイドでは、先に述べたよ うに生産性を維持するには一定の規 模が必要である。
単に生産コストの問 題だけでなく、扱いアイテム数などが 増えると、需要量の予測も難しくなり、 サプライチェーンへの負荷が増えるこ とになる。
そのままでは需要サイドと供給サイ ドの接点で、ねじれが生じる(図参 照)。
このねじれを調整して最適化す るために、需要を管理可能なユニット にまとめていくことが必要になるので ある。
そして、ECRでは、このユニ ットを商品カテゴリーとして定義し、 小売業から川上まで、共通の管理ユ ニットで需要と供給の最適化を図ろ うというわけである。
なお商品カテゴリーのユニットを洗 練していくことは理論的にはいくらで も可能だが、実際には一般に認識さ れている商品分類に近いものと考えて もらって構わない。
シャンプー、パソ コン、ワインなどである。
カテゴリーでニーズを把握する カテゴリーという単位での管理は、 固定された場所、しかも限られた店舗 スペースでビジネスを行う小売業に対 して、経営資源の配分を決める手助 けとなる枠組を提供してくれる。
例えば品揃えの問題である。
近年 では、セグメンテーションを進めた結 果として、メーカーが商品数を増やし 過ぎたために、計画したほど売れない 商品が、数多く店頭に並んでいる。
こ うした環境においては、品揃えによる 選択肢の提供が小売業のサービスの 一つとなる。
店頭の品揃えの幅を広げるほど、消 費者はより多くの選択肢の中から、自 分のニーズに適したものを選択できる ことになる。
しかし、品揃えの幅を広 げることは、回転率の悪いアイテムも 揃えることにもつながる。
個別の消費者には商品カテゴリー を、さらに細分化したニーズがある。
それがサブ・カテゴリーを構成してい る。
例えば、シャンプーであれば、傷 んだ髪をケアするもの、フケを押さえ る効果のあるもの、スタイリングをし 易くするもの、などである。
それぞれ の細分化されたニーズごとに、それを 必要としている消費者は異なってくる。
そして必然的にそのニーズを持った消 費者の数も異なってくる。
もし、来店者の多くが傷んだ髪用 の商品を求めているのであれば、その サブ・カテゴリーの商品が品揃えの中 心となるべきである。
逆に少数の人し か求めていないサブ・カテゴリーであ れば、多くのアイテムを揃える必要は ないだろう。
またヘアケアのニーズは、 年齢と共に変化する。
つまり、来店客 の年齢層が変われば、個別のサブ・カ テゴリーへの需要も異なってくる。
そのために小売業は品揃え決定においてセグメンテーションを考慮する 必要があるのである。
これがECRの 基本戦略の一つで「品揃えの最適化」 と呼ばれる考えだ。
その目的は店頭で のスペース配分を最適化することであ る。
同時に物流センターの在庫量を減 らすという点からも、アイテム数を削 減することが必要になる。
また消費者が店舗を選択する際に も商品カテゴリーは大きな役割を果た 87 DECEMBER 2002 す。
消費者は何かが必要になった時に、 数あるお店の中からどうやって最初に 行く店を決めるのだろうか。
自分のお 気に入りの商品が、そこにしかないと いうのであれば必然的に店は決まって くる。
しかし、今まで使っていたもの で物足りなくなって、新しいものを探 しに行く場合には何を基準に店を決 めるのであろう。
カテゴリー・マネジメントでは、こ うした面からもカテゴリーの分析を行 う。
消費者が来店目的とするようなカ テゴリーなのか、それとも他の買物の ついでに購入するタイプのカテゴリー なのかといった特徴付けを行うのであ る。
これによって、カテゴリーの重要 度などが見えてくる。
当然、これが在庫管理にも影響し てくる。
来店目的とするようなカテゴ リーは消費者に高い満足度を提供し なければならないので、アイテムレベ ルで高い水準のサービスレベルが求め られる。
消費者が余り意識せず、つい でに買うというようなカテゴリーでは、 代替品も含めそのカテゴリーとして在 庫があれば十分かもしれない。
消費者 にとっての重要度から、ロジスティク スに対する要求レベルが異なってくる わけである。
さらに経営レベルでも、カテゴリ ー・マネジメントは需給管理という点 で大きな役割を果たす。
小売業が商 品カテゴリー単位の管理を行うことで、 その商圏における総有効需要や需要 変動などがより掴みやすくなるのであ る。
人口動態属性ごとでの平均的な 使用量や使用習慣がわかれば、商圏 における人口動態との比較で理論的 に需要を算出することが出来るからだ。
紙おむつを例に考えてみよう。
一歳 児の一日の平均使用枚数を仮に七枚 とすると、一週間では約四九枚、一 カ月(三〇日)で二一〇枚消費する 計算になる。
後はその商圏に一歳児 が何人いるか分かれば、総需要を類推 できる。
そのうち自社はどの程度のシ ェアを占めているのか。
そして、どの 程度まで売上を伸ばせるか、つまり需 要を取り込める余地についても類推で きる。
もっとも紙おむつなどは、変数が少 ないので分かりやすいが、実際にはこ れほど簡単ではない。
ましてや正確な 需要を測定することは難しい。
夏場と 冬場では消費量も変わってくる。
当然、 個人差もある。
人口移動もある。
しか し、大まかであっても数字として捉え ること、あるカテゴリーの需要に影響 を与える要因を把握することは、商圏 と自社のビジネスの現状を理解する上 では重要である。
統計を使うことでビ ジネスのリスクを減らし、成功の確率 を高めることができる。
そのカテゴリ ー全体が成長期にあるのか、飽和状 態にあるのかなどを捉えることで、小 売業における長期的な売上高のトレ ンドも理解しやすくなる。
ただし、このような消費者の使用習 慣などのデータ入手には時間と手間、 コストがかかる。
市場データも同じで ある。
しかも日本のように商圏が密集 していると、商圏区分は簡単ではない。
海外と比較して、日本はデータのサン プル数も少なく、一方で収集コストが 高い。
だからこそ、余計に取引企業間 での戦略的同盟が鍵となるのである。
メーカーが持つ消費者の使用習慣 データや、先ほどのサブ・カテゴリー 毎の消費者ニーズに関する情報などが 入手できれば、小売りの売場作りは容 易になる。
小売業の持つ、商圏に関 するデータや、実際の販売動向が見え れば、メーカーのマーケティング計画 の精度は高められる。
さらにはロジスティクス・サービス に求められる要件も適切に把握できる ようになる。
マーケティングや販売方 法の指針が明確になってくると、ロジ スティクスが果たすべき役割が明確に なってくるわけである。
そこで次号で は、このカテゴリー・マネジメントを 具体的に進めていくためのフレームワ ークについて紹介したい。
ならむら・ふみのぶ P&GでECRネットワーキン グ・マネージャーとして活動する かたわら、学習院マネジメントス クールでDSCM(ディマンド& サプライチェーン・マネジメント) コースのオーガナイザーを務めて いる。
89年神戸大学経済学部卒業。
同年、P&Gファー・イースト・イ ンク入社。
95年、広報マネージャ ー。
98年から現職。
日本ダイレク トマーケティング学会理事。
PROFILE

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