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注することが、当社にとっての成果配
分になるわけです」
――削減目標の設定というのは初年度
は容易でも、継続して提案し続けるの
は困難です。
「だからこそターゲット自体を、伸び
る業種に設定することが重要になって
くるのです。 価格破壊が横行する現状
では、お客様の商品の売価自体がどん
どん下落しています。 そうした状況下
で、当社の物流コストだけは従来通り
と言い続けるのは難しい。 場合によっ
ては値下げせざるを得ないケースも出
てきます。 ただ、こうした案件でも第二次、第三次の提案を出していくこと
によって、もう一段の効率化を実現し
ていくことは可能ですがね」
――九〇年の規制緩和から一〇年以上
が経過しました。 その間に物流マーケ
ットは大きく変わりましたね。
「荷主の間で、物流をアウトソーシン
グしようという意識、つまり自分たち
はコア事業に特化したいという意識が
高まっています。 彼らが物流を外部に
本格的3PL業者がいないといわれ
る日本市場にあって、総勢二四〇人の
提案部隊を抱える日立物流は最も?ら
しい〞物流業者だ。 現在、同社の3P
L事業の顧客数は七〇社を数える。 今
年三月期決算では、ついに3PL事業
収入が親会社・日立製作所向けの売上
げと逆転した模様だ。 一〇年以上をか
けて培った失敗の蓄積が今日の事業展
開を支えている。
3PL収入がグループ向けと逆転
――現在の売り上げに占める3PL事
業の割合は。
「二〇〇〇年度上期の実績ですと、売
り上げ比率は一般顧客が五四%、日立
グループが四六%となっています。 こ
の一般顧客のうち、3PLに相当する
システム物流事業の割合は二九・四%。
一方、日立製作所の仕事は総収入の二
九%ですから、3PL事業の収入の方
が親会社からの収入を上回ったわけで
す。 これは当社にとって一つのエポッ
クなのですが、実はすでに九九年度の
段階で外販比率自体は五〇%を超えて
いました」
――3PL事業のターゲットとしてい
る業界はあるのでしょうか。
「流通、情報通信、医療福祉といっ
た分野を当面のターゲットに設定して
います。 今後、伸びそうな分野に経営
資源を集中させていく方針です」
――3PLが軌道に乗るまでに失敗も
多かったのではないしょうか。
「もちろん失敗もありました。 現在、
約七〇社のお客様と3PL分野でお付
き合いしていますが、かつて経験の浅
い時期にはいろいろ痛い目にあいまし
た。 物流システムの構築は完了したも
のの、お客様の事情で稼働できない。
また、別のケースでは期間内の物量や作業量の変動を読み切れず、現場が混
乱してしまった。 3PL事業の現場作
業の大半はパート社員やアルバイトで
まかなっていますが、ピークに合わせ
て人員を配置してしまったため採算ベ
ースに載らないこともあった。 事前に
時間を掛けて、綿密にデータ分析を行
うことの大切さを痛感しました」
――契約のノウハウというのも大きい
のではないでしょうか。
「これも難しい。 それこそ失敗に学ん
で、次回からはそうしたケースも想定
して契約に盛り込んでおこうという話
が少なくありませんね」
――成果配分の考え方も3PL事業に
は欠かせません。
「それは目標設定の段階で決まる話
ではないでしょうか。 例えば、ある荷
主の年間物流費があるとしたら、提案
の段階で当社がその金額をどれだけ削
減できるかを掲げる。 そこで仕事を受
「伸びる業種に経営資源を集中する」
第3部
3PL先駆者が学んだ教訓
日立物流 福士英二 社長
27 APRIL 2001
積極的に外注を進めるようになってい
る。 基本的に当社はオペレーション部
分の受注を目指しているのですが、最
近では物流コンサルティングだけをや
って欲しいという顧客も増えています。
きちんとコンサルのための予算を用意
するからと言ってね」
「当社は3PL案件が発生すると、必
ず営業マンと情報システム部員の両方
を投入します。 最近の3PL事業はす
べてコンペが伴うのですが、それ以前
の打ち合わせや提案の段階であっても、
必ず情報システムの専門家を営業に同
行させる。 多くの企業にとって情報シ
ステム部門というのは、いまだに後方
支援部隊というイメージが強い。 そも
そも彼らは会社の事務作業をOA化す
るといった業務を担ってきましたから。
でも今はそれではダメです。 どんどん
前線に出ていく必要があります」
――社内に蓄積してきたマニュアルや
資料というのは、社員であれば誰でも
閲覧できるのですか。
「そうです。 お客様ごとにカスタマイ
ズする部分は異なりますので、こうし
た資料がどんどん蓄積されることにな
ります。 似たような業界の案件が発生
した場合は、過去に構築してきたシス
テムにデータを流しこめばシミュレー
ションを実施することも可能です。 こ
れが当社の積み上げてきた実績の成果
であり、強味でもあります」
出したいという判断は、当社にとって
はビジネスチャンスでもある。 だから
こそ、外部販売比率を高める武器とし
て3PL事業に注力してきたんです」
――米国では八〇年代の規制緩和によ
って上位物流業者の顔ぶれが大きく入
れ替わりました。 一方の日本では大手
の倒産も出ないし、新興の3PLベン
チャーが大手を脅かしているわけでも
ない。 今後、どうなっていくとお考え
でしょうか(※このインタビューは二
〇〇一年一月に行ったものです)。
「確かに大手の倒産こそありませんが、
中小事業者はかなり潰れています。 特
に保有車両が一〇台以下の中小零細事
業者の倒産が増えているようです。 そ
の一方で潰れる企業以上に中小の新規
参入が増えている。 結果として業界全
体でダンピングの嵐が吹き荒れていま
す」
「私は物流業界は今後、二極分化し
ていくと考えています。 一方は顧客満
足につながる高度な物流サービスを提
供できる業者、つまり提案力をもった
業者です。 こうした物流業者は今後も
伸びていくはずです。 もう一方は、単
機能のサービスだけを提供する業者で
す。 その中心は中小事業者になってき
ますが、彼らは構造的に価格競争に巻
き込まれやすい。 入れ替わりは一層激
くなるのではないでしょうか」
――物流子会社が置かれている立場も
厳しいですね。 業界ごとに乱立してい
る物流子会社が、大同団結して業界プ
ラットフォームを作るといった動きに
は発展しませんか。
「いま多くの物流子会社が、当社の
辿ってきたのと同じような道を歩んで
います。 外販比率の向上を目指したり、
3PL的な業務に注力しようとしてい
る。 ただ物流子会社というのは、やは
り親会社の外部委託先であり、そのた
めに移ってきた人材も少なからず抱え
ています。 それぞれの事業者ごとに個
別の事情がある。 ですから、すでに実
現にしているような共同物流や共同保
管といった実務レベルでの連携は進む
でしょうが、それが企業の合併まで進
むとは考えにくい」
「独立系の物流会社でしたらそうい
う合従連衡も比較的、容易なんでしょ
う。 しかし、物流子会社にはあくまで
も資本系列のしっかりした親会社がい
ます。 一定の枠内での再編はあるでし
ょうが、資本系列を飛び越えるという
のは簡単なことではありません」
総勢二四〇人の提案部隊を育てる
――多くの物流子会社が日立物流と同
じように3PL的な外販戦略を打ち出
しながら、実際にはできていません。 ど
こが違うのでしょうか。
「当社は一五、六年かけてここまで
きました。 現在ではロジスティクス総
括本部という部署に二四〇人もの人材
を抱えています。 だからこそ3PL事
業を手掛けることができる。 そう簡単
に結果を出せる分野ではありません」
「これまで当社は3PL事業のベー
スになっている『トライネット事業』
を強化すると同時に、人材を育ててき
ました。 さらにトライネット以前を振
り返ると、当社には日立製作所の工場
で一貫元請けをしてきたという歴史が
ある。 保管から包装、配送、情報システムの構築までをすべて引き受けてき
ました。 ここで蓄積したノウハウから
トライネット事業も生まれてきたわけ
です。 つまり、かなり早い時期から当
社は、荷主の物流業務すべてを請け負
ってきたわけです。 この点は親会社に
感謝しています」
――最近の市場を見ていると、荷主側
の意識も変わりつつあるようです。
「私がとくに感じているのは、3PL
事業の一件当たりの受注金額が大きく
なっている点です。 以前は一社当たり
月額二〇〇〇万円ぐらいの取引であれ
ば大きな案件だと感じましたが、最近
では五〇〇〇万円とか一億円という単
位に変わってきています」
「対象企業も、従来はアパレルなど
の中堅企業が多かったのに対して、
徐々に流通や医薬品などの大手企業が
増えています。 従来、物流をアウトソ
ーシングせずに内製化してきた企業が、
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外資系企業が日本市場に上陸する際、
大手物流業者と並んで必ずパートナー
候補に名前のあがる中堅倉庫業者、富
士ロジテック。 社長の鈴木威雄氏は日
本市場における3PLのパイオニアで
あり、業界のオピニオンリーダーとし
ても名高い。 しかし、これまでの同社
の業績は周囲の期待ほど順調とはいえ
なかった。 主要荷主との決裂も経験し
た。 3PLの先駆者が歩んできたのは、
イバラの道だった。
主要荷主との契約解消をバネに
――物流二法による規制緩和の影響を
どう見ていますか。 日本ではトップ企業
の顔ぶれがほとんど変わりません。
「少なくとも役所の体質が変わった
とは思えません。 自由競争にしたと言
いながら、何も歓迎できる状況にはな
ってない。 今後も日本の市場が米国ほ
どドラスティックに変わるとは思いま
せん。 変化のスピードはそれほど速く
ない。 そのため大手業者の経営スピー
ドでも変化に対応できる。 結果として、
大手の顔ぶれはそれほど入れ替わらな
い」
――しかし、現在の大手物流業者の経
営は本当に苦しい。
「いま日本では物流コストが高止ま
りしたまま、料金だけが下がっていま
す。 物流業者が自社のコストも把握せ
ずに、顧客に叩かれるまま値段を下げ
ていけば潰れるのは当然です。 当社の
場合は、かなりラフなものですがAB
C分析(Activity Based Costing
)を
使ってコストを管理しています。 自分
たちのコストを掴んでいれば、営業マ
ンの態度も変わります。 どこまで値下
げできるかを知っているため、セール
ストークも違ってくる」
「実は当社は、ここ二年のあいだに売上高トップファイブに入る主要荷主
のうち二社との契約を解消したんです。
最大荷主と三番目ぐらいの荷主でした。
最大手の荷主についてはピーク時に月
商約一億五〇〇〇万円ぐらいの規模が
ありました。 ところが、この顧客のコ
スト分析してみたところ、一億五〇〇
〇万円の売り上げに対して、月に四〇
〇〇万円もの赤字が出ていた。 分析す
るまでそのことが分かりませんでした」
――最大の荷主との契約を解消すると
は思い切りましたね。
「どうしようもありませんでした。 先
方には赤字の内訳を説明して、『この
うち半分は我々の改善努力で何とかし
ます。 でも残り半分については作業量
に見合う料金をいただくか、作業を止
めるしかありません』と申し上げたん
です。 しかし、荷主側のトップは約束
が違うと言って取り合ってくれない。
『詐欺』とまで言われました」
「そこまで言われれば私にも面子があ
ります。 『わかりました。 当初の契約
通り三年間はやりましょう。 ただし、
三年後の契約更新はしません』と言っ
て、最初に契約した内容だけをビシッ
と三年間やり続けたんです。 このとき
最大荷主との契約を解消することによ
って社内が動揺したかというと、逆に
喜びましたよ。 そのスペースをもっと
高く売れるからってね。 実際、そのお
客様が離れていったことによって当社
の業績は急回復しました」
コスト管理の不備を痛感
――それだけ売上規模が大きいと穴を
埋めるのも容易ではないでしょう。
「現場は必死でしたね。 経理担当者
とも相談しながら走り回っていました。
幸い、さほど大きな期間のズレもなく、
新しいお客様を見つけてきてくれた。
当然、それまでの荷主より収益性が良
かったため、契約解消がダメージにな
ったという感覚はまったくありません。
ようやくクビキから解放されて、再ス
「優れた荷主が物流業者を成長させる」
第3部
3PL先駆者が学んだ教訓
富士ロジテック
鈴木威雄 社長
29 APRIL 2001
タートできると思いました」
――もう一方の契約解消については?
「契約を解消したもう一社の大手荷
主とは、長い付き合いだったんです。
しかし、その荷主の企業規模がだんだ
ん大きくなると、他社がちょっかいを
出してくるようになってきた。 そして
東京エリアに拠点を構えるために開催
されたコンペで、ある大手物流業者が
当社より三割くらい安い見積もりを出
してきたんです。 これに対してお客様
は『できれば気心の知れたお前のとこ
ろに任せたい。 だからコンペで一番安
かった業者と同じレベルまで値段を下
げてくれ』と言ってきた。 しかし、そ
の価格では赤字になるのが明らかだっ
たため、当社は受けられないとお断り
したんです」
「この話には後日談があって、この荷
主のラッシュ時に荷物があふれると、
うちから仕事を奪った大手物流業者か
ら仕事の依頼がくるようになったので
す。 そこで当社が『三割高くてもよけ
れば引き受けますよ』というと、その
物流業者は高い料金を支払ってくれる。
どういう原価計算をしているのか知り
ませんがね」
――3PLという言葉そのものは日本
でもかなり普及しました。 しかし実際
に3PLらしい企業はとなるとほとん
どいない。 なぜ、日本市場には3PL
が根付かないのでしょうか。
「本当の意味で3PLをできる企業
なんて日本にはまだありません。 だっ
てね、物流業者ほどひどくはありませ
んが、荷主も似たような状況ですから。
物流コストとは何かという問いに明確
に応えられる荷主は、日本にはほとん
どいない。 ですから、物流業者と荷主
のあいだに?共通言語〞がない」
――米国は違いますか。
「私は約二〇年前に米国に行って、物
流コストの話を聞いて回ったことがあ
ります。 そうすると割と小さな倉庫業
者でも、ちゃんと物流コストを算出し
ている。 一番把握しづらい人件費の部
分も、きちんと一時間当たりの作業原
価が入っていて、管理できるプログラ
ムを当時から持っていたんです。 荷主
にロジスティクス・コストについて尋
ねても、アウトソーシングしている倉
庫コストや輸送コストとともに、自社
で物流業務に携わっている人達の人件
費まで入った数字をきちんと出してき
ます」
外資系荷主企業に学ぶ
――そもそも、アウトソーシングする
前提がないと。
「私はないと思っています。 荷主と物
流業者のあいだで『物流コストとは何
か』という会話がきちんと成立して、
どうやってコストを削減するかという
話までできなければ3PLもSCMも
無理です」
――富士ロジテックは日本における3
PLのパイオニアとして業界に貢献し
ていると思います。 しかし、残念なが
ら業績自体は、その貢献度についてい
ってない。 経営の方向性は正しくても、
マーケットが変化していくスピードを
見極めるのが難しいということなので
しょうか。
「自分で手掛けていながら何ですが、
ある意味で日本の3PLは羊頭狗肉みたいなところがあります。 3PLと言
いながら、米国でやっているのとは全
く違うことをやっている。 私は3PL
には四つの段階があると考えています。
最初は何もない段階。 二番目は社内的
に一応、意思統一ができて動いている
段階。 三番目は部門最適ではなく全体
最適を目指している段階。 四番目はS
CMという理想的なかたちを追求する
段階です。 日本企業の大半はまだ最初
の段階にいます。 わずかに二番目もい
ますが、三、四番目となるとほとんど
いない。 それが私の認識です」
「日本で本当に3PLができるとし
たら、ソニーとかNECといったグロ
ーバルに展開しているごく一部の企業
だけでしょうね。 そういう進んだ会社
と付き合うことによって我々も成長で
きるんですが、当社の規模ではまだそ
こまではできない。 当社の場合はGA
Pと付き合ったことで非常に訓練され
ました。 最初から非常に面白い提案だ
ったし、先方の提案に対してこちらが
アイデアを出すと、きちんと話し合い
ができる。 当社が契約書にきちんとゲ
インシェアリングの条件まで入れたの
も、GAPが最初でした」
――契約書にゲインシェアリングの条
件まで盛り込むとは先進的ですね。
「当社にとっても画期的でした。 その
代わり数センチに及ぶ提案書と分厚い
契約書を作りましたよ。 トラブルが発
生した場合には、どこで裁判するかま
で規定した契約書です。 英語と日本語
のどちらの契約書を採用するかまで徹
底して議論しました。 これはGAPの
例ではありませんが、英語と日本語の
契約書を両方、原本として採用したこ
ともあります。 もちろん、きちんと弁
護士にも見せてね。 外資系企業との契
約手続きはきわめて厳密です」
――従来の倉庫業約款などは利用でき
ないのですか。
「そういうものから外れているからこ
そ、3PLなんです。 料金の組み立て
方から何から、まったく違います。 例
えば、取り扱い金額の何%かを物流費
としてもらう契約もあります。 当社が
今、大抵のことで驚かなくなったのは、
そうした経験を積んできたからです。
売り上げに目がくらんで滅茶苦茶な客
と付き合ったせいで、大やけどもしま
したけどね(笑)」
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