ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
特集
小売り物流のカラクリ 解説 コラボレーションの理想と現実

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 14 センターフィー上昇中 日本の流通業界に「一括物流」が広がっている。
チ ェーンストアが自社専用センターを設置して、複数の 調達先から仕入れた商品をひとまとめに店舗に納品す るという取り組みだ。
チェーンストアが物流センター を持つことは、欧米の流通業界でも常識とされている。
しかし、日本の場合には、他の国では見られない特異 な点がある。
「センターフィー」の存在だ。
日本のチェーンストアの大部分は、自社センターの 運営費を自分では負担していない。
運営費はセンター フィーという名目で、調達先卸やメーカーなどのベン ダーから徴収している。
調達価格にはベンダーが各店 舗に納品するための物流費が含まれている。
それをセ ンター納品に切り替えることで、ベンダーの配送費負 担は減る。
その分はセンターフィーとして小売り側に 還元して欲しいという理屈だ。
それだけ聞けば、納得できる話のようだが、実態は 違う。
一般にセンターフィーは、取引金額に対する割 合(%)で設定される。
流通マーケティング研究所の 調査によると、現状では「表1」のような水準になっ ている。
この割合は、小売りによって一方的に決めら れている。
結果としてベンダーは、それまで納品のた めに負担していた物流コスト以上のセンターフィーを 支払わなければならないハメに陥っている。
しかも、 年を追うごとにセンターフィーは値上げされる傾向に ある。
「昨年と比べても、今年は総じて一ポイント程 度の値上げが行われているようだ」と臼井秀彰流通マ ーケティング研究所代表は説明する。
財団法人食品産業センターは今年三月、国内の食 品メーカー一二二〇社を対象に、センターフィーにつ いてのアンケート調査を実施している(詳しくは本号 八七頁参照)。
その調査結果によると、食品メーカー の大多数はセンターフィーの設定根拠について十分な 説明を受けておらず、その金額についても納得してい ないと答えている。
さらに同調査では「実際には(小売りはセンター運 営を委託している)物流業者に数%しか支払っていな いのに十数%を要求される」というセンターフィーの ピンハネや、「センターがないのにセンターフィーを要 求する。
卸売業が小売業者のセンターフィー以上に上 乗せして要求する」というケースすら報告されている。
実際、本誌の取材にも複数の関係者が小売りによ るセンターフィーのピンハネを証言している。
大手チ ェーンといえども例外ではない。
売り上げの減少に苦 しむ現在のチェーンストアにとって、センターフィー のピンハネは今や貴重な収益源となっている。
メーカー別縦割り流通が温床に 小売りがベンダーに要請するセンターフィーはサプ ライチェーンを逆流する。
卸からマージンを剥ぎ取り、 メーカーの収益を圧迫する。
本来、SCMは取引先と のコラボレーションによって、サプライチェーン全体 で利益を上げるというアプローチをとる。
センターフ ィーはその定石に真っ向から逆らい、取引先の不信感 をいたずらに増幅させている。
もっとも、こうした事態を招いたのは、ベンダー側 にも責任がある。
納品を一回にまとめれば店舗の荷受 け負担が減ることは、以前から指摘されてきた。
しか し、小売りがそれを望んでも、メーカーは特約店卸と いう自社専用チャネルを堅持することで、その実現を 拒んできた。
こうしたメーカーによる流通支配がセン ターフィーを生む温床となった。
小売りが調達先を一つの卸に集約すれば、必然的 解説 コラボレーションの理想と現実 コラボレーション(協働)が、サプライチェーン・マネジメント (SCM)を成功させるカギだと言われる。
駆け引きに終始してい た取引先との従来の関係を改め、お互いに協力しなければ、サプ ライチェーン全体を最適化することはできないというわけだ。
と ころが日本では、SCMの名のもとに、小売りとメーカーの間で 物流費を巡る暗闘が繰り広げられている。
本誌編集部 Report 15 JULY 2001 に納品も一括りになる。
しかし、メーカー別の特約店 制度があるため、小売りは同じカテゴリーの商品であ っても各メーカーの特約店からそれぞれ仕入れなけれ ばならない。
調達先を集約できない以上、納品をまと めるには小売りが自分で物流センターを持つしかない。
それによって、確かに一括物流は実現できる。
ベン ダーごとに店舗に納品していた時に比べ、納品輸送の コストは下がり、店舗運営も効率化される。
しかし、 メーカーの既存の縦割り流通を温存したまま、小売り が専用センターを設置すれば、単純にサプライチェー ン上の中継点が一カ所増えてしまう。
流通の川下の最 適化は進んでも、サプライチェーン全体の効率は逆に 悪化する。
ボストンコンサルティンググループ主催の「ECR ニッポン」プロジェクトが九七年に実施した調査によ ると、日本の大手メーカーと大手チェーンストアを結 ぶサプライチェーンのうち、八四%は工場から店舗ま での間に二カ所、もしくは三カ所の中継物流拠点を経 由している。
これに小売りの専用センターが加わると、 一ケース当たりの物流コストは著しく上昇してしまう。
二カ所経由で七六七円だった一ケース当たりの物 流コストが三カ所経由になると九六〇円へ。
さらに四 カ所経由では二四六〇円に跳ね上がる。
調査時点で の一ケース当たりの平均販売単価四一〇〇円に対し て、実に六〇%が物流コストという計算だ。
これでサ プライチェーン全体の利益など出るはずがない。
小売りが専用センターを設置するのであれば、それ に合わせてベンダー側の拠点を中抜きしない限り、ト ータルコストは増加する。
理論的には工場から店舗に 直送した時に、物流コストは最も安くなる。
しかし、 実際にはトラックが満載になるだけの商品を各店舗で 在庫することは難しい。
そのため工場と店舗の間に、 物流拠点を一カ所だけ経由するという形が現実的な 最適解となる。
ちなみにこの時、物流コストは四九四 円になる。
欧米の大手小売りと大手メーカーの間では、中継 点一カ所というフローが既に標準となっている。
メー カーは工場からトラックに満載の商品を小売りチェー ンもしくはフルラインの品揃えを持つ卸の物流センタ ーに納品する。
センターではその商品をいったん在庫 し、各店舗に必要な商品をピッキングして一括して納 品するという流れだ。
ところが日本の場合、このフローがとれない。
日本 の小売り専用センターの多くは在庫を持たないトラン スファー・センター(TC)として設計されている。
在庫がないため、ベンダーは毎日の注文に応じてジャ スト・イン・タイムで小売りのセンターに納品する必 要がある。
しかも、ほとんどの場合、店舗別にピッキ ングした上での納品が求められている。
結局、ベンダ ーは在庫機能と仕分け機能を持つ既存の物流インフラを使用せざるを得ない。
小売りは米国から何を学んだか 日本のチェーンストアは専用センターを設置しても、 在庫を持とうとはしない。
在庫リスクも店舗別の小分 け機能も依然としてベンダー任せだ。
さらにはセンタ ーの運営も物流業者に任せている。
つまり、物流セン ターを所有してはいても、物流機能は何一つ持ってい ないのである。
日本のチェーンストアは、その経営ノウハウの大部 分を米国から学んだと言われている。
実際、日本のチ ェーンストアの経営者たちは創業以来、繰り返し渡米 し、現地のチェーンストアを熱心に視察して回ってい る。
しかし、店舗の形態など目に見えるところは採り 表1 センターフィーの一般的な料率 GMS・SM系 CVS ドラッグストア ホームセンター  DC TC(ベンダー仕分け) TC(ベンダー仕分け) DC DC TC(ベンダー仕分け) TC(ベンダー仕分け) TC(ベンダー仕分け) 6〜7 3〜4 4〜6 8〜9 7〜8 4〜5 4〜6 9〜10 6〜7 4〜5 3〜5 8〜9 5〜7 3〜4 1.5〜3 3〜9 加工食品 菓 子 雑 貨 雑貨・医薬品 雑貨・DIY (%) 出典:流通マーケティング研究所 特集 小売り物流のカラクリ JULY 2001 16 入れても、目に見えない経営システムについては素通 りしてきたようだ。
日本におけるチェーンストアの草分けの一人、セイ コーマートの赤尾昭彦副社長は「日本のチェーンスト アは確かに米国から学んだが、マネジメントに関して は全く学んでこなかった。
米国に行っても店舗の写真 をとって、棚の寸法を測ってばかりいた。
結局、表面 だけに目を奪われて、チェーンオペレーションの一番 根っこの部分を見てこなかった」と指摘する。
結果として日本のチェーンストアは、店舗の生産性 を評価する会計手法、在庫管理システム、そしてロジ スティクスのオペレーションといった本部機能の基本 を欠いたまま、やみくもに店舗数と売り上げの拡大に 専念してきた。
メーカーや卸などのベンダーもそれを 良しとした。
右肩上がりに消費が拡大していく環境で は、そのほうが皆、都合が良かった。
そのツケが今、回ってきている。
消費の拡大はもは や望めない。
グローバルに展開する流通外資の本格的 な参入も始まった。
足元ではユニクロや一〇〇円ショ ップなど、新業態も台頭している。
効率的なチェーン オペレーションの裏付けを欠いた店舗数の拡大は、今 や自らの首を絞めるだけの悪手となった。
GMSやスーパーなど、既存のチェーンストアは自 らのビジネスモデルを改めて検討せざるを得ない。
同 様にメーカーや卸も、これまでの流通政策に抜本的に メスを入れる必要に迫られている。
その突破口となる のがSCMであり、取引先とのコラボレーションだ。
センターフィー問題などで、駆け引きを繰り返してい る時間はない。
日本型コラボレーション 米国では現在、「CPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment: 需要予測と在庫補 充のための共同事業)」と呼ばれる、SCMの取り組 みが大手メーカーと大手チェーンの間で盛んに進めら れている。
メーカーと小売りが一緒に需要を予測し、 販売計画を立て、同じ目標を目指して日々のオペレー ションを実行するという究極のコラボレーションだ。
このCPFRを実施したことで大幅に販売額を伸 ばしたとするモデルケースも既にいくつか報告されて いる。
しかし、実際には成果を上げられずにいる取り 組みが少なくないようだ。
情報技術上の問題に加え、 効果を出すのに十分な物量を確保できないことが足か せになっているという。
実は同じことが、CPFR以 前のSCMの取り組みでも繰り返し指摘されてきた。
メーカーにとってコラボレーションの直接的なメリ ットは、店舗の販売動向を入手することで、それを生 産計画やロジスティクス計画に反映させて、ムダを排 除できるところにある。
ただし、それには計画に反映 させて意味を持つだけの量の確保が前提になる。
それ なしには効率化どころかコラボレーションの取り組み 分を既存の取引と別扱いしなければならないため、か えってメーカーの手間は増えてしまう。
日本と比較して米国市場ではメーカー側、小売り 側の双方で格段に寡占化が進んでいる。
その米国で超 大手同士がコラボレーションを行っても、量の確保が 課題になっている。
同じことを日本で実施すれば、さ らに困難な状況に陥るのは必至だ。
日本市場でコラボ レーションを成功させるには、欧米の取り組みをその まま真似るのではなく、市場環境に即した日本型のコ ラボレーションをデザインする必要がある。
既にセブン ―イレブン・ジャパンは、扱うアイテム 数を三〇〇〇足らずに絞り、アイテム単位で垂直統 合を進めることで、日本の市場環境に適応した洗練さ EDI:商取引 EDI:事前出荷通知 VMI/CRP:対顧客 VMI/JIT:対調達先 ECRコンセプトの承認 ECRの実施 CPFRコンセプトの承認 CPFRの実施 調達先とのコラボレーション 顧客とのコラボレーション 共同需要予測 ●米国食品飲料業界のコラボレーションの現状(各施策の普及率) 0% 20% 40% 60% 80% 100 出典:ARCジャパン 17 JULY 2001 れたビジネスモデルを作り上げた。
物流面でもセブン が主導権を握ってメーカーから店舗に至るロジスティ クスを完全にコントロールしている。
滋賀県を地盤とする中堅スーパーの平和堂では、「需 要予測は当たらない」ことを前提に、欧米では見られ ない多頻度小口納品を実施することで、日本型の「C RP(Continuous Replenishment Program: 連続自 動補充方式)」を成功させている。
その心臓部となる 物流センターは在庫を持つDC(Distribution Center ) 型として設計し、在庫の所有を卸にすることでベンダ ー側の協力を取り付けた。
この二つのモデルによって、日本市場におけるコン ビニとスーパーのロジスティクスは、ひとまず完成し た。
実際、セブンは「物流については既に一段落つい た」(同社)という認識であり、平和堂の島田恭一物 流事業部兼営業企画部部長も「第一ステージは完了 した。
今後の改革については、物流の視点だけでは見 つけにくい」という段階まで来ていることを説明する。
業種別から小売り業態別へ ただし、GMSや百貨店などの大型店については、 まだ明確なソリューションが見えていない。
数十万ア イテムを扱う大型店が、コンビニの垂直統合を採り入 れようとしても無理がある。
親子関係にあるイトーヨ ーカ堂とセブンの現状を比較しても、それは明らかだ。
だからといって、米国型のメーカー直接取引を導入し て効果を出せるほどの規模も管理機能もない。
結局、ベンダーの力を借りない限り、日本の大型店 のオペレーションは効率化できそうにない。
しかし、 頼みのベンダーはセンターフィー問題を始めとして、 SCMでは終始、小売りに押し切られる形での劣勢が 続いている。
卸は?中抜き〞に怯え、メーカーは莫大 な資金を投じて維持してきた既存のサプライチェーン の扱いを決めあぐねている。
九九年九月、三井物産の主導で、マイカル、日雑 卸最大手のパルタック、そしてP&Gの四社によるC PFRの実証実験が、通産省の支援事業として実施 された。
「アクションSCM」と名付けられたこのプ ロジェクトでは、メーカー・卸・小売りの三層がデー タを共有化してサプライチェーンの全体最適化を目指 した。
その結果、マイカルでは日用雑貨品の販売額を 一・八%伸ばし、在庫を二四%削減することに成功 した。
同時にP&Gでは四%売り上げを伸ばし、欠品 率が五%から一%に下がったという。
この実験結果を受けて、三井物産では他のメーカー や流通業者の参加も促す予定だった。
ところがその後、 アクションSCMの取り組みが拡大したという話は聞 こえてこない。
マイカルが深刻な経営不振に陥ったこ とで三井物産側の意欲が薄れたのに加え、パルタック が実証実験を通じてCPFRは卸中抜きに繋がると懐疑的なスタンスをとるようになったことが原因と言 われる。
しかし、今後よほど急激に寡占化が進まない限り、 日本でメーカーとGMSとの直接取引が欧米並みに 広がるとは考えにくい。
このままGMS専用センター の乱立が続けば、マクロ的に見たときの在庫拠点は分 散し、全体の効率は悪化する。
フルラインを在庫し、 小分け機能を持つ、複数のGMSが共同利用できる 汎用型物流センターが日本には必要だ。
既に特約店制度に象徴されるメーカー別縦割りのサ プライチェーンは役割を終えた。
それに代わり、小売 りの業態に対応した新たな中間流通機能が求められて いる。
しかし、その担い手はいまだ明らかにはなって いない。
特集 小売り物流のカラクリ

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