ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年4号
キーマン
物流キーマン「私の仕事、私の情報源」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2001 60 物流キーマン 「私の仕事、私の情報源」 「若いOL達の会話も大切な情報源」 近鉄エクスプレス 雲川俊夫社長 ――日頃、どんなものを仕事の情 報源としていますか。
僕は電車通勤なんですよ。
車 だと会議に遅れた時、必ず道路 事情のせいにする。
こんな卑怯 なことはないと僕は思っているん です。
だからほとんど車には乗り ません。
杉並区から本社のある 大手町まで毎朝、地下鉄で通勤 しています。
お客様のところにい く時も、ほとんどが地下鉄。
地 下鉄ほど便利な乗り物はありま せんよ。
それに地下鉄で若いO L達のピーチクパーチクという会 話を聞くことほど楽しいことは ありません。
ある本に「地下鉄 の効用」という文章を書いたこ とがあるぐらいです。
――新聞や雑誌から情報を入手す ることはないのですか。
ビジネスマンたるもの日経と日 経産業は読むべきでしょう。
社員 にも可能な限り読めといっている。
個人的にはこの二紙のほかに、日 経ビジネス、東洋経済、ダイヤモ ンド、プレジデントに目を通して います。
もっとも大新聞といえども、政 治・経済の分野に関しては「長い 物には巻かれろ」という風潮があ りますな。
いろいろと批判はしま すが、肝心要の批判はしない。
こ の点はやや不満です。
――ロジスティクス分野の専門情 報についてはどうですか。
業務に関する情報はもっぱら社 員から得ています。
業界団体の発 信する情報はフィルターがかかっ ていますからね、あまりあてには していません。
ロジスティクス分 野の情報に関しても、一般紙を何 紙か読み比べればだいたいのとこ ろは掴めます。
あとはお客様の反 応ですね。
――ロジスティクスの仕事の面白 さはどこにあるんでしょうか。
運送という仕事は人類で三番目 に古い職業だそうです。
絶対にな くなりません。
それとね、物流の仕事は何よ り深い。
当社は現在、世界中に 一五〇カ所ほどの支店がありま すが、それぞれの地域に根ざし ているという意味では、一般の 商社やメーカーの支店とは比較 になりません。
経営の権限も責 任も現地に持たせ、現地雇用のマネジャーをどんどん増やしてい ます。
そうしないと物流の仕事 は動きません。
それだけ深い仕 事なんです。
私は「グローバライ ズ」とは「ローカライズ」だと言 っているんです。
一見、矛盾す るように聞こえますが、ローカラ イズの完成した姿が実はグロー バライズなんだと思います。
――ロジスティクスとの出会いは。
八〇年代末に大手物流業者のシ ステム開発を手掛けたのが最初で す。
初めは、下請けのそのまた下 請けとして業務を受託しました。
その後、飲み会の席かなんかで、 「パソコンを使えば面白い物流シ ステムができそうだ」といった話 を吹聴していたところ、同席して いたクライアントの方が「面白い、 やってみないか」と声をかけてく れたんです。
当時、業務系のシス テムといえばホストコンピュータ 全盛の時代です。
理解のある担当 者に出会えたことは、当社にとっ てラッキーでした。
――でも物流業務についてはまっ たくの素人ですよね。
そのクライアントの仕事を手伝 うなかで、物流現場に接する機会 がたくさんありました。
徹夜で一 緒に現場作業をしたこともありま す。
こうした経験を通じて、当社 は物流の世界で生きていこうと思 ったんです。
やっぱり現場は大事 です。
パソコンをながめているだ けでは見えないことが分かる。
どういう場面で問題が起こりう るのか、どうすればもっと便利な 仕組みを作れるのか。
また、倉庫 内のどのポイントでスキャニング すれば一番、的確に情報を把握で きるか。
一つずつ具体的に考えて きたわけです。
すべて、現場から 学びました。
――ネット上で宅配業者のサービ スを比較する「宅配ウオッチャ」 を始めたのはいつ頃ですか。
九六年からです。
私はヤマト運 輸以外のほとんどの大手物流業者 と一緒に仕事をした経験がありま す。
ですから各社の物流に対する 考え方の違いが、よく分かった。
宅配ウオッチャも、こうした経験 が原点です。
――最近、イータク・ドットコム というサイトも始めましたね。
これは宅配ウオッチャをリニュ ーアルしたサイトです。
面白いの がね、これを始めてから毎日のよ うに荷主から相談が寄せられるん です。
なぜか大手物流業者ではな く、私達のところに相談にくる。
ようするに、中小以下の荷主とい うのは物流業者に対する交渉力を 持っていません。
そこで我々にコ ンサルティングのようなことを依 頼してくるんです。
「顧客と宅配業者の意識のズレをウオッチ」 スナーク 富田恭敏 社長 物流業者のサービスというは、 いったん荷主が発送してしまうと 後はブラックボックス化していま す。
今は技術的に見せることが可 能なのに、大手物流業者はやろう としません。
私には、ここに顧客 と大手物流業者の意識のズレが出 ているように思えてなりません。
61 APRIL 2001 ――配車システムの提案の仕方が ユニークだと聞いています。
別に奇をてらうつもりはないの ですが、「当社の配車システムを 導入しても、配車マンは減りませ んよ」とお客さんには説明してい ます。
減るのは車両の台数であっ て、配車マンではない。
情報シス テムに配車マンの代わりをさせる ことはできません。
システムにで きるのは配車マンの仕事を支援す ることだけです。
――最初から、そういうコンセプ トだったのですか。
違います。
古い話になりますが、 昭和四〇年代の中頃と五〇年代の 中頃の二度にわたり、私は日本I BMの社員として今日の配車シス テムの原型ともいえるシステムを 日本に導入した経験があります。
いずれも米国の学者が作った当時 としては最先端のシステムでした が、ことごとく失敗に終わってし まった。
配車システムで計算した 理論的には正しいはずの答えが、 実際には正しくない。
いくら考え ても理由は分かりませんでした。
少なくともロジックの問題とは思 えなかった。
そこで三度目のチャンスが訪れ た時、ちょうどバブル経済で社会 的に物流が逼迫した時期でしたが、 以前の失敗を活かし、徹底して配 車の現場にこだわる方針を立てた んです。
結局、二年近くベテラン配車マ ンの横で現場に立つことになりま した。
そのうち三カ月は実際に配 車業務を経験しました。
これで失 敗の秘密が分かったと同時に、配 車マンの仕事を完全にシステムに 置き換えるのはきわめて難しいと 分かったんです。
――何故ですか。
結局、うまいと言われる配車は、 配車の前提となっている約束を少 し破るところにコツがあるんです。
同じ九時ちょうどに届けるという 約束でも、相手方の都合によって、 その厳密さは異なっている。
本当 にオンタイムで持っていかなけれ ばならないところもあれば、ある 程度の誤差なら実際は問題ないと ころもある。
その知識を配車に活 かすわけです。
人の問題もあります。
家庭の事 情などで早く帰りたいドライバー もいれば、残業代を稼ぎたい人だ 分かってものを言っている」と相 手に思わせることです。
そのためには部隊の構成に配 慮したほうがいい。
仮に一〇人の 部隊だとしたら、そのうち四〜五 人は生産部門の出身者。
他の四 〜五人は営業を経験している。
そ れに加えてシステムと経理を知っ ている人間が一人ずついたらちょ うどいい。
混成部隊、ハイブリッ ドな構成にするのがベストだと思 います。
生産部門を説得するのであれ ば、やはり生産の仕事のプロセス を把握していないと話にならない。
逆に実務経験の裏付けがあれば、 顔も利くし、向こうも話を聞いて くれる。
――担当者には、どんな資質が求 められますか。
何より論理的である必要がある。
それとコミュニケーション能力、 政治力が必要です。
実際の需給調 整の仕事は大げさに言うと社内戦 争のような側面がある。
本当に高 いレベルで仕事をしようとすれば、 どうしてもそうなります。
しかも、 ロジスティクスの担当者は常に会 社全体の視点でモノを見る必要が ある。
当然、かなりの高い資質と 経験を要求されます。
――ロジスティクス部門が優秀な 人材を獲得できますか。
当社の場合は比較的、それがで きるようになってきました。
一〇 年前、当社の物量は年間一億五〇 〇〇万ケース程度でした。
それが 今は三億五〇〇〇万ケース。
倍増 以上です。
それだけロジスティク ス・コストが大きくなって、その 管理が重要になっている。
つまり、 会社としてもロジスティクスを重 視せざるを得ないようになってい るわけです。
ただし、それだけの資質を持っ た人材となると数は限られてきま す。
そこで仕事の質を解析して、 人材の配置を考慮する必要が出て くる。
社員でないと難しい仕事と、 社外に任せられるきちんと分けて、 任せられる仕事は協力会社にアウ トソーシングする。
本社スタッフ は少数精鋭でいく。
ルーティンワークまで社員にや らせる必要はありません。
例えば 需給調整の仕事でも、パソコンの 画面で数字の変化を見てアラーム を発する役割だけなら外部に任せ られる。
そうやって仕事をシンプ ルにしていって、本社スタッフに は創造性の高いテーマに当たらせ るように努めています。
「全ては物流の現場で学んだ」 ――需給調整の秘訣とは。
需給調整というのは営業と生産 の間にたって、それぞれの活動を コントロールをするわけですが、調 整を上手く運ぶにはまず相手をよ く知ることが大事です。
「あいつは っている。
また、時期によっても 事情は変わってくる。
うまい配車 マンは、そんなドライバーの事情 まで考慮して配車を組んでいる。
だから現場が回る。
単純にシステ ム化することが難しいノウハウを 持っているわけです。
ただし、配車マンの仕事のう ちシステム化できる部分もある。
システムで仕事を支援すること で、それまで配車マン一人で三 〇台を処理するのが精一杯だっ たところを、五〇台、六〇台処 理できるようにすることは可能 です。
その結果、使用する車両 の台数を大きく減らすことがで きると分かりました。
結局、全 ては現場で学んだのです。
「需給調整は社内戦争、まず敵を知る」 サントリー 伊藤久司 ロジスティクス推進部長 光英システム 葦津嘉雄 社長

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