ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年7号
特集
小売り物流のカラクリ 通過型センターが全体最適化を阻む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2001 28 特約店制度が生んだ?徒花〞 ――国内小売業者による自社専用センターの設置が相 次いでいます。
この動きをどう見ていますか。
「小売業者が物流センターを持つこと自体は問題と は思いません。
物流センターで店別に商品をとりまと めて、店舗の納品を一回で済ませるという取り組みは、 チェーンオペレーションの効率化という意味では理に 適っている。
また、小売業者が自分で物流センターを 持たない限り、一括納品ができないという取引制度上 の問題が、日本に存在していることも事実です」 ――複数メーカーの商品をとりまとめて一括して店舗 に納品するというのは、本来ならば卸が果たすべき役 割です。
「そうです。
ところが日本の場合、メーカーがいわ ゆる特約店制度をとってきたので、同じカテゴリーの 商品を一つの問屋からまとめて調達することができな かった。
そこで小売りは自分で物流センターを持たざ るを得なかった。
そのことは理解できる。
ところが問 題は、これが流通全体として見たときに、必ずしも効 率が良いとはいえない状態になっていることです」 ――どういう意味ですか。
「日本の小売り専用センターの多くは、在庫を持た ない通過型のセンターとして設計されています。
しか し、通過型のセンターでは生産工場から物流センター へのダイレクトな在庫の補充ができない。
通過型セン ターには在庫がないので、ピッキング機能を持ち得な い。
つまりセンターとは別のどこかで店別のピッキン グをする必要がある。
結局、物流の多段階構造を変え られない」 ――小売りが通過型センターを作ると、サプライチェ ーン上の中継点が単純に一つ増えてしまう。
「その通りです。
実際、欧米には日本で見られるよ うな通貨型センターなどありません。
基本的に欧米の 小売業は自社で物流センターを持ち、そこに在庫も持 って、店に必要な量を仕分けて出荷しています。
そう いう機能を物流センターに持たせているわけです。
と ころが日本の通過型センターでは、その部分をベンダ ーに依存する形でオペレーションを構成しています」 ――欧米企業のロジスティクスのケーススタディにも、 在庫を持たない「クロスドックセンター」がよく登場 しますが。
「日本でいう通過型センターやTC(トランスファ ーセンター)と、欧米のクロスドックセンターは、確 かに機能的には似ていますが、実際にはかなり性格が 違います。
欧米のクロスドックセンターは、基本的に パレット単位で積み替えるだけの単純な機能です。
こ れに対して『フロースルー』と呼ばれるタイプのセン ターがあります。
これはベルトコンベアでケースを仕 分ける形のセンターです。
最後に積み替えをする必要 があるのでコストは高い。
やはりこの場合でも、欧米 では在庫スペースを持っている。
在庫を持たない日本 のTCとは違います」 ――となると、日本の小売りの専用センターも在庫型 であればいいわけですね。
「そうですね。
在庫型で仕分け機能を持っていれば いいわけです。
それなら、サプライチェーンのレイヤ ーが一つ減る。
ただし、その在庫を誰が所有するのか というのは、また別の問題です。
小売りなのか卸なの か、それともメーカーが在庫を持つべきなのか。
大手 メーカーと大手小売り間の取引であっても、全売上高 の一%程度のシェアしかない日本の流通の現状を考え ると、私は卸が在庫を持つ形が最もコストが安くなる と考えています」 Interview 「通過型センターが全体最適化を阻む」 P&Gは日本市場特有の商慣習に対して、最も攻撃的に 変革を挑んできた業界の異端児だ。
リベートを廃止して、 商品価格と物流費を明確に分離。
小売りからセンターフ ィーの支払いを要請されても、頑なに「No」の姿勢を貫 いてきた。
その流通政策は当初、大きな反発を受けたが、 改革の成果が業績に現れてくると、競合他社も同社を追 随するようになってきた。
プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク 楢村文信ECRネットワーキングマネージャー 29 JULY 2001 「ちなみに米国のホールセラーを日本では卸と訳し ますけれど、これも日本の卸とは役割がかなり違いま す。
米国のホールセラーは小売りの調達代行機関とし ての役割を果たしています。
日本の場合の特約店のよ うに、メーカーにとっての販売代理店機能を持つ卸は、 米国ではブローカーと呼ばれ、ホールセラーとは区別 されています。
このブローカーというのは基本的には 物流機能を持ちません。
純粋な営業代行業です。
これ に対して物流機能を持っているのがホールセラーとい うことになります」 センターフィーには一切応じない ――メーカーの工場倉庫が店舗別の仕分け機能を持つ わけにはいきませんか。
「当社を含めて日用雑貨品メーカーの多くは発注の 最低ロットを設定しています。
当社の場合はそれが一 〇〇ケースです。
商品の大きさにもよりますが、だい たいパレットで二枚ぐらいの量になります。
それより 細かい単位での出荷には対応していません。
店舗別の 仕分けとなるとロットが合わないことになる」 ――ライバルの花王は、工場倉庫にピッキングロボッ トを備えて、細かな出荷にも対応していますが。
「当社はロジスティクスに関して、花王さんとは全 く違う方針をとっています。
販売後のロジスティクス については、流通業者さんの責任で管理して頂くとい うスタンスです。
当社は九九年に『新取引制度』を導 入して、それまでの取引条件を刷新しました。
この時 に、商品価格と物流費も完全に分離しました」 「相手が卸であろうと小売りであろうと、平等な条 件で商品を提供する。
それが当社の取引制度の根幹 です。
当社はマスプロダクトメーカーです。
同じ品質 の商品を安定して供給しているのですから、相対取引 にコストをかける意味はありません。
そうしないと大 量生産のメリットがなくなってしまう」 ――センターフィーについては? 「センターフィーの支払い要請には一切、応じてい ません。
従来の取引制度では卸の販売価格の中に物 流費が含まれていた。
そのため小売業者は、値段が一 緒なら享受できるサービスレベルを最大にしようと考 えて、自分たちのオペレーティングコストが最も安く なるようなサービスをベンダー側に要求してきた。
セ ンターフィーも基本的に、その延長線上に生まれてき たものだと思います。
しかし、当社の場合は販売価格 と物流費がもともと分離されている取引制度なのだか ら、そうした要請は当然、受け入れられない」 ――しかし、客の要請を突っぱねるのはリスクがあり ますね。
実際、P&Gが九六年に返品やリベートの廃 止に着手した直後には、日本市場における売上高が前 年に比べて約一四%減少したと聞いています。
「取引制度を変えた時点で、流通業者からの反発は折り込んでいました。
センターフィーやリベートを払 わないというのは、メーカーにとって確かにリスクが あります。
それによって当社の商品が扱って頂けなく なる可能性があるわけですからね。
それでも当社は、 そのリスクをとるほうを選んできた」 「その結果、九七年六月期を境に当社の業績は反転し ました。
その後は競合メーカーが売り上げの低迷に苦 しむなかで、シェアを伸ばし、増収増益を果たすこと ができたのですから、選択は正しかったと思います。
実際、これまでの当社の取引制度改革を振り返ると、 当社が新たな制度を始めると、三年後ぐらいには業界 の標準になっている。
返品や最低注文ロットがそうで したし、決済についても当社の改革の後に競合他社が 追随するという形になっています」 ●日本市場におけるP&Gの主な取引制度改革 1988年 現金取引に対するインセンティブ制度を導入 1996年 リベート、報奨金制度を全廃 2000年 最低注文ロットを100ケースに 1996年 「新取引制度」を導入 ・商品価格と物流費を分離 ・手形取引を廃止 ・ピース単位(20ケース以上)の注文を廃止して  最低注文ロットを50ケースに 特集 小売り物流のカラクリ

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