ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年4号
特集
日本の3PL市場 物流市場二〇〇三年のシナリオ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2001 22 利益の稼げる?おいしい商売〞だった。
「運送業者を買いたいという資本家は いくらでもいたが、売り手はなかなか 見つからない。
参入規制の厳しい利権 業種独特の特徴を持っていた」(都銀 調査部)。
それが今日、売り手は多い が買い手のつかない構造不況業種に様 変わりしている。
日本のトラック運送業の規制緩和か ら一〇年以上が経過した。
九〇年十二 月に「貨物自動車運送事業法」と「貨 物運送取扱事業法」のいわゆる「物流 二法」が施行された。
これによって新 規参入を運輸省がコントロールするそ れまでの需給規制は解かれ、一律だっ た認可運賃も自由化した。
事実上、ト ラック運送業者の競争規制が撤廃され たわけだ。
この法律が施行された当初、「物流 二法による規制緩和は市場の実態を追 認しただけ」という評価が業界関係者 たちの一致した見方だった。
実際、物 流二法以前の「道路運送法」の時代に も、市場では認可運賃を無視した価格 競争が公然と行われていた。
禁止され ていた一般運送業者による積み合わせ 輸送も横行していた。
そうした違法行 為を正式に認めたからといって、市場 の実態に大きな影響が出るとは考えに くかった。
しかし今日、当時の?読み〞は全く 甘かったことが明白になっている。
実 勢運賃水準は九一年から九二年をピー クに、現在に至るまでほぼ一貫して下 がり続けている。
トラック運送事業者 数は約四万社から五万四〇〇〇社へ、 一〇年間で三割以上増加した。
事業者 の収益性は低下し続け、全日本トラッ ク協会の調査によると全体の三分の一 以上の業者が現在、赤字経営を強いら れているという。
規制緩和は確実に日 本の物流市場に変化をもたらした。
崩壊した産業ピラミッド 規制に守られていた時代のトラック 運送業は一般に不況に強く、安定して 物流市場二〇〇三年のシナリオ 特別積み合わせ運送業者大手五〇社のうち半数以上が 倒産。
事業者数は減少し、上位三社のシェアが急速に増 加する寡占化が進行。
同時に持ち株会社制度を活用した グループ化が広がる――。
米国のトラック運送市場で規 制緩和後の一〇年間に起きた業界再編劇だ。
同じことが 日本の物流業界にも起こると本誌は予測する。
第2部 運輸省 特積み運送業 (約276社) 一般運送業 (約5万4000社) 軽貨物運送業(約10万社) ●運輸省を頂点とするトラック業界の “産業ピラミッド”はもはや崩壊した 23 APRIL 2001 的には年商一〇〇〇億円ぐらいの規模 には届くだろう」と鎌田社長。
これま で典型的な下請け仕事と目されてきた 軽運送による集配業者が、今や完全に 産業のイニシアチブを握っている。
同社とは対照的に、かつての「特権 階級」だった特積み業者の数は今後、 急速に減少していくことが予想される。
規制緩和で市場全体の新規参入は急増 しているが、特積み業者の数だけは一 貫して減り続けている。
昭和三〇年代 には五〇〇社以上が認可を受けていた が、現在その数は二七六社まで減少し ている。
昨年も特積み業者の不採算路 線からの撤退が相次いだ。
もともと路 線事業は、規模がモノを言うインフラ ビジネスだ。
自由競争になれば自然と 淘汰が進む。
日本より一〇年早く、八〇年に物 流業の規制緩和が行われた米国では、 その後の一〇年間で物流市場の構造と 勢力図が一変した。
とくに日本の特積 みに当たる小口貨物の混載輸送業者 同時に監督官庁である運輸省(現・ 国土交通省)を頂点として、特別積み 合わせ業者、一般運送業者、そして赤 帽などの?一人親方〞を含めた軽貨物 運送業者が階層をなす、トラック運送 業の「産業ピラミッド」も完全に崩壊 した。
かつては収益源であり業界の花 形だった長距離幹線輸送は、今や採算 の足を引っ張るコストセンターと化し ている。
戦後のトラック運送事業をリードし てきたのは西濃運輸、福山通運、日本 運送(現・フットワークエクスプレス) などの旧・路線便業者たちだった。
鉄 道貨物輸送の向こうを張って、トラッ クによる定期幹線輸送に乗り出した彼 らは、主要都市に次々に拠点を配置し、 トラック輸送のネットワーク展開と労 働装備率の向上による産業の近代化を 押し進めた。
物量が右肩上がりに増加していた高 度経済成長時代の物流市場は完全な売 り手市場だった。
民間業者によるド ア・ツー・ドアのスピーディな輸送サ ービスは、?お上〞意識の抜けない当 時の国鉄から次々に荷物を奪っていっ た。
幹線輸送のために購入したターミ ナル用地は地価の高騰で莫大な含み益 を生み、行政も許認可権によって彼ら の成長を支援した。
しかし、この時代の成功体験が今日、 老舗路線業者にとって経営転換を踏み 止まらせる足かせとなっている。
急成 長を続ける物流ベンチャー、エスビー エスの鎌田正彦社長は「日本の物流業 者の多くは、資産を持ち、その上にあ ぐらをかいてきた。
総資産に甘んじた 経営をしてきたように僕には思える」 という。
鎌田社長の起業は物流二法前の八七 年。
軽運送業者として関東即配を設立 した。
?軽トラ〞に目を付けたのは、軽 運送事業が規制の枠外に置かれていたから。
当時、トラック運送業を始めよ うとすれば事実上、買収するしかなく、 資金のないベンチャーの参入などあり 得なかった。
ところが軽トラなら届け 出だけですぐに事業を開始できる。
開 業資金もほとんど必要なかった。
宅配便の料金で貸し切り便並みのサ ービスを提供する――。
それが関東即 配の戦略だった。
軽トラックによる積 み合わせ輸送という規制のスキを付い たビジネスだ。
売り上げは順調に伸び た。
その後、エリア内の幹線輸送を行 うために一般運送業者を買収。
長距離 輸送には特積み業者を下請けとして利 用している。
同社を含むエスビーエスグループの 昨年の年商は一五五億円。
経常利益は 四億八〇〇〇万円を計上した。
今年度 も大幅な事業拡大を見込んでいる。
「我々が大きな会社をM&Aしていく 事例が増えていくかもしれない。
将来 100 80 60 40 20 0 −20 −40 −60 −80 −100 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 −43 −62 −65 −58 −63 −55 −40 −34 −31−31−31 −34 −33−34 −27 −23−24 −24 −40 −50 −66 −61 −70 −81 −84 −85 −59 −54 −51 −36 −42 −35 100 80 60 40 20 0 −20 −40 −60 −80 −100 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 −31 −48 −52 −40 −49 −30 −23 −27 −26 −37 −30 −31−29 −25−24 −37 −43 −57 −69 −70−70 −78−71 −61 −51 −52 −53 −47 −39 −39 −40 −27 −27 宅配以外の特積貨物・運賃料金の水準 一般貨物・運賃料金の水準 「大幅に回復(+2)」 「やや回復(+1)」 「横ばい(0)」 「やや悪化(-1)」 「大幅に悪化(-2)」  以上の5段階評価 でトラック運送事業 者に四半期ごとに回 答を求め算出してい る。
エスビーエスの鎌田正彦社長 ●市場では歯止めのない運賃水準の下落が続く*全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感調査」より APRIL 2001 24 赤字を計上、通期でも赤字転落が危惧 されている。
一〇年続いたダンピング競争と土地 バブルの崩壊で、これまで老舗特積み 業者のよりどころとなってきた含み資 産も遂に底をついた。
このまま単独で も生き残ることが可能なのは大手三社 だけともいわれる。
中堅以下の特積み 業者は生き残りをかけた業界再編劇に 突入せざるを得ない。
既に昨年、第一貨物、トナミ運輸、 岡山県貨物運送、西武運輸の中堅特積 み四社は貨物追跡システムを共有する システム統合に乗り出した。
この四月 にも本格的にシステムが稼働する。
福 山通運と日立物流、西濃運輸と山九、 トナミ運輸と上組など、準大手クラス の提携も活発化している。
業界内には大手三社に続く四つ目の 柱として、持ち株会社制度を活用した これら中堅特積み業者のグループ化を 予測する声もある。
しかし、ハマキョウレックスの大須賀正孝社長は「一度 全てを白紙に戻すようなつもりでやら ないと、経営統合してもうまくいかな いだろう。
それが今の路線業者にでき るのかどうか。
そもそもリーダーに相 応しい人がいるだろうか。
むしろ私は 区域(一般運送業者)のほうが出てく ると思う。
小回りの利く区域が連合を 組めば威力を発揮する」と見る。
いずれにせよ日本の物流業界は、こ (LTL事業者)の数は一〇年で半分 以下まで減少した。
同時に上位集中が 著しく進み、大手三社による寡占が起 こった。
なぜ3PLは根付かないのか 新規参入が増加し、過当競争が横行。
運賃水準は長期にわたって下落し、業 界の労働組合の組織率は低下の一途を たどる。
米国物流市場の規制緩和後の 趨勢は、そのまま物流二法以降の日本 市場にもあてはまる。
ヤマト運輸、佐 川急便、日本通運の三社による寡占化 も米LTL市場とダブって映る。
ただ し、これまでは二つの点で日米の物流 市場には違いがあった。
大型倒産と3 PLの台頭だ。
米国では規制緩和後の一〇年間でL TL市場の大手五〇社のうち二七社が 市場からの退出を余儀なくされた。
こ れに対して日本の場合、九〇年時点の 上位五〇社と二〇〇〇年の五〇社を比 較しても、多少の順位の変動はあるも のの、そこに大きな顔ぶれの違いは見 られない。
さらに米国では老舗物流業者の凋落 と入れ替わる形で、新たなビジネスモ デルをひっさげた3PLが新興企業と して勢力を伸ばしていった。
日本でも 九〇年代の後半から3PLは注目され てきたが、いまだ市場に定着している とは言い難い。
先のエスビーエスをは じめとしたベンチャーもいくつか出て きてはいるが、その売り上げ規模はま だ一〇〇億円から二〇〇億円規模にと どまっているのが現状だ。
3PLが日本に普及しない理由の一 方は荷主側にもある。
日本IBMの松 野康雄理事はそれを「物流子会社を元 請けとして、下請け、孫請けと連なる 多重構造が3PL普及の足かせになっ ている。
日本のメーカーはそれを中抜 きすることを恐れている。
メーカー自 身がサードパーティーを利用できるビ ジネスモデルになっていない」と解説 する。
実際、日本ほど物流子会社が乱 立している物流市場は先進諸国のどこ にも見当たらない。
さらに荷主企業の物流コスト管理に も問題がある。
経済先進国の対GDP 物流コスト比率は、一般に一〇〜一 四%といわれる。
日本の場合も十一% 程度と目されている。
ところが企業の 対売上高物流コストの調査では、三〜 六%という結果が出てしまう。
現在の 日本企業の財務会計では基本的に支払 い物流費しか管理されていないからだ。
日本企業の物流コスト管理の実情に 詳しいイーエックスイーテクノロジー ズの津村謙一社長は「日本の企業は財 務会計には非常に強いが、管理会計は 全然ダメ。
とくに財務に出てこない物 流コストは全く把握できていない。
日 本の財務会計そのものが、ロジスティ クス・コストを洗い出すような仕組み になっていない」と指摘する。
中堅連合は誕生するか しかし、これまで3PLの普及を阻 んできたこれらの要因のすべてが現在、 条件から外されようとしている。
三重 定期、フットワークの経営破綻はこれ から始まる業界再編劇の幕開けに過ぎ ない。
日本通運はこの三月期の決算で六期 連続の減益になった模様だ。
当期利益 は二九〇億円の赤字が見込まれている。
西濃運輸も昨年九月の中間決算で経常 ハマキョウレックスの大須賀正孝 社長 日本IBMの松野康雄理事 25 APRIL 2001 の 経 営 陣 に よ る 買 収 は 「 M B O ( Management Buy-Out )」と呼ばれ、 とくに英国で広く用いられている買収 方法だ。
敵対的買収とは異なり、事業 や人材をそのまま引き継げる。
バンテ ックの場合も人員削減をしないで済ん だ。
同社を日本初の大型MBOに走ら せたのは、このままでは雇用を守れな いという経営者の危機感だった。
現在、市場では大手メーカーの物流 子会社や電鉄系物流子会社の売却話が いくつも持ち上がっている。
普通に売 却されてしまえば、大量の首切りが避 けられない。
物流子会社のスタッフの 大部分は親会社からの出向・転籍者で、 従来は親会社もリストラに二の足を踏 んできた。
しかし、安い下請けを使っ てマージンを抜くだけの物流子会社を 抱えていられる余裕は、今や親会社に なくなっている。
こうして物流業者も荷主企業も、待 ったなしの変革を迫られている。
規制 緩和から一〇年を経て、日本の物流市 場にようやく3PLの土壌が整いつつ ある。
今後、数年のうちに大手物流業 者の顔ぶれは一変し、強い3PL業者 が日本に登場する。
仮にそれが既存の 物流業界から現れなかったとしても、 全く違った分野から3PLのニーズを 満たすプロバイダーが名乗りを上げる だろう。
世界の物流市場の変遷を見れ ばそれは明らかだ。
れまで先延ばしにしてきた構造改革と 業界再編に手を付けざるを得ない状況 に追い込まれている。
一般には景気の 転換期に企業倒産は最も増加するとい われる。
業界の勢力地図を大きく塗り 替える市場再編は、今年から来年にか けて起こる可能性が高い。
こうした構 造改革は、日本に本格的な3PL時代 をもたらすための貴重な肥やしとなる。
物流子会社社長によるMBO 荷主企業側にも変革の波は押し寄せ ている。
日産自動車の物流子会社、バ ンテックは今年一月、親会社との資本 関係を完全に断つと発表した。
バンテ ックの奥野信亮社長と欧州最大のベン チャーキャピタル・英3i社が共同で、 日産の保有するバンテックの全株式を 買収する。
日産の系列を離れて同社は 今後、自動車部品の物流を対象にした 3PL業者への転身を図るという。
「日本に3PLが根付いていないと すれば、メーカーが物流費にメスを入 れていないから。
本気で取り組んだら 物流子会社には任せられないはず。
こ れまで日本の物流業者は規制にも、親 会社にも保護されてきた。
しかし、も はや親子だの系列だのいっていられな い時代になった。
そうしない企業は結 局、負ける。
物流会社だって変わら ざるを得ない」と奥野社長はいう。
事業部門の執行責任者や物流子会社 ――なぜ、親会社との資本関係を絶 ったのですか。
「自動車部品の物流に関しては、バ ンテックの能力は日本でも有数だと 私は思っています。
しかし日産の子 会社でいる限り、日産以外の自動車 会社の物流を手掛けることはできな い。
逆に日産の看板をはずせば、仕 事をくれる人はいる。
今後、当社が 成長していくためには、日産との資 本関係を断ち切るしかありませんで した」 ――MBOを考え始めたのはいつで したか。
「九九年の秋です。
九九年一〇月に カルロス・ゴーンが日産のリバイバ ルプランを発表しましたが、この話 が出てきたとき、すぐに『これでバン テックの売り上げは減る。
そして当 社の強味は自動車物流しかない。
こ れを伸ばすためには日産の看板はい らない』と考えたんです。
途中、M& Aも考えましたが、外資が入ると人 が切られる。
直感的にそれは止めま した。
結局、雇用を守るためには、M BOしかなかった」 ――日産は今回のMBOに反対しな かったのですか。
「『どうぞ、やりなさい』と言われま した」 ――日本の物流子会社は今後、どう なると思いますか。
「現状のままだと物流子会社はその うち立ち行かなくなる。
物流で暴利 をむさぼりながら、いつまでも親のス ネをかじっているわけにはいかない。
みな経営者の努力が足りません」 ――物流子会社は親会社の余剰人 員の受け皿的な色が強い。
親会社 もそう簡単に手をつけられないでし ょう。
「外資に乗っ取られた会社から変わ っていくのではないでしょうか。
彼ら には、終身雇用や長い付き合いなど といった日本的な企業文化は関係あ りません。
日産など、その最たるも のです。
親子も系列も無関係です。
日 産以外の会社も、やがてそうなるは ずです。
そうじゃない企業は結局、負 けますよ」 バンテック奥野信亮 社長 「もはや系列や親子関係には頼れない」

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