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が負担し、イオンは肩代わりしない。
ウォルマートに次ぐ世界第二位の小売業であ
るカルフールの日本からの撤退は、大きなニュ
ースではあったが、かなり以前から噂されてお
りサプライズはなかった。
同社の失敗の要因は二つあると言われている。
当初、予定していた二〇〇三年までに十三店と
いう出店計画を実現できず、規模拡大のスピー
ドが予想を著しく下回ったこと。 もう一つは、
大型店や小型店が入り混じって激しい競争を展
開する日本市場で、消費者の期待に応える品揃
えができなかったこと、だ。 ようは日本市場へ
の調査・研究が不十分のまま粗雑な進出をした
ことが、四年間での撤退につながった。
世界第二位の小売業の蹉跌
二〇〇〇年の十二月、フランスに本社を置く
カルフールは千葉県の海浜幕張に一号店をオー
プンした。 同社が日本進出の最初の一歩に選ん
だのは、イオンの本部からわずか数百メートル
の場所。 その挑戦的な姿勢に日本の小売業界は
震撼した。 しかし、そのカルフールは約四年間
で日本市場から撤退することになった。
カルフールジャパンの最終的な経営規模は八
店舗で売上高三五〇億円。 結局、これをイオン
が約一〇〇億円で買い取り、二〇〇五年三月か
らはイオンマルシェとして再スタートした。 推
定三〇〇〜四〇〇億円の累積損失はカルフール
この失敗はカルフールという企業の体質に根差すものであり、日本の市場や消費者の声に耳
を傾ける姿勢が希薄だった結果と厳しく言わざ
るを得ない。 同社のこのような体質とマーケッ
トに対する姿勢は、進出前からある程度は予想
されていた。 だが、正直なところ、これほどと
は思わなかったというのが、多くの人たちの感
想ではないか。
世界第二位の小売業の日本での振る舞いに見
られた繊細さの欠如、自分たちが過去にやって
きたことを一方的に持ち込もうとするやり方、
取引先に対する強圧的な姿勢――どれをとって
もグローバルリテーラーの本質が分かって、あ
る意味では安心したという日本の流通関係者の
プリモ・リサーチ・ジャパン
鈴木孝之 代表
第8回
カルフール撤退が残した教訓世界第二位の小売業、仏カルフールの日本市場からの撤退は必然だった。
専門店チェーンとは違い、大型店を展開する流通外資が日本で成功するた
めには規模の確保が欠かせない。 そのためには現実的な出店計画と、有能
なパートナーが必要で、今後のM&A戦略が流通外資の日本での命運を決
するカギになる。
59 MAY 2005
声すら聞こえてくる。
もっともカルフールは、グローバルリテーラ
ーとしての本当の実力を発揮できないまま日本
から撤退した。 その点はきちんと認識しておく
必要があるだろう。
同社の日本撤退の背景には、フランス本国で
の業績不振と、それに伴って不採算事業の見直
しを求める株主の圧力があったと伝えられてい
る。 カルフールは日本とメキシコからは撤退す
るが、今後も中国を中心にタイ、インドネシア
には出店する。 戦略上、最も重要なマーケット
は中国としており、現にここではウォルマート
より多くの店舗を展開している。 今年も中国に
は一五店を出店する計画だ。 日本市場を見切っ
て、中国にシフトするというのは外資らしい分
かりやすい戦略といえる。
西友/ウォルマートに注目
カルフールの撤退を受けて、日本市場で大型
店を展開する流通外資は、西友/ウォルマート、
英テスコ、米コストコ、独メトロの四社となっ
た。 このうち、コストコとメトロは会員制の卸
であるところから、流通業界の関心は、ウォルマートとテスコが今後、日本でどのような活動
を展開するのかに集まっている。
まずテスコは、明らかにM&Aのチャンスを
狙っている。 だが現状の動きは、まだおとなし
い。 二〇〇三年に買収したシートゥーネットワ
ークに、新たに買収した生鮮ディスカウンター
のフレックが加わり、すでに生鮮食品を含めた
食品すべてを日本で販売できるようになってい
る。 シートゥネットワークは小粒ではあるが、
利益を出している会社のため収益改善の圧力は
ない。
テスコの日本市場における最大の課題は、一
気に規模拡大を実現するM&Aをできるかどう
かにある。 フラストレーションが溜まっている
のは間違いないが、日本からの撤退とは今のと
ころ無縁だ。
このため当面の注目は、西友/ウォルマート
に集中している。 世界第二位のグローバルリテ
ーラーが撤退した直後だけに、多くの人たちの
関心は、ウォルマートが撤退する可能性はない
のかどうかに向かっている。
ウォルマートが日本市場から撤退するかどう
かのカギは、西友の収益力の回復が握っている。
ウォルマートが西友に資本参加したのは二〇〇
二年三月。 ところが、その後の西友の業績は三
期連続で赤字を続けている。 本誌三月号の当コ
ーナーでも詳報した通り、二〇〇四年十二月期
には売上不振から二度も業績見通しを下方修正
した。
今期は、赤字からの脱却を会社は予想してい
る。 だが勝ち組と言われるイオンとイトーヨー
カ堂ですら極めて厳しい状況が続くなかで、西
友が計画通りの業績を達成できるかどうかを疑
問視する向きは少なくない。
カルフールの日本撤退では、前述したように
株主からの圧力があった。 ウォルマートの場合
も同様のことが考えられる。 仮に二〇〇五年十
二月期にも赤字となれば、同社が日本戦略を大
きく変更する可能性も否定できない。
さまざまな見方が拡がる一方で、西友/ウォ
ルマートは現在、二〇〇七年を最終年とする五
カ年のアクションプランを着々と進めている。
今年三月には埼玉県三郷市で大型物流センター
の建設に着手した。 現状では首都圏に九カ所ある既存の物流センターの業務のうち、半分を引
き受けるための施設である。
この施設の開発はアメリカの物流不動産専門
会社であるプロロジスが行い、西友は賃借する。
センター内の仕分け業務は加工食品卸最大手の
国分が担当し、配送業務はイギリスに本社を置
くエクセルの日本法人が行う。
二〇〇六年夏に稼働予定のこの三郷物流セン
ターで、ウォルマートは物流システム「GL
S」を導入する。 そして同システムを、すでに
西友全店の半分に導入済みの店舗運営システム
の「スマートシステム」と、約六〇〇社の取引
図1 カルフールジャパン撤退の概要
1号店 2000年12月
売上高 350億円
店舗数 8店(関東:3店、関西:5店)
(当初計画、2003年迄に13店)
累損 300〜400億円(推定)
取得価格 約100億円
累損 カルフールが負担
新社名 イオンマルシェ
PB独占販売権 カルフールの食品、及び住居関
連のプライベートブランド商品
の日本に於ける独占販売権
イオンの買い取り条件
MAY 2005 60
るべきことは、とにかく西友を継続して利益を
出せる会社にすることだ。 もしそうできれば西
友の株価は上昇し、ウォルマートも出資しやすくなるはずだ。
ウォルマートは西友への出資規模を、二〇〇
五年十二月に現在の三七・八%から五〇・一%
に、そして二〇〇七年十二月にはさらに六六・
七%までに引き上げることになっている。 出資
予定の総額は二一億ドル(約二二〇〇億円)。 こ
れはウォルマートの二〇〇五年一月期の連結純
利益、約一〇三億ドル(約一兆一〇〇〇億円)
の五分の一に相当する。 西友/ウォルマートに
とっては今期が一つの正念場になるはずだ。
専門店から大型店へのシフト
流通外資の日本進出は、一九七〇年から一
九九〇年までは業務提携が中心だった。 デニー
ズ、セブンイレブンなどが日本市場で店舗展開
に着手した七〇年代は、日本の小売業が、業務
提携というリスクの少ない形で、主にアメリカ
の小売業と接点を設けた時期だった。
このような状態が二〇年ほど続いたが、状況
が大きく変わったのは九〇年頃からだ。 流通外
資が一〇〇%出資の子会社を日本に設立する動
きが、にわかに活発になった。
一九九一年に米国の大型専門店トイザらスが
日本に進出したことが、その後の流通外資の日
本進出に道を開くエポックメイキングな出来事
となった。 当時の日本は構造改革に取り組んで
おり、その一環として小売業を含む市場の開放
先が参加している取引先との売り上げ・在庫情
報管理システムである「リテールリンク」と連
動させる。
さらにここに、実験中の自動補充システムや、
約六〇社の取引先との「ジョイント・ビジネ
ス・プラン」などを有機的につなげて、ウォル
マート式の総合商品システムが日本市場で本格
的に稼働することになる。
西友の業績不振が続いているにもかかわらず、
ウォルマートがこのようなシステム構築に取り
組めるのは、西友の売上規模が約一兆円あるか
らだ。 この点は規模を確保できず、本来の実力
を発揮する前に撤退に追い込まれたカルフール
とは決定的に異なる。 このことは小売業にとっ
てスケールがいかに
大事か、そしてその
ためのM&Aの重要
性を示唆している。
こうした動きを見
ていくと、ウォルマ
ートの日本市場にお
ける活動が決して及
び腰ではないことを
感じる。 しかし、シ
ステムだけで業績を
改善できるわけでは
ない。 今後の売り上
げの動きに注目して
いきたい。 ウォルマ
ートが日本市場でや
に踏み切ったのである。
これ以降、専門店の日本進出が相次いだ。 そ
して進出形態としては、日本側パートナーとの
合弁会社が増えていった。 日本側の小売業の積
極的な働きかけがあったと同時に、日本のマー
ケットを知っているローカルパートナーと組む
ことで、過ちを犯さないように努めようとする
流通外資の姿勢が合致したためだ。
これらの専門店は、日本のショッピングセン
ター時代のはじまりとともに、店舗数を増やし
ていった。 もっとも当の流通外資にとっては、
いまだに満足すべき店舗数には達していない。
日本に進出したはいいが、規模拡大が思うよう
に進まないというのは、大半の流通外資が共通
して抱える問題だ。
専門店の日本進出から約一〇年遅れの二〇
〇〇年前後に、大型店を構える流通外資の進出が本格化した。 九九年にコストコ、二〇〇〇年
にカルフール、二〇〇二年にはウォルマートと
メトロ、そして二〇〇三年テスコという具合に、
グローバルリテーラーの進出が続いた。 大型店
としては今後、スウェーデンの家具・ホームフ
ァッション小売大手のイケアの日本進出が予定
されている。 他にアメリカ最大のホームセンタ
ーであるホームデポの進出も噂されている。
一方、すでに撤退した大手流通外資は、米フ
ットロッカー、英ブーツ、仏セフォラ、仏カル
フールの四社だ。 ブーツを除いて共通している
のは、単独進出だったこと。 やはり日本市場を
知っているパートナーとの合弁の方がリスクは
02/2 02/3 03/2 *03/12 04/12 05/12
営業収益 1,108,797 1,139,718 937,594 1,067,780 1,002,000**
営業利益 20,087 16,563 10,077 9,550 13,000
経常利益 13,531 8,071 2,925 501 4,000
純利益 5,200 ▲90,844 ▲7,087 ▲12,318 0
ウォルマートと提携
(単位:百万円)
(会社予想)
*決算月変更。 10カ月変則決算 **売上高
図2 西友の連結業績の推移
61 MAY 2005
小さかったということなのだろう。
大型店は日本に定着できるか
二〇〇一年にはイギリス最大のドラッグスト
アのブーツと、フランスの化粧品専門店のセフ
ォラが相次いで日本市場から撤退した。 両社が
日本に進出してきたときには、ドラッグストア
と化粧品専門店という隣接した業態であったこ
とと、ともに銀座に出店したことなどから大き
な話題を振りまいた。 それだけに、その撤退も
流通関係者の耳目を集めた。 そして今年三月に
カルフールが日本撤退を発表した。
この三社のうち、ブーツはアメリカのウォル
グリーンと並ぶイギリス最大のドラッグストアであり、カルフールは世界最大の小売業ウォル
マートに次ぐ世界第二位の小売業だ。 ここから
は、世界中でその名を轟かせるグローバルリテ
ーラーの力をもってしても、日本市場への定着
が困難なことが分かる。
では、撤退した流通外資の問題点は何だった
のか。 実は、順調に成長している企業と、
撤退した企業のあい
だには明確な違いが
ある。
まず言えることは、
独自の商品を持ち、
店舗の存在そのもの
がブランド化してい
る専門店は日本市場
でも成功する可能性
が高い。 対照的に、
スーパーマーケット
や衣食住の商品を扱
う大型総合店が日本
市場で成功するのは
難しい。 その一例が
カルフールだ。 これ
まで日本市場への定
着に成功している流
通外資はすべて専門店チェーンだ。
専門店が成功する一方で、大型店にそれが難
しい最大の理由は、日本では物件開発が困難な
ために出店の加速がむずかしく、店舗数がなか
なか増やせないからだ。 ブーツやカルフールと
言えども日本市場では新規参入者に過ぎず、ラ
イバルと比べると売上規模は比較にならないほ
ど小さい。 このためメーカーとの交渉力は極め
て弱く、また効率的なオペレーションシステム
も構築できない。 どうしてもハイコスト構造に
なってしまう。
専門店に比べると、カルフールのような大型
店のほうが店舗数を増やすのがはるかに難しい。
これは店舗が大型化すればするほど難しくなっ
ていく。 九〇年代以降の日本に外資系の専門店
が次々に進出してきた背景には、出店をしやす
くなったという事情があった。 専門店の場合、
土地を探して建物をたてる大型店と違って、既存の商業施設に出店したり、新たにオープンす
るショッピングストリートやショッピングモー
ルに出店する。
近年の日本では?ショッピングセンター時代〞
などとよばれる大型センターの開設ラッシュや、
既存センターの改装などが続いている。 このこ
とが専門店の出店機会の急速な拡大につながり、
外資系専門店の進出を後押ししてきた。 もはや
専門店が日本で解決すべき課題は、商品が日本
の消費者に受け入れられるかどうかだけとなっ
ていた。
このような追い風のなかで、有力専門店チェ
ヴァージンメガストア イギリス AVソフト、丸井。 2005年CCCが買収
HMV イギリス AVソフト、単独
ザボディショップ イギリス 化粧品、雑貨、イオン
トイザらス アメリカ 日本マクドナルド
ディズニーストア アメリカ キャラクターグッズ、単独
エルエルビーン アメリカ アウトドアグッズ、西友、松下
ザミュージアカンパニー アメリカ 雑貨、イオン
エディバウアー アメリカ アウトドア、住商
ランズエンド アメリカ アウトドア衣料、単独
エスプリ 香港 衣料品、単独
クレアーズストアーズ アメリカ アクセサリー、イオン
キャンディエクスプレス アメリカ アクセサリー、イオン
ギャップ アメリカ 衣料品、単独
スポーツオーソリティ アメリカ スポーツ用品、イオン
オフィスデポ アメリカ 文具、デオデオ 1999年解消
オフィスマックス アメリカ 文具、イオン 清算
フットロッカー アメリカ スポーツシューズ、単独
ネクスト イギリス 衣料品、ゼビオ
ザアスリートフット アメリカ スポーツシューズ、丸紅
コストコ アメリカ 会員制卸、単独
ブーツ イギリス ドラッグストア、三菱商事
セフオラ フランス 化粧品、単独
カルフール フランス 総合店、単独
ウォルマート アメリカ 総合店、西友
メトロ ドイツ 会員制卸、丸紅
テスコ イギリス スーパーマーケット、シートゥーネットワーク
ペイレス アメリカ 靴、単独
イケア スウェーデン 家具、ホームファッション
図3 主な外資系小売業の日本進出一覧(1990年以後)
進出年 企業名 出身国 取扱品目や日本での合弁相手など
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006予
2000年撤退
2001年撤退
2001年撤退
2005年撤退
MAY 2005 62
んでいれば、もっと上手にやったのではないだ
ろうか。
ブーツの撤退から導き出される教訓は、単独進出より合弁会社を使ったほうが間違いは少な
いが、日本でのパートナー選びを間違えたら何
の意味もないということだ。 またセフォラの撤
退は、あまりにも進出から間もなかったことで
分かるように、日本市場に関する研究が不十分
だったと言わざるを得ない。
一般に流通外資は、出店に関する日本市場の
事情を知らな過ぎる。 テナント出店が中心で、
出店機会が多い専門店の場合でも、例えばブー
ツは年間五〇店を出して合計四〇〇店を目指す
と発表していた。 これはマツモトキヨシ並みの
出店ペースだ。 この計画を達成するためには、
マツモトキヨシと同様の体制と条件を整える必
要があったのだ。
カルフールの場合も同様で、日本の小売業か
ら見れば、およそ現実味の薄い拡大計画を掲げ
ていた。 これまでに撤退した流通外資は、いず
れも安易な出店計画によってつまずいた。 これ
は多くの流通外資が、日本進出に際して十分な
調査・研究をしていないことの表れでもあり、
このような乱暴としか言いようのない姿勢が品
揃えのミスマッチなどの初歩的な間違いにもつ
ながった。 その結果、なかば必然的に撤退に追
い込まれてしまった。
単独進出か、それとも日本企業との合弁方式
かという選択は、すでに高いブランド力を有す
る専門店であれば単独進出でも大きな問題はな
ーンであるブーツとセフォラが撤退に追い込ま
れたのには理由がある。
ブーツの場合は、日本の薬事法の関係で、同
社が得意とするプライベートブランドの化粧品
と医薬品を販売できなかったことが大きい。 し
かも化粧品について日本の消費者のブランド志
向が強かったため、ブーツの商品が受け入れら
れなかった。 そしてトドメを刺したのは価格だ
った。 ブーツ銀座店の真横にマツモトキヨシが
出店したため、価格競争で負けてしまった。
さらに重要なブーツの失敗点は、日本市場に
おけるパートナー選びを誤ったことだ。 単独で
はなく、日本市場をよく知る企業と合弁会社を
作ったところまでは間違っていなかった。 しか
し、三菱商事をパートナーに選んだのは失敗だ
った。
ブーツは日本進出に際して、当初はイオンと
合弁会社を作るつもりで作業を進めていた。 だ
が出資比率でイオンと合意に達することができ
ず、やむを得ず、このプロジェクトのプロモー
ターを務めていた三菱商事がパートナーになっ
たという経緯がある。
総合商社は多様な小売業に関わっているが、
商社自身が小売りの経験やノウハウを持ってい
るわけではない。 にもかかわらず、総合商社の
高いブランド力にまどわされて、その能力を過
大評価しがちだ。 ブーツの失敗は、まさにこの
例といえる。 ハイコストな都心立地中心の出店
戦略を見る限り、日本で事業を採算に乗せるの
は難しかったはずだ。 仮にブーツがイオンと組
いだろう。 だがブーツのようなドラッグストア
が本来の実力を発揮するためには、全国規模の
店舗網を構築する必要がある。 そのためには物
件開発や品揃え、取引先などを知っているパー
トナーの存在が不可欠だった。 日常性やローカ
ル性が強い商品を扱う小売業が、単独で成功す
るのは難しい。
M&Aの有効活用がカギ
日本市場における流通外資の過去の失敗事例
を見ていくと、テスコとウォルマートは果たし
て成功できるだろうか、という素朴な疑問がわ
きあがってくる。 そして、ここから自然に導き
だされてくるのが、今後のM&A戦略の重要性
だ。
ウォルマートが西友を、そしてテスコがシー
トゥーネットワークを買収したのは、単に規模を拡大するためだけではない。 パートナーと一
緒に日本市場を攻略しようという意図があり、
その限りでは正しい。 ただし今後は、M&Aに
対する基本姿勢を柔軟にしていかなければ、思
惑通りに規模を拡大していくのが難しくなるは
ずだ。
ウォルマートもテスコも、今後、M&Aによ
って日本市場における規模を一気に拡大したい
と考えている。 現にM&Aに動くことを明言し
ている。 しかし、彼らにとってのM&Aという
のは、日本流の資本参加ではなく、持株比率六
七%以上の子会社化を現状では意味している。
ここに大きな障害がある。
63 MAY 2005
日本の小売業はほとんどがオーナー経営で、
外資系企業の子会社になることを望んでいるオ
ーナー経営者は皆無に等しい。 従って、このま
までは流通外資が買収できるのは、銀行管理下
にあるような企業だけという可能性が高い。 と
てもではないが、良い組み合わせと評価できる
ような案件は出てこないはずだ。 このことが日
本に進出した流通外資のフラストレーションを
高めている。
現在の日本では、出店ペースは思うように加
速できず、M&Aもなかなかまとまらない。 そ
の結果として、世界規模では圧倒的な存在感を
発揮しているグローバルリテーラーが、日本で
は中途半端な影響力しか発揮できない存在にな
ってしまっている。
もっとも流通外資にも活路はある。 それは過
半数の持株比率の確保という、欧米で常識とさ
れるM&Aの基準を日本では緩めることだ。 実
はブーツの失敗も、日本での合弁会社の持株比
率五一%に固執して、当初予定していたパート
ナーであるイオンと決裂したことに端を発して
いる。
もし持株比率六七%以上の子会社化という欧
米流の原則を崩せないのであれば、あとは株式
の公開買い付け(TOB)によって敵対的買収
に動くしかない。 巷を賑わせているライブドア
とニッポン放送の一件は、日本でも今後は敵対
的買収が盛んになることを示しており、日本の
小売業の経営者はこの点も肝に銘じておく必要
がある。
いずれにせよ、大型店を展開する流通外資が
日本で成功を収めるのは簡単ではない。 日本の
消費者が求める品揃えが重要なのは言うまでも
ないが、日本には大型店がオーバーストアの状
態で存在している。 競合の状況まで見極めなが
ら、拡大スピードを速めて、スケールメリットを発揮できるだけの規模を確保することが生き
残りのカギになる。 そのためには、日本市場を
よく知る企業との合弁方式で、かつ出資比率も
過半数にこだわらない柔軟で長期的な対応が求
められている。
(すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。 一九六八年
西友入社。 店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九
年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。 九〇年
メリルリンチ証券入社。 小売業界担当アナリストとして
日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小
売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部
のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最
後に二〇〇三年に独立。 現在はプリモ・リサーチ・ジャ
パン代表。 著書に『イオングループの大変革』(日本実業
出版社)ほか。 週刊誌などでの執筆多数。
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