ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年12号
特集
SCMの現場 米国編 拝金主義がロジスティクスをダメにする

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2002 10 「拝金主義がロジスティクスをダメにする」 昨年9月の同時多発テロや今秋の西海岸港湾ストなどを受けて、米国 ではリスク分散という観点から物流拠点の集約化を見直す企業が相次い でいる。
ロジスティクスはコア業務という意識から3PLへの業務丸投 げを改め、再び内製化するという事例も出始めた。
米国ロジスティクス 業界の識者の一人、エドワード・H・フレーゼル氏に米国のロジスティ クス最新トレンドを解説してもらった。
ジョージア工科大学教授エドワード・H・フレーゼル博士 同時多発テロ後のロジスティクス戦略 九〇年代初めに登場した新たな経営手法であるサ プライチェーン・マネジメント(SCM)の浸透とと もに、米国では過去数年にわたり、全米各地に分散さ せていた物流拠点を一カ所もしくは数カ所に集約する という動きが活発になった。
顧客企業もしくは消費者の分布状況などをIT(情 報技術)を使って細かく分析。
最適な物流拠点の数、 規模、立地を理論的に割り出したうえで、集約および 再配置を実施した。
その結果、多くの米国企業が在 庫削減などで成功を収め、コストダウンを実現してき た。
ところが今、米国ではこれまでの拠点集約はいきす ぎていたのではないか、という声が上がっている。
背 景には昨年九月に発生した同時多発テロがある。
物 流拠点を絞り込むと、テロに限らず、何らかの理由で 交通機関などが麻痺した場合、顧客への商品供給が 滞ってしまう恐れがあるためだ。
こうしたリスクを回避するためにも、物流拠点は適 度に分散させておくべきだというのが専門家たちの意 見だ。
実際、同時多発テロ以降、これまでの一極集 中管理型のロジスティクス戦略を改め、分散管理型へ と移行させた、もしくは移行させる計画であるという 企業からの報告は増えている。
在庫の持ち方についても変化が見られるようになっ た。
同時多発テロ以降、米国企業は各物流拠点の在 庫水準を高めに設定する傾向にある。
その目的は拠点 の分散化と同様、リスクを回避することだ。
さらに今 秋に起きた西海岸の港湾ストライキで商品供給に支 障を来したという苦い経験を持つ企業も少なくない。
予期せぬ事態を想定して、在庫を厚めに確保しておく 姿勢は今後もしばらく続きそうだ。
しかし、米国商務省によると、米国企業の在庫の 約四〇%はまったく動くことなく、陳腐化していくと いう。
いくらリスク回避の必要があるとはいえ、この まま在庫を増やし続ければ、米国企業のロジスティク スコストは上昇していくことが懸念される。
本当に必 要な、売れる商品の在庫だけを持つようにするため、 これまで以上に細かな在庫管理が求められていると言 えるだろう。
在庫管理の精度向上に不可欠なのはベンダーや顧 客企業からの情報収集だ。
そのためには当然、情報シ ステムの整備が必要になる。
米国企業もそのことを認 識しており、物流センターの建設やマテハン導入から ITへと投資の矛先を変えつつある。
ロジスティクス のハード面での投資は3PL企業に委ね、自らはIT などソフト面での投資に力を注ぐという判断は間違っ てはいない。
業績悪化に怯えるCLO 現在、米国では「フレキシビリティ(柔軟性)」を 基本コンセプトに物流拠点の建設やオペレーション体 制の構築が進められている。
センター内のマテハン機 器は基本的にラックとフォークリフトだけ。
マテハン 機器で重装備する自動化センターにはしていない。
現 場で働く作業員も正社員ではなく、パートタイマーが 中心だ。
米国企業に投資を行ったり、正社員を雇用する余 力がないわけではない。
多くの企業は意識的にフレキ シブルなロジスティクスを確立しているのだ。
M&A (企業の合併・買収)が盛んな米国では、企業の経営 戦略やロジスティクス戦略が短期間で修正されるケー スが少なくない。
その際、物流拠点の売却やオペレー Interview 11 DECEMBER 2002 1特 集 ション体制の切り替えを迅速に進められるようにして おくことを目的としている。
一般に米国では企業や社員個人の評価が四半期ご とに下される。
M&Aのような変革が起こったからと いって、管理者層には時間的な余裕が与えられること はない。
株主や上司からは短期間で結果を出すことが 求 め ら れ る 。
米 国 の C L O ( Chief Logistics Officer: ロジスティクス最高責任者)たちは、自ら の保身のためにも、フレキシブルなロジスティクスを 志向しているとも言えるだろう。
米国ではCLOに限らず、マネジメント層の大半が 常に自社の株価動向や与えられたミッションに対する 成果を気にしながら仕事をしている。
相当なプレッシ ャーを日々感じているようだ。
カネが全ての物差しと なる拝金主義が拡がっている米国の現状は極めて不健 全だ。
こうした拝金主義的な思想や行動はいずれ米国産 業界のロジスティクスの発展に悪影響を及ぼすであろ う。
短期間に何度も企業のロジスティクス戦略が見直 されるのは決して好ましいことではない。
実際、上場 企業に比べ、精神的に余裕のあるプライベートカンパ ニー(株式非公開企業)のほうが優れたロジスティク スシステムを確立しつつある。
3PL活用法の変化 米国では3PLが着実に成長を遂げてきた。
ロジス ティクスに関して、企業がフレキシビリティを重視し、 自社で物流機能を持たずにアウトソーシングするよう になったことが3PLにとっては追い風だった。
3P Lはその受け皿として機能することで、収益を上げて きた。
しかし、その3PLにも転機が訪れている。
物流業 界にもM&Aの波が押し寄せ、業界再編が始まったの だ。
例えば、UPSはフリッツを、フェデックスはカ リバーを傘下に収めた。
いずれのケースも足りないロ ジスティクス機能を補完し、顧客企業にワンストップ でサービスを提供できる体制を整えることを目的とし ている。
複数の3PL企業を管理する物流企業は4 PL(フォース・ロジスティクス・プロバイダー)、も しくはLLP(リード・ロジスティクス・プロバイダ ー)と呼ばれている。
その一方で、いわゆる荷主企業側の3PL利用方 法に変化が見られるようになってきた。
これまではロ ジスティクス業務をすべて3PLに丸投げするのが主 流だったが、3PLと自社とでオペレーションを分業 化する企業が増えつつある。
例えば、倉庫内での作業。
3PLには入荷、在庫 管理、ピッキングなどを任せるが、入荷検品や出荷検 品などは自社社員で行う企業が出始めている。
3P Lに比べ、商品知識や作業経験が豊富な自社社員のほうが、ミスが少なく効率的なオペレーションが可能 だと判断したからだ。
こうしたロジスティクス業務を内製化するの動きは、 企業がロジスティクスの重要性を再認識していること の現れである。
しかし、3PL企業にとっては決して 喜ばしいことではない。
収益の低下につながってしま うからだ。
3PL活用の成功事例として、世界的に有名なデ ルコンピュータでさえも、一部のロジスティクス業務 を内製化していく方針を打ち出している。
クライアン トを満足させるサービスを提供し、さらにそのサービ スレベルをどう高度化していくか。
それが3PLにと っての生き残りに向けた今後の課題であると言えるだ ろう。
(談) エドワード・H・フレーゼル氏 米国ノースキャロライナ州出身。
ジョージア工科大学で 博士号を取得後、同大学教授に。
その後、ロジスティク ス専門のコンサルティング会社「L O G I S T I C S RESOURCES INTERNATIONAL,INC(LRI)」を設立。
主に米国企業向けにロジスティクス戦略の立案から現場 改善に至るまでの幅広いコンサルティングサービスを提 供している。
著書には「Supply Chain Strategy〜The Logistics of Supply Chain Management」(2001 年9月発刊)などがある。
PROFILE

購読案内広告案内