ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2002年12号
特集
SCMの現場 米国編 ビジビリティ:その戦術的効用と戦略的意義

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2002 28 ロジスティクスの中心命題 我々はロジスティクスに携わっている三六五人を対象にしたアンケート調査に基づき、ロジステ ィクスとサプライチェーン・マネジメント分野に おける新潮流の分析を行った。
そこでは主要なサ プライチェーン・プロセスを通じた「ビジビリテ ィ(Visibility: 可視性)」を確立することの重要 性が強調されている。
ビジビリティとは今日の企業が求められている 「アダプティブ・サプライチェーン」の原動力とな るものである。
我々はアダプティブ・サプライチ ェーンの原動力として、?コラボレーション、? 最適化、?コネクティビティ、?エグゼキューシ ョン(実行)、?スピード、?ビジビリティの六つ を設定している(図1)。
これら六つの原動力は、アダプティブ・サプラ イチェーンの維持発展において、それぞれに重要 な役割を担っている。
しかし、なかでもとりわけ 重要なのが、ビジビリティであろう。
ビジビリテ ィは、サプライチェーンにおける単なる戦略的な 課題ではなく、組織全体にとって深い戦略的意味 を持つものだ。
ビジビリティは他の原動力を下から支え、促進 し、強化する。
激動する状況の中で真のビジビリ ティを持たないものは、変化に機敏に対処するこ とができない。
サプライチェーン・イベント・マ ネジメント(サプライチェーンの危機管理)にお いて急場しのぎの決定を下すことになり、結果的 に経営効率の低下を招いてしまう。
ビジビリティを確立することで、サプライチェ ーンの構成メンバー全員が、必要に応じて物流・ サービス情報の隅々にまでリアルタイム、もしく はほぼそれに近いタイミングでアクセスし管理す ることが可能となる。
真のビジビリティは、各構成員がそれぞれの持 つ技術的プラットフォームを通じて、各自の業務 を一斉に実行するときに、はじめて姿を現す。
そ れは輸送・保管中の在庫、業務の進捗状況、引き 当て可能在庫、オーダーステイタスなどへの情報 アクセスが統合されることをも意味する。
つまり サプライチェーンが、あたかもひとつの?バーチャ ル〞な統一体として機能するのである。
ビジビリティのさしあたっての利点は、サプラ イチェーンの責任者がモノとオーダーの流れを把 握することで、キャパシティと経営資源の有効利 ビジビリティ:その戦術的効用と戦略的意義 「ロジスティクスをめぐるトレンドと課題」2002年 第11回年次調査報告 環境変化に迅速に対応する「アダプティブ・サプライチェーン」が今日 のSCMのテーマになっている。
その確立には6つの原動力がある。
そのう ち最も重要なのがサプライチェーンの「ビジビリティ(可視性)」だという。
米国キャップジェミニ・アーンスト&ヤングアラン・モンゴメリー副社長 テネシー大学メアリー・ホルコム準教授 南ジョージア大学カール・B・マンロッド助教授 ※本稿は2002年のCLM(米国ロジスティクス管理協会)の年次総会で発表した同名の論文 を、著者の承諾を得て、本誌が翻訳したものです。
本稿に関する文責は本誌にあります。
Thesis 図1 アダプティブ・サプライチェーンの六つの原動力 ?最適化 ・最新ツール、プロセスの導入 ・非能率性の排除 ・全般的コスト削減 ?コネクティビティ ・アプリケーションとプラットフォー ムの規格統一 ・“多対多”コラボレーションの強化 ・電子商取引(トレードエクスチェン ジ)の導入 ?実行 ・輸配送、在庫、オーダー管理の改善 ・会計処理の迅速化 ・業績、貢献度の評価 ?スピード ・機敏な対応能力 ・アダプタビリティの改善 ?ビジビリティ(可視性) ・リアルタイムの情報アクセス ・トレーサビリティ ・リアルタイムでのオーダーステイタスの把握 ・偶発的な出来事の処理 ?コラボレーション ・主な顧客、サプライヤー、パートナ ーとのリアルタイムの情報共有 ・単体と組織の有機的結合 ・業務の標準化 Fulfillment Excellence (注文充足) 特 集 《米国編》 29 DECEMBER 2002 用につながることである。
問題や異変が、いつ、ど こで、なぜ起こるかを即座に知り得るなら、場当 たり的ではない確固たる意志決定にもとづく対応 が可能になる。
ロジスティクスに携わる人間にとって、ビジビ リティこそがサプライチェーン・イベント・マネ ジメント(SCEM)における中心命題なのであ る。
それはロジスティクスと、受注から発送に至 る一連のプロセスをつなぐ接着剤であり、さらに はサプライチェーンへの投資効果を最大にするポ イントであると言える。
サプライチェーンを運営 していくなかで発生する火の粉を、消防活動すら 始める前に消してしまうというわけだ。
サプライチェーンのビジビリティは、いまや海 岸線や国境に限定されるものではない。
モノ・サ ービス・情報の流れは、地球規模で管理されなけ ればならない。
リアルタイムの在庫やオーダース テイタスに関する情報は、コスト削減とサービス の改善、そして顧客とサプライチェーン全体にと っての価値創造 の源なのである。
ビジビリティ は、サプライチ ェーンの新たな 地平を開く。
そ こではサプライ ヤー側が顧客の 要望をいち早く キャッチし、自 らのキャパシテ ィや経営資源の 効率的な活用に 時に満たす必要があり、つまりは難題に対処する 際の経営手腕が問われることになるからである。
次のアナロジーが理解の助けになるだろう。
あ なたは自動車を運転しているが、ダッシュボード の計器類は三〇日まえの情報を表示しているとす る。
さらに、スピードや方向などを変えるのにも 三〇日かかるとしよう。
さてあなたは安心してス ピードを出して遠くまで行けるだろうか? あなたの運転している車が、どんなタイプであ るとか、どれだけスピードが出るかなどということ は関係ない。
スピードや燃料レベルなどのリアル タイムの基本情報が無ければ、運転者は時間的・ 距離的にいかなる長さの運転プランも立てること はできない。
マーケットがどれほどの勢いで変化しつつある かを見てみよう。
われわれは調査協力者たちに、原 料や商品の調達にかかる平均的な時間をたずねた。
昨年の結果と比較し、すべてのケースでサイクル タイムは短くなっている。
スピードという点で顧 客の要求が厳しくなっていることの反映である。
原料調達の最短リードタイムは昨年の一九日か ら今年の一六日へと、約 一六%短縮した。
平均リ ードタイムも二七%短く なっている。
両年のサン プル数、経済状況、協力 者の顔ぶれなどの違いを 考え合わせても、より短 くかつ正確なオーダーサ イクルに対する要請が強 まっている様子がうかが える(表1)。
役立てる。
一方、顧客側も在庫ステータスに関するいっそ うきめの細かい情報を求めている。
顧客は、ニー ズを先取りし、(追加コストなしで)そのソリュー ションを提供してくれる企業を求める。
この効率 性と有益性の両立は、先に定義したビジビリティ があってこそ達成できるものだ。
ビジビリティは 人間、プロセス、技術、情報の流れなどで成り立 つため、必然的に複雑な様相を呈する。
9・ 11 の教訓 昨年九月十一日の恐るべき事件からほどなく、 グローバルに展開するある二つの製薬会社が、あ の運命の日によって生じた事態に対応することに なった。
片方の企業のサプライチェーン責任者は、 政府筋から途方もない量の抗生物質をニューヨー クへ回して欲しい、との依頼を受けた。
そして政 府のみならずその企業の経営陣さえも驚かせたの は、たった二〇分間でこの要請に対する回答を出 したということであった。
しかし、もう一方の会社はこうした対応ができ ず、そしてこのたった一つのできごとをきっかけに、 サプライチェーン・マネジメントのプロセスとシス テムを全面的に見直すことになった。
今後、9・ 11 のような状況は二度と繰り返され てはならない。
しかしながら目まぐるしく変化す るマーケットにおいて、その基本的な原理原則は 依然として有効である。
競争はますます激しく、そ してグローバルなものとなってきている。
ビジビリティは、なぜビジネス戦略上の主要な 柱と言えるのか? ビジビリティの確立には、コ スト削減と顧客重視という両立が難しい条件を同 表1 サイクルタイム・発注から入荷まで 2002年 2001年 最短リードタイム 16 19 平均リードタイム 22 30 発注前の最長時間 40 45 (単位/日) CLMの年次総会で発表するモンゴメリー副社長(右から2 番目)、マンロッド助教授(左端)、ホルコム準教授(右端) DECEMBER 2002 30 顧客の要求度が高まっていることに加え、昨今 の経済と市場の状況そのものが、スピードをテコ にして利益を上げるという傾向に拍車をかけてい る。
サプライチェーンの物流という分野には、無 駄なコストを削減する余地が多くある。
スピード に関連するコスト削減が目につくようになるにし たがって、それが定着し、会社は今まで以上に能 率的(最終的には高収益)になる。
昨年よりスピードが上昇していることを示す、他 の数字もある。
在庫回転率が増加(十一から一五 へ)し、在庫日数は減少(四七日から四三日へ) している。
個々の企業努力が在庫回転率を押し上 げている部分はあるにせよ、カスタマーサービス の質を落とすことなく長期にわたってこうした改 善をもたらす主役は、サプライチェーンのビジビ リティである。
SCMEの基本 コネクティビティは、隅々まで見通すせるビジ ビリティを実現する意志決定ツールの枠組みであ り、経営トップがリアルタイムでサプライヤー、外 注先、プロバイダー、配送業者、などの全般的な 仕事ぶりをチェックすることを可能にする。
ビジ ビリティこそがサプライチェーン・イベント・マ ネジメントの基本である。
ここでビジビリティは、全体的な意志決定支援 機能と、サプライチェーンを構成する各要素(社 内および外部のプロバイダー、サプライヤー、顧 客)を統合する技術的プロセスをつなげる接着剤 の役割を果たす。
こうした情報があってはじめて 戦略的・戦術的な変化が成し遂げられ、組織全体 にも認識されるわけである。
れぞれのグループ固有のニーズをお互いに理解す るのは難しいだろう。
特に良いニュースとは言えないのかもしれない が、今後は各グループ間のすりあわせにもっと時 間を割く、という回答者の数は増えている。
キー・サプライチェーン・イニシアティブ コネクティビティを知るいまひとつの方法は、各 グループ間のコネクティビティ強化のため、現在 どのようなイニシアティブが求められているかを 理解することで ある。
回答者に、 何がサプライチ ェーン・イニシ アティブとして 重要かを尋ねた。
それぞれのイニ シアティブを一(非常に重要)か ら七(重要では ない)の七段階 にランク付けて もらい、その平 均値が二以下の 重要なものを表 2に挙げる。
興味深いのは、配送業者(たいていはサプライ チェーンの中間に位置する)にとって重要な項目 こそが、拡張型コネクティビティの核心であるこ とだ。
配送業者は顧客満足のため、オーダー・在 庫・発送に関する情報を必要としている。
アダプ ティブであること、つまり変化に迅速に適応でき 拡張型コネクティビティ 取り引きがすべての出発点となる。
注文の取り 決め、発注、受注、注文処理、出荷、顧客への配 送。
コネクティビティの拡張によって、サプライ ヤー、ロジスティクスプロバイダー、顧客、そし て既存の社内システムのそれぞれが、サプライチ ェーン・イベントの情報を共有できるようになる。
それは建物の基本構成要素であるレンガのような もので、重なるつれ、その組織がどこへ向かおう としているのかが明確になっていく。
コネクティビティを発展させるには(情報を共 有するための)連携強化のために、また標準化を 進めるために、顧客・サプライヤーとの話し合い に時間をかけねばならない。
当調査の回答者たち が、顧客とサプライヤーの両方、もしくはそのど ちらかとの打ち合わせに費やす時間は、勤務時間 全体の一〇%に満たない。
これだけの時間では、そ  サプライヤー、ロジスティクスプロバイダー、顧 客、そして既存の社内システムがサプライチェー ン・イベントの情報を共有できるようになる ?情報の流れを統合するプラットフォーム ?各部門、各企業間の連結 ?情報の収集、保管、整理、バリューチェン相 互参照などの一括管理 拡張型コネクティビティ 緊急事態対応 システム 制御補助 システム 拡張型コネクティビティ 業績の評価基準 異状警告システム 業務内容の透明性 サプライヤー     品質保証 配送業者 オーダー・ビジビリティ 納期指定 確約 混載 顧  客 POS情報 サプライヤーに対する短期需要予測の通知 品質保証 表2 回答者が考える重要事項 1.7 1.4 1.4 1.7 1.9 1.2 1.9 特 集 《米国編》 31 DECEMBER 2002 ることが、サービスレベルの向上につながるので ある。
ビジビリティの拡張に必要なデータ量がこれほ どのものであるとすれば、サプライチェーン・メン バー間の情報交換を円滑にするテクノロジーの活 用が不可欠になる。
しかしながら現実に集められ ているデータ量は、依然として不十分である。
例 えば出荷時にバーコード処理を施している割合は 全体の五六%にすぎない(図2)。
多くの企業にとり、さしあたっての目標は社内 でのビジビリティ確立である。
遠距離でしかも国 境をまたぐ企業内貿易の場合、タイムリーで正確 な情報を得るのに四苦八苦することが多い。
従来、 サプライチェーン全体に影響を及ぼしていたある 特定のグループの影響力が弱まることで、技術的 問題が生じることも往々にしてある。
サプライチ ェーンは多くのメンバーによって構成されるが、コ ンプライアンスは信頼・協力関係を通じてのみ形 成されるものだからである。
協力関係が確立され 庫、輸送などの情報に、それを必要とするユーザ ーが随時アクセスできるということである。
ここ で言うユーザーとはサプライヤーや実運送業者、顧 客、あるいは外部のプロバイダーの場合さえある だろう。
ひとつのハブ・ポータルがユーザーにとっての 計器盤の役割を果たし、サプライチェーン全体に 状況を逐一伝える。
ハブには種々の内部的システ ム、たとえばサプライチェーン・イベント・マネ ジメント、オーダー管理、輸送管理、会計処理な どからの情報を反映させる。
多くの利害関係者か らの情報も、このハブを通じて伝達される。
こうしたソリューションは、過去のデータや各 部門の報告レポートの蓄積からは得られない。
こ の要請には、イベント・マネジメント・ソリュー ションのほぼリアルタイムに近い監視・警戒・通 知システムによって対応することができる。
どれ だけリアルタイムに近いとしても、われわれは現 場にいるわけではない。
しかしそれでもなお、正 確でタイムリーな情報に対する要求はサプライチ ェーン・メンバーすべての間で年々高まっている。
こうした統合が成し遂げられない理由のひとつ が、今回の調査結果で明らかになっている。
まず 初めに、サプライチェーン・マネジメントが企業 の目標達成に資するものであることを、経営幹部 が充分に理解しなければならない。
そこでわれわれは回答者たちに、自分たちの会 社の戦略をもっとも的確に表している項目を選ん でもらった。
回答の中でもっとも多かったのはカ スタマーサービス(三一%)である。
製品・市場 のイノベーション(二五%)と、業界におけるロ ーコスト・リーダー(二三%)がそれに次いでい ていないサプライチェーンは、社内のビジビリテ ィ達成の障害となる。
だが悲観的になる必要はない。
外部のサービス・ プロバイダーは、実運送業者や倉庫のオペレータ ーなどからのタイムリーで正確な情報を直接集め てくれる。
つまりは内外の顧客から要求される情 報インフラ整備をどこの部署が負担するのか、と いった不毛な社内議論が不要になるわけである。
業務内容の透明性 積み荷が発送されてから目的地へ到着するまで のあいだ、サプライチェーンのパートナーたちには その所在を確認する術がない、ということがしば しばある。
この点を改善するため多くの企業は、オ ーダーに関するリアルタイムのビジビリティを提 供している。
業務内容の透明性とは、サプライチェーンの中 で自らの役割を果たすうえで必要なオーダー、在 図2 オペレーショナル・ビジビリティ パレット出荷 52% 56% 56% 41% バーコード化 入荷検品 バーコード化 出荷検品 パレット納品  重要なバリューチェーン・イベント 、状況、レ ベル、キャパシティなどの情報に対するアクセス が可能となる 業務内容の透明性 ?インターネットを利用したアクセスで、広範囲 にわたるバリューチェーンの透明性が実現する ?検索のプロトコル(通信規約)を定め、第三者 でもウェブサイトで情報を閲覧可能とする 緊急事態対応 システム 制御補助 システム 拡張型コネクティビティ 業績の評価基準 異状警告システム 業務内容の透明性 DECEMBER 2002 32 る(図3)。
さらに、ロジスティクス/サプライチェーン・ マネジメントについて尋ねた。
グラフが示すとお り、戦略の一部であるという二番目に多かった回 答の二倍以上、つまり全体の過半数がコストセン ターであるととらえている(図4)。
しようとする努力を、このメンタリティは著しく 阻害することになるだろう(図5)。
調査が行われた十一年間のうち、二〇〇二年ほ どロジスティクスのコスト削減が強調された年は ない。
経済情勢だけがその理由ではない。
株主と ウォール街から、すこしでも多くの利益を計上せ よとの強い圧力がかかったのである。
コスト削減は収益向上に直結している。
しかし コスト削減という観点が長期的に見てどのような 結果をもたらすのかは、微妙なところである。
目 先のコスト削減に重点を置くことは、新技術やプ ロセスを改善するための投資を減らすことにつな がるからである。
異状警告システム すべての問題が本当に問題になるわけではない。
実際には、前もって注意を払うことで避けられる ことがたくさんある。
そのためにはサプライチェー ンを調査し、関連情報を見つけだし、そしてあら なぜそれがビジビリティにとって 重要なのか? ビジビリティの確立が実質的には経費削減にな るとしても、コスト削減という大義名分からすれ ば、長期的な能率性と有益性の向上に戦略的な投 資を行うということは難しい。
もし企業が本気で サプライチェーンの質を高めようとするなら、ま ず第一により戦略的なパースペクティブを持つこ とが必要だろう。
もし顧客満足の担当部署が短期 的なコスト削減を強いられたら、顧客サービスに 基づく業界でのリーダーシップ確立などとても覚 束ない。
ビジビリティは顧客サービス向上の戦略 的ステップであると同時に、ほとんどの場合は収 益を押し上げる効果を持つ。
驚くべきことではないにせよ興味深いのは、こ こ一年でもっとも注目を浴びたのがコスト削減で あったことである。
ここでも顧客サービスの向上 を二倍以上引き離し、コスト削減が最大の関心事 となっている。
景気減速の状況下では無理からぬ こととは言え、サプライチェーンに携わる人々が 不透明な時代に必要とされるビジビリティを確立 図4 企業はロジスティクス/サプライチェーン・ マネジメントをどうとらえているか プロフィット センター 6% その他 2% 25% 15% 52% コスト センター サービス センター 戦略構成要素 図5 回答者の主要関心事 顧客満足度 の向上 22% コスト削減 54% 収益性向上 15% 設備の 有効利用 9%  異状警告システムは、例外状況におけるサ プライチェーン・マネジメントである。
その 目的は問題が臨界点を超えるまえに、それを 特定することにある 異状警告システム 緊急事態対応 システム 制御補助 システム 業務内容の透明性 拡張型コネクティビティ 業績の評価基準 異状警告システム 図3 企業戦略 ローコスト・ リーダー 23% 20% 25% 31% カスタマー サービス 製品・市場の イノベーション 幅広い品揃え と客層 特 集 《米国編》 33 DECEMBER 2002 かじめ決めておいた許容範囲を超えるときに警告 を発する、という機能が必要である。
一定時間内に何かが起こる、あるいは起こらな ければ関係者に通知する、というのが警告機能で ある。
異状警告システムとは例外状況における一 定のルールに基づいた管理手法であり、それによ って管理者は、個々の出来事ではなく例外に注意 を集中することができるようになる。
平常の状態 はふるいにかけられ、特別に注意を払うべきこと のみが残る。
異状発生とともに担当者に通知が行 くように、あらかじめ仕事の段取りを定めておく のである。
必要な者のみに警告が発せられるよう にしておけば、無用のストレスと無駄な仕事が発 生することもない。
たとえば、ある大事な客先への配送が遅れそう だ、との一報が飛び込んできたとしよう。
責任者 は他の配送センターの在庫を流用する、配送セン ターから急遽別便を仕立てる、あるいは客先へ状 況説明の電話を入れる、などの措置をとることが できる。
いずれのケースでも、実際の問題が発生 するまえに予防措置がとられることになる。
このプロセスで大事なことは、事態にどういう 手順で対処するかのルール作りをしておくことで ある。
異状がすべて緊急事態を意味するわけでは ない。
想定される不都合を、客先へ連絡するだけ で済む場合もあるだろう。
連絡を受けた側が、仕 事の手順を変更するか、あるいは安全在庫を利用 するなどの措置をとれば済むこともある。
異状警告システムは、適切なサービス水準を保 ちながら、なおかつ顧客およびパートナーが無駄 なコストを費やすことのないよう設計されるべき である。
そうすることで、信頼と責任で結ばれた 送状況のビジビリティを必要としているというこ とである(表3)。
業績の評価基準 元々それがどんな話であったとしても、遅かれ 早かれ話題は評価基準というところに行き着く。
評 価基準を導入せよというかけ声だけがやかましく、 またその利点は明らかであるにもかかわらず、多 くの責任者にとっては依然として実行に多大な困 難を伴う。
どの評価基準を採用すべきか? その 基準はどのように定めればよいか? いかなる精 度が求められるのか? むろん評価基準は適切な方法と機能をもつもの でなければならない。
しかし組織の持つビジビリ ティが増加する今日、経営者はどのような評価基 準を採用すべきなのか? 高い実行力とデリバリ ー能力を持つと自負している会社にとって、いち ばんの関心事はこうした目標達成のため、どれだ けの経営資源がこの分野に投入されているかとい サプライチェーンが成立する。
つぎに大事な点は、こうした情報がサプライチ ェーンの責任者に必要なのは言うまでもないとし て、ほかの誰に必要かということである。
一連の プロセスに携わる関係者に通知しない、というわ けにはいかない。
ここでもまた、業務内容の透明 性があれば、効率的に状況の変化や問題を知らせ ることができる。
今年度の調査協力者たちに、どの部門がどの項 目の情報を必要とするか尋ねた。
表に示したよう に、購買が特に重視している情報は注文状況と入 荷であるが、出荷だけはさほど重視していない。
サ プライチェーン全体で考えれば、ある会社にとっ ての出荷は、別の会社にとっての入荷である。
調 査結果からわかるのは、二つの部門がそれぞれ、配 表3 ロジスティクス情報の利用者 営 業 マーケティング 注文状況 62.3% 14.8% 13.1% 9.8% 入荷状況 61.9 19.0  6.3 12.8 配送の遅延 58.2 16.4 15.6 9.8 分割納入 52.6 21.5 17.2 8.7 オーダーの社内的ビジビリティ 46.4 17.6 23.2 12.8 納期遅れに対する通知 46.1 21.8 21.1 11.0 出荷状況 17.6 21.0 42.9 18.5 項 目 購 買 生 産 その他  現場・課・部・部門・会社・サプライヤ ー・顧客・ロジスティクスプロバイダーな どへ、サプライチェーンに対する貢献度の 自己評価に必要なツールを提供する。
基準 は明確で、定量化・計量可能、しかもすべ ての関係者による承認を経たものでなけれ ばならない 業績の評価基準 緊急事態対応 システム 制御補助 システム 異状警告システム 業務内容の透明性 拡張型コネクティビティ 業績の評価基準 DECEMBER 2002 34 うことなのである。
今回の調査でわれわれは一連の評価基準を提示 し、答えてもらった。
棒グラフにあるとおり、サ プライチェーンの主な評価基準に対する経営トッ プの関心の高さが目立った。
依然としてパーフェ クトオーダーや納期順守といった項目は、注目度 が低い(図6)。
それでも、パーフェクトオーダーという比較的 新しい概念に目が向き始めたことは興味深い。
こ れは従来の欠品率や納期順守といった基準よりも 幅の広いとらえ方である。
こうしたいっそう包括 的な概念が一般化し始めている。
パーフェクトオーダーがどのように定義されて いるかについても、調査がなされた。
一般的には うことではない。
コスト評価基準と比べた場合の 重要性、優先順位を見極めるべきだという意味で ある。
サプライチェーン・イベント・マネジメント(S CEM)のアプリケーションは、パートナーから の情報と注文処理全般にわたる情報を集めて、サ プライチェーン全体のデータベースとする。
これ により、サプライチェーンやベンダーの、さらには 社内の業績評価システムが強化される。
つまりは サプライヤー、ベンダー、キャリアの採点表、社 内の成績表というわけである 多くのSCEMアプリケーションには、業績評 価に役立つ特別のツールが付与されている。
これ らのツールは、実際の運営からと戦略レベルから という、ふたつの観点から見て改善が必要だと思 われるプロセスの評価に役立つ。
戦略が意味するもの ここまでわれわれは、サプライチェーンのビジビ リティを構成する各要素について議論してきた。
そ れぞれが重要なのはもちろんだが、すべてが統合 された場合には、単なる合計以上のシナジー効果 が発揮される。
前述のツールを利用すれば、断片 的なデータを仕事の役に立つ情報へと加工するこ とができる。
しかしながらこれらのデータは、単にビジビリ ティの副産物と捉えるべきである。
ビジビリティ、 警告システム、そして評価基準によって得られる のは、いくつかのプロセスと機能の管理に役立つ データに過ぎない。
マーケットの要望に応じて進 路変更をする際の羅針盤とはならない。
バックミ ラーだけを頼りに車を走らせることがほとんど想 オーダーごとの、次に挙げる四つの要素(納期順 守、完全納品、不備のないインボイス、ロス・ダ メージ)の総体として定義される。
パーフェクトオーダーの定義はそれとして、実 際にはどのように実行されているのだろうか? 表 4にあるとおり、?最重要〞顧客(回答者による 定義)は、?一般的な〞顧客とはかなり違うサービ スを受けている。
これが今回の調査のポイントで ある。
企業が顧客のセグメンテーションと、重要 度に応じたサービス水準の設定を行っていること を意味している。
組織行動論によれば、評価基準はその会社の戦 略に沿ったものであるべきである。
たとえば低価 格戦略をかかげる企業は、なによりもコスト評価 基準に力を注がなければならない。
これはなにも、 顧客満足度という基準をなおざりにして良いとい 表4 評価基準:パーフェクトオーダー 納期順守 超過・欠品・ダメージ 適切なインボイス 完全納品 パーフェクトオーダー 97 98 98 98 98.3% 93 95 95 95 79.7% 項 目 最重要顧客 一般顧客 図6 経営トップが求める評価基準 欠品率 73% 在庫回転率 (原料) 72% パーフェクト オーダー 70% 納期順守 64% 83% 88% 90% コスト変動 機会損失 在庫回転率 (製品) 特 集 《米国編》 35 DECEMBER 2002 像もつかないように、われわれはこうしたリアルタ イム・ツールを使って、戦略的思考にさらに磨き をかけなければならない時期にさしかかっている。
これは絶え間ない市場変化のスピードと関係し ている。
われわれは新奇さや改良、といった観点 から考えることに慣らされてしまっている。
定番 の商品は、?クラシック〞という名で呼ばれてし まう。
市場変化のスピードが速まるにつれ、ビジ ビリティの必要性もそれに応じて高まる。
どの便 が遅れている? どの注文がキャンセルになった? このオーダーの優先順位は? こうした質問はス ピード重視のマーケットにおいて事実上、戦略的 な意味合いを持つようになっている。
制御、管理、ビジビリティ・データの活用など のオートメーション化については残る二つのブロ ックの項目で論じる。
これらは素早く変化に適応 して緊急の要望に応え、さらには多大な出費を伴 うミスを回避するための、サプライチェーン・ツ ールである。
緊急事態対応システム を実行に移せるようになることである。
上記の例 で言えば、もしサプライヤーが納期を失念してい れば、カスタマーは起こりうる問題を事前に警告 されるわけである。
サプライヤーとのコラボレーシ ョンによって、?生産開始〞?仕上げ工程〞?出荷 待ち〞といった製造の各工程におけるキーポイン トが、自ずと理解される。
従来の手順をあらため て洗い直すことで、納期遅れという事態を回避す ることができるようになる。
対応と反応の基本的な違いはこうである。
遅れ を察知してその及ぼす影響を把握すれば、担当者 は事態の打開に向けた行動をとることができる。
一 方、遅延に対する反応というのは、単純な反射運 動に過ぎない。
プランニングをする時間はほとん ど無く、とりうる選択肢は限られる。
確固たる方 針に基づいた行動こそが、サプライチェーン全体 の質を高めるのである。
とすれば、顧客とサプライヤー双方とのコラボ レーションにもっと時間を割く必要が出てくる。
こ れについては、回答者たちから良い結果が得られ ている。
今後どういった分野に時間を費やすかを 尋ねた結果が、棒グラフに示されている。
目先の 問題解決に時間を割く、という回答者が比較的少 ないのは喜ぶべきであろう(図7)。
決定支援機能には、急場を乗り切るという意味 での価値があることは確かだが、戦略的に使用さ れてはじめてその本領を発揮する。
つまり顧客の ニーズを満たすためにサプライチェーンのプロセス を見直し、再構築をすることこそが真価なのであ る。
その意味するところは、先行事例から得た情 報を体系化し、その知識体系に基づいてSCEM を望ましい形に再構築する、ということである。
こ ビジネスにおいて、さまざまな要求レベルが高 まり続けていることに疑いをさし挟む余地はない。
ここでは時間というファクターに関し、企業がど ういった方針で臨んでいるかを尋ねた。
三三%は、 リクエストに対するほぼリアルタイムの対応、と いう方向に進んでいる。
四五%は週単位から一日 単位へと移行しつつある。
緊急事態対応システムは意志決定支援ツールで あり、問題発生とほぼ同時に警告を発し、すかさ ず対策を立てる能力を最大限に強化するための機 能である。
警告から想定される問題に、答えと解 決策を与える。
ビジビリティ支援コンポーネント やさまざまなバックエンド・システムなどの不可 欠な機能が使用できるようになるおかげで、ユー ザーには適切な行動が可能になり、決定事項が企 業やサプライチェーンに与える影響まで知ること ができる。
たとえば過去にはサプライヤーが生産に欠かせ ない原料の納期を間違え、そのために顧客の注文 に応じられなくなる、ということがあったかもしれ ない。
だが今は、あらかじめソリューション・ア ーキテクチャーに収められたプランニングと最適 化の機能を使い、定められた作業手順に沿ってソ フトウェアが適切なソリューションを導き出す。
そ れゆえ、現在の生産体制を維持したまま原料を急 送してもらうか、あるいは原料到着と同時にフル 稼働できるように製造過程を調整する、という対 応策をとることができるようになる。
ビジビリティの基本的な利点のひとつは、対応 を講じる余裕の持てるタイミングで問題を察知す る、というソリューションが設計可能となり、従 来のEDI技術に比べてはるかに速やかに対応策  意志決定支援機能と、警告に対するダイ ナミックな反応、善後策立案をほぼリアル タイムで実現する機能を強化する 緊急事態対応システム 緊急事態対応システム 制御補助 システム 業績の評価基準 異状警告システム 業務内容の透明性 拡張型コネクティビティ DECEMBER 2002 36 れが、アダプティブ・サプライチェーンである。
決 定的に重要な情報を集めることで、サプライチェ ーンの責任者(あるいは経営陣にとっても)は、主 なプロセスに対するさらなるビジビリティを獲得 する。
そうすることで、どのプロセスが期待通り に機能しているかがわかるだけでなく、改善を必 要としているプロセスは何かということをも判断 できるようになるのである。
制御補助システム 多くの人は、自分で車を運転し始めたときのこ とを憶えている。
気持ちを張りつめ、すべての凸 凹や方向転換に注意を払うが、気をつけなければ ならないことと、そうではないことの区別がつか ない。
われわれの視界は狭いが、あえてきょろき ょろと見まわしたり、遠く前方を見渡す勇気もな い。
しかし運転に慣れるにしたがって、判断能力 がついてくる。
視界も同様、ボンネットに付いた 制御補助ソリューションはERP(統合業務パ ッケージ)およびSCE(サプライチェーン実行 系ソフト)と連動し、一定の範囲からの逸脱が認 められる場合に作動する。
ERPやSCEMツー ルによる処理をもとにワークフローが始動し、そ の結果が処理システムへと送られる。
システムは 単に反応するだけではなく、責任者たちがしかる べき措置をとれるように任務を遂行する。
これは 比較的新しいソリューションテクノロジーである が、ベンダーたちは今もっとも力を注いで製品開 発をしている。
ビジビリティの欠如や組織の盲点は、テクノロ ジーの問題だという議論があるかもしれない。
最 新のビジビリティ・ソリューションの特徴は、そ のほとんどが全面的にインターネット技術に立脚 している点である。
面倒な調整が必要であったり、 EDIだけで処理するのとは異なり、カスタマー は気軽にサプライチェーンと接触することができる。
信頼のおける老舗のテクノロジー・プロバイ ダーは、ロジスティクスや注文処理、そして受注 から決済までの(order to cash: O to C)のソリ ューションを提供している。
適切なプロバイダー選びの重要性 ソフトウェアと同様、適切なプロバイダー選び も重要である。
しかしSCEMソフトウェア市場 は比較的細分化されているため、多くの会社、さ まざまなビジビリティの定義、多様なイベント・ マネジメント機能、などがひしめき合っている。
し たがって、その企業と顧客にとって本当に必要な のはどういった種類のビジビリティなのかを、見 定める必要が出てくる。
エンブレムの先まで見渡せるようになる。
制御補助システムによって、将来的には変化に 半自動的に対応する組織が実現するであろう。
そ れはあたかも通勤者が家路をたどる際に、車のオ ートクルーズ機能を使うのと同じことである。
車 は、山や谷やカーブがあっても一定の速度を保つ。
それでも運転の主体は運転者自身であり、どれだ けスピードを出すかも運転者しだいである。
しか しながらここで大事なのは、オートクルーズ機能 があることで、その他のことに注意を向ける余裕 が生まれるという点である。
そこで、制御補助システムである。
制御補助シ ステムはSCEMピラミッドの頂点にあり、緊急 事態対応システムを一歩進めたものである。
ここ に到って、潜在的な問題に対するソリューション、 経営幹部たちにふさわしいソリューションが姿を 現す。
もし警告の内容が一定の条件(コスト、時 間、あるいはサービス水準)に収まるものであれ ば、最適なソリューションが自動的に是正措置を とる。
 制御補助システムによって将来的には、 変化に自動的に対応できる組織が実現する だろう 制御補助システム 制御補助システム 緊急事態対応システム 業績の評価基準 異状警告システム 業務内容の透明性 拡張型コネクティビティ 図7 何に時間を費やすか? 目先の 問題解決 31% 58% 58% 64% 顧客との コラボレーション サプライヤーとの コラボレーション 戦略構築 特 集 《米国編》 37 DECEMBER 2002 企業は、サプライチェーンにおける重要な各プ ロセスそれぞれをしっかり認識しなければならな い。
おのおの独自の人と技術の融合によって作り 出される一連のできごとによって、各プロセスは 構成されている。
ひとつのプロセスが次々と展開 してゆくたびに、必要とされるビジビリティとそ れに伴う経営判断は変わる。
その流れの中のできごとはすべて、一連の関係 者にリンクしている。
そしてその各関係者は、そ れぞれ独自の経営判断に基づいた固有の視点をも っている。
これがツールに必要とされるシナリオ、 もしくは基本的な相互関係と見なされている。
SCEMの運営とは、それぞれのシナリオに関 係する人々、プロセス、テクノロジーなどに対処 することである。
プロバイダーの戦略的意志決定 支援の力量は、こうしたシナリオをもとに、比較 検討されるべきである。
ソフトエコノミーと変化そのものに内在するリ スクは当然あるにせよ、変化への試みが不可欠で あることは自明の理であり、われわれは以下の言 明が正しいものであると確信している。
1. 企業におけるビジビリティは、 まだ確立されていない ロジスティクス・注文処理・O to Cにおけ るビジビリティを、ある程度まで実現してい る企業はいくつかあるが、完成度の高いビジ ビリティを達成している企業はきわめて稀で ある。
前述した製薬会社が、緊急かつ重大な 要請に機敏に対応しうる体制への転換を余儀 なくされたように、今日多くの企業は最低限 れわれは何も、この原動力を不当におろそか にするつもりはない。
だが実際にわれわれの 調査で明らかになったのは、ビジビリティの 強化によってこそ、全体の質が飛躍的に向上 するということだったのである。
ひとつの原 動力を強化することが、他にも良い結果を及 ぼすというひとつの例である。
過去においてしばしば最適化は、ロジステ ィクス担当者の頭の中である瞬間にだけ成立 するというスタティックな概念だった。
現在 では代替ソリューションのシナリオを素早く 計算し、それをほぼリアルタイムで担当者に 提示するという、新たなツールが登場してい る。
こういった新しいツールを効果的に利用 するには、一定のフォーマットに則った大量 の情報が必要になる。
そしてビジビリティが このレベルに達すれば、最適化という手法を 使って、SCEMをさらに一歩進めることが できるようになる。
3. アダプティブ・サプライチェーンにはエンド・ トゥ・エンドのビジビリティが望まれる SCEMピラミッドのブロックすべてを強 化することが、アダプティブ・サプライチェ ーン・ビジネスモデル移行へのパスポートで ある。
強化型イベント・マネジメントの一環 として自動対応システムや制御補助システム を実現するには、サプライチェーン全体を ?一望〞する能力が必須となる。
SCEMピラミッドの各ブロックをこうし た水準で実行することが、より戦略的でアダ のビジビリティの中で活動をしている。
予想 外の事態に対応する体制が整っていないと思 い知らされるのは、多くの企業にとっては市 場動向に遅れをとった場合に限られる。
対策 を講じる時間の余裕があることもあるが、そうでない場合、対応能力の不足は業界におけ る地位の失墜を招き、回復には多大の労力と 資金がかかることになる。
2. ビジビリティは、ただ存在するだけではない ビジビリティの向上に伴い、アダプティブ・ サプライチェーンの他の五つの原動力(コネ クティビティ、コラボレーション、実行、最 適化、スピード)も改善される。
ビジビリテ ィが無ければ、こうした原動力は抑制され、弱 体化する。
これまでコネクティビティは、EDIの伝 達機能とだけ定義されてきた。
ここで議論し ているビジビリティという文脈の中で、われ われはその定義にXMLによるフレキシブル なコミュニケーション、リアルタイム、複数 の技術的プラットフォームの間を媒介する、と いう条件を付加した。
コラボレーションについては、必ずしも技 術や洗練されたツールが不可欠ではない。
ビ ジビリティの向上こそが、能率的かつ有益な サプライチェーン・コマースへの鍵となる。
複 数のグループが同じ評価基準を共有し、同じ 計器盤を眺めるなら、意志決定の質は飛躍的 にはね上がる。
実行はこれまで、ロジスティ クスと注文充足の中心と考えられてきた。
わ DECEMBER 2002 38 プティブな組織への道である。
担当者たちが 火消しに躍起になったりあわてて対応する時 間が減る分、システムが代行して処理をして くれる。
担当者たちは絶えず変化するサプラ イチェーンとマーケットに適応すべく、本来 の仕事に多くの時間を割けるようになるとい うわけである。
なぜビジビリティなのか? CGEYのパースペクティブ 過去二〇年にわたり、われわれは三世代のサプ ライチェーン・マネジメントを見守り続けてきた。
八〇年代は機能的な卓越性が追求され、自らのフ ァンクショナルエリアを最適化するための的を絞 ったソリューションが求められた。
九〇年代に入ると企業はサプライチェーンの組 織化に乗り出し、サプライチェーン・マネジメン トを一手に引き受ける部署が創設され、意志決定 は各プロセスに焦点を置いていた。
そして今はア ダプティブ・サプライチェーンの実現に焦点が置 かれ、拡張された企業態とアプリケーションによ るコラボレーティブな環境が整い、各プロセスは インターネットを通じて統合されている。
今年の調査結果が示しているのは、アダプティ ブ・サプライチェーンへの鍵となるのがビジビリ ティの向上であり、その方法論がSCEMソリュ ーションの導入である、ということである。
コン ピュータを利用したコネクティビティとソフトウ ェア・システムが、サプライチェーンのしかるべき 担当者たちから有益な情報をリアルタイムで集め、 くの企業はビジビリティ確立への手始めとして、ま ずロジスティクスに焦点をあてる。
そのほとんど は、トレーサビリティ獲得を目的とした急場しの ぎに、という動機である。
しかし戦略的目標を欠 いては、ロジスティクスのビジビリティが最高度 に実現することはないだろう。
つまり?大きな青写真〞を欠いたロジスティク スだけのビジビリティでは、広範囲のビジビリテ ィ獲得への推進力にはならない、ということであ る。
全体の隅々にまで及ぶものでなければ、ビジ ビリティとは呼べない。
戦略的視点が重要なのは、 それがひとつの会社の視点よりもはるかに包括的 だからである。
サプライチェーン全体を、ひとつ の?バーチャル〞な統一体として捉えなければな らないのである。
複雑なサプライチェーンの運営にあたって、多 くの企業はサプライチェーン・イベント・マネジ メントへのアプローチを見直すことになる。
企業やそのサプライチェーン・メンバーが世界レベル のステータスを得るには、いかなる要求に対して も、?いつ〞?どこで〞?どうやって〞?なぜ〞とい う内容を具備した答えを出す能力を持たなければ ならない。
先見性に満ちた企業はすでに、サプライチェー ン・マネジメントにおける世界レベルの卓越性を 実現する革新的な機能の開発に取り組んでいる。
サプライチェーンの卓越性を構成する六つの原動 力の中で、ビジビリティこそが他の五つの基礎と なる。
アダプティブ・サプライチェーンを実現する六 つの原動力を、われわれは二〇〇〇年に初めて紹 介した。
その際、どの企業がアダプティブなサプ SCEMが、プロセスのビジビリティと決定すべ き事柄を結びつける。
そうしてはじめて関係者す べてのアダプティブネスが向上し、さらには時宜にかなった効果的な注文、在庫、輸送の管理によ る企業利益への貢献へとつながっていく。
サプライチェーン・マネジメント・ソリューシ ョンに投資さえ行えばアダプティブネスが達成さ れると、多くの人は思うかもしれない。
しかしな がらこうした投資は細分化されて相互の有機的関 連が弱まっているかもしれない。
あるいはソリュ ーションがテクノロジーの進化についていけない ものであるかもしれない。
ことによったら企業の 吸収合併や売却で、複数のチャネルからの要請を 調整する必要に迫られているかもしれない。
SC EMはこうした問題に回答を与える。
SCEMは ビジネス全般と各ソリューションを統合する技術 的プロセスを結びつける、新たな?接着剤〞であ り、投資効果の極大化をもたらすものである。
SCEMは、他のサプライチェーン・ツールと ともにオーダー・在庫・輸送のビジビリティを供 給し、投資効果を最大化する。
同様に顧客サービ ス、提携相手先の能力、維持費、在庫回転率、運 送費などの改善をもたらす。
なぜビジビリティなのか? アカデミシャンのパースペクティブ サプライチェーンにとって、この概念を理解す ることはたやすいが、実行することは難しい。
オ ーダー・在庫・輸送を完全に視界に収める能力を 持つことで、サプライチェーン・イベントの管理 手法が劇的に変化することは理解されている。
多 特 集 《米国編》 39 DECEMBER 2002 ライチェーンとネットワークへの変革を目指して いるか、評価を実施した。
二〇〇〇年の時点で、 サプライチェーン変革の必然性を充分に自覚して いたのは少数派だった。
その中でも、アダプティ ブ・サプライチェーンを支える原動力の向上に実 際に取り組んでいたのは、数えるほどだった。
六つの原動力(ビジビリティ、コネクティビテ ィ、実行、最適化、コラボレーション、スピード) を紹介してからというもの、多くの企業がこの枠 組みを変革への道標として利用している。
しかし ながら導入を決めた企業からは、「なにから始めれ ば良いのか?」という質問が繰り返されている。
導 入にあたって、どの原動力から手をつけていけば 良いのか? 今年の調査報告に答えがある。
ビジ ビリティ、である。
今後われわれはビジビリティと他の原動力のイ ンタラクティブな効果について、調査をすること になるだろう。
例えば、コラボレーティブ・サプ ライチェーン・プランニングに最適化ツールを利 用する場合、注文処理のビジビリティと幅の広い ビジビリティのどちらが適しているか、といった 問題である。
それに加えわれわれがビジビリティ において発見したように、他の原動力が導入のさ まざまな局面でどのように関わってくるかを見定 めることも視野に入れている。
今年と昨年の調査によってわれわれは、どのよ うにして組織がアダプティブな状態へと変貌でき るか、ということに対する基礎的な理解を得た。
こ の理解をもとに、投げかけられるであろう次の質 問に対する答えを探す旅に出ることにしよう。
す なわち、「さて、ここからどこへ向かえばいいのだ ろうか?」 にカスタマー向けを中心とした出荷ロジスティク スに定めた。
世界中から品物を調達するカスタマ ーにとってオーダーのトラッキングは常に頭痛の たねであり、アジレントのカスタマーサービス部 門がもっと多くの情報を持つことが、顧客満足度 の向上にうってつけだと考えたのである。
この試 みは当時としては斬新なものであった。
大半の企 業とソフトウェア・プロバイダーは、サプライヤ ーごとに情報をやり取りするシステムを構築する ことで、入荷状況を把握しようとしていたのであ る。
バークは社内にも改善すべき点を見つけた。
例 えば、実運送業者や外注先の自己申告による業績 評価には頼らず、サービス・プロバイダーを評価 するセラリックスのソフトウェアから得られるデ ータを利用する。
さらには引き渡し証書(PO D)を電子化するツールを使って、輸送およびサ プライチェーンのコストを引き下げる、などであ る。
その利点は、キャッシュ・トゥ・キャッシュ の多くの構成要素に反映される。
加えてアジレン トは、キャリアへの支払条件を電子PODとリン クさせることにも着目した。
プロジェクトの進展に伴い、チームはロジステ ィクス・マネジメントの戦略的価値の強化に乗り 出した。
そして旅を始めるにあたっての、バーク からの提言とは? 「その意義を理解し、任務遂 行に必要な時間と労力を過小評価しないことで す」と彼は言う。
「セラリックスが適切なソリュー ションを提供してくれるわけではありません。
セ ラリックスはデータを提供するだけです。
そのデ ータを有益な情報へと変換し、実際に対処してい くのは、われわれ自身の仕事なのです」 ロジスティクス・ビジビリティの探求は、多く の大企業にとって計画と準備、耐久力と忍耐力が 必要とされる旅にたとえられる。
アジレント・テクノロジーズ社の試みも、その 例外ではない。
アジレントは売上げ八四億ドルの、 コミュニケーション、エレクトロニクス、ライフ サイエンス分野での世界的大企業である。
一九九 九年にヒューレット・パッカード社から独立、カ リフォルニア州パロアルトに本拠を構え、一二〇 カ国に三万七〇〇〇人の従業員を擁する。
同社の グローバルトレード&ロジスティクスサービス・ チームは、全社の貿易、ロジスティクス、ソリュ ーション、コストの全責任を負う。
アジレントのロジスティクス・ビジビリティへ のアプローチは、二年以上前に始まった。
当時グ ローバル・ロジスティクス・ソリューションの責 任者であったショーン・バークは直接のカスタマ ー(営業と現場)に、どうすればロジスティクス が彼らのカスタマー(外部顧客)たちへのサービ ス向上に貢献できるかを尋ねた。
はっきりとした 答えが返ってきた。
不確定性を減らして顧客満足 度を上げるため、配送状況に対するいっそうのビ ジビリティが欲しいとのことであった。
バークとそのチームは、プロセス管理ソフトウ ェアのプロバイダー選びから始めた。
バークが選 んだのはセラリックスだった。
アジレントが顧客 に提供しようと考えていた在庫データとロジステ ィクス・プロセスに焦点を当てていたのが、セラ リックスだったからだ。
現在は他に一四のプロバ イダーのソフトウェア・ソリューションが、セラ リックスのパッケージに取り込まれている。
次にアジレントは、力を注ぐべきポイントを特 アジレント・テクノロジーズ社における ロジスティクス・ビジビリティの探求

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