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JULY 2001 34
ボランタリー・ホールセラー
アルビスは日本初の本格的なボランタリー・
ホールセラーとして知られている。 ボランタ
リー・ホールセラーとは米国で生まれた卸売
業の一形態で、中小小売業を組織し、その加
盟店に、商品の供給から従業員教育、商品開
発までを総合的に支援する。 米国ではスーパ
ーバリューやフレミングといったフルラインの
品揃えを持つ巨大卸がこの業態にあたる。
卸がメーカーの販売代理店的役割を果たす
日本では馴染みのない業態だが、それを地方
の中堅企業に過ぎないアルビスが実践してい
る。 同社は生鮮品、加工食品、日用雑貨品な
ど、スーパーで扱うほとんどの商材を扱うフ
ルラインの卸であると同時に、独立系のロー
カル食品スーパー、三〇企業八七店舗を束ね
るボランタリー・
チェーンの本部と
し
て
の
顔
を
持
つ
。
他に十三店の直営
スーパーも運営し
ている。
加盟店は売上高
のほぼ八割の商品
をアルビスから調
達している。 「一般
的な小売りと卸の
関係だったら納品
率が三割を越えた
フルラインの一括配送を武器に
中小スーパーをチェーン化
年商約600億円という規模ながら、米国型のフ
ルラインの卸売業を実現しているアルビス。 富山
県を中心に中小スーパー100店舗からなる強固な
ドミナントを展開している。 大手総合小売業(G
MS)の隙を突き、地域に密着した中規模店なら
ではの生き残り策をとっている。
アルビス
―― 一括物流
2.5
97年 98年 99年
(3月期)
00年 01年
2.5 2.3 2.3
2.1
売上高と経常利益の推移
800
700
600
500
400
300
200
100
0
3.0
2.5
2.0
小売売上高
卸売上高
経常利益率
経常利益率(%)
売上高(億円)
それ以来、
米国流通業
の先進事例
の研究も重
ね
な
が
ら
、
物流センタ
ーの統合に
よるフルラ
イ
ン
化
や
、
小売り支援
機能の充実
を進めてき
た。 九五年
十一月には
名古屋証券
取引所市場
第二部に上
場。 直近の
二〇〇一年三月期の業績(単体)は売上高六
三六億円(前年同期比一・七%増)で、この
うち卸部門の売り上げが四八八億円(同一・
九%増)、直営店部門は一四八億円(同一・
二%増)。 経常利益は十三億円(同五・四%
減)を計上している。
九〇分配送パッケージ
チェーン本部としてのアルビスが営業ター
ゲットにしている小売店は、年商二〇〇〜三
〇〇億円程度のローカル食品スーパーだ。 店
舗数は二〜三店から多くても十数店まで。 自
同社の生い立ちは、一九六八年に中小スーパーの経営者一〇人が組織した共同仕入れ機
構に端を発する。 「北陸スパー本部」という
名称のこの組織は、共同配送センターや情報
システムの整備を進めてきた。 また、その一
方で、直営のモデル店舗を活用して地域スー
パーの経営ノウハウの蓄積に努めてきた。
「最初はどこにでもあるボランタリーチェーン
だった。 ただ卸主催のチェーンが多いなかで、
アルビスは小売りのオーナーの集まりからス
タートした。 そのため小売りのニーズに、よ
り敏感だったことが、結果的に米国の卸と同
じ業態を追求するという現状につながったの
だろう」と山腰部長は振り返る。
同社の置かれている地理的な特殊事情も幸
いした。 有力な業種別卸によるサポート機能
が充実している大都市圏であれば、わざわざ
アルビスが米国流のフルライン卸を目指す必
要はなかった。 しかし、そうした機能のなか
った富山県では全てを自前でやらざるを得ず、
自然に現在の業態に至っている。
アルビス自身がボランタリー・ホールセラ
ーという業態を意識するようになったのは、
九二年のことだ。 「北陸スパー本部」と小売
りチェーンの「チューリップ」が合併して現
在のアルビスが誕生したとき、あらためて自
分達のコア業務が何かを見つめ直した。 その
ときに初めて「なんだ、米国のボランタリー・
ホールセラーと同じじゃないか」と自覚した
のだという。
35 JULY 2001
らそれ以上は増やさない。 売上高の八割もの
納品を一つの卸に任せるのは小売りのオーナ
ーにとっては恐い話。 つまり、それだけ信頼
関係が深まらなくてはアルビスのチェーンに
は加盟してもらえない」とアルビスの山腰靖
典リテールサポート部長は説明する。
この高い納品率がアルビスのチェーン本部
にとっては大きな意味を持っている。 全体の
商品調達を同社が一手に担えるため、販売戦
略を一本化しやすく、特売のスケジュールな
ども効率的に管理できる。 アルビスとしては、
このことが大手総合小売業のバイイング・パ
ワーに対抗していくための有効な武器になる
と考えている。
もっとも、こうした考え方に賛同せず、同
社の持っている機能の一部分だけを利用した
いという小売りの申し出も少なくない。 そう
したオファーに対しては、「サービスをフルラ
インで使ってもらうからこそユーザーの効率
も上がる。 機能の切り売りはしない」と断ら
ざるを得ないという。
アルビスの流通形態(フルライン・一括物流機能)
店舗 店舗 店舗
メーカー 問屋
アルビス(ボランタリーホールセラー)
フルラインによる一括配送(定期・定時配送)
メーカー 問屋 メーカー 問屋
山腰靖典リテールサポート部長は
「3PLのようなパートナー企業に物
流投資を任せたい」と考えている
特集 小売り物流のカラクリ
JULY 2001 36
前のチェーン本部を持つ直前の規模がパート
ナーとして理想的だという。
対象となる店舗の面積は、コンビニエン
ス・ストア(CVS)と大手総合小売業(G
MS)の中間にあたる一五〇〜五〇〇平方メ
ートル程度。 店頭に並べる商品アイテム数は
八〇〇〇〜一万アイテム程度で、こちらも約
三〇〇〇点と言われるCVSと、アイテム数
三〜四〇万点のGMSの中間に位置している。
苦境とされる百貨店やGMS以上に、ロー
カルな食品スーパーの先行きは暗いと一般に
は考えられている。 しかし「GMSの競争激
化で寡占化が進めば、市場には隙間ができる。
基本的に毎日買い物をする日本人は、駐車場
から売り場まで歩いて五分も一〇分もかかる
ような大型店には行きたがらない。 そこに
我々のようなローカルスーパーの価値が出て
くる。 消費者
の日常生活を
支える食品ス
ーパーは必ず
生
き
残
る
」
(山腰部長)
と強気だ。
アルビスの
加盟店の品揃
えは生鮮三品
(野菜、鮮魚、
精肉)が中心
で、これが商
品構成の約半分を占めている。 生鮮品の品質
というのは時間とともに劣化するため、物流
センターで仕分けてから二〜三時間が勝負に
なる。 これを一年三六五日間、休まずに売り
続けるノウハウが地域に根ざすローカルスー
パーの競争力なのだという。
アルビスでは多くのGMSと同様のドミナ
ント戦略をとってはいるが、一つの物流セン
ターのカバーするエリアは格段に狭い。 「地域
スーパーのロジスティクス戦略はGMSとは
違う。 アルビスの場合は、あくまでも店舗か
ら片道九〇分圏内にフルラインの一括物流セ
ンターを持つことにこだわっている。 配送時
間九〇分というのが当社のドミナントの基準」
とアルビスの物流部物流企画課、出村彦文課
長は強調する。
一日五回の納品体制
現在、一〇〇店舗に商品を供給しているが、
ドミナントの中心を担う物流センターは実質
的に一カ所しかない。 グロサリーや生鮮、総
菜などのカテゴリー別物流センターが、建物
こそ分かれているものの、道路一本を隔てて
すべて隣接している。 そして納品車両が各セ
ンターを巡回することによって、フルライン
の一括配送を実現している。
他にも能登地区に通過型の拠点が一カ所あ
るが、これはコスト効率をあげるための配送
上の工夫に過ぎない。 物流センターからは大
型車で搬出し、能登のデポでクロスドッキン
グしてから四トン車で店舗に納品するという
仕組みである。
店舗への納品回数はコンビニ並に多い。 通
常店で一日三便の配送体制を組んでおり、同
社にとって大型店となる面積約一五〇〇平方
メートルの店舗には一日五便体制で納品している。 いずれもルート配送による定時一括納
品で、物流センターで事前検品を施している
ため店側はノー検品で商品を受けとる。
店舗には配送時間帯ごとに、細かくカテゴ
リーを分けて納品している。 昼食時にニーズ
の高い惣菜は二便で運び、製造月日が当日の
製品を並べたい牛乳は夕刻の三便に乗せる。
同じ海産品というカテゴリーでも、干物など
は一便で、地元でその日に水揚げされた鮮魚
は一便には間に合わないため二便で運ぶとい
った具合だ。 店舗からの発注の締め切り時間
についても、各カテゴリー別に前日の十一時
から一八時までの間で五回に分けている。
こうして作業を細分化し、定型化すること
によって店舗の作業効率を高めている。 店舗
アルビス
富山県 82店舗
石川県 14店舗
アルビスの商品供給エリア
直営店―13店舗
取引店―30企業87店舗
岐阜県 4店舗
「地域スーパーのロジスティクス戦
略はGMSとは違う」と物流部物流
企画課の出村彦文課長
37 JULY 2001
にとって朝一番の納品は、正社員が荷受けせ
ざるを得ないためコスト高になる。 その点、午
後の便であればパートやアルバイトの従業員
を荷受けに当てられるため、午後便をあえて
多めに活用するといった工夫をしている。
配送に使うマテハンもユニークだ。 日雑や
生鮮品を同じドライ車両で一括して納品する
ため、常温商品は一般的なカゴ車に積み、牛
乳や総菜などについては保冷シートをすっぽ
りと被せたカバー付きカゴ車を利用している。
精肉類のように厳密な温度管理を必要とする
商品は、保冷用の専用什器で運搬。 いずれも、
片道九〇分という配送時間を前提に独自開発
した専用機材である。
ビジネスモデルの水平展開
現在、アルビスでは物流サービスの違いを
卸価格には反映させていない。 配送頻度や物
量によって店舗別の物流コストは変わるはず
だが、そこでの差はつけない。 同様に商品調
達についても、物流コストを商品価格に織り
込んでメーカーや調達先卸と商談をしている。
「距離が遠いからといって店舗にその分のコ
ストを負担してくれとは言えない」(出村課
長)という現実は、調達先ベンダーとの取引
にも当てはまる。 商品価格と物流費を杓子定
規に分離して、厳密にコストを弾くことが必
ずしも有利になるとは限らない。 そのため、ボ
ランタリー・ホールセラーという米国流の業
態をとりながらも、取引制度は日本の伝統的
な商慣行に準じている。
「全てを商品価格に含むのではなく、商品と
サービスの価格を分離して?コストオン〞に
すべきではという意見は社内にもある。 しか
し、現実には難しい。 日本の商習慣はそうな
ってはいない。 しかも当社の現在の規模で、
メーカーが商品の軒下渡し価格を設定して、
調達物流をすべて我々が手掛けることになれ
ば、かえってコスト高になってしまう」と山
腰部長は明かす。
実際、同社は卸としてメーカーからの直接
仕入れが可能であるにもかかわらず、回転率
の低い商品の調達を菱食やパルタックなどの
専門卸に委ねている。 そのほうが結果として、
安くつくからだ。 商品の回転率ごとに調達チ
ャネルを使い分けることによって、流通在庫
の削減に努めているのだ。
今後、アルビスが業績を拡大するためには、
北陸で手掛けているボランタリー・ホールセ
ラー事業を他地域に?水平展開〞していく必
要がある。 「細胞分裂するように強固なドミナ
ントを作っていくしかない。 そのうえでGM
Sのようなバイイングパワーを発揮できる規
模を目指したい」と、その意気込みは大きい。
昨年三月には三菱商事、マルイチ産商(長
野県を基盤とする中堅水産卸)と合弁でアル
ビス・イースト・ソリューションズという会
社を設立した。 アルビスが蓄積してきたノウ
ハウを他地域で試すという狙いである。 同社
は主にコンサルティング業務を担っているが、
まだ目に見える成果は出ていないようだ。
アルビスの現在のドミナント運営の効率は、
すでにピークを迎えている。 仮にもう一つフ
ルラインの物流センターを新設することにな
れば、設備投資のためにコスト効率は一気に
悪化してしまう。
そのため山腰部長は、「我々としては物流
機能さえあればいい。 できれば3PLのよう
なパートナー企業に投資を任せたい」と考え
ている。 パートナーにリスクを負ってもらう
ためには、アルビスがどういった企業になれ
ばいいのか。 模索する日々が続いている。
アルビスの事業スキーム
メーカー
アルビス
市 場
産 地
問 屋
*DSD:Direct Store Delivery
A社
C社
B社
得意先企業
・個店商品
・専売品
・地域限定商品
調 達
フルライン一括供給
1日3便配送
(大型店は1日5便)
供給高の約60%
一括配送
配送委託(DSD)雑貨・冷食など 約30%
約10%
特集 小売り物流のカラクリ
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