ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年6号
特集
消える物流子会社 同業界の子会社とも手を結ぶ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2001 32 ――SCMの普及が、物流子会社の存在意義を問い 直していますね。
「私はね、当社がリコーの物流子会社であるという 意識があまりないんです。
あくまでも物流関連会社と して位置付けています。
現在、リコーのなかで物流企 画を担当している社員は一〇人くらいしかいません。
生産と販売に数人、あとは国際部門に二、三人いる だけです。
つまり、ほとんどはうちが主役でリコーグ ループの全体最適化を考えている。
ですから、SCM の普及で当社の存在意義が問われるということは、な いと思いますよ」 ――親会社の連結決算への移行は、物流子会社にど のような影響を与えるのでしょうか。
「大きく二つ あると思います。
一つは我々にとって 良い話なんですが、リコーグループの連結経営のコア として物流部門が位置付けられることになる。
子会社 という見方ではなく完全な関連事業会社とみなされま す。
もう一つは、利益の扱いに関する話がある。
従来 は、リコーグループの各社が独自性を持って事業に取 り組んでいれば良かった。
しかし、連結経営の時代に はグループ全体の利益を追求することになります。
そ れ出せ、やれ出せ、それはもう大変です。
生産部門が 利益を出すためのコストダウン要請も熾烈ですから、 関連会社にとっては厳しい時代になります」 サプライチェーンを全て担う ――先日、河路社長はグループの執行役員に就任され ました。
これはリコーがグループ経営のなかで、きち んと物流を位置付けていることのあらわれと判断して いいのでしょうか。
「そうだと思いますよ。
グループ経営の思想さえし っかりしていれば、物流は連結経営のなかの大きなコ アです。
先日もリコーの社長、専務らと話をしてきた んですが、そこで私は言ったんです。
経営のやり方は お任せする。
ただし、戦略を間違えたら大変なことに なる。
物流に関する戦略の一貫性だけは確保して欲し い、とね」 ――河路社長の目から見て、一般的な物流子会社が 直面している課題とは何で しょうか。
「いろいろあると思いますが、資産を持ち過ぎてし まった物流子会社はキツイでしょうね。
もう一つ、こ れは当社の課題でもあるのですが、サプライチェーン 上のあらゆる物流サービスを受け入れられる体制を作 る必要があります。
私が九年前に社長に就任して以来、 言い続けてきた?一貫統合〞とか?一気通貫サービ ス〞にもつながるんですが、せっかく仕事を依頼され たのに『ここの部分はできません』では話にならない。
そのためにはアライアンスや提携を、地域ごと、サー ビスごとに、深く掘り下げる必要があるんです」 ――協力物流業者との付き合い方などが具体的に変わ っ てきているわけですか。
「当社の協力物流業者はものすごく多いんです。
全 国に二百数十社います。
動脈物流から静脈物流へ、ま たエンドユーザーまでの毛細物流へと守備範囲を拡大 しているわけですから、数自体が増えるのは仕方ない。
ただね、どんどん入れ替わって、年に二割ぐらいの顔 ぶれが変わる会社にしたいんです。
去年の秋から本格 的なコストダウン改革をスタートして、すでに協力業 者の入れ替えもかなり出てきています」 ――改革に着手したタイミングが去年の秋だった理由 は、何かあったんですか。
「まさに、SCMの普及と連結決算の影響です。
連 結経営の時代には子会 社だけが利益を出しても仕方 がありません。
つまり、関連会社としてはグループの 「同業界の子会社とも手を結ぶ」 『一貫統合』といった独自の表現ながら、90年代の始めからSCM を実践してきた。
環境経営に傾注する親会社をサポートし、リサイク ルなどのサービス事業で収益を得る仕組みも構築しつつある。
今年度 中に拠点数を倍増し、法人向け物流プラットフォームの全国展開を完 成する。
リコーロジスティクス河路鎰夫社長 第2部有力物流子会社トップインタビュー 33 JUNE 2001 コストダウンに貢献できなければダメです。
場合によ っては子会社であっても相見積もりの対象になります。
そうならないためには、こちらから積極的にコストダ ウンを提案していくしかありません」 「いまメーカーにとっては二つの大きな流れがあるん です。
一つは超低コストのモノ作りのためのSCMの 実現。
もう一つはアウトソーシングです。
大競争時代 のなかで、企業は急速に、人・モノ・金といった経営 資源をコア業務に集中しようとしています。
しかし一 方では、物流という機能が極めて重要だという理解も 深まってきたため、多くの企業が信頼できる3PLな どに任せようとしている。
このSCMと3PLの波が 二つ同時にきているため、メーカーにとっては凄く大 きなうねりになっています」 外販拡大が生き残りの条件 ――親会社の物流改革を進めれば、子会社の売上高 は減りかねません。
「平均論でいけば確かにそうでしょう。
実際、リコ ーグループは三年後にリードタイム七五%レス、在 庫七五%レスという目標を掲げています。
これは、当 社にとっては保管と荷役の仕事が大幅に減ることを 意味している。
しかし、他にも進めていることがあり ます。
エンドユーザー(主に法人)への末端配送の 見直しです。
当社はこの部分をお任せいただいて、全 国四七都道府県のエンドユーザーへの配送をすべて やります」 ――受託する業務範囲を拡大する余地があるというこ とですね。
「私は販売関係の出身ですから販社の社 長などと親 しいんですが、これまでこの部分のユーザー配送は、 販社のセールスマンが担うケースが少なくなかった。
そうするとね、販売成績の良い営業ほど納品件数が増 える。
しかし、納品は一人ではできませんから成績の 悪いセールスマンを連れて行くんです。
販売の現場を 見ていると、一番、成績の悪い奴が、『おいA君、手 伝え』とか何とか言われて一生懸命にやっている」 「この人材確保が難しく、取ったら高給を約束しな ければならない時代に、こんな人の使い方をしてはダ メです。
そこで私はセールスは営業に特化すべきだ、 物流業務は分離 しなければダメだと説得して、末端配 送を当社に任せてもらえるよう提案したんです。
すで に十一都道府県でやっていて、全物量の六割近くをこ なしています。
業務範囲は確実に広がっています」 ――五年ぐらい先を見ても、まだ業務範囲の拡大によ る増収の余地はありますか。
「いやいや、せいぜい三年です。
それまでに既存の インフラとソフトを活かして、早く外販を伸ばさない と。
それができなければ大変なことになる」 ――現在の外販比率はどのくらいですか。
「これはね、親会社の影響を大きく受けるもんです から一概には言いにくいんです。
リコーの売上高が変 わると、簡単に二、三ポイント変わっ てしまいますか らね。
ただ、すでに三〇%弱はリコーグループ以外の 売り上げです」 ――外販比率を伸ばすために具体的に今後、何をやっ ていきますか。
「今年の前半は、リコーの法人ユーザー向けの毛細 物流ネットワークの構築に全力を上げます。
現在の全 国の拠点数は四〇数カ所ですが、これを八〇数カ所ま で増やします。
まずは今期いっぱいかけて全国のプラ ットフォームを構築するのが第一歩。
この物流プラッ トフォームと、すでに当社が持っている全国規模の情 報ネットワークの強味を活かして、将来は全国規模の 特集 【企業概要】 リコーロジスティクス:本社・東京都品川区、1964年三愛運輸設 立、89年リコーロジスティクスに社名変更、資本金7億1806万 円(2000年3月末)、出資比率:リコー71.1%、売上高487億円 (2001年3月期見込み)、従業員数958人(2000年3月末現在) 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 96年度 (売上高) 97年度 98年度 99年度 00年度 リコーとリコーロジスティクスの売上高の推移 リコー(億円) リコーL(千万円) (3月決算) JUNE 2001 34 顧客を獲得していきたいと考えています」 サービス事業を拡大する ――拠点は増やすけれども、資産は持たない、と。
「そうです。
ですから積極的に営業倉庫を利用して います。
その辺りは従来の物流子会社の経営とは大き く違いますね。
昔だったら、早く資産を持てと言って いましたから。
市場のニーズというのは目まぐるしく 変わります。
当社もいまでこそリコーの販社が一番、 望むところに拠点展開をしていますが、将来的にこれ がどうなるかは分かりません。
危なくて資産なんか持 てませんよ。
いまは全体の三割弱が自前です」 ――三割弱という数字は今後どうなるのでしょうか。
「これはね、微妙なところです。
なかには戦略的な拠 点として、どうしても確保したい場所 もありますから ね。
いま都内の物件の価格は結構、下がっています。
しかし、欲しい物件となるとなかなか見つからない。
い まも何カ所か当たっているのですが、一〇トン車が入 れて、住宅地とも適度に離れている物件なんてそうそ うありません。
こうなると一層のこと買ってしまいた くなるんです。
でもね、自前の施設は三割弱程度とい うのが、いいところじゃないでしょうか」 ――プラットフォームを使った事業拡大のほかに、外 販拡大の具体的な戦略はありますか。
「何といってもグリーン・リサイクルの分野ですよ。
最近では、当社の静脈部分の活動を評価して、仕事 をいただけるケースが増えてきました。
私は長 らく営 業をやってきたから分かるんです。
売ったら必ず回収 するというのを、ずっとやってきた」 「ただ世の中変わったなと思うんですが、回収業務 というのがビジネスとして成り立つようになってきた。
私が営業の最前線にいた二〇年前ですと、購入しても らった製品の設置や回収はサービスです。
それがいま や、納品して設置するとお金をもらえるようになった。
下取りについても同じです。
昔はサービスだったもの が、いまは有料で引き取っています。
つまり、サービ スを買ってもらえるようになっている。
これは大きく 変わった点です」 同業のライバルと組む ――共同化については、どのように見ていますか。
「いま構築中のプラットフォームが完成すれば、次 のポイントは共同化です。
そのときは配送ネットワー クを充実させるのとは、また別の意味でのアライアン スが重要になります」 ――組む相手は物流子会社になるわけですか。
「その通りです。
とくに私は、同じ業界の物流子会 社とのアライアンスに期待しています。
どこの物流子 会社もね、地域によって得手不得手があるものです。
そこはギブ&テイクで、あるエリアを任す代わりに、 ここのエリアはうちにくれとかやるわけです。
電機、 精密、通信、OA機器の四つの業界の物流子会社と は組める可能性があるはずです」 ――そうしたアライアンスは合併まで進みますか。
「そ れは、どうでしょうか。
親会社の意向もありま すからね。
私が販売にいたときに実際に経験したこと ですが、コスト削減のためにライバル企業と提携する という話が出たことがあります。
しかし、その瞬間に もマーケットでは熾烈な販売競争をしている。
私は猛 反対しました。
その経験からすると、提携だけでも相 当なネゴが必要になるはずです」 ――近い将来、物流子会社の大再編が起こるのではな いかという見方があります。
「あると思いますよ。
そのためには先手先手を打つ 35 JUNE 2001 必要がある。
まずは親会社から見て、安心して物流業 務を任せられる企業になる。
実は当社はいま、大塚商 会さんと組んで、アスクルに対抗して一万アイテムを 一日二回配送するという通販ビジネスを手掛けている んです。
B to Cがどんどん伸びていく時代に、当社だ けが年間三六五日、二四時間の営業はできませんでは 絶対に通用しない」 「今後はITを使った同じような事業がどんどん増 えるはずです。
この受け皿になるためには、VMI ( Vendor Managed Inventory )から配送までを担え る力を備えておく必要がある。
そうしなければ、いく ら親子の関係があっても、ヤマトとか佐川にみんな持 ってかれちゃいますよ。
だからこそ大塚商会さんとの 件についても先行投資と割り切ってやっている。
儲か りませんから、社員のなかには納得していない者もい ると思いますがね」 ――御社がベンチマークの対象としている物流子会社 はありますか。
「そりゃ、やっぱり日立物流です。
外販比率をどん どん拡大している点は見習いたい。
当社もいまは三割 弱の外販比率を、来年度にはまず三割に乗せるつもり です。
そうならないと物流企業としての魅力がなくな ってしまいます。
外から見たときに、何だ物流子会社 じゃ ないかと思われてしまう。
子会社に見られないた めにも、企業価値を高めなければダメです。
実際、リ コーからきている社員の給料だって、すべて当社が負 担しているんですから」 物流子会社のあるべき姿 ――そう考えていくと、新しい時代の物流子会社にふ さわしい人事制度や給与制度というのが不可欠になっ てきませんか。
「難しい部分ですね。
一般的な給与水準などが東京 と地方で違いますから、ある部分の手当に差をつけて はいます。
しかし、当社がサービス別、事業別にびし っとした給与制度になっているかというと、そこまで は言い切れない」 「本当はね、私は仕事の内容でも給与に差をつけた いんです。
しかし、地方の小さい事業所に行くと、そ こで働く社員は輸送からピッキングまで何でもやって いる。
これが都市部の大 規模事業所になると完全に分 業されている。
ここを比較して、給与に高低をつける のは簡単ではありません。
もちろん、何か新しい方法 でやりたいとは思っていますがね」 ――現在の人事制度は、親会社であるリコーのそれと は違うのですか。
「よく似てますよ。
私は物流会社だからといって、親 会社とまったく異なる給与制度を作る必要はないと考 えています。
ただ、外販を増やしていくためには、特 定の分野の人事制度は別にする必要があるでしょうね。
特にITの分野。
これはきちんと評価しないと、優秀 な人材が来てくれません。
こうした分野では手当など の調整はしています」 ―― 上場するつもりはありますか。
「これはね、弱っちゃてるんです。
当社は上場の準 備というのをずっとしてきたんです。
社員持株会もあ ります。
しかし、何のために上場するのかを改めて問 われると困ってしまうんですね。
従来だったら公開に よって資金を調達し、自前の資産を持つというのが一 般的な戦略でした。
それが今では流動性重視ですから、 誰も資産など持ちたいとは思わない。
しかも当社の経 営は実質的に無借金。
資金調達をしなければいけない 理由もありません。
もし上場を目指すにしても、まず はコスト競争力のある会社を作ることが先決です」 特集 【プロフィール】 河路鎰夫(かわじ・いつお)、89年リコー取 締役(販売本部)、92年リコーロジスティク ス社長、94年リコー常務待遇理事、2000年 リコーグループ執行役員

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