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AUGUST 2001 70
はじめに
サプライチェーン・カウンシル(SCC=
Supply-Chain Council
)では、SCMの推進
及び実行をサポートするツールとして、SC
Mの参照モデル「SCOR(スコア)=Supply-
Chain Operations Reference model
」を開
発し、その普及、啓蒙活動を行なっている。
本誌においても、過去四回の記事の中でS
CORについて簡単にご紹介してきた。 しか
し、これらの内容だけでSCORの概要を十
分に理解するのは困難かもしれない。 特にS
CCメンバー以外の読者の皆さんにとっては、
もう少し詳細を知りたいところであろう。 そ
こで、よりSCORの魅力を理解して戴くこ
とを目的に、今月号より三回連載で「SCO
Rワークショップ・エグゼクティブサマリー」
をお送りする。
SCC(日本支部)では、二日間コースで
メンバーを対象にした「SCORワークショ
ップ」を実施している。 その内容の全てを誌
面化するのは不可能なので、ここではワーク
ショップのエッセンスをお届けすることにす
る。 第一回目の今回は、「SCORの概要」
と称して、SCORの基礎をご説明する。
1.
SCORの背景
一九九六年にSCCが非営利団体として組
織されて以来、その活動は常にSCORモデ
ルを中心に展開されてきた。 SCCのメンバ
ーがSCORモデルを開発・改定し、普及・
啓蒙活動を行なってきたのである。
SCCに参加しているメンバーはSCMを
実行する企業の実務家が中心である。 そのた
め、自らが自社のSCMを推進する立場でS
CORを考え、より使い易く、より効果の得
られるモデルへと、改良を加えてきた。 この
点が、コンサルティングファームやソフトウ
エアベンダーの主導で作成したモデルとの大
きな相違点である。
具体的な開発・研究体制としては、サプラ
イチェーンを構成するプロセスごとに
「
Technical Committee
(T/C)」を組織し
ている。 また、各産業におけるSCOR適用
方法の研究や、特定のテーマを深く掘り下げ
て
研
究
す
る
「
Special Industry/Interest
Group
(SIG)」を別に設けている。 この他、
短期間集中型で特定テーマを検討する
第5回
SCORの概要
SCC日本支部 � 咤達錬劵錙璽⑤鵐哀哀襦璽廛蝓璽澄�
SCC公認SCORインストラクター
日本ビジネスクリエイト
三枝利彰
SCMの実行には、自らのサプライチェーンの特性や性能の実際を理解・把握
し、その上で改革活動を行うことが必要である。 その際、有効なツール、テンプ
レート、定義集があれば活動が進めやすくなる。 そこでSCCでは「SCOR」
を開発し、ワークショップセミナーを通じてメンバーへの普及・啓蒙活動を行っ
ている。 その「誌上版」を今回から三回にわたって開催する。
短期集中連載〔第一部〕
SCORワークショップ・エグゼクティブサマリー
71 AUGUST 2001
「
Working Group
(WG)」なども随時、組
織している。
日本支部独自の活動としては、サプライチ
ェーン・ベンチマーキングを研究し実践する
「ベンチマーキングコンソーシアム」、SCO
Rそのものの本質を追求する「SCORワー
キンググループ」などが組織されている。
これらの活動は、全てボランティアベース
で行なわれている。 そしてSCCのメンバー
であれば誰でも参加できる。 このような枠組
みの中で、SCORは進化を続けてきた。
2.
SCORの定義2―1 � 咤達錬劼梁仂殀楼�
図1に示したとおり、SCORモデルはサ
プライチェーンを構成する全てのプレイヤー
を対象として、SCMに関する全ての実行プ
ロセスと計画プロセスを含んでいる。
SCORではサプライチェーンチェーンを
物理的に構成する活動として、実行プロセス
を四つに分けて定義している。 すなわち、
「
Source
(調達)」、「Make
(生産)」、「Deliver
(受注/納入)」、そして「Return
(返品/M
RO)」である。
さらに、これらの活動を計画する計画プロ
セス「Plan
(計画)」がある。 また、それぞれ
のプロセスの活動を支える具体的な管理手法
や情報システム等の仕組みを「Enable
(業務
基盤)」という言葉で定義している。
2
―2 � 咤達錬劼旅柔�
SCORでは、サプライチェーンの全体像か
ら、その詳細に至るまでを、レベル1〜レベ
ル3までの階層に分けて整理している。 (図2)
■レベル1 プロセス
最上位のレベルであるレベル1(=トップ
レベル)は、一つの計画プロセスと四つの実
行プロセスから構成される。
Plan
Source
Make
Deliver
Return
各実行プロセスの計画、
SC全体の生販在計画
資材などの購入/入手
プロダクトの生産、
サービスの実施
受注と納入
(対顧客とのプロセス)
納入後に発生するプロセス
プロセス名称 概要
計画
実行プロセス プロセス
- D1.2
Enter
Order
Receive
Order
Validate
Price
Check
Credit
- D1.2.3
Access
Credit Screen
Check Credit
Availability
Clear
Order
Contact
Accounting
Communicate
Results to Customer
•
•
•
•
•••
•
••
•
•
••
•
• • •
•
•
• •
•
AUGUST 2001 72
■レベル2 プロセスカテゴリー
レベル2は、レベル1の各プロセスを分解
したもので「プロセスカテゴリー」と呼ばれ
る。 (図3)
計画プロセス(Plan)であれば、計画
の対象となる実行プロセスごとにプロセスカ
テゴリーが定義され、同時にサプライチェー
ン全体の計画を行なうプロセスカテゴリーが
定義される。
実行プロセスは、各プロセスが扱うプロダ
クトの特性に応じて、それぞれ三つのプロセ
スカテゴリーに分解される。 例えば「Sou
rce」のプロセスにおいて、汎用部品を購
入する場合は「S1」、カスタムオーダー部
品の購入は「S2」、購入のプロセスに設計
も含まれるような場合は「S3」と、三つに
分解され、レベル2が定義される。
■レベル3 プロセスエレメント
レベル3は、レベル2の活動要素として定
義される。 それぞれの活動要素は「プロセス
エレメント」と呼ばれている。 このプロセス
エレメントをつなぎ合わせることで、実際の
ワークフローや情報フローを表現することが
可能となる。 このレベルが業務設計のベース
となる。 (図4)
■レベル4+
レベル3より細かいレベルであるレベル4
以降において、SCORの共通定義は存在
しない。 なぜならばSCORの活用目的は、
SCMを設計することであり、SCM改革
プロジェクトを促進することであるので、そ
のためには、サプライチェーンを構成する全
ての業界/企業/組織が共通してSCOR
を活用できるよう、汎用的なモデルでなけれ
ばならないからである。
レベル4+は、実際には情報システムのソ
リューションや各種ベストプラクティス手法
の適用など、個々の状況に合わせて最適なモ
デルや方法論を活用してSCORと関連づけ
ることで個別に定義するレベルである。
このレベルにおいては既に様々なモデルや
手法が存在しているので、それらを有効に利
用すればよい。 インテル社&シーメンス社の
SCMが、SCORを使って設計され、ソリ
ューションとしてレベル4+にRossetta Net
を使用した例などが有名である。
2
―3 � 咤達錬劵廛蹈札好董璽屮�
SCORは一冊の本(Dictionary
)とし
て、SCCメンバー向けにオープンされてい
る。 この中に全てのプロセスカテゴリーやプ
サプライヤー
顧 客
図3. SCORの構成
RETURN
レベル2 プロセスカテゴリー
図4. レベル3=エレメントレベル
73 AUGUST 2001
ロセスエレメントの内容が表の形式で記述さ
れている。 この表を「プロセステーブル」と
呼ぶ。
プロセステーブルでは、プロセスカテゴリ
ー/エレメントの定義とそのパフォーマンス
を測定し評価するための「メトリクス(指
標)」が定義されている。 また、パフォーマ
ンスを上げるための方策として、ベストプラ
クティス情報とそれを実現させる機能特性
も記載されている。 (図5)これらの情報を
活用してSCMの改革を推進していくので
ある。
3.
SCORの機能
前章では、対象範囲/構成/定義といった
SCORの枠組みを説明した。 しかし、枠組
みだけでは、いまだSCORの活用イメージ
が湧いてこないと思われる。 そこで次に、S
CORが提供する基本機能を説明する。
3
―1 � 咤達優廛蹈献Д�箸龍δ霧生�
企業におけるSCMプロジェクトでは、そ
の性格上、関連するさまざまな組織からプロ
ジェクトメンバーが召集され、クロスファン
クショナルチームで行なわれる場合が多い。
その際、問題となるのがメンバー間の認識の
違いである。
メンバー間の共通認識なしにプロジェクト
を進めても、決して適切な方向へベクトルは
向かない。 議論が「音」としては会話になっ
ているようでも、その「意味」が通じていな
ければ、まったく会話が成立しない。 このよ
うな状況を避けるためには、部門や企業を超
えて使用できる共通言語が必要である。
SCORはSCMを実行する全ての企業が
使用できるよう汎用性を持たせたモデルであ
る。 SCORの定義を活用し、SCORをプ
ロジェクトの共通言語とすることで、プロジ
ェクトを推進する上での?背骨〞の役割を果
たすことができる。
3
―2 サプライチェーンの可視化
「サプライチェーンを記述してください。
しかも誰が見ても理解できるように」――こ
んな問いに対して、あなたならどのようにサ
プライチェーンを描くだろうか?
SCORを使っていないプロジェクトであ
れば、サプライチェーンを描き始める前に自
分なりの記述モデルを考え、それに沿って記
述を始め、試行錯誤を繰り返しながら描くこ
とだろう。 しかも多くの時間と労力をかけて。
しかし、いくら時間をかけて完璧に記述し
ても、そのアウトプットを第三者が理解でき
るかどうかは定かではない。 むしろそれを望
むのは無理だと考えたほうがいい。
SCORを使っているプロジェクトであれ
ば、これは簡単な話である。 SCORにはサ
プライチェーンを記述する方法が対象ごとに規定されている。 それを必要に応じて選んで、
利用すれば良いからである。 その際の代表的
な記述方法を、次表に示す。
図6はスレッド・ダイアグラムの記述例で
ある。 この記述方法の詳細については実際の
ワークショップで説明する。
3
―3 サプライチェーンの数値化
•
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•
•
•
•
D1.3
SCOR 対象
記述方法
レベル2
レベル3
マテリアルフロー
ワークフロー
情報フロー
スレッド・
ダイアグラム
スイム・
ダイアグラム
AUGUST 2001 74
SCM改革のプロジェクトで先ず行なわな
ければならないのが、現状のサプライチェー
ンの性能を把握することである。 しかも客観
的に数値化して把握しなければならない。 ち
ょうど、ダイエットを行なう際に体重計に乗
るのと同じ感覚で。
しかし、実際にサプライチェーンの性能を
測定しようとすると、どんな指標で測定すれ
ば良いのか、そして何を基準にすれば客観的
判断ができるのか、といった壁にぶつかる。
そんな時、SCORを活用すれば、この壁を
簡単に乗り越えることができる。
■レベル1 パフォーマンスメトリクスSCORでは、サプライチェーン全体の性
能を表すパフォーマンス指標として、「レベ
ル1 パフォーマンスメトリクス」を定義し
ている。 このメトリクスは、パフォーマンス
を測定し評価する際の視点として次の五つの
属性で体系化されている。
《パフォーマンス属性》
◆顧客の視点
サプライチェーンの信頼性
サプライチェーンの応答性
サプライチェーンの柔軟性
◆社内の視点
サプライチェーンのコスト
サプライチェーンの資産効率
この五つの属性にそれぞれメトリクスが定
義されている。 これを使うことで、サプライ
チェーンの性能を数値で客観的に把握し評価
することが可能となる。 (図7)ただし、こ
れらの属性はそれぞれがトレードオフの関係
にある。 従って、それぞれのメトリクスを個
別に評価し、判断してはならない。 属性間の
バランスを管理するのである。
このように、SCORで定義しているメトリクスの体系は、SCM戦略の方向性を示す
際の枠組みそのものである。 この枠組みを使
って、レベル1メトリクスを下位レベルへと
分解していくことで、SCMの方針や目標を
現場の管理指標にまで浸透させることが可能
となる。
4.
さいごに
今回は、SCORの基礎として定義や機能
を説明した。 SCORの背景にある考え方や、
何ができるかについては理解していただけた
と思う。 次回は、実際のSCMプロジェクト
で適用する際の考え方や手法を理解していた
だくため、プロジェクトでの具体的な活用方
法や、「To
Beデザイン」の方法/考え方
について説明する。
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