ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年5号
特集
物流&IT 中小企業経営者が求める情報化とは何か。そこからSCMソフトの開発に着手した

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

51 MAY 2001 ――なぜサプライチェーン分野のソフトを自社開発し ようと考えたのですか。
「僕はね、二〇何年間も事務処理のシステムを作って 売ってきたんです。
それで身にしみて分かるんですが、 日本の中小企業のトップというのは、ずっと以前から 単に事務処理のためだけにコンピュータを導入したい とは思っていなかった。
本当は情報化によって営業の 競争力をつけたいとか、ムダの多い業務を改革したい と常に考えていた。
ところが事務処理のためのシステ ムばかり扱っているうちに、私もお客さんも諦めてし まったんだね。
こんなもんなんや、とね。
だけどお客 さんは本当は今でも何とかしたいと思っている」 「僕にもちょっとは真面目なところがあるのでしょう。
いつも何か宿題が残っているような気になっていまし た。
確かに事務処理には事務処理の効用というものが あります。
でも、もっと他に大きな問題がある。
単に早く正確にデータを出せるというのではなく、システ ムの導入によって営業効率を高めたり、利益率を高め たり、在庫を妥当な水準にしたりしたい。
そう、経営 者は本当はそれを望んでいるんですよ」 ――『コンダクター』の開発に着手したのはいつですか。
「実はね、ウッドランドの社長やっているときから夜中 にいろいろ一人で考えていたんです。
当時、中国の大 学を出て、京都大学の大学院にいたやつがウッドラン ドにアルバイトに来ていた。
こいつに仕様書を渡して、 ちょっと作ってみろと社長業の片手間でやっていたん です。
初めはひたすら頭の中で考えました。
例えば、お 客さんが商社だったら、まずこう発注の電話を入れる だろうな。
そして次は伝票を入れるはずだ。
次は在庫 がナンボあるかを見る。
ここで今までの事務処理であ れば、伝票が出てきて、これを人間が倉庫に持ってい 欧米の有力ベンダーがひしめくSCMソフト業界に、単身殴り 込みをかけようとしている日本人がいる。
かつて「ウッドラン ド」というシステム開発会社を店頭公開に導いた柴田隆介氏だ。
現在、フェアウエイ・ソリューションズの社長を務める氏は、 このほど約4年間のオーストラリア生活を終え、『コンダクタ ー』というオリジナルのSCMソフトを携えて帰国した。
Interview フェアウエイ・ソリューションズ 柴田隆介 社長 「中小企業経営者が求める情報化とは何か。
そこからSCMソフトの開発に着手した」 第2部ソフトベンダーは証言する MAY 2001 52 って在庫の確認をするはずだ――と言った具合にね」 ――ひたすらシミュレーションを繰り返したんですか。
「そうです。
頭のなかでずっと辿っていくと、まず倉庫 で在庫を見なければならない。
で、そこに欲しいだけ の在庫があればいいけれど、ない場合はどうするか。
仮 にそこになくても次の日に入荷予定のものだったらど うするのか。
つまり、日を追って自由に使える在庫の 数量というのは変わるわけです。
そんなことを考え続 けていたら、ある日突然、ATP(Available To Promise )という概念が浮かんだわけです。
今日の時 点で、明日とか明後日に使える在庫はナンボあるかと いう計算方式を自分なりに考えついたんです」 ――なぜ、ソフトを作るにあたって実務家の方と話さ なかったんですか。
「あえて一切しなかったんです。
確かにいろいろな方に 助言されましたよ。
でも私はね、現実の話を聞く前に、 あるべきモデルを作るべきだと思ったんです。
実際に 導入しようと思えばカスタマイズが発生するのは当然 です。
でも、ほとんどのパターンは理論上、読める。
で すから、そうした機能はすでにソフトに織り込んであ って、どれを選びますかという形になっている。
枝葉 の部分ではカスタマイズしなければならない部分もあ るのでしょうが、これもツール化してあります」 欧米の有力パッケージは大企業向け 中小企業にとっての実用性には疑問 ――どうしてウッドランドで開発しなかったのですか。
「僕は(ウッドランドの)社長の権限で二回ほどアル バイトの中国人学生にソフトを作らせていたんです。
で もね、できあがってみると気にくわない。
足りない部 分が見えてくる。
しかし、この頃になると、これはで きるなという手応えも感じていた。
ただ社長業の片手 間ではできない。
夜だけなんてやってたら気が狂うと 思ったから、もう社長はヤメです。
会長にしてくれと。
会長になっても日本に居れば同じだから、どっかに逃 亡しようと思ってオーストラリアにいったんです。
ま あ、いい場所でゴルフ場も一杯あったから、なかなか 真剣に考えられなかったんですけどね(笑)」 ――ところで、実際の業務では入荷すべき予定のもの が突然、遅れる場合もありますよね。
「ありますね。
オーストラリアで考えているうちに、 はて、入荷予定のモノが入ってこない場合にはどうす べきなんだろうかという問題に突き当たった。
初めは、 そういった例外処理を一つ一つシステムに入れていた んだけれど、あるときフッと気が付いた。
単に『遅れ た』と処理すればいいじゃないかってね。
システムの 方で勝手に関係する部分だけを探してきて、必要な部 分だけをやり直せばいいじゃないかと考えたんです」 「ようするに、門外漢が小学生みたいに、こういう場 合はどうなるといった話をどんどん積み上げていった んです。
今はそれから四年経ちましたが、在庫の引き 当てをしている最中に他から割り込まれたらどうする かとか、注文を受けた商品が無くてもすぐに代替品を 客に勧められるようにするにはどうしたらいいか、な どをまだ考えている。
例えば、その日にはなくても明 日だったら揃いますと答えるといった機能です」 ――欧米のSCM事情はどうご覧になっていたのですか。
「オーストラリアで考えていた頃、私を訪ねてきてく れた方が日本に帰国してから、ある新聞の切り抜きを 送ってきてくれたんです。
すると、そこにはサプライチ ェーン・マネジメントとある。
私がやろうとしていたこ とは、アメリカではすでに盛大にやられていると書いて ある。
これ見たときは正直、ガッカリしましたね。
なん だアメリカには、もう同じようなことをやっている人が 居るじゃないかとね。
日本を離れる前に、密かに大手 SIベンダーなどを回って調べたんだけどね。
そのとき は私が言っていたのと同じようなことを謳っているソフ トはあっても、みんなインチキだった。
しょせんは事務 処理の話だった。
それがアメリカでは、きちんとやって いるという。
もう、開発を止めようかとも思ったんだけ れどもケリだけはつけてやろうと思いました」 「それから一年ぐらいして、ほとんどソフト開発ができ た時点で、いやいやながらアメリカに行ったんです。
サ プライチェーン・マネジメントの展示会にね。
そして 本とか資料を買い込んできた。
そのときに初めてi2 テクノロジーズなどという恐ろしい会社のことを知っ たんです。
僕の限られた知識のなかで判断しても、こ いつらなかなか良いものを作ったんだなと思いました。
でもね、i2のソフトを使えるのは、例えば大手自動 車メーカーのGMのように、ある意味で取引環境まで 自分達で決められるような大企業だけなのではないか とも感じた。
基本的には製造業者を中心に構成するビ ッグビジネスにとって有効なツールに思えた」 ――独自開発をやめなかった理由は。
「日本の中堅企業にとってはどうかと感じたわけです。
数学的な香りの高さは、どうやらi2の方に分がある。
でもオレが作っているシステムの方が日本の中堅企業 にとっては実用的なんじゃないかと思ったんです。
そ れで、オーストラリアに戻って開発を続け、約三年で 何とかできあがった。
じゃあ、日本で一度売ってみよ うかと、この会社を作ったんです。
でも、まだ納品実 績は一社しかない。
それも友人が買ってくれただけで す。
だから本当の実績はまだゼロ。
これからです」 「大言壮語はしたくないけれど、日本では今あらゆる 業種で構造改革が叫ばれている。
でも、誰一人として 実践なんかしていないと私は思います。
今はWeb技 術は山のようにあるけれど、実際にモノをどう手配す るかというところは人間がモタモタしながらやってい る。
そこで情報が途切れているように思える。
ここに うちの『コンダクター』を入れれば情報を瞬時に返す ことができる。
もし、その場で手配できなくても代案 を提示することもできる。
これはインターネット時代 の業務改革の芯になる話じゃないかと思い始めたんで す。
ですから、やりようによっては大変、面白いんじ ゃないかと思っています」 在庫管理こそSCMの本質 そこでインターネットが活きる ――そもそも、なぜ在庫管理に着眼したんですか。
「本質的な話だと思ったからです。
どんな企業にとっ ても、顧客から注文をもらって、これをどうやってさ ばくかという問題は必ずある。
中堅卸売業や商社、そ れから計画生産型の中堅メーカーでは、こういう業務 が必ず発生します。
しかも取引先の資源まで使って、 いかに素早く正確に、高い生産性でここの業務をさば くかというのは非常に切実な問題です。
そういうとこ ろから、まずやりたいと思ったんです」 ――ソフトの販売価格と今後の販売戦略は? 「まずは業種を絞ってセールスをする必要がある。
とり あえず電子部品デバイスなど、いくつかの分野にター ゲットを絞っています。
ただ、まだ営業体制も整えて いる最中だし、正直なところ明確な価格体系も決めて いません。
私自身は、二カ月間の導入サポート期間を フォローするところまで含めて二〇〇〇万円くらいか なという気はしています。
あくまでもケースバイケー スですけどね。
まあ、まずは実績を作らないことには 話になりません。
近いうちに導入実績を作って、確実 に収益面で効果が出ることを証明してみせますよ」 53 MAY 2001 第2部ソフトベンダーは証言する

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