ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
新常識
良い特売・悪い特売

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2001 92 一時期、流通業界で話題になった言葉に 「EDLP(=Every Day Low Price )」が ある。
わが国においては「年中特売」という 意味合いで使っていた大手チェーン小売業も いたが、本来は異なる意味をもっている。
この言葉を用いはじめた米国においてED LPは、特売を廃し、定番価格自体を下げる よう業務改善を行う経営戦略を意味している。
これに対し、特売と定番を交互に行う価格戦 略を「ハイ&ロー」という。
もっとも、現在 では、EDLPの価格戦略を行っている小売 業においても、一部特売を行ういわば「ハイ ブリッド型」が米国では多くなっている。
ま ったく特売を行わないと、販売促進効果が下 がるためだ。
一般に、EDLPを採用すると、企業全体 のコストがそのまま商品価格に反映されるこ とになる。
高コスト体質の小売業が無理に商 品価格を引き下げれば当然、収益は圧迫され る。
そのため過去には、コストを削減するた めに安易に人件費を引き下げる企業もあった。
しかし、それは結果として店舗でのサービス 低下を招いただけだった。
小売業にとってEDLPは、あくまでも一 定の顧客サービスの水準を維持しながらも低 価格販売を行うための技術であり、企業全体 の業務を見直さなければ実現できないものな のである。
許されざる価格 わが国においてはこれまで、小売業の店頭 価格は仕入れ価格に左右されることが多かっ た。
いかに安く仕入れられるかによって店頭 価格が決定したといえるであろう。
小売業と しては大量仕入れを背景にした仕入れ先との 価格交渉が、店頭価格決定の大きな要素を占 めていた。
このことは本質的には現在も変わっていな い。
ただし、長引く不況の中、大手小売業の 販売不振が続く現状にあって、単に価格を下 げて販売することが必ずしも有効でないとこ とも、また事実である。
前回の拙稿にも記したが、米国小売業にお いては、店頭価格は本部決済事項であり、売 り場責任者が随意に変更できる体制をとるこ とは珍しい。
店頭価格が小売業の信頼に大きく影響するとの認識が強いためである。
価格 は単に安ければいいというわけではない。
ま た、仕入れ価格よりも安く販売する不当廉売 が違法行為であることはいうもでもない。
定番価格とは特定の商品の価格において、 もっとも長い日数で売られている価格を意味 する。
一年中特売価格で販売したり、一年間 を通すと定番価格販売日数よりも特売価格日 数が多い場合は、虚偽表示になる。
一定の売 上規模を有する大手企業が堂々と詐欺まがい のことをやって許されるはずがない。
それだ け店頭価格というものは、本来は小売業の信 頼を示すものなのである。
歴史を振り返れば、 百貨店が定番価格販売を旨としていたのも、 店の信用を重視していたためである。
これまで我が国の行政は廉価販売について、 消費者保護の観点から、欧米に比べて相対的 松原寿一 中央学院大学 講師 良い特売・悪い特売 米国の「EDLP(エブリデイ・ロー・プライス」と日本の「特売」には本 質的な違いがある。
定番価格を下げるEDLPは効率的なビジネスモデルの裏 付けがあって初めて成立する。
これに対して日本では、仕組みの裏付けのない 特売が横行している。
第2回 流通戦略の新常識 93 MAY 2001 に緩い規制で済ませてきた。
ところが、ここ にきてそれも変化しつつある。
安売り酒販店 等を例として、徐々に厳しい判断をし始めて いるようである。
小売業にとって本来、特売は自らの利益を 削るものであり、最終的に採用すべき戦略と もいえるものである。
その重要な要因を明確 な戦略構想もなく多用しているのがわが国の 大手小売業の現状である。
特売の効果が減少 し、売り上げが伸びないために、再び特売を 行うという悪循環を繰り返す小売業があまり にも多い。
その最たるものをいくつかあげると、まず は自社でコントロールできない事象に特売を 絡ませるやり方である。
特売を行うためには、 販売員や商品数量を増やすなどの相応の販売 体制をとるのは常識である。
いつから特売を 開始できるか販売日前日までわからないよう な特売は、企業の戦略として好ましいものと は思えない。
販売額自体を割引するのでなく、商品券を 金額に応じて配布する形の特売も当該作業の 人件費を考えると賛同しかねる。
ある大手ス ーパーで、商品券の配布コーナーを特設して 幹部社員を動員して配布している光景をみた が、人件費を推計するとその分を低価格販売 の原資に回した方がよほど効果的ではないか と思えた。
もっとも、コストに直結する時間給のパー ト・アルバイトの就業時間延長には制限を設 けるものの、残業代を意識しなくて済む社員 の長時間労働には制限がない、といった話は よく耳にする。
そういった特売以前の問題が あるのかも知れない。
さらには、特売の原資を自社のコスト削減 によって行うのでなく、仕入先に委ねるいう ケース。
こうなると、その小売業は社会の中 で機能する公器とはいいがたい。
おまけにそ の結果、経営難に陥るとなれば企業としての 理性を疑いたくもなってくる。
経営戦略に裏付けられた特売ではない。
売 れないから安く売る。
ただ、それだけといわ ざるような特売が日本には横行している。
安易な特売が悪循環を招く もちろん、わが国のチェーン店においても、 安売りの仕組みづくりに成功している企業は 存在する。
「六五円ハンバーガー」の日本マ クドナルド。
フリースなどの爆発的なヒット 商品を生んでいるユニクロ(ファースト・リ テイリング)がそうである。
両者の共通点は 原材料の調達時点から管理することで、仕組 みとして低価格販売を実現している点にある。
これに対して、プライベート・ブランドの ような自社開発製品でない製品の場合は、仕 入れてから販売するまでに、いかにコストを かけずに販売するかが廉価販売を実現する技 術となる。
ところが、先に記したような仕入 れ価格は交渉力(当該の仕入れ数量とは別 に)に影響されている。
ましてや人件費を意 識しなくて済む労働力を有するとなると、企 業全体の業務改善を見直す必然性は欧米の小 売業に比べて希薄になる。
「一〇〇円ショップ」の雄であるダイソーで は、業務がかなり簡素化されている。
店頭を みても、基本的には商品を陳列するというよ りは、コーナーを決めて置いてあるという状 態である。
商品によってはダンボールのまま 置いてある。
したがって、店頭に商品が運ば れるまで、バラやユニットのピッキングはさ れていないことになる。
また当たり前であるが、すべて百円なので 値札を付ける必要もない。
これまで百円ショ ップは、生産原価ばかりが注目されてきたが、 実は物流付帯作業もほとんどコストがかから ない仕組みになっている。
一方、成長過程の企業ならまだしも、一定 の企業規模を超え、ましてや上場している企 業が、仕入れ交渉力や、コストのかからない労働力を頼りに企業経営を行っている。
この 異常な状況を、多国籍企業である流通外資が 見過ごしてくれるだろうか。
郷に入れば郷に 従えという言葉通りに、流通外資が我が国の 商慣習にならうことがあり得るだろうか。
多国籍企業の基本戦略は国際標準である。
標準化を制したものが生き残るという考えが 背景になっている。
実際に多国籍企業として 名乗りをあげているのは、企業内の作業標準 を達成できた企業である。
そのような多国籍企業がわが国なりの安売 りの方法を認めないとなれば、行政に陳情し、 不公正な競争であることを訴えることは充分 に考えられる。
果たして、わが国の小売業は 多国籍企業に対抗できるであろうか。
次回は、小売業のブランドについて言及し てみたい。

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