ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年5号
特集
物流のプロになろう 大学は物流の専門学部を作れない

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2005 26 ――物流に対する社会的なニーズが高まっています。
大学はもっと物流教育に本腰を入れてもいいのでは。
「新聞や雑誌は必要なんだからやりなさいと言いま す。
でも、ちょっと考えてみてください。
たしかに社 会的な物流への要求は強まっています。
でも大学の営 業という立場から言わせてもらうと、お客さんは社会 人ではなく高校生なんです。
いま大学はどこでも、学 生を集めるのに汲々としている。
どうしても、そこが 一番先に来てしまう」 「じゃあ高校生に話を聞いたら何と言うかというと、 将来、物流分野に進みたいなどという人はゼロです。
物流の良さに気づくのは大学に入ってからですよ。
だ から大学に物流専門のコースを作れば学生がたくさん 来るとは、僕にはとうてい思えない。
むしろ可能性が あるとしたら大学院でしょうね。
現に多摩大学などが CLOコースのようなことをはじめている。
しかし、 こうした大学も自分のところには物流専門の先生がい ないため、外部の人間を動員しているはずです」 ――では今後、大学院教育でロジスティクスの専門家 が育ち、そういう人材が教壇に立つようになれば、日 本の物流教育も変わっていくのでしょうか? 「徐々に変わってくるとは思います。
ただ今は、物 流学部を作ろうとしても文部科学省が許さないでしょ うね。
物流学科や物流学部を置きたいという話を持っ ていくと、文部科学省は、なぜ今これを学問体系のな かに置く必要があるのか、経済学部や商学部、経営 学部とはどう違うのかと必ず言います。
これに対して 学校側も的確に答えられない。
僕は日本で物流学部 ができない理由の一つは、それだと思っています」 「それよりも経済学部とか経営学部のなかに物流コ ースを入れてしまう方が現実的です。
これなら教員の 資格審査もいらないし、文部科学省の審査も必要な い。
学科のなかにロジスティクスコースというのを作 って、入学したときから学生をそのコースに配置して しまうわけです。
もっとも企業が本当にそういうコー スを作って欲しいというのであれば、まず企業の方で 専門コースを出た人間を優先的に採用しますと言って くれれば、我々もそれを高校に言えるんだけどね。
僕 はやはりそこが基本だと思います」 実務家には一年間の講義は難しい ――物流の実務家の多くは現在、個別技術ではなくマ ネジメントを身に付けたいと切望しています。
こうし た変化を学者の方々はどう受けとめているのですか。
「日本には物流を専門とする学者はいません。
物流 の中の、ある部分を専門でやってきただけです。
僕な んかもそういうところがある。
これではいけないと怒 ったのが早稲田大学の阿保栄司先生です。
ロジスティ クス論でやらなければいけないとね。
ところが、すで にみんな流通論だとか、交通論だとか、会計だとか専 門を持っていた。
ようするに、みんな物流を研究対象 にしているだけなんです。
物流論という一つの体系の 中で動いている学者など一人もいませんよ」 ――となると、物流全体を体系的に教えられる人材も いないということですか。
「運輸などマクロの物流論をやっている人は、企業 の物流、つまりミクロが分からない。
一方、ミクロを やっている人はマクロが分からない。
もちろん素人相 手にしゃべるくらいならできますけど、物流論の専門 家と呼べるような人はどこにもいません。
だいたい店 頭のマーケティングやロジスティクス論をやっている 人に、京浜港のコンテナの横持ちの話をしたところで ピンとこないでしょう。
でも、本来の物流論では、こ れを両方ともやらなければいけないんです」 「大学は物流の専門学部を作れない」 神奈川大学 経済学部中田信哉教授 大学に物流学部を作っても高校生は魅力を感じない。
文 部科学省も、物流学部の新たな設置に難色を示すはずだ。
しかも物流をきちんと教えられる人材は決定的に不足し ている。
日本の大学における物流教育は現在、八方ふさ がりの状況にある。
(聞き手・岡山宏之) Interview 特集 27 MAY 2005 ――そこまでカバー領域が拡がると、研究するにして も教えるしてにも内容が薄まりかねません。
「そうなんです。
物流というのは本来、商流・マー ケティングの半分ですから、もの凄く範囲が広い。
だ から、それぞれの分野に専門家がいて、総論があるべ きなんです。
ところが現状では一人で物流論をやれと 言われてしまう。
通り一遍の話しかできません」 ――中田先生は、大学での物流教育を体系的にやろう としたことはないのですか。
「僕の昔からの主張は、商学部のなかに物流論を置 けというものです。
かつて慶應の有名なマーケティン グの先生のところにいって、物流論を置くように話を したことがあります。
そうしたら『物流は流通だから』 と別の先生のところに行くように言われた。
それで流 通論の先生のところに行くと、今度は『物流は交通論 だから』という。
仕方なく交通論の先生のところに行 くと、『物流はやはりマーケティングだろう』と堂々 巡りですよ。
みんな自分の分野だと思っていません。
結局、物流論を置くことはできませんでした」 「いま東京六大学のなかで物流論を持っているとこ ろは一つもありません。
もちろん東大にもないし、一 橋の学部には流通論すらない。
大きな大学では物流論 はどこもやっていません。
中堅のなかには一部、非常 勤でやっているところもありますが、専門でやってい る大学となると高千穂商科大学や愛知大学など数え るほどです。
非常勤でやろうにも、教えられる人材が いなくてできないんです」 学者と実務家は役割を分担せよ ――大学がその気になっても、研究者が足りないとい う壁に突き当たるわけですね。
「そう、先生がいない。
じゃあ企業の人を連れきた らどうかというと、そう簡単ではありません。
むかし 興味深い話があったのですが、花王の山越さんが、あ る大学から物流論の講義を一年間やってくれと頼まれ たんです。
本人も張り切っていたのですが、いざ授業 の内容を考える段になったら、一年間ですからね。
違 う話しを三〇回近くする必要がある。
それを知って結 局、断ってしまいました」 「企業の人たちにとって、物流の話を三〇回に分け て、しかも体系だてて話すなんてことは至難の業です。
これは、いわば特殊技能ですよ。
一回だけであれば大 丈夫だけれども、三〇回やるとなると、それこそ毎回、 自分の部下を連れてくるといった構成にでもしなけれ ば、とても一人ではでこなせません」 ――結果として物流マネジメントに関する人材教育を 現状ではコンサルタントやJILSが担っています。
「そうですね。
でも僕は最近よく感じるのだけれど も、日本ではコンサルタントが偉そうなことを言い過 ぎだし、学者がコンサルタント的なことを言い過ぎです。
たいした理論もない学者が、企業はこうあるべき だなどと言う一方で、コンサルタントは平気で理論を 口にする。
よくありません。
やはり、ここの機能はき ちっと分けて、役割を分担する必要がある」 ――では、この分野で学者がやるべきこととは? 「理論体系をきちっと作ることです。
これがなけれ ば学部もコースも作れませんからね。
新しい学部を作 ろうとしたら、専修科目を全部で三〇科目くらい用意 する必要があります。
つまり物流を三〇科目に分けら れるのかという話です。
これを強引に作ってしまうと、 流通論、マーケティング論、経済原論なんて科目を入 れていかざるをえない。
そうなると物流学部と言いな がら、物流の話はいったい何科目あるんだとなってし まう。
学生に詐欺だと言われますよ」 ●マネジメントとしての物流管理の構造 物流政策の立案 計画の策定 物流管理 管理体制 管理方法 管理基準 スケジュール 管理 コントロール コントロール コントロール コントロール コントロール 予算管理 コスト・ マネジメント タイム・ マネジメント エフィシェンシー・ マネジメント スタッフ・ マネジメント アクティビティ・ マネジメント 効率管理 人員管理 活動(施設、 機器)管理 PROFILE 1941年生まれ、64年慶應義塾大学経済学部卒業、 流通経済研究所、流通システム開発センターを経て現 在に至る。
著書に『現代物流システム論』(共著・有 斐閣アルマ)、『ロジスティクス入門』(日経文庫)、 『ロジスティクス・ネットワークシステム』(白桃書房)、 『物流論の講義』(白桃書房)ほか多数。
『現代物流システム論』 著書紹介 「マクロ物流論を含めず」 に「活動論を除いて」、マ ネジメント論として書かれ た本。
中田信哉氏、湯浅和 夫氏らこの分野の論客4人 による意欲的な共著。

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