*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
APRIL 2001 76
流通外資・日本上陸の勝算
カルフール、コストコなど、大手流通外資
の日本市場参入が続く一方で、早々と撤退す
る外資系小売業も現れている。 わが国の消費
者のニーズや消費傾向に適応できなかったこ
とが、撤退の大きな理由の一つとして挙げら
れている。
流通業にかかわらず、一般に外資系企業の
場合、業務手順等の運営方法の変更は本国
(または本部)の決済がなければ行えない。 例
えば、米国のチェーン店においては、店舗に
は商品の価格決定権がない場合が多い。 競合
店舗との価格競争において劣位であっても、
その旨を本部に伝え、価格修正の許可を得て
からでないと価格を変更できない。
そのため、わが国のスーパーで当たり前の
ように行われている一日限りの特売や、生鮮
品の夕方からの値引き販売は米国のスーパー
では採用されない。 流通外資がわが国の消費
者ニーズや消費者傾向に適応できないのは、
外資系ならではの経営環境から生じていると
もいえる。
もちろん、流通外資のなかにも現地法人の
最高責任者に現地における運営方法の権限委
譲を行っている企業も存在している。 このよ
うな流通業は、わが国に進出した後、本国の
運営方法を遵守しながらも店舗立地や品揃え
の変更を頻繁に繰り返し環境に適応しようと
している。 さらには、一部の外資系アパレル
小売業においては、本国とは異なる商品ライ
ンでわが国に展開している場合もある。
同じ流通外資といっても一括して捉えるこ
とはできないのである。 注視すべきは、それ
ぞれの流通外資が何を優位と考えて、わが国
の小売市場に参入しようとしているかという
ことである。 以下に、筆者なりに考えた項目
をいくつか並べてみる。
?
資本
?(店舗の)ブランド知名度
?
品揃え
?ストアオペレーション
まず、「?
資本」につい
ては、当然の
ことながら資金的な余裕が
なければ海外
に進出するこ
となど考えな
い。 バブル経
済期において
は、わが国の
大手小売業も
海外進出を積
極的に行った
ことからも理
解できよう。 したがって、総資本よりも、わ
が国に進出するためにどの程度、資本投入を
行うかが実質的な意味を持つことになる。 本
国の経営状況が少し悪くなると、すぐに撤退
するのであれば、わが国の消費者に適合する
ことなどできない。
松原寿一
中央学院大学 講師
流通外資は日本に定着するか
流通外資の持つ資本力や店舗のブランド、品揃えは副次的なものに過ぎない。
外資が日本市場に与える本当の脅威は店舗オペレーションにある。 国内流通業
者の場当たり的な安売りとは対照的な、管理の徹底した外資のチェーン・オペ
レーションが今後、日本市場にも根付くのか。 そこを見極める必要がある。
第1回
流通戦略の新常識
大手流通外資の日本市場参入が
相次いでいるが‥‥
77 APRIL 2001
次に、「?(店舗の)ブランド知名度」で
あるが、商品自体のブランドがわが国におい
て有名でなければ、経営資源とはなりにくい。
ただし、一定数の店舗展開を行ってしまえば、
玩具小売りのトイザらスのようにわが国にお
いても有名店となることができる。
「?品揃え」については、わが国においての
み商品を調達しようとするのであれば、日本
市場の他の流通業者と差異化することは難し
くなる。 やはり、プライベートブランドや海
外製品を積極的に取り扱うことが予想される。
ただし、わが国の場合、いわゆる日用品に
おいてもブランド志向の強いことが顕著であ
る。 ある文具品外資系小売業の経営者による
と、日本人は日常使う文房具においてさえ、
ブランドにこだわるという。 つまり、値段が
安いだけでは名前の知らない海外ブランド商
品を積極的に使いたがらない。
ちなみに、先の外資系アパレル小売業にお
いては、本国米国では一〇代から二〇代前半
の若者層を中心顧客としたラフスタイルの商
品の品揃えをしていたが、わが国においては
二〇〜三〇代を中心顧客層としたカジュアル
スタイルの商品の品揃えを行っている。 さら
に商品価格帯も、為替レートを加味しても、
ややわが国におけるほうが高い。 いわゆる、
高級ブランドの売り方である。
いずれにせよ、「?品揃え」に優位性を見
いだそうとする流通外資は、何らかの形でプ
ライベートブランドもしくは日本における販
売権を自社だけが有する商品の比重を高める
ことが予想できる。
そして、「?ストアオペレーション」こそが、
実は、わが国の流通業にとって最大の脅威と
なることが考えられる。 冒頭部で米国のチェ
ーン小売業では店舗における価格決定権がな
いことを記したが、その理由のひとつは利益
管理が徹底しているためである。
国内流通業のウイークポイント
一般に米国の大手企業は株式によって資金
を調達している。 売り上げだけを確保し、収
益を上げない企業は株主から見放されてしま
うため、結果としてコスト管理を徹底し、低
コストでストアオペレーションが行えた企業
が生き残っている。 そうしたチェーン小売業
は、直裁的にコストに影響する即時的な値引
きをオペレーション上好ましいことでないと
して採用しない。
また、コストを下げるための場当たり的な
人員削減も行えない。 サービスの低下による
消費者離れや、労働力の流動性が相対的に高
い米国においては、質の良い労働者ほど、よ
りよい職場に転職してしまい、残るのは質の
悪い労働者だけになることなどが理由として
考えられる。
このことは、七〇年代や八〇年代に当該手
段を採用した流通業が、現在の小売売上ラン
ク上位にない、または生き残っていない状況
からも明らかである。 そして、生き残った企
業は相対的に少ない労働力でも運営できる店
舗オペレーションのシステム構築に積極的に
取り組んでいったのである。
このようなオペレーションの概念が、わが
国においても適応できるのか。 それこそが、
実は注目すべき点なのである。 この概念に比
べれば、その他の資本力や店舗のブランド、
品揃えは副次的なものに過ぎないといえる。
翻って、流通外資を迎え撃つわが国の大手
小売業の状況をみると、バブル経済期の負債
が重く圧し掛かり、資本力が乏しいどころか
経営維持がやっとといえる企業が少なくない。
店舗ブランドや国内消費者に対応した品揃え
は、本来であれば外資に対して優位にたって
いるはずであるが、大手小売業の経営危機が
叫ばれる中、町中の主婦でさえ地元大手スー
パーの撤退や企業そのものの倒産を噂してい
ることから、店舗のブランドも必ずしも優位
とはいえない。
また、品揃えにしても、百貨店や総合スー
パーのように総合的な品揃えがこれまでのよ
うに必ずしも消費者の支持を得ているとはい
えない状況にある。
さらには、ストアオペレーションにいたっ
ては、わが国大手小売業の大半が長期不況に
よる売り上げ不振を理由に、収益を軽視した
売り上げ確保に奔走しているのが実情である。
小売業に特売、セールはつきものであるが、
その内容には疑問がある。
こんな状況で本当に流通外資に立ち向かえ
るのであろうか。 本国での経営不振でも祈り
ながら、自主的な撤退を望む以外方法はない
のであろうか。 そこで次回は、わが国小売業
の安売りの実態を探ることとし、流通外資と
のストアオペレーションの思想の違いをみて
いくこととする。
|