ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
値段
ヤマト運輸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2001 82 今回はヤマト運輸について詳述して みたい。
ヤマト運輸は過去数年間に渡 って増収増益を続けてきた数少ない物 流企業であり、そのサービス・クオリ ティーや企業認知度は、他産業に属す るトップ企業と比較しても遜色ないレ ベルにある。
宅配便事業のトップラン ナーとしての地位は揺ぎないものであ り、商品開発力やコスト管理能力、マ ーケティング力など評価すべき事項は 多い。
ただし、このような視点からだけで 同社を捉えてしまうと、ただ単に「ヤ マトは別格だから」とか「宅配便の専 業者だから」などと言われて評価の対 象外に置かれてしまい、物流業者とし て正当に扱うことができなくなる。
反 対に、ヤマトのウィークポイントを闇 雲に指摘しても、あまり創造的な議論 にはならないだろう。
そこで、今回は資本市場、特にグロ ーバルな投資家の視点から、ヤマト運 輸を評価してみたい。
以下で述べるこ とは、日本の機関投資家、そして海外 の機関投資家、例えば海外の年金資金 の運用者やヘッジファンドなどと議論 を繰り返す中でのコンセンサスをまと めたものだと理解して頂きたい。
具体的には国内外の機関投資家から 見て、?投資対象として魅力的な点、 ?今後の改善を期待する点、の二つに 論点を絞って整理してみる。
投資家が注目する三つの理由 投資家がヤマト運輸に注目する理由 として、主に次の三つが挙げられる。
第一に、宅配便業界でトップシェア を維持している点である。
いうまでも なく、海外で優良といわれる企業の多 くは明確なコアビジネスを持ち、その シェアを高めていく戦略に注力してい る。
業界内での地位が高まれば、価格 支配力が高まり安定収益の源泉となる からだ。
トップシェア=プライスリー ダーと置き換えることも出来よう。
ただし、トップシェアを確保してい ても、価格支配力がなければ意味はな い。
その点、ヤマト運輸の「宅急便」 の運賃単価は恒常的に高水準を維持し ている。
ここ数年、運賃単価は下落傾 向にあるものの、下落率は他社に比べ て低く抑えられている。
投資家はここ に注目しているのである。
今年に入って物流業界では大手、準 大手企業の経営破綻などもあり、慢性 的な供給過剰状態が解消される方向に 向かっている。
物流企業を取り巻く環 境が変わり、ヤマト運輸の利益率が予 想以上に改善するのではないかという 可能性も期待されている。
第二に、景気変動による業績の影響 度が低い点である。
すなわち、米国や日 本の経済が不透明な状態であろうとも、 安定した収益力の維持・向上が期待で きると投資家は判断しているのである。
ヤマト運輸の収益力が過去数年間に 改善されてきた背景には、コスト管理 能力のレベルアップがあると考えられ ている。
現場レベルへの権限委譲、パ ートタイマーの活用による人件費管理、 効率的な輸送ネットワークの構築、高 度な情報システムによるバックオフィ スコストの抑制などに、同社は積極的 に取り組んできた。
こうしたコスト管理を怠らない姿勢が、投資家の共感を 呼んでいる。
第三に、連結業績が単独業績に比べ て優れている点である。
すなわち、連 結子会社や関係会社がコストセンター ではなく、プロフィットセンターの機 能を果たしているのである。
投資家は単独の業績でなく、連結で 企業を評価するようになっている。
ヤ マトシステム開発、ブックサービス、 第2回 ヤマト運輸 優良物流企業といわれるヤマト運輸にも課題はある。
UPSやフェデック スといった海外物流企業に比べ、収益力が決して高いとは言えない点だ。
日 本の物流企業の雄に終わるのか。
それともグローバル・ロジスティクス・プ ロバイダーとして名乗りを上げることができるのか。
経営の転換点に差し掛 かっている。
北見聡 野村証券金融研究所 運輸担当アナリスト るのは、競争優位にある企業だからこ そできる変革を実行に移すことなので はないだろうか。
83 MAY2001 ヤマトコレクトサービスなど子会社群 が今後どのような収益貢献を果たすの か。
また、今年六月にサービス開始予 定で総合商社、通信会社、広告代理店 などと共同出資したイー・バンクなど の将来性を期待し、かつ直近の状況も 確認しているのである。
明確なビジョンが望まれる 投資家はヤマト運輸に対して、そん な期待感を膨らます一方、以下のよう な懸念材料を挙げ、早急な改善策を望 んでいる。
第一に、海外の物流企業、特にUP S、フェデックス、TNTポスト、ド イツポストなどに比べ、収益力が決し て高いとはいえない点である。
彼らが その資本力を引っ提げて、アジアマー ケットに進出してきた際に、ヤマトは 現在の収益力を維持できるのか、とい う点に疑問符がつく。
海外の有力物流業者を向こうに回し た場合、ヤマト運輸が競争優位に立つ と確信を持って結論付けることのでき る投資家は少ないだろう。
すなわち、 国際競争力という面では、ヤマト運輸 にもまだまだ改善すべき余地が残され ているということである。
これまではヤマト運輸を分析する場 合、国内の競合他社を引き合いに出し、 それに対する競争優位性を論じていれ ば良かった。
しかし、物流事業がボー ダレス、かつグローバルになるにつれ て、そうもいかなくなってきたのであ る。
その時にヤマト運輸が何をすべき か。
その具体策を投資家に示す時期が 訪れていると言えるだろう。
第二に、株式市場から見たときの相 対的なバリューエーション(企業価値 を評価する指標)の高さである。
連結 ベースの株 ※ 価収益率(PER)や株 ※ 価 純資産倍率(PBR)は国内外の事業 者と比較して、割高に見える。
足元の 利益水準よりも期待値がやや先行して いるということである。
将来のビジネスプランが具体的に描 かれていて、投資家がその達成度を確 認しながら株価が切り上がっていくの ならともかく、Eコマースに対する過 度な期待が、株価に織り込まれてしま うこともある。
逆説的には、その高い時価総額を武 器にした企業買収などの積極展開の機 会を株式市場は暗黙のうちに要請して いるとも言える。
こうした期待値に対 して、どのように応えていくかは、今 後の株価形成に大きなインパクトを与 えるに違いない。
第三に、期待に反した情報の開示に対する消極的な姿勢である。
ソニー、 トヨタ自動車、セブン ―イレブン・ジ ャパンなど企業ブランドの認知度が高 く、消費者に対するサービスクォリテ ィが評価されている企業は、総じて株 主に対する情報開示の姿勢も悪くない。
企業経営とは顧客、従業員に加えて、 株主とも情報を共有し合い、相互に企 業価値を高めていくことである。
全て の関係者に対して目を配り、利益配分 をしていく姿勢こそが、グローバルな 目で見た一流企業の条件だとすれば、 ヤマト運輸がその必要条件を全て満た していると言うのは難しいだろう。
単なる日本の宅配便事業者の雄にと どまるか。
もしくはグローバルなロジ スティクス事業者として無限の可能性 を追求するのか。
ヤマト運輸は今後ど ちらを選択するのだろうか。
その方向 性を明確に外部に示す時期を迎えてい る。
現在のヤマト運輸に求められてい ●株価収益率(PER) 株価と企業の収益力を比較することによ って、株式の投資価値を判断する際に利用 される尺度である。
株価が五〇〇円で、一 株当たり税引き利益が五〇円ならば、株価 収益率は一〇倍である。
企業の活動分野が 近似している場合、すなわち同一業種では 株価収益率も同程度であることが想定され、 ある企業の株価収益率が業種平均より高い 場合に、その株式が割高であるといった判 断ができる。
また、株式市場全体の平均値 を利用して株価収益率を算定し、相場水準 を検討する際に利用することもある。
どの くらいの株価収益率が適当かについての基 準はなく、国際比較をする場合には、マク ロ的な金利水準はもとより、各国の税制、 企業会計の慣行などを考慮する必要がある。
●株価純資産倍率(PBR) PBRは、当該企業について市場が評価 した値段(時価総額)が、会計上の解散価 値(株主資本)の何倍であるかを表す指標である。
株価を一株当たり株主資本(純資 産)で割ることで算出する。
PBRは、分 母が株主資本であるため、企業の短期的な 株価変動に対する投資尺度になりにくく、 また、将来の利益成長力も反映しにくいた め、単独の投資尺度とするには問題が多い。
ただし、一般的にはPBR水準一倍が株価 の下限であると考えられるため、下値を推 定する上では効果がある。
さらに、PER が異常値になった場合の補完的な尺度とし ても有効である。
《用語解説》 *出典:野村証券ホームページ 出典:野村総合研究所ホームページより抜粋

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