ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年4号
ケース
ソニーロジスティックス── 情報システム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2001 50 昨年四月、ソニーはロジスティク ス部門の組織を一新した。
従来、同 社はロジスティクス戦略の立案とグ ローバル展開を本社内の企画部門で ある「ロジスティックスセンター」 に担当させ、物流子会社には現場の オペレーションだけを任せてきた。
これを改めロジスティックスセンタ ーと航空フォワーダーのソニーエア カーゴを、子会社のソニーロジステ ィックス(SLC)に統合した。
新たに親会社のロジスティクスの すべてを担うことになったSLCは、 業務範囲の拡大という恩恵を受ける と同時に、独立採算制という課題を 厳しく突きつけられている。
「他社 より安く良いサービスを提供できな ければ、我々が仕事をする意味はな い」と、SLCの水嶋康雅社長は社 内に発破をかけている。
そのツールとして水嶋社長が期待 を寄せているのが、インターネット を利用した物流管理システム「E ― Log 」だ。
物流業者の選別から、 貨物のトラッキング、商品や物流 費、保険代の決済までをすべてネッ ト上で処理できる。
新生・SLC の最大の売り物になるとして、既に ビジネスモデル特許の出願も済ませ た。
ネット対応でシステムを刷新 ソニーが一年間に運用している国 際物流の貨物量は、海上貨物が一〇 万六〇〇〇トン(四〇フィート海上 コンテナ換算)、航空貨物が九万ト ンにもおよぶ(いずれも二〇〇〇年 三月期実績)。
これらのオペレーションにともな う膨大な書類手続きを簡素化するた め、同社は約六年前、船会社や航空 貨物フォワーダーとソニーを結ぶ 「キャリアEDI」を構築した。
ひ とたび発地や輸送手段などの物流情 報を入力すれば、それが出荷命令と して工場に送られ、さらには着地で の事前通関や陸上輸送の手配まで連 動する。
当時としては先進的なロジ スティクス情報システムだった。
しかし、インターネットの爆発的 な普及は、ソニーが営々と築き上げ てきた物流管理システムを一気に陳 腐化してしまった。
いかに仕組みと 物流業者を実績データで格付けし ネット時代の物流子会社モデルを模索 ソニーロジスティックスがインターネットを活用した物流管理 システム「E−Log」を本格稼働させた。
2001年9月をメドに、年 間およそ5兆円に上るグループ会社の資材・製品の物流管理を同シ ステム上に移行していく。
このE−Logをベースに物流子会社の 新たなビジネスモデルの確立を狙う。
ソニーロジスティックス ── 情報システム ソニーロジスティックスの水 嶋康雅社長  との接続作業をスタート。
二〇〇〇 年五月にキャリアEDIの仕組みを 稼働し、同年七月には貨物トラッキ ング、そして十一月に在庫管理の仕 組みを稼働した。
輸送実績で物流業者を格付け このE―Logの?心臓部〞とも呼ぶべき機能が「GSS(Global Shipping Strategy )」だ。
ソニーと 契約を交わしている約四〇のグロー バル・キャリア(船会社二〇社、航 空貨物関係二〇社)を、物流品質や 価格、スピードなど約三〇項目で評 価している。
いわば物流業者の格付 け機能である。
E ―Logには日常の輸送における 51 APRIL 2001 して優れていても、専用端末を使う キャリアEDIはネット時代には過 去の遺物でしかない。
インターネッ トを基準に、すべての業務を見直す 必要に迫られた。
九九年一〇月、当時、ソニーの執 行役員とSLC社長を兼務していた 水嶋氏は、二人の社員を呼んでこう 命じた。
「ロジスティックスセンター の価値を高めるために、すべての物 流管理機能をネット上に移行する。
三カ月間で新しいシステムを開発し てくれ」。
インターネット物流管理 システム「E ―Log」のコンセプト が動き出した瞬間だった。
このとき呼ばれた社員の一人で現 在、SLCの社内分社組織、ソニー グローバルロジスティックスでE ―L og部の統括部長を務める弓田圭一 氏は、システムの基本理念を次のよ うに説明する。
「インターネットによって荷物の 送り手と受け手は直接、情報をやり とりするようになる。
このことは中 間機能が多い日本の物流の問題点を 顕在化させ、ITによる物流の高度 化を促す。
SLCがロジスティク ス・サービス・プロバイダーとして ソリューションを提供していくため にも、まずは情報を上手く管理でき る仕組みが必要だった」 当初、開発期間は三カ月と命じら れたE ―Logだが、実際に外部に公 表できる状態になるまでには約一年 半かかった。
九九年一〇月の開発着 手から三カ月でプロトタイプを完成 すると、次は外部の荷主や物流業者 荷物の破損事故などの情報を、即座 に画像データともに公開し、次善の 策を打つという機能がある。
こうし た各社の輸送実績をデータベースに 蓄積して、GSSは半年置きに物流 業者の格付けを行っている。
基本的 には「ライバル業者との比較」(弓 田統括部長)で評価を決める。
この機能を使うことによって、最 適な物流手段の自動選択も可能にな った。
輸送業務の発地と着地、さら にスピードやコストなど重視したい 条件を入力すると、E ―Logが瞬時 に最適な物流業者とルートを選択す る。
最終的な判断を下すのは人間だ が、これに連動して輸出入のための 書類作成や保険手続き、決済なども 処理できる。
また、在庫管理機能を使えば、世 界各地に分散している製品在庫情報 を一元管理できる。
従来、工場から 販社倉庫への製品配送情報はあやふ やになりがちだった。
しかし、「工 場からディーラー(量販店等)への 直送が増えている現状では、工場自 身が厳密な在庫管理機能を持つ必要 がある。
E ―Logを使えばそれが簡 単にできる」と弓田統括部長。
工場の在庫管理が容易になるだけ でなく、ディーラーがインターネッ 2000年4月、ソニーはグループのロジスティクス組織をSLCに統合した ≪従  来≫ ≪2000年4月以後≫ 本 社 企画機能 ロジスティックスセンター 物流子会社 オペレーション機能 ソニーロジスティックス(株) 航空貨物代理業務 ソニーエアーカーゴ(株) 社内分社組織 本社機能 ソニーグローバルロジスティックス(SGL) オペレーション機能 ソニーロジスティクスジャパン(SLJ) サポート機能 サポート&プロモーションサービス(SPS) ソニーロジスティックス(株) 物流子会社 荷物の破損状況を画像で確認できる APRIL 2001 52 トを使って自ら在庫情報を確認する ことも機能的には可能だ。
現状では ディーラーに対して、アクセスのた めのIDを交付していないが、すで に問い合わせは少なくないという。
貨物追跡の利便性も高めた。
従来、 貨物追跡のためには、輸送に携わっ ている各キャリアのホームページを すべて閲覧する必要があった。
しか し、E ―Logを使えば同じ画面から 四〇社の貨物追跡情報にクリック一 つでアクセスできる。
荷主にとって はキャリア四〇社の情報を一カ所で、 しかも詳しく得られるというメリッ トがある。
現在、E ―Logは、年間一兆円程 度にのぼる製品・資材の物流管理を 担っている。
今年九月をメドに五兆 円程度まで引き上げる計画だ。
これ はソニーグループの連結売上高の約 八割に相当し、物流をともなう売り 上げとしてはほぼ全てにあたる。
そ して次の段階では、ソニーに製品を 納入しているベンダーへとE ―Log の対象企業を拡げていく方針だ。
またGSSの対象範囲も国際物流 業者だけでなく、「国内の陸運業者 にまで拡げる可能性がある。
すでに 一部では入札も始めている」(弓田 統括部長)という。
そうなれば、E ―Logは国内からグローバルまでを 広く網羅する物流情報プラットフォ ームになる。
物流子会社の新たなモデル 一連のシステムは、ソニーの財 務・会計システムとも連携している ため、商品単位のグローバルな物流 コストを把握することも容易だ。
こ うした機能を使って、親会社の売上 高物流費比率を下げることがSLC の最大の使命である。
実際、物流子 会社として独立採算を求められなが らも、SLCにはインハウス・ロジ スティクス(荷主企業内の物流部 門)としての意識が強い。
「外部の物流業者にすべてを任せ れば、カギになる情報まで握られて しまう。
値上げを要請されても荷主 は逃げることができなくなる。
そも そも物流業者には自分の身を削る物 流改革はできない。
荷主の持つ情報 価値を本当に高めることができるの はインハウス・ロジスティクスだけ だ」と弓田統括部長はいう。
しかし、親会社の物流効率化が進 めば子会社の売り上げは減少する。
SLCの二〇〇一年度の計画でも国 内営業部門の売上高は減る見込みだ。
水嶋社長も「何もしなければ今後、当社の売上高はどんどん減ることに なるだろう」という。
当面はソニー グループから受託される業務範囲を 拡大していくことで、それを吸収し ていく。
そして将来的には、グループ会社 の業務を担ってきたノウハウを、外 部荷主の獲得に活用できるはずだ。
ソニーの物流管理ノウハウが凝縮さ れているE ―Logが、その最大の武 器になる。
SLCが「E ―Logは分 社化の大きな核」と位置付けている 理由がここにある。
「いずれは松下物流や東芝物流も (E ―Log と)同じことを考えるは ず。
しかし、システムの多重投資は 避けるべき。
できればエレクトロニ クス業界で一緒にやっていきたい」 と弓田統括部長はいう。
同社がE ― Logの仕組み全体を対象にビジネ スモデル特許を申請した背景には、 簡単にライバル企業に真似されない ための?参入障壁〞という明確な狙 いがある。
SLCのもくろみ通り、エレクト ロニクス業界のライバル同士が揃っ て参加すれば、E ―Logはロジステ ィクスの巨大なe ―マーケット・プ レイスになる。
それは同時に、SL Cが物流子会社の新たなビジネスモ デルを手にすることを意味している。
(岡山宏之) 決済書類 出荷指示 売上通知 輸送費精算 貨物発送 保険会社 保険申入 保険求償 貨物追跡 着荷通知 貨物破損申告 輸送費精算 輸送・通関・混載業者(約40社) 船積予約 通関指示 書類作成指示 輸送指示 輸送スケジュール 船積確定 船荷証券 貨物追跡 輸送費請求 E-Log ソニーグローバルロジスティクス(SGL) ・物流業者の格付け評価 ・最適ルート選択 ・決済 ・グローバルな在庫の一元管理 ・輸出入のための書類手続き ・貨物追跡 インターネット・イントラネット決済機関 着 荷 主 発 荷 主 E−Log部の弓田圭一統括部長 「E−Log」の概念図

購読案内広告案内