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APRIL 2001 42
赤提灯で見かけるビールジョッキ
や浴衣姿の女性モデルのポスター、
ロゴ入りTシャツ、そして大ブレイ
ク中の生ビールサーバー‥‥。
熾烈なシェア争いを繰り広げてい
るビールメーカーの営業マンにとっ
て欠かせない販促ツールだ。 特にビ
ールメーカーのグッズは消費者から
の人気も高く、そのアイデアや出来
映えが売り上げを大きく左右すると
いう。
各社ともグッズの開発には余念が
なく、本来の商品であるビールをは
るかに上回る品揃えで、消費者、さ
らには特約店、小売店のニーズに応
えている。 とりわけ業界最大手であ
るキリンビールの販促品、広告品の
アイテム数は桁外れに多く、昨年ま
では常時二九〇〇アイテムを用意し
ていた。
「例えば、花火大会などのイベン
トがあれば、そのイベントのロゴを
入れたTシャツや紙コップなどを準
備していた。 営業マンはビールを売
るためにあの手この手を考える。 そ
の結果、グッズのアイテム数が膨れ
上がった」と営業経験もある池上直
樹物流本部グループ物流担当は説明
する。
地域色の濃い販促品や広告品も少
なくないという事情もあって、調達
や在庫管理といった業務は各ブロッ
クで行うのが原則だった。 営業マン
は必要に応じて生産工場や物流セン
ターなどで在庫している販促品、広
告品を調達し、自分で得意先に届け
る。 もしくは、在庫拠点に発注して、
ビールと一緒に注文品を届けるよう
指示を出していた。 ビールの配送に
乗らない時には、宅配便を利用して
いた。 この体制が過剰在庫を招く原因と
なっていた。 販促品、広告品の中に
は飲食店で使用されるビールジョッ
キやグラス、ポスターのように全国
共通仕様のグッズも多いのだが、管
理は各ブロック任せであったため、
それら商品の在庫が全国の五六拠点
でかなり重複していた。 在庫金額は
全国合計で七億円。 当然、その管理
コストもかさんでいた。
篠岡方長取締役物流本部副本部
販促品の在庫を1カ所に集約
宅配利用のコスト増も吸収
ビールジョッキやグラスなど販促品、ポスターや幟(のぼり)
といった広告品の在庫を全国各地で分散管理していた。 今年1月、
埼玉県内に開設した専用センターにそれらの在庫を集約するとと
もに、アイテム数を絞り込んだ。 ビールとの混載で得意先に注文
品を届ける従来の配送方式は、宅配便利用に全面的に切り替えた。
小口化で支払い運賃自体は増える計算だったが、仕分けの前倒し
とEDI(電子データ交換)対応でコストアップを抑えることに成功
した。 改革全体では10億円のコスト削減を見込んでいる。
キリンビール
── 在庫削減
池上直樹物流本部グループ物流担当
な販促ツールの一つ。 それだけに絞
り込みについて営業サイドは慎重だ
った。 しかし、「地域オリジナルと
いわれるグッズでもよく調べてみる
と、同じような商品を使っているケ
ースが少なくない。 共用化を進めれ
ば、これまでの二九〇〇アイテムか
ら最終的には一二〇〇までアイテム数を削ることができる」(池上担当)
と押し切った。
宅配会社三社でコンペ
次に、配送体制の見直しだ。 従来、
販促品と広告品は主にビールとの混
載で得意先に届けていた。 基本的に
はキリンが特約店と呼ばれる卸まで
の配送を担い、卸は末端の小売店に
届けるという流れだった。 これを集
約センターから全て宅配便で届ける
体制に切り替えてみてはどうかとい
う意見が出された。
宅配便を活用すれば、メーカーか
43 APRIL 2001
長は「地域ごとのオリジナルグッズ
は例外としても、全国共通グッズま
で分散管理する必要はない。 一極集
中管理体制に移行すれば、在庫金額
を少しでも減らすことができるはず」
と常々感じていたという。
物流部主導で販促品を集約
販促品、広告品の在庫削減プロジ
ェクトの構想が持ち上がったのは九
八年春だった。 折しも、本社では支
社部門の構造改革プロジェクトの一
環として、購買機能全般を本社の
「事務統轄部」へ集中させる方針を
打ち出した時期だった。 同時に「販
促品、広告品の購買、物流業務も集
中管理する体制に切り替えようとい
う話になった」(篠岡取締役)。
そこで、物流本部ではまず、販促
品、広告品の在庫拠点を一カ所に集
約することを前提に、受発注のルー
ル作りに取り掛かった。 一発注当た
りの商品ロットや受注
締め切り時間など、従
来は地域ごとにバラバラ
だったルールを統一。
さらに、集約するセン
ター以外、例えば支社
や営業所で販促品、広
告品を余計に確保(二
重在庫)したり、携帯
端末を使用せず手書き
のメモや口頭で発注する
ことを禁止した。
続いて、アイテム数の
絞り込み。 これについて
は社内で賛否両論が出
た。 前述した通り、販
促品や広告品はビール
メーカーにとって、顧客
を惹きつけるための有力
ら末端の小売店に直送することがで
きる。 卸の物流負担はそれだけ軽く
なる。 加えて、キリンにとっても
「営業マンがビールを売ることだけ
に専念する商物分離を進めようとい
う意味合いもあって、宅配便利用に
は賛成だった」と、篠岡取締役は経
緯を説明する。
ところが、宅配便を利用するとな
れば、ビールと混載していた時には
必要のなかった新たな支払い運賃が
発生してしまう。 しかも「配送先を
小売店や飲食店にまで拡げると、ト
ータルの発送個数が従来よりも二
〇%増える計算だった」と池上担当
は説明する。 在庫は減っても、配送
料が増えてしまうのでは意味がない。
配送コスト総額を何とか従来の水準のまま抑えたかった。 調べてみると集約前の「混載」で
は、一個当たりの配送コストが一二
〇円〜一三〇円だった。 また、一部
で利用していた宅配便は物量がまと
まらず、発注も不定期だったため、
割高な運賃が適用されていた。 そこ
で、全てを宅配利用に切り替えるこ
とを前提に、協力宅配業者に合理化
提案を要請した。
宅配便会社三社に声を掛けて、コ
ンペを開いた。 その結果、全国の得
篠岡方長取締役物流本部副本部長
図1 拠点集約後の販促品、広告品の業務フロー
MC:マーチャンダイジング・クルー
営業マン(携帯端末入力)
事務統轄部
ヤマト運輸
『宅急便』
手配データ
発注
入荷
出荷データ
EDI
荷物
配送
配送
配送
配送
配送
出荷指示
データ
ベンダー
特約店
(卸)
小売店
飲食店
MC
その他
キリン広告品物流センター
出荷実績
データ
APRIL 2001 44
意先への配送を
ヤマト運輸に一
括で委託するこ
とを決めた。 ?
配送ネットワー
ク網が充実して
いる、?配達時
間帯指定サービ
スの利用が可能
である、?販促
品、広告品のう
ち、有償品につ
いては、代金回
収を委託できる
――などが選定
の理由だが、決
め手は提示され
た運賃の単価だった。
しかし、ヤマトはキリンに言われ
るがままに単価を下げたわけではな
かった。 キリン側の希望運賃を受け
入れる条件として、いくつか作業面
での協力を要請していた。 話し合い
のうえ、キリンもそれを承諾した格
好だ。
その条件の一つが、「客先仕分け」
だった。 一般的に、特別積み合わせ
(路線)業者は荷主企業の物流セン
ターから出荷された貨物を営業所や
ベース拠点に持ち帰った後、方面別
に仕分けして発
送する。 これに
対して、キリン
は物流センター
内でヤマトの社
員が方面別に荷
物を仕分けする
ことを認めた。
左ページ写真
1のように、ヤ
マトは幹線輸送
で使用する専用
のカゴ車をキリ
無線ハンディでピッキン
グラベルをスキャンし、
画面に表示されたロケー
ションに移動する
ロケーションラベルと商
品バーコードをスキャン
し、ピッキングする
ピッキングした商品を
「レジ」(通称)で検品
折り曲げ禁止のポス
ターは専用資材で梱
包する
梱包、結束された
商品はコンベアで
出荷スペースに
ヤマトの社員は荷受
け後、方面別にカゴ
車に仕分けをする↓
↓
↓
↓ ↓
?
?
?
?
?
?
専用のEDIラベル
広告品物流センターの作業フロー
ピッキング用ラベル
45 APRIL 2001
ンの物流センター内に持ち込み、そ
の場で方面別仕分けを行う。 それに
よって「宅急便」の作業工程を一段
階省略しようというわけだ。
そして、もう一つが物流EDIへ
の対応だった。 キリンは出荷データ
をすべてヤマト側に提供するという
契約を交わした。 これに伴い、ヤマ
トは専用のEDI伝票を用意。 一方、
キリンはこのフォーマットに従った
伝票発行を約束した。
双方であらかじめ決めたルールに
基づいてデータをやり取りするため、
ヤマト側は、再入力作業なしで、提
供されるデータをそのまま貨物追跡
システムなどに流用することが可能。
これによって事務作業面でのメリッ
トを享受できる。
ヤマトとの運賃交渉について、篠
岡取締役は「結局、仕分け作業とE
DIの部分で譲歩したことが、運賃
単価の値下げにつながったようだ。
配送料の具体的な金額は公表できな
いが、納得のいく水準に抑えること
ができて満足している。 ただ叩くだ
けの運賃交渉だけでは限界があった
はずだ」と振り返る。
グループ会社の取り込みを計画
こうした下準備を経て、ようやく
今年一月に、販促品、広告品の在庫
集約拠点「キリン広告品物流センタ
ー」(埼玉県北埼玉郡騎西町)は稼
働に漕ぎ着けた。 集約によって在庫
水準は金額にして、七億円から一億
円に圧縮できたという。 このほか、
拠点集約に伴う管理要員の人件費と
保管料の削減で五億円、アイテム数
の絞り込みによる購買費の削減で五
億円の合計一〇億円のコストダウン
を見込んでいる。
キリンでは入出庫、ピッキングな
ど庫内作業を子会社であるキリン物
流に委託するかたちで、同センター
を運営している。 「センターの一日
当たりの出荷個数は平均二五〇〇。
年間約七二万個が全国の得意先に
向けて出荷される」(キリン物流の
草間一美埼玉騎西営業所長)見通
しだ。
出荷までの作業フローはこうだ。
まず、センターは事務統轄部からの
出荷指示データを一二時三〇分まで
に受信。 ピッキングラベルを作成する。 作業員はピッキングラベルを無線
ハンディでスキャン。 無線ハンディ
に表示されたロケーションに移動後、
ロケーションラベルと商品バーコー
ドを無線ハンディでスキャンし、ア
イテムを確認する。 無線ハンディに
表示された数量をピッキングして、
「レジ」(通称)と呼ばれる端末を使
って検品。 同時に専用の宅配便伝票
(EDIラベル)を発行し、梱包、結
束、ラベル貼付を経て、ヤマト側に
渡す(右ページ図参照)。
立ち上げからまだ日が浅いという
こともあって、センター内でのオペ
レーションは一〇〇点満点の出来で
はない。 課題も少なくないという。
キャンペーン用の店頭ポスターなど
「POP単発品」を扱う物流センタ
ーとの統合や、ハイネケン、キリンビバレッジなどグループ企業の販促
品、広告品物流の取り込みなども控
えており、今回のプロジェクトはい
まだ道半ばといったところだろう。
それでも「恐らくビール業界で販
促品の物流にメスを入れたのは当社
が初めてだろう。 他社も追随してく
るはずだ」と篠岡取締役。 今回新た
に構築した販促品物流の仕組みをビ
ジネスモデル特許として申請するこ
とも検討しているという。
(刈屋大輔)
キリンビール← →ヤマト運輸
拠点数
保管規模
在庫金額
管理要員
アイテム数
配送手段
届け先
時間帯指定
検収
56カ所
4000坪
7億円
約40人
2900
製品混載+宅配便
卸が中心
不可
1カ所
1200坪
1億円
4人
1200
全て宅配便
小売店・飲食店等も可
可能
各拠点から納品書を
集めて検収
広告品センター
納品時点で一括検収
集約前 集約後
センター集約で在庫金額は7分の1に
キリン物流の草間一美埼玉騎西
営業所長
写真1 客先仕分け
※点線部から右はヤマト運輸の作業となる
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