ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
デジロジ
動かないSCMシステム

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 68 「現場に行ってみると業務時間のは ずなのにマシンが動いていない。
担当 者が妙によそよそしい。
昼休みにはパ ートタイマーがパソコンでソリテア*をやっている。
最新最強のシステムのハ ズなのに、一体全体なんだこれは! SCMシステムは高価なゲームマシン と化してしまったのか!」 (注; Windows に付属の有名ゲーム) 嵐のようなERPブームが一段落し、評価 も落ち着いてきた昨今。
何が良くて、何が悪 いのか、周知のものとなりつつある。
SCM の分野でも九七年頃から国内外のソフトベン ダーより、計画系( SCP ; Supply Chain Planning )や実行系(SCE ; Supply Chain Execution )といわれるソフトがリリースされ はじめ、新しい市場が形成されてきた。
前者は需要予測に代表される計画・スケ ジューリングが売り物。
そして後者は従来の 物流ソフト、いわゆる在庫管理や運輸管理 のソフトと比較して、生産管理や販売管理 の一部機能的、ERPや既存システムとの 連携、EDI機能および生産性把握のため の計数管理が組み入れられているなど、物流 を基盤とした製造・販売との連携を特徴と している。
ただし、実際には売り手と買い手のボタン の掛け違いからか、納期・品質・コストが 期待を裏切るも のであったり、うまくいくは ずのシステムが動かなかったりと、導入効果 田中純夫エクゼ社長 動かないSCMシステム 第3回  大枚をはたいて最新のSCMシステムを導入したもの の、期待した効果を発揮しない。
それどころか全く動 かない。
ソフトハウスに文句を付けても「契約にない」 と突っぱねられた。
そんな事態に陥らないために、ユ ーザーが最低限知っておくべきこととは何か。
が得られないケースが少なくない。
そもそも 何のためにSCMと称するシステムを入れた のか、目的と手段を取り違えてしまったとし か言いようのない事例もある。
市場の拡大とともに様々な問題が顕在化 している。
実際のユーザーの声をいくつかを 紹介しよう。
ケース1 「外資系ソフトハウスの人が提案に来 た。
初回のプレゼンはカッコ良かった が、二回、三回とすすめていくうちに ネタがつきてしまったらしく、話が先 に進まなくなってしまった。
さらにシ ステムの詳細を見ていくと、単に英語 のものを日本語に翻訳しただけだから 用語はヘンだし、エンジニアも昨日・今日採用された人たちで、専門的な話 が全くできない。
結局プロジェクトを 白紙に戻した」 ケース2 「途中まで話しを進めていたら突然担 当が変わり、また最初から話し直さな ければならなくなってしまった。
いま までの労力はどうなるの? だれの責 任?」 ケース3 「品質が今ひとつ。
うまく動かないし、 必要な機能が欠けている。
クレーム CMシステムだけの固有の話ではない。
いず れは時間とともに解消されていく類のものと いえる。
ただし、短期間に市場になじむかどうかは パッケージベンダーの経営者のスタンスに大 きく左右される。
外資系ソフトハウスの場合、日本法人は 「日本営業所」で、社長は「営業所長」とい った位置づけなので、どんな人が経営者なの か、権限はどの程度あるのかが見極めポイン トのひとつになる。
とりわけ海外の本社に対して発言権のあ る経営者がいるのかどうかは重要だ。
それに よって独自のマーケティングが行えるかを判 断できる。
日本法人の社長には地道な市場 調査と日々の改善 という、市場への定着の ためのアナログ思考が求められるのだ。
社員の定着率についても同様だ。
ケース 2の「先週いたはずの人が、もういない!」 などは日常茶飯事となっている。
せめて社内 の引き継ぎはしっかりしておきたい。
余談ではあるが、「日本○○株式会社」な ど社名に「日本的な名称」が付く会社は日 本市場へ本気で定着したいという、本国あ るいは日本の責任者の意志があるように感 じられる。
契約書を吟味する ――ケース3・ケース4―― 製品の品質、技術者の技量、業務ノウハ ウについては販売側に問題があり、契約に対 69 JUNE 2001 業でも新システムを導入するケースが増えて いる。
しかし現場では、右のような会話を耳 にすることが多い。
はたして、外国製SCM ソフトは日本市場における製造・物流・流 通の最適化に対して、有効に活用すること ができないのだろうか? 問題はどこにある のだろうか? 単に外国製だからだめだ、というのではあ まりにも短絡的すぎるだろう。
国産パッケー ジと称していても、その実、インテグレーシ ョンと称してカスタマイズを飯の種にしてい る企業も多数存在する。
また、右に挙げた ケースにも売り手、買い手それぞれの言い分 があり、ユーザー側にかなりの誤解があるこ とも事実だ。
そこで、改めて「うまくいかないケース」 をレビューしてみることにしよう。
ソフトは ビジネスの手段の一つであり、ツールに過ぎ ない。
が、ツールは使ってナンボ、効果が出 てこそ導入の意義がある。
「ソフトを作り、売 る。
そして、動かす」。
簡単なことではある が、「言うは易し、行うは難し」である。
一 般には、四〇%以上の改善があると導入効 果が「目に見えてうまくいった」と言えるよ うだ。
日本法人社長を見極める ――ケース1・ケース2―― 外資系ソフトハウスの日本化、日本語化 の問題は難しい。
ソフトが国内に紹介される ときには、どこでも聞かれることであり、S をつけたら、それは契約にないの一 点張り。
弁護士とおなじような態度 で辟易した(失礼)。
結局システムは 動かなかったが、泣く泣く費用を支 払った」 ケース4 「納期が守れないし、基本とオプショ ンの境目が厳しく追加費用がERP なみの値段だった。
しかも、帳票の 作成を数枚頼んだだけなのに桁違い の見積が来た。
どうしたらよいもの か」 ケース5 「顧客の商慣習にあわないし、きめ細 かさがない」 ケース6 「既存システムとのインターフェース が難しい。
またプレゼンの話とは異な り、拡張が困難で高額な費用がかか ってしまい、予算が底をついてしまっ た」 ◆ケース7 「カスタマイズが難しく、サポートが 悪い」 など、など。
SCMの認識が高まるとともに日本の企 JUNE 2001 70 サポート体制を確認する ――ケース5・ケース6・ケース7―― カスタマイズとサポートの問題は、物流と ロジスティクス、そしてサプライチェーンを 考える上では特に重要になる。
サプライチェ ーン構築の目的のひとつは市場に対するサー ビスだ。
市場はその国の歴史・文化・環境に よって複雑に構成されている。
市場は消費者 の要求によって、その時代、その場所に最適 な状態に向かって変化し続ける。
それらに対 応すべきシステムがその国の法律や規則にす ら対応していないのでは論外だ。
システムを導入することは、ビジネスの 「フレームワーク」を構築することであり、業 務を確実に動かす ことが大前提になる。
国内 と海外の市場規模や習慣、複雑さの相違の認 識、そして物流インフラの違いを考慮したき め細かなサポートとたゆまぬ改善が要求され る。
市場周辺にマーケティングやR&Dの機 能や拠点を持たないベンダーは、単なる物売 りに過ぎないと考えたほうがいい。
「目利き」の条件 以上をまとめると、SCMにおけるシステ ム構築成功のファクターはソフトが外国製か 国産かと言うことではなく、システムが市場 のニーズに適合しているかどうかという問題 に帰着する。
ニーズのずれを見つけ、適切な方向に導き、 軌道修正できる体制がマーケティングであり、 R&Dである。
システムを作る会社なのか、 システムを売るだけなのか、あるいはマーケ ティングやR&Dを駆使し、システムを使い こなすまで指導してくれるのか。
アナログ的 ではあるが導入候補企業の経営哲学を比較理 解することが重要なのである。
また、近代的なシステムではオブジェクト 指向設計が一般化しているため機能比較は無 意味と言っても良い。
適切な設計がなされて いれば機能拡張は簡単 にできるからだ。
SC Mソフトといいながら、必要な機能が欠落し ていたり、機能追加に時間やコストが必要以 上にかかるとすれば、根本的な設計に問題が あると考えるべきだ。
システム導入に際してはアナログ思考とデ ジタル思考を切り分け、要は必要なリソースの「目利き」ができるがどうかがポイントに なるのである。
一九八三年、埼玉大学工学部卒。
物流企業系シス テムハウスを経て、九一年に独立。
エクゼを設立 し、社長に就任。
製造・販売・物流を統合するサ プライチェーンシステムのインテグレーターとし て活動。
九七年には物流管理ソフト「Nexus 」を 開発し、現在は「Nexus ?」にバージョンアップ してシリーズ展開してい る。
日本企業の物流事情 に精通したシステムイン テグレーターとして評価 が高い。
田中純夫(たなか・すみお) Profile する認識の違いは導入する方にも責任がある。
海外では性悪説を前提に契約が作られている。
契約に際しては専門家に依頼し、内容を熟読 することが必要だ。
一般にソフトハウス側に 一方的に有利にかかれているので注意しなけ ればならない。
特に外資はリスク・マネジメントの考え方 がしっかりしているので、顧客からしっかり と仕様を伝えない限りシステムを用意しては くれない。
明示されていないことに対してク レームをつけても相手にされないか、支払い をゴネれば法的手段をも辞さないというのは この世界の常識である。
ソフトハウスとユーザーはフィフティ・フ ィ フティなので、相手に任せず、ユーザー自 身もよく学び、必要とするものをハッキリと 要求する。
「あうん」の呼吸は通用しない。
そ して、できなかった場合のペナルティも契約 に盛り込む。
トラブル回避のためにドキュメ ントは毎回必ず取る。
こんなところはデジタ ル思考だ。
最近は国内企業も契約については明確化す る傾向にはあるが、日本人は仕事を依頼すれ ば、費用はともかく、あとは何とかしてくれ るという点で、きわめてアナログ的であり、 ユーザーサイドに近いスタンスをとる。
開発 側としては海外に習い、デジタル思考でドラ イに行きたいところだが、ここは思案のしど ころ。
実績を積むた め、ソフトハウスの経営 者はデジタル思考とアナログ思考の間で悩む のだ。

購読案内広告案内