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JUNE 2001 60
一〇〇億円投じて拠点新設
九八年、生活雑貨の人気ブランド「無
印良品」を展開する良品計画は物流体制
を抜本的に見直した。 従来は全国に小規
模な物流センターを十二カ所設けて、そ
こから各店舗に商品を供給していたが、
この年を境に福岡、新潟、神戸、浦安の
四センターに集約する体制に切り替えた。
四センターのうち、浦安と神戸の物流
センターは九八年度中に新たに稼働させた大規模物流センタ
ーだ。 浦安センター
は延べ床面積三万三
〇〇〇平方メートル
の五
階建て、神戸セ
ンターは同二万七〇
〇〇平方メートルの
三階建て。 計一〇〇
億円を投じて建設し
た。
新潟センターは輸
入品の流通加工や検
品作業を行う調達物
流用の拠点。 残りの
三センターが商品供
給基地という位置付
けで、福岡センター
が中国・九州地区、
浦安センターが静岡
県以北、神戸センタ
国内物流拠点の集約後に環境激変
中継デポの新設で再び拠点を分散
良品計画は12カ所あった国内の物流拠点を4カ
所に集約したことで、それまで7〜8%台で推移
していた売上高物流費比率を5%台に抑えること
に成功した。 ところが、店舗数の増加や出店形態
の多様化など環境の変化に伴い、再び物流体制の
見直しを迫られることに。 4拠点体制を崩して、
神奈川、中京地区にデポを新設。 さらに、ネット
通販用の物流センターも立ち上げた。
良品計画
――拠点戦略
売上高
(百万円)
売上高物流費比率
(%)
96/2 97/2 98/2 99/2 00/2 01/2 (決算期)
120,000
100,000
80,000
60,000
10
8
6
4
8.04
47,862
60,786
73,047
91,604
105,410
111,068
8.18
7.01 5.82
5.55 5.33
売上高物流費比率の推移
店法)廃止に伴い、大型商業施設の開業
が相次ぎ、そこからの出店要請に応じて
きたためだった。
同時に店舗形態の多様化も進んでいる。
もともと、「無印良品」の店舗の平均売り
場面積は約五〇〇平方メートルだった。 そ
れが最近では、京都駅前の「無印良品プ
ラッツ近鉄」(売り場面積・三三六五平方
メートル)や「無印良品キャナルシティ博
多」(二四七三平方メートル)のような一
〇〇〇平方メートルを超える大型店舗、さ
らに東日本キヨスクが運営する駅構内の
店舗「無印良品COM KIOSK
」のような
スモールスペシャリティストアと呼ばれる
小型専門店が増えている。
このまま出店増が続けば、既存の物流
拠点の能力では商品供給が追いつかなく
なるのは明らかだった。 また、店舗形態の
多様化によって、大型店舗はバックヤー
ドを持つが、小型専門店にはそれがないと
いうように物流の条件がおのおの違ってく
61 JUNE 2001
ーが残りの地区を担当してきた。
同社が九八年度からスタートした中期
三カ年計画では「仕入れから店舗までの
商品フローを改善して最適なロジスティク
スを構築」し、なおかつ「売上高物流費
比率を五%台に抑える」ことが目標だっ
た。 それを実現するための具体策が拠点
集約による物流改善だった。
結果として、この一大プロジェクトは成
功を収め、早くも計画二年目の九九年度
には数値目標を達成した。 物流センター
が散在していた当時、良品計画の売上高
物流費比率は七〜八%台で推移していた
が、九九年度以降は五%台で安
定してい
る(図参照)。
マテハン投資で出荷能力を倍に
ところが、三カ年計画の最終年度に当
たる二〇〇〇年度に入ると、新たな問題
が懸念されるようになってきた。
良品計画はこの年から出店ペースを一
気に加速させている。 九八年二月末の時
点の店舗数は二四四だった。 しかし、こ
れが二〇〇一年二月末には二七七店舗に
達している。 かつてはグループ企業である
西武百貨店や西友などの店舗への依存度
が高かったが、ここ数年はとりわけ直営店
の数が増えている。 九八年二月末に五九
店舗にすぎなかった直営店は、今年二月
末現在で一一〇店舗とほぼ倍増した。 直
営店が増えたのは、大規模小売店舗法(大
るという弊害も予想された。
そこで、同社は再び物流改革に乗り出
した。 店舗数急増への対応策として、ま
ず各物流センターのマテハン機能を強化
して出荷能力を高めるという戦略を打ち
出した。 昨年、浦安センターにピース単位
からケース単位の商品までを仕分けること
のできる汎用性の高いソーターを新たに導
入。 これによって、一時間当たりの仕分
け能力を二倍に高めた。 今年中には福岡
センターにも同様のソーターを導入する予
定だという。 これまで同社は、マテハン機器に巨額
の投資を行うこ
とは避けてきた。 「立体自
動倉庫などの大型設備を、?はじめにマテ
ハンありき〞でセンターを設計してしまう
と、経済状況が変わって物流体制の見直
しを余儀なくされた時、逆にそれが足かせ
となって柔軟に対応できなくなる恐れがあ
る」(長谷川治流通推進部長)と判断した
からだ。
実際、同社最大の浦安センターでも、パ
レットラック、方面別仕分けソーター、デ
ジタルピッキングシステムなど必要最小限
のマテハン機器を揃えただけで、センター
内のほとんどを平置きスペースとして利用
してきた。 「各センターにフリースペース
を確保しておいて、取扱物量が増えた段
階でマテハンを拡充
したほうが得策」とい
う当初の?読み〞通りの対応策を、まず
は打つことができた。
良品計画の長谷川治流通推進部長
JUNE 2001 62
二カ所にデポ新設
しかし、実際の物量の増加はマテハン
の増強による出荷能力の引き上げをはる
かに超えていた。 やむを得ず四拠点体制
を崩し、神奈川県と愛知県に新たに中継
デポを構えることにした。 浦安センターか
ら出荷される商品の三五%が神奈川県下
の店舗向け、神戸センターからの三〇%
が中京地区の店舗向けであったことが背
景にある。
「神奈川県下の店舗向けの物量はまとま
っている。 浦安センターから一〇トン車で
神奈川のデポまで横持ち輸送してから各
店舗へ商品を供給したほうが、浦安セン
ターから直接
配送するよりもコストが掛か
らない」と長谷川部長はデポ開設の理由
を説明する。 今後も出店ラッシュが続く
ようであれば、将来はこの二カ所のデポを
物流センターに格上げすることも視野に入
れているという。
さらに、昨年九月にはインターネット販
売専用の物流センターを埼玉県内に開設
した。 このセンターは注文を受けた商品を
ピッキング、梱包して一般消費者向けに
発送する作業に特化している。 各店舗へ
の供給は原則として行っていない。
マテハン設備はコンベアのみで、手作業
が中心。 ネット販売の売上高が一〇〇億
円を突破した時点で、大掛かりなマテハ
ン
投資に踏み切る計画だという。 これまで
と同様、取扱物量の伸び
に応じて、必要な投資を行
うというスタンスを継続し
ている。
最適解も陳腐化する
拠点をいったん集約した
にも関わらず、再び増やす
ことは一見、無駄足のよう
に見えるかもしれない。 し
かし、「経済環境の変化の
激しい時代には、よかれと
思った拠点政策の最適解
がすぐに陳腐化してしまう。
こうした方針転換はやむを
得ないと割り切っている。
売り上げに占める物流コス
トの割合が変わらなければ、
問題はないのではないか」
と長谷川部長は持論を展開する。 実際に、
良品計画では売上高物流費比率五%を維
持できる範囲内でマテハン投資やデポの新
設に踏み切
っている。
また、これと並行してセンター運営面で
は「店別納品日パターン」というルールづ
くりを進めている。 例えば、大型店舗であ
れば一日複数回、中・小規模の店舗であ
れば開店前の一括納品というように、店
舗の規模や販売特性などに合わせて、商
品を効率的に供給できる仕組みを構築し
ようという試みだ。
良品計画の二〇〇一年二月期の営業収
益(連結)は一一五五億五四〇〇万円(前
期比八・〇%増)だった。 今期も前期比
五・六%増を見込んでいる。 物流部門の
目下の課題は営業収益が二〇〇〇億円に
達した時の拠点政策の青写真をきちんと
描いておくことだという。 しかるべきタイ
ミングに、しかるべき商品供給能力を確
保しておく。 型にはめず、状況に合わせて
フレキシブルに拠点政策を変えていくこと
が、良品計画の物流戦略の基本コンセプ
トのようだ。
(刈屋大輔)
良品計画の浦安センター
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