ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 物流子会社という機能はなくなる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 28 ――九九年四月に社長に就任したとき、最初に何を考 えましたか。
「かつての物流子会社は、片道運賃だけでも経営が 成り立つほどのお金を親会社からもらっていました。
ところが私が二年前に富士物流に来たときには、すで に安ければ物流会社はどこでもいいという風に様変わ りしていた。
まして親会社である富士電機のその頃の 業績は大赤字。
非常に厳しい要求がきていました。
相 見積もりから始まって、そもそも子会社に発注するメ リットは何かと、問い直すような状況でした」 「私も必死で、物流子会社とは何なのかを考えまし た。
そして思っ たのは、『物流子会社という機能はな くなる』ということです。
今でも公言していますが、 物流子会社という機能がなくなることを前提に私は経 営に取り組んでいます。
いろいろなところで構造改革 が叫ばれていますが、子会社物流こそ構造改革が必要 です。
それぞれに物流子会社があること自体、不思議 でしょうがない。
あり得ないことですよ」 ――物流子会社という機能がなくなるとは、具体的に はどういうことなのでしょうか。
「いずれ連合軍ができるだろうと私は見ています。
最 終的に物流子会社というのは、数グループに分かれる のではないかと考えています」 ――電機業界だけでなく全業界で物流子会社の再編 が起こるという意味ですか。
「そうです。
生鮮でも 冷凍食品でもそうなると思い ます。
まずは全国に数百社ある物流子会社の多くが 淘汰されます。
そして残った物流子会社が五、六の グループに分かれる。
なぜ五、六グループかというと、 理由は情報システムです。
IBMを中心とするグル ープ、NECのグループ、富士通のグループといった 具合に、情報システムを核にした再編が起こる。
さ らに、これがグローバルな提携を通じて世界的なネッ トワークを作る。
向こう十年間でそうなると私は見 ています」 ――その大再編のなかで、どのような生き残り戦略を 描いているのでしょうか。
「具体的に打った手が、去年 三月の東京重機運輸とい う会社の買収です。
この会社はJUKIという工業 用ミシン・メーカーの物流子会社です。
JUKIは世 界で四〇%というトップシェアを持つ企業ですが、今 でもぐんぐん業績を伸ばしている。
そのJUKIの業 績が少しおかしくなったとき、本業集中をやったんで す。
周辺事業をよそに任せたりアウトソーシングしよ うとした。
それまで東京重機運輸は、規模が小さいた めに専門物流業者に業務を丸投げしていました。
こう した事情を我々はリサーチして、五年間で三割のコス トを下げますと提案したんです」 「すでに買収から一年経ちましたが大変、大きな成 果を挙げて います。
売上高にしてみたらわずか一五億 円程度の話ですが、当社はこれを子会社再編の成功 事例に位置付けています」 買収のポイントは企業風土 ――再編をにらんで御社自身は何をするのですか。
「まずは当社自身が変わらなければダメです。
全社 員が変革の担い手になり、小さくても強い会社になる。
そうすれば、物流子会社が数グループに分かれたとき、 当社がひとつのグループの中核を担えるはずです。
い わば、親会社からの卒業です。
親会社にしてみれば 『何を勝手なことを』という話ですが、これこそが親 のコストダウンに貢献する道でもある。
コストダウン は毎年、続けなければなりません。
規模の拡大を図っ たり、いろいろなことに取り組む必要がある。
自ずと、 「物流子会社という機能はなくなる」 物流子会社の淘汰と大再編をにらみ、昨年3月にはJUKIの物流 子会社を買収した。
再編後にできると予想しているグループの中心を 担うため、物流子会社の見本となる経営モデルを模索している。
メー カー色の強かった給与体系を一新し、物流業者として成果主義を徹底 できる組織への脱皮を目指す。
富士物流 中尾靖博社長 第2部有力物流子会社トップインタビュー 29 JUNE 2001 一社対一社では限界があります。
自然の流れとして物 流子会社同士が協力し合うようになるんです」 ――同業種の物流子会社がグループ化の対象になるの でしょうか。
「同業種でも異業種でも構いません。
協力できるか 否かは?企業風土〞次第です。
『俺達は昔からこうや ってきた』とか『土曜も日曜もない』といった会社と、 我々のようにサラリーマン中心で電機業界でやってき た人間が一緒になっても、絶対に上手くいきません。
内部での喧嘩にエネルギーを割かざるを得なくなる」 「また、数グループへの再編にはもう一つ意味があ って、そこでは特定の企業が五〇%の資 本を握るとい う話はなくなります。
どこかが引っ張るという構図が なくなれば、社内で仲良くやっていくしかありません。
だからこそ企業風土がポイントになるんです。
もっと も、富士物流が再編の核になるためには、当社と一緒 になりたいという会社が出てこなければダメです。
我々 自身が魅力的な会社になる必要がある。
私は理想とし て、富士物流をそういう会社にしたいんです」 ――具体的なパートナーの条件はないのですか。
「具体的にどこと組むという話ではなくて、志を同 じくする同好の士が集まるんじゃないでしょうか。
そ の方が社会のためにもなるし、親会社にも貢献できる。
富士物流はいま二部上場の会社 ですが、そうすること で一部上場にしたいと考えています」 子会社上場の意味 ――物流子会社の淘汰と再編が進むなかで、富士物流 が描いている営業戦略は。
「ようするに親会社の売上比率をどんどん下げよう ということです。
いま富士電機グループ以外の外販比 率は五〇%弱です。
これを二〇〇一年には五〇%以 上にしたい。
そのために具体的に何をやるか。
当社は ここを四つの事業分野に分けて考えています。
メーカ ー支援物流、販売支援物流、国際物流、その他のロ ジスティクスサービスです」 「メーカー支援物流については、当社はもともと富 士電機の工場物流をやっていたから強い。
また販売支 援物流の分野でも、富士通のコンピューターの部品物 流をほとんど当社が手掛けてきたという蓄積があ る。
今後は海外で作られる製品を日本で販売するための物 流のお手伝いをしたいと思っています」 ――物流子会社にとって、親会社が連結決算に移行 したことによる影響はあったんでしょうか。
「大きいですね。
親会社が物流子会社のコストをシ ビアに判断するようになりました。
もっと言えば、子 会社を上場させたことが本当に正しかったのかという ことまで問われている。
上場する以上は、利益を出し て一般株主に対して配当しなければなりません。
場合 によっては、業績が悪い子会社を、親会社が助けてやらなければならない。
結果的に上場自体が高い買い物 にな りかねないんです」 ――富士電機グループとしての子会社戦略はどうなっ ているのですか。
「親会社自身がいま『S 21 プラン』という構造改革 に取り組んでいます。
事業分野を二四に分けて、従来 通り事業を継続するのか、どこかと一緒になって事業 を続けるのか、または売ったり撤退するのかを検討し ています。
つまり、親会社の事業構造がガラリと変わ りつつある」 「最近のニュースで言えば、トランス事業の統合が あります。
富士電機は一個が四〇〇〜五〇〇トンの トランスを千葉で作っていますが、従来この物流は当 社がすべて手掛けていました。
しかし、このトランス 特集 【企業概要】 富士物流:本社・東京都港区、1975年設立、92年12月東京証券 取引所2部上場、資本金29億7967万円、出資比率:富士電機 52%、富士通5.1%、売上高325億円(2001年3月期)、従業員 数559人(2000年3月末) 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 60 50 40 30 20 10 0 97年度 98年度 99年度 00年度 01年度 富士物流の業績と外販比率 (売上高) (外販比率) 富士電機(億) 富士物流(千万) 外販比率(%) (3月期決算) JUNE 2001 30 事業で、富士電機と日立製作所と明電舎の三社が今 年七月から合弁会社を作って、一緒にやることになっ た。
そして、それぞれ三カ所で作っていたものを、二 年以内に一カ所にすることまで決まっています。
当然、 物流業務も集約されます」 「新会社の出資比率は日立五〇%、富士電機三〇%、 明電舎二〇%。
社長も日立の出身者。
まさに、つら い競争ですよ。
二年以内に業務を統合するわけですか ら、それまでに我々が強味を発揮できなければ仕事は 残りません。
親会社もシビアですし、我々も甘えるつ もりはない。
当社がどこで競争力を発揮できるのかを 徹底的に見つ め直す必要があります」 ――場合によっては、物流子会社自体が重電やパソコ ンといった事業ごとに解体させられる可能性もあるの でしょうか。
「ありえますね。
弱ければハゲタカにやられますよ」 売上一〇〇〇億円が最低条件 ――親会社が子会社の業績をどれくらいにしたいとい う具体的な数値目標を持っているのですか。
「いや、それはありません。
とにかく利益を出せとい うことです。
富士物流グループの連結売上高の見込み は二〇〇〇年三月期には三五六億円で、利益は一〇 億円ぐらいです。
これに対して将来的にはどれだけの 利益を出さなければいけないのか、という利益計画か らすべてをスタートします。
この中期経営計画では経 常利益率四%というのがありますので、そのためには どれだけの売り上げが必要かと考えるわけです」 「とはいえ、規模のメリットも考える必要がある。
現 在、群雄割拠している運送会社というのは今後どんど ん淘汰され、再編が進むでしょう。
彼らに対してリー ダーシップを発揮し、 有利な取引をするためには、あ る程度の規模が不可欠です。
ただ、いま具体的に規模 の目標があるわけではなく、走りながら考えていると いうところです。
まあ売上高一〇〇〇億円ぐらいの規 模で利益率が五%というのが、生き残りの最低条件に なるのではないでしょうか」 ――それは何年ぐらい先を見た場合の話ですか。
「二、三年後ですよ。
当社の中期経営計画もそうい う位置付けですが、中期のビジョンと中期の使命をハ ッキリさせようとしています。
今の時代、五年も先の ことなんてわかりません。
先のことではないんです。
今どうするかが重要なんです」 ――富士物流の業績は九九 年度の三八三億円をピー クに最近二年間減り続けました。
原因は何ですか。
「減収の要因の半分は親会社の業績不振の影響です。
ただ富士電機グループ以外の売り上げは、この間も順 調に伸びてきました。
しかし、利益はどうかというと 問題があります。
とにかく一〇社もコンペに参加して 取るような仕事というのは、スタートしてすぐに利益 が出せるわけではありません。
無理して取っています から、おのずと利益率は低くなります」 ――経営計画では富士電機グループからの売り上げ予 想も、中期的にはわずかに伸びる計画ですね。
「業務範囲を拡大する余地がま だあります。
ただし、 そのためには市場価格での競争が欠かせません。
親自 身が市場競争に勝ち抜いていくためにも、情実ではダ メです。
先手を打って親会社を助けられれば、必ず業 務範囲は拡大できる。
そうやっていけば、まだ親会社 の仕事も伸びますよ」 ――物流子会社を買い取ってくれといった申し出も少 なくないのでは。
「いま来るのはね、救済合併みたいな案件ばかりで す。
助けてくれ、支援してくれとね。
こんなのはダメ 31 JUNE 2001 です。
たいていは親会社の経営がへばっている。
ただ 物流子会社で良いのはね、みんな裸なんですよ。
これ は物流子会社懇談会なんかに出ていると分かるのです が、隠れ負債みたいなものは何も持っていない。
もっ とも、具体的にアライアンスを組むという話はまだあ りません」 「私はね、意外に上手くいくのは、むしろ異業種な んじゃないかと思っています。
親同士の商売がバッテ ィングするというケースは、やはり難しい。
どこの物 流子会社だって自分のところを使って欲しいと思う。
結局、子会社が先に話を出すと、まとまる話もまとま らなくなってしまう。
ですから親同士が競合している ような物流子会社の場合は、まず親同士が手を 握らな ければ無理です。
仮に同じ業界でも、展開している物 流ネットワークがまったく異なるといったケースなら 別ですけどね」 人事評価でレベルが分かる ――ダメな物流子会社というのは、具体的にどういう 部分がダメなんでしょうか。
「これは一般論としてね、メーカーの世界で一番偉 いのは技術者なんです。
彼らがエリートで中心に位置 しているという感覚がある。
そうした世界で物流とい うのは、決して陽の当たる仕事ではない。
本当はそん なことはないんですがね。
こういうカルチャーを引き ずっていると、親のスネをかじるのは当然みたいな雰 囲気になってしまう。
余剰人員の受け皿として子会社 を使ってきたようなところでは、そのツケが必ず回っ てきてしまいます」 「だからこそ我々は今年四月に人事制度の変更に着 手しました。
これまでは富士電機の、つまり製造業 界の人事制度だったのを、三年かけて物流業界の人 事制度に変えます。
基本は二・六・二です。
給料が 上がる奴が二割、横這いは六割、高齢者などを含め て下がる奴も二割出てきます。
三年間だけ従来の給 料を保障しますが、二〇〇四年以降は実力主義にし ます」 「なぜ、こんなことをするかというと、物流子会社 が数グループに再編されるとき、お互いの給与体系を 見るわけですよ。
そのときに『我々は電機連合ですか ら』なんて言ってたら、話にならない。
そうするとね、 これではどうですかと言える標準モデルを率先して作 る必要がある。
他の物流子会社が賛同してくれるよう なモデルを構築していきます」 ――なるほど。
逆の見方 をすれば、物流子会社の優劣 を判断する上で、給与体系などに注目すれば非常に良 く分かるわけですね。
「その通りです。
実力のある人間を評価する仕組み はどうで、実際にどういうふうに給料が上がっていく のか。
同年代の社員の給与分布はどうなっているのか。
何歳になれば課長になれるのかとかね。
その会社の考 え方が非常に良く分かりますよ」 ――親会社からの人材受け入れ要請はないのですか。
「理不尽なことに対してはノーと言いますし、もう 出向はありません。
親会社から移ってくる場合は、す べて転籍です。
人事の面で親離 れしていないのは社長 人事だけですよ。
これは大株主で五二%の株式を保有 しているのですから、仕方ありませんがね」 ――3PLについてはどうお考えですか。
「私はね、あんまりそういう横文字は使うなと言っ ているんです。
もっと現業で何をできるかを重視すべ きです。
でもね、やろうとしていることは日立物流な んかと一緒ですよ。
あちらには二百数十人の専門部隊 がいますが、当社にも五〇人ぐらいいますから」 特集 【プロフィール】 中尾靖博(なかお・やすひろ)、95年富士電 機・取締役民生機器事業本部長、97年富士電 機・常務取締役、99年4月富士物流・取締役、 99年6月富士物流・社長

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