ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
特集
物流のプロになろう SCMコースの入試倍率は10倍以上

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2005 18 アメリカに追いつき追い越せ ――まず、ボルドー・ビジネススクールとSCMコー スの生い立ちについて教えてください。
「ボルドー・ビジネススクールは一三〇年の歴史を 持つ学校で、フランスでは歴史、実績ともに三本の指 に入る学校です。
そして八〇年代半ばには、SCMの コースを作りました。
きっかけは、ヨーロッパロジス ティクス協会(ELA)からの要請でした。
当時、ア メリカの多国籍企業のサプライチェーン担当者がヨー ロッパに来て人材を探そうとしても、サプライチェー ンを体系だって教えている大学や大学院がないので人 材が確保できなかったのです。
そこでサプライチェー ンの先進国であるアメリカに追いつくために、優秀な 人材を育てる必要があるとして、ボルドー・ビジネス スクールに白羽の矢が立ちました」 ――二〇年前はどんな様子だったのでしょう。
「初年度の学生は一〇人でした。
これは、当時の学 生の間で、SCMがどんな学問であるのかが知られて いなかったからです。
学生だけにとどまらず、ビジネ スの世界でもロジスティクスやサプライチェーンとい う概念は広く認識されていませんでした。
そのため、 卒業生が就職先を探すのも大変でした。
もちろん当時 も、輸送業務なり、倉庫業務はありましたが、しかし それは現場担当者レベルの話にとどまっており、それ が企業全体の戦略となるなどとは誰も考えていない時 代でした」 「われわれはまず、サプライチェーンについての情報 を広く提供することが必要だと考えて、『Logistique Management 』というフランス語の雑誌と、『Supply Chain Forum 』という英語の雑誌(いずれも年二回発行) を発行しました。
同時に九〇年代に入ると企業間の国 際競争が激しくなり、ウォルマートやP&Gのような アメリカの多国籍企業がサプライチェーンの重要性と その効果を身を持って実践したことで、ルノーやロレ アルといったヨーロッパの大企業も考えを改めるまで になりました。
特に九四年のメキシコ通貨危機以降に ヨーロッパに不況が訪れると、サプライチェーンによ る事業の見直しは企業にとって不可欠となりました」 百人の定員に千人の志願者 ――現在は何人の学生が学んでいるのでしょうか。
「今は毎年一〇〇人の学生がここで学んでいます。
一 〇〇人といっても、一〇〇〇人以上の志願者から選 び出された一〇〇人なので、レベルは非常に高いので す。
大学での成績に加えて、企業での経験も加味して、 合格者を選び出します。
学生は、フランスやヨーロッ パだけでなく、アメリカやアジアからもやってきます。
われわれは、フランスのみならず、ヨーロッパ大陸で も一、二を争う規模の大学院に成長しました」 ――コースの概要を教えてください。
「大学院での授業や実践は一〇月に始まって六月に 終わります。
その後、七月から十二月まではフランス 国外の企業でインターンシップを行います。
インター ンシップが終わって卒業となるので、一年二カ月のプ ログラムです。
大学院のコースの中心となるのは、学 生が小グループを作って実施するコンサルティング・ プロジェクトです。
五つある授業はプロジェクトを進 めるための補足的な役割を果たしています(図表参 照)。
一〇月から三月までのコンサルティング・プロ ジェクトと、七月から十二月までのインターンシップ を通して、学生はサプライチェーンを作り上げ、実践 に移すノウハウを習得するのです。
授業料は一万二〇 〇〇ユーロ(約一六〇万円)となります」 「SCMコースの入試倍率は10倍以上」 ボルドー・ビジネススクールドミニック・エスタンペ教授 フランス南部にあるボルドー・ビジネススクールにサプライ チェーン・マネジメントの修士コースができたのは約20年前。
荷主や物流業者へのコンサルティング・プロジェクトをコース の中心に据えて、学生たちに実践に即した技術と知識を教えて いる。
フランスのみならず、ヨーロッパ大陸でも随一の学部と 認められている。
(聞き手・欧州特派員 横田増生) Interview 特集 19 MAY 2005 「コンサルティング・プロジェクトとは、担当教授 の指導のもと、数人でグループを作った学生が、三〜 四社の荷主企業や物流業者の内部に入り込んで、サ プライチェーンに関するプロジェクトを進めるという ものです。
そして一月と五月に会社の役員会のメンバ ーを前にして、自分たちのプロジェクトの結果を発表 します。
その企業の二、三年先のサプライチェーン戦 略について、全体のシナリオを描いた上で、コストや サービスレベル、顧客へのインパクトなどを分析する という非常に高度なものです。
われわれは、二〇社を 超える企業からこのプロジェクトへの協力を取り付け ています」 企業の?需要〞が学生の?供給〞を上回る ――現在の学生の就職状況は二〇年前と比べると、ど う変わりましたか。
「就職に関しては、当時と比べると、まさに隔世の 感があるというほどの変化が起こりました。
われわれ のプログラムを終了した学生は、ほぼ一〇〇%に近い 数字で、サプライチェーン関連の仕事に就いています。
卒業生の六割が製造業のサプライチェーン関連部門に 就職して、二割が3PL業者、一割が流通業者、そ して一割がコンサルティング企業――といった具合で す。
企業の?需要〞に、学生の?供給〞が追いつかな いというのが現状です。
先に述べたように、われわれ の学費は一万二〇〇〇ユーロと決して安くはありませ んが、卒業後にサプライチェーンの設計者として仕事 を始めれば、年間五万ユーロ(約六五〇万円)からス タートして、荷主企業のサプライチェーンの担当者と なれば、年棒は一〇万ユーロ(一三〇〇万円)を超え ます。
そう考えると、いい?投資〞と言えるでしょう」 ――二〇年前と今では、何が違っているのでしょうか。
「製造業を中心にして、多くの企業はサプライチェ ーンの専門家を雇うことのメリットに気づいています。
この点が二〇年前とは決定的に違います。
そのメリッ トとは、第一にサプライチェーンに関するコストの削 減。
それまで売り上げの一五%を使っていた企業が、 専門家を雇い入れることで、その数字を一〇%以下に 削減したというような話は数え切れないほどです。
も う一つは、専門家を擁することで、サプライチェーン 全体を設計し直したり、手を加えることで、顧客への サービスレベルを上げることができるのです。
単に、 リードタイムを短縮するというレベルにとどまらず、 経営環境に合わせて一連の新しいサービスを作り出し て、同業他社との差異化を図ることができるのです」 「具体的に言うと、自動車用の空調機器を製造するヴ ァレオ(Valeo )というフランスのメーカーが三年前 に、同社のグローバル・サプライチェーンを大幅に刷 新しました。
顧客であるルノーやGM、ホンダといっ た自動車メーカーへの納入ルートを世界レベルで見直したのです。
そのときに同社のサプライチェーン部門 の一員として活躍したのが当学部の卒業生でした」 ――今後も、サプライチェーンの専門家に対する需要 は増えていきそうですか。
「今後ますます需要は増えていくでしょう。
サプラ イチェーンの教育に関する限り、ヨーロッパはまだ数 年遅れでアメリカを追いかけている状態です。
そのア メリカの有力雑誌が二年前、サプライチェーン学部の トップ一〇を選びだしました。
これは、サプライチェ ーン学部が、アメリカのMBAの中でも、マーケティ ングや企業会計などと並んで主要学部の一つに成長し たことを意味しています。
したがって、ヨーロッパで もサプライチェーン学部の持つ意味は今まで以上に重 要になると考えられます」 実践を重視したボルドー・ビジネススクールのコース内容 10月 1月 3月 6月 7月 12月 サプライチェーン・コンサルティング・プロジェクト 海外でのインターンシップ 経営と 技術的な基礎 SCMの 技術 SCアプローチと 方法論 国際的な 経営環境 国際的なSCの 管理手法 実践 授業 ロジスティクス情報の提供のため 年2回発刊している雑誌

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