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JULY 2001 50
毎年二桁の成長
「これからは何といってもグリーンリサイクル
の分野が伸びる。 最近では当社の静脈部分の
活動を評価してもらって、仕事をいただける
ケースが増えてきた」とリコーロジスティク
スの河路鎰夫社長は意気込む。 実際、同社の
静脈ビジネスの業績は順調だ。 ここ数年、総
売上高の伸びを大きく上回るペースで成長を
続けている。
「私が営業の最前線にいた二〇年前であれ
ば、新製品の設置や顧客が使っていた古い製
品の回収は無料のサービスだった。 それがい
まや納品して設置するとお金をもらえる。 下取りについても今は有料で引
き取っている。
サービスを買ってもらえる時代になった」と
河路社長は説明する。
数十兆円市場と
も言われる静脈物流
マーケットだが、ビ
ジネスとして確立し
たといえる事例はま
だ少ない。 最大の原
因は、使用済み製
品のコスト負担力の
弱さにある。 廃棄す
るためにわざわざ高
いコストを支払う人
はいない。 静脈ビジ
OA機器の設置から回収まで一貫処理
部品の再利用で静脈コストを捻出
環境経営で定評のある親会社と組み、OA機器
のリサイクル事業を軌道に乗せた。 単に運ぶだけ
では物流専業者にかなわないという危機感を背景
に、静脈ビジネスのノウハウを蓄積している。 す
でに中堅パソコンメーカー、ソーテックの使用済
みパソコンの回収を引き受けるなど、静脈での強
味をビジネス拡大に活かしている。
リコーロジスティクス
――エコ物流
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
600
500
400
300
200
100
0
97年 98年 99年 00年
売上構成比(%)
売上高(億円)・静脈B(千万円)
売上高
静脈B
構成比
グリーンロジスティクスの業績の推移
クル〞と呼ぶ環境対応のコンセプトをまとめ、循環型の生産体制に舵を切ることを明確にし
た。 ゴミとして捨てないというだけのリサイ
クルを出発点として、より高度な素材リサイ
クルや部品の再使用へと順次ステップアップ
していく。 このリコーの考え方は、当時の日
本企業の方針としては極めて斬新なものだっ
た。
循環型の物流ネットワーク
リコーグループの物流業務を一手に担って
いるリコーロジも、素早く親会社の動きに対
応した。 コメットサークルの概念がまとめら
れた二カ月後の九四年一〇月には社内に「回
収物流開発室」を設置。 循環型システムに欠
かせない物流ネットワークの構築に乗り出し
た。 その後、リコーグループによるISO1
4001の認証取得などに歩調を合わせて、
従来はあいまいだった回収運賃などのルール
化を着々と進めた。
リコーが他社に先駆けて環境対応を強化し
てきた背景には、主力製品である複写機の商
品特性がある。 複写機を販売する場合、完全
に
新規に購入するケースを除けば、ほぼ例外
なく使用済み機種の下取りが発生する。 リコ
ーロジで静脈ビジネスを統括する上田賢常務
は、「こうした商習慣はリコーとしては何十年
も前から続いていたもの。 要するにお金を出
して使用済み機種を引き取っていた」と解説
51 JULY 2001
ネスの競争力は、いかに安い料金を提示で
きるかで大方が決まるというのが従来の常
識だった。
しかし、すべてを市場原理にゆだねれば過
当競争に陥る。 その最たる例が不法投棄であ
り、そうした非社会的な行為を未然に防ぐた
めに環境関連法案の整備が必要だった。 安易
な低コスト処理の道を法的に閉ざし、その代
わりにリサイクル(再生利用)、リユース(再
利用)、リデュース(使用量の削減)のいわゆ
る「3R」を推進するというのが、最近の環
境法の基本的な枠組みである。
もっとも、こうした法整備によって不法投
棄を
排除できたとしても、使用済み製品のコ
スト負担力が高まるわけではない。 依然とし
て処理コストを負担する排出者からの値下げ
要請は厳しい。 このことがビジネスとしての
静脈物流を一筋縄ではいかないマーケットに
している。
リコーが環境対策に本格的に乗り出したの
は九四年八月に遡る。 社内で?コメットサー
する。
当然、以前から物流業務も発生していたが、
その実態はナアナアで行われていた。 「(リコ
ーロジとしては)車を出せば請求するし、リ
コーにしてみれば納品のついでに持ってって
よという程度の感覚だった」(上田常務)。 回
「グリーンロジスティクスが外販拡
大の武器になる」とリコーロジステ
ィクスの上田賢常務
リコーロジスティクスが担うOA機器のサプライチェーン
動脈物流
静脈物流
在庫補充
出荷 ユーザー直送
納品
回収
回収
部品回収
ユーザー直送
リコー
生 産 拠 点
再生
センター
リサイクル
センター
(全国9カ所)
回収センター
(全国
19
カ所)
中間処理
(再資源化) リ
コ
ー
販 売 拠 点
在
庫
拠
点
リコーロジ
ユーザー
リコーロジ
作業中継拠点
(全国
80
拠点構想を推進中)
JULY 2001 52
収してきた使用済み製品の処理にしても、そ
のまま産廃業者に引き渡すケースが大半。 循
環型には程遠い仕組みだった。
それが、九七年二月に「リコー関東リサイ
クルセンター」を開設した頃から風向きが変
わりはじめた。 リコーロジとしても静脈分野
でのビジネスを強く意識するようになり、よ
り高度なリサイクルを前提に使用済み製品を
扱う体制を整えはじめた。
廃棄を前提としていた従来は、回収してき
た複写機の物流拠点での?野ざらし〞も珍し
くなかった。 しかし、再利用が前提となると
そうはいかない。 リコーロジは既存の物流拠
点に、引き取
り製品の回収・保管という機能
を新たに追加していった。
さらに九八年四月には、リコーが社内に
「リサイクル事業部」を設置した。 同部署は
リコーグループの循環型生産のヘッドクオー
ターともいうべきセクションである。 これに
より基本的な方針をリコーの「リサイクル事
業部」が打ち出し、これをリコーロジ内の
「回収リサイクル室」が具体化、実行すると
いう役割分担が明確になった。
現在、リコーグループは全国一九カ所の回
収センターで引き取った使用済み製品を一時
保管し、これを九カ所のリサイクルセンター
で分解するというネットワークを構築してい
る。 将来的には、いま見直しを進めている動
脈
ネットワークとの整合性をとって、全国八
〇カ所の拠点すべてに回収機
能を持たせる。 その一方で、
全国一九カ所ある回収センタ
ーを九カ所に集約する計画だ
という。
静脈コストを捻出する
しかし、こうした静脈物流
の取り組みには当然、コスト
がかかる。 そのまま製品価格
に転嫁すれば、製品の価格競
争力は弱まる。 環境対応の強
化によって競争力を失うとい
うジレンマに陥ってしまう。
これを避けるために、リコ
ーでは?再生品〞を?新品〞
として扱う体制を作ることで
環境対応の原資を生み出している。
「廃棄していた部品のなかには高価なものも
少なくなかった。 回収品をきちんと管理し、
再利用できるかどうかを厳密に検査する体制
を作れば、リコーは回収費と検査費だけで部
品を
手に入れることができる。 これを生産工
場に対して新品として販売すればリサイクル
のためのコストもまかなえる」と、リコーロ
ジの上田常務はタネ明かしをする。
ようするに外部の協力部品ベンダーからの
新規購入を減らし、その一方で再生品を新品
として活用しているのである。 当然、再生品
は新品より安い。 その差額の枠内にリサイク
ルの経費を収めることができれば、リコーに
とってはコスト削減と環境対応の両立が可能
になる。 しかも、こうして製品が市場を循環
する仕組みを軌道に乗せられれば、動脈分野
での効率アップという二次的な効果も見込め
る。 まさに一石二鳥である。
回収運賃や分解のための手数料は、あらか
じめリコーのリサイクル事業部と、リコーロ
ジの間で体系化してある。 基本的に、運賃は
回収距離と回収機種の重さや形状によって決
まり、新品を運ぶ場合の三分の一程度。 さら
北海道リサイクルセンター
(日本資源技術)
回収センターの全国拠点
※2000年11月現在、( )内はリサイクル事業提携先
東北リサイクルセンター
(リコーロジスティクス)
北関東リサイクルセンター
(グリーンサイクルシステムズ)
南関東リサイクルセンター
(日新産商)
上越・北陸リサイクルセンター
(ミナミ金属)
関西北リサイクルセンター
(大特産業)
九州リサイクルセンター
(リサイクルテック)
関西南リサイクルセンター
(日新産商)
中部リサイクルセンター
(リサイクルテック中部)
リサイクルセンター・回収センターの全国拠点
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に、これとは別にリサイクルのための分解処
理や部品抜き取りのための工賃を、リコーロ
ジが協力リサイクル業者に支払い、後ほどリ
コーに請求するという流れになっている。
リコーロジの手掛ける回収物流の実際の作
業手順は次の通りだ。 まず、使用済み複写機
を「回収センター」へと持ち込む。 ここで引
き上げてきた機種に関する情報、つまり機種
名や機種番号、カウンター情報(コピーの利
用枚数)などを「回収リサイクル情報システ
ム」というデータベースに入力。 備え付けの
マニュアルに従って機種の破損状況などをチ
ェックし、この情報もデ
ータに反映する。 そ
して機種とデータをヒモ付けするためのバー
コードラベルを使用済み複写機に添付してか
ら「リサイクルセンター」へと横持ちする。
次工程となるリサイクルセンターでは、再
生する部品の抜き取り作業や、中間処理のた
めの分解作業を行う。 しかし、「リコーロジに
はどの部分を再利用するかの判断はできない」
(上田常務)ため、指示はリコーのリサイクル
事業部が下す。
事前に「回収センター」で吸い上げられた
情報を受け取った同事業部は、グループのサ
ービス会社が持つ当該機種のメンテナンス情
報と照らし合わせながら、どの機種のどの部
品を再生すべきかを決める。 これを「回収リ
サイクル情報システム」を介してリサイクル
センターに指示するという手順
である。
帰り荷を静脈輸送で確保
一連の回収ネットワークを整備するなかで、
リコーロジはオペレーションを低コスト化す
る工夫も重ねてきた。 その追い風になったの
が、リコーが打ち出した「複写機だけでなく
ファクスなどのOA機器やサプライ品(主に
トナー)、また補修部品についてもすべてリサ
イクルの対象とする」という方針だった。
使用済み複写機を回収する際に、同じオフ
ィスから出てくる物品を荷物として相乗りさ
せれば運用効率は高まる。 なかでもサービス
部品の物流における取り組みは、リコーロジ
にとって新たな静脈ビジネスの可能性を切り
ひらくものだった。
リコーロジは約一年半前から通称?8M〞
(エイト・モーニング・サービスの略)という
サービス事業を展開している。 東西二カ所のサービス・パーツ・センター(SPC)に在
庫してある補修部品を、全国のサービス会社
や販社に配送するというサービスである。 前
日一八時までに受けた注文を、必ず翌朝八時
までに届けることから「8M」と呼ぶ。
こうした部品配送サービスそのものは従来
からあった。 だが翌朝必着という厳密なルー
ルではなかったため、サービス会社は万一の
ために部品在庫を多めに持ち、場合によって
は未使用のまま不良在庫化してしまうケース
すらあった。 それが「8M」を利用すること
で
、サービス会社は回転率の早い部品だけを
在庫するように変わった。 すでに全国八〇〇
カ所のサービス拠点の半分以上をカバーする
体制を整えている。
部品リサイクルの開始が静脈
ビジネスの追い風になった
機種ごとに違う作業
指示を管理するため、
バーコードを利用し
ている
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全国に九カ所あるリコーのリサイクルセ
ンターの運営主体は雑多だ。 直接、リコー
が運営主体になっているケースもあれば、
東北センターのようにリコーロジが全額出
資している拠点もある。 なかには大手家電
メーカー主体の施設が、リコーロジの協力
リサイクル工場として機能しているケース
もある。
その一つ「北関東リサイクルセンター」
の運営主体は三菱電機である。 株式会社グ
リーンサイクルシステムズ(GCS)という
正式名称を持つ同社の資本金は一億一〇〇
〇万円。 三菱電機が一億円、リコーが一〇
〇〇万円を出資している。 主にOA機器の
人手による分解作業を手掛けており、年商
約四億円のうち八割がリコー向けの仕事だ。
千葉県市川市にあるGCSは「東浜リサ
イクルセンター」という施設内に入居して
いる。 株式会社ハイパーサイクルシステム
リコーのリサイクル事業部が打ち出した
「部品もリサイクルの対象に加える」という方
針は?8M〞を展開するリコーロジにとって
歓迎すべき話だった。 サービス会社からの
?8M〞の注文はほぼ毎日ある。 配送車両は
ダイヤグラムを組んで運用している。 その納
品の帰り荷を確保できることになった。
使用済み部品の多くはリコーロジがサービ
ス会社や販社から拠点に持ち帰った後、その
まま廃棄処分されてしまう。 ただし、リコー
のサービスマンが「再利用が可能」と判断したものはSPCへ転送される。 その輸送にも
?8M〞の車両を利用できるようになった。
リコーロジの静脈ビジネスは、親会社によ
る環境対応の積極化がその背景にある。 親会
社のニーズは子会社を育てる。 これによって
リコーロジが外販を拡大できれば、リコーグ
ループ全体の利益になる。 実際、静脈ビジネ
スの積極化は、リコーロジにとって新規荷主
の獲得につながっている。
?逆工場〞を支えるリサイクル拠点
「リサイクルはコストの積み上げ
では通用しない」とグリーンサイ
クルシステムズの菱孝社長
今年四月には、中堅パソコンメーカーであ
るソーテックの法人ユーザーの使用済みパソ
コン回収を全面受託した。 四月一日に施行さ
れた「改正リサイクル法」という追い風はあ
ったものの、これまでに蓄積してきたノウハ
ウが効いた格好だ。 「今後はOA業界のプラ
ットフォームとして、どんどんリサイクル業
務を引き受けていきたい」と上田常務の期待
は膨らむ。
(岡山宏之)
ズ(HCS)という会社が隣接しており、
こちらは資本金四億九〇〇〇万円のうち三
菱電機が七割を出資する家電リサイクルの
ための中間処理工場である。 メーカー直営
のリサイクル工場として九八年五月という
手際よく複写機を分解していく
(グリーンサイクルシステムズ)
55 JULY 2001
早い時期に稼働した施設で、全国十数カ所
にある家電リサイクル施設の先駆け的な存
在だ。
リコーロジが持ち込んだ使用済み製品は、
まずGCSで再生部品の抜き取りやリサイ
クルのための手分解と分別処理を施される。
その後、隣接するHCSへと運び込まれ、
冷蔵庫やテレビなどの家電四品目と一緒に
専用機械で破砕処理にかける。 つまり、最
終的に複写機を素材別に分別処理している
のがHCSなのである。
コストの積み上げは通用しない
三菱電機の製造部門出身の菱(ひし)孝
GCS社長は、「リサイクル工場ではコス
トを積み上げるという考え方が通用しな
い」と強調する。 一般にメーカーの生産工
場ではコストの積み上げによって原価が決
まり、その原価を低減しようとコスト削減
に励む。 しかし、このモノ作りの常識がリ
サイクルの現場では通用しない。
それでなくてもGCSの主要顧客である
リコーは、複写機の分解・リサイクル処理
を自ら手掛けてきた経験から独自のコスト
基準を持っている。 いきおい「リサイクル
費用はこれだけ支払うから、その枠内で処
理してくれ」という話になる。
しかも、「機械による破砕と違って人手
による分解は高くつく。 リサイクル率を上
げれば上げるほど処理コストも高価になっ
ていく」(菱社長)。 そのため九九年三月期
の決算では、初年度から収支トントンの事
業計画だったにもかかわらず、三億二六〇
〇万円の売り上げに対して数千万円の赤字
を出してしまった。 「当初、想定していた
以上に製品を壊すことの生産性が上がらな
かった」と小山一栄工場長は原因を振り返
る。
ただし、その後の業績はほぼ計画通りに
推移している。 操業二年目の業績は売上高
四億二〇〇万円(前年度比二三%増)。 作
業効率を改善することで利益水準も何とか
収支トントンにすることができた。 三年目
となる二〇〇一年三月期決算は、まだ見込
み値ながら、売上高四億六〇〇〇万円、利
益一〇〇〇万円を予定している。
リコーグループは、あらかじめ取り決め
た処理単価に、実際の処理重量をかけた金
額をGCSに支払っている。 GCSがリコ
ーロジに請求し、リコーロジは後ほどリコ
ーのリサイクル事業部に請求するという手
順だ。 リコーのリサイクル事業部の指示に
基づく再利用部品の抜き取り作業について
は別途、定めた作業単価に基づいて支払わ
れている。
売り上げの約八割をリコーグループに頼
っているGCSは現在、リコー以外の仕事
を
増やすことで売り上げの拡大を図ってい
る。 すでにパソコンのリサイクル等を数多
く請け負っており、顧客には日本IBM、
セイコーエプソン、コンパック、日本ゲー
トウェイといった有力メーカーが並ぶ。
ライバルである産業廃棄物の中間処理業
者との差別化ポイントについて、菱社長は
「親会社からは赤字になるような仕事はす
るなと言われている。 法律を遵守しながら、
二次公害の問題にまで配慮しながらリサイ
クルに取り組むのが我々の強味」とアピー
ルする。
グリーンサイクルシステムズの小
山一栄工場長は「当初はていねい
に壊しすぎていた」と反省する
部品抜き取った後は破砕機でバラバラにしてから素材別に分別する
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