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53 AUGUST 2001
循環型生産のモデル工場
複写機業界の環境対応は進んでいる。 この
業界は?御三家〞といわれるキヤノン、リコ
ー、富士ゼロックスの三社だけで八割以上の
シェアを占める寡占市場だが、いずれの企業
も環境対策に熱心なことで知られている。
なかでも業界三位の富士ゼロックスは、動
脈と静脈を一体化させた「インバース・マニ
ュファクチャリング(逆工場)」を実現してい
る点で注目に値する。 廃棄物を減らすだけの
活動にとどまらず、リユース(再利用)部品
を計画的に生産ラインに送り込むという仕組
みを軌道に乗せている。
ライバルのリコーも循環型の生産活動を目
指して、全国に静脈物流ネットワークを構築
している点では負けていない(本誌七月号参
照)。 しかし、リコーの場合は、リサイクル工
場と生産工場を別々に運営しているため、動
脈と静脈は必ずしも一体化できてはない。 目
指す方向性は同じだが、当初からリユース部
品を使った生
産活動を重視
してきた富士
ゼロックスが
頭一つ先行し
ているといえ
る。
両社の取り
リサイクル最大のカギは回収物流
IT駆使して静脈SCMを構築
顧客ニーズに即して商品を供給するサプライチ
ェーン・マネジメント(SCM)と同じように、
循環型の生産システムでは、生産計画に応じたリ
ユース部品の“安定供給”が欠かせない。 成功の
カギは使用済み製品を回収する物流にある。 先月
号のリコーグループに続き、複写機メーカー大手、
富士ゼロックスの取り組みを紹介する。
富士ゼロックス
――エコ物流
「回収物流がリサイクルのポイント」
とARM部の渡辺富夫統括部長
AUGUST 2001 54
統括部長は、「環境対応に励む企業は多い。 だがリサイクルと生産ラインを完全に一貫させ
ている生産工場は、日本では富士写真フイル
ムの『写ルンです』と当社の二カ所だけしか
ない」と胸を張る。
回収率の向上が成功のカギ
環境対策をめぐる話のなかで、よく「3R」
という言葉が出てくる。 循環型社会のキーワ
ードであるリデュース(ごみを減らす)、リユ
ース(再利用する)、リサイクル(資源とし
て)の三つの単語から頭文字をとった造語で
ある。
富士ゼロックスも同じ「3R」を標榜して
はいるものの、その内容は少し違う。 同社の
場合は、リターナブル(限りなく回収する)、
リユーザブル(限りなく使い切る)、リサイカ
ブル(限りなくリユース・リサイクル可能な
設計)の三語を根拠にしている。 つまり、?回
収〞という物流行為を明確に意識しているの
である。
リサイクルに取り組んだ経験のある人なら
共感してもらえると思うが、コストの面でも、
有効性の面でも、回収物流の巧拙がもたらす
影響はきわめて大きい。 物流の不備がリサイ
クル活動の継続を危うくするケースすら珍し
くない。 にもかかわらず現実には、物流の視
点を欠いた取り組みが少なくない。
その点、富士ゼロックスは早い時期から物
組みの差は、リユース部品を使った複写機の
出荷台数に顕著にあらわれている。 二〇〇〇
年度に、富士ゼロックスがリユース部品を組
み込んで出荷した複写機の数は三万数千台。
年間生産台数の約二割に相当する。 リコーは
こうしたデータを公表していないが、リユー
ス部品を組み込んだ複写機の出荷台数は数百
台規模にとどまっている模様だ。
富士ゼロックス、アセット・リカバリー・
マネジメント統括部(ARM部)の渡辺富夫
流の重要性を認識していた。 九五年四月に社
長直轄の案件として社員三人によるリサイク
ル・プロジェクトが動き出したとき、まず十
一項目の必須課題を抽出した。 その一つが回
収物流だった。
プロジェクト・メンバーの一人だったAR
M部の渡辺部長は強調する。 「リサイクルの
第一のポイントは、使用済み機種を効率的に
回収してくる仕組みにある。 当社がリサイク
ルに取り組みはじめたときから、どうやって
?回収率〞を高めるかは大きな課題だった。
再利用のための技術力がいかに優れていても、
使用済み製品の量を安定的に確保でないので
は意味がない」
しかし、これが一筋縄ではいかなかった。
同社の販売部隊は、大手顧客向けの「直接
販売チャネル」と、それ以外の顧客を対象と
する「間接販売チャネル」の二つを使い分け
ている。 出荷している複写機のおよそ半分は、
間接販売チャネルを通じて市場に供給される。
基本的に都道府県ごとに一つずつある販社は
独立した事業体で、富士ゼロックスのグルー
プ会社ではない。 この販社チャネルでの回収
業務をどうするかが問題になった。
そもそも直販と販社とでは、利用している
物流ネットワークが違っていた。 直販チャネ
ルが、中間流通拠点として各都道府県ごとに
「地区倉庫」を置く一方、販社は同じエリア
内に別の倉庫を構えていた。 これに加えて、
リユース部品を選定するための品質保証活動の流れ
情報の流れ
回数機をコピー
数枚で分類
分解調査
●部品の消耗度
●汚れ
●劣化など
再使用部品の選定
●ワイブル解析と部品特性分析
でもう1世代、利用できる部
品を選定
●最新設計にあわせる
●内外観基準に基づく部品選定
●ワイブル解析による余寿命予測
●製品寿命を上回る寿命を残す部品
回収機
静脈物流
お客様が使用中
の複写機
市場からの商品品質情報
分解洗浄工場
部品選別・
検査工程へ
※ワイブル解析:回収前から部品の再利用の適否を把握する作業 物の流れ
55 AUGUST 2001
従来から販社では使用済み製品の客先からの
引き上げは行っていたものの、富士ゼロック
スに送るという習慣はなかった。
「直販扱いの五〇%はすぐに回収ルートに
乗せることができた。 問題は、販社に集まっ
てくる使用済み製品をどうやって当社の工場
まで回収してくるかだった。 彼らの本業はあ
くまでも営業。 時間をかけて啓蒙する必要が
あった」(渡辺部長)。
販社にとって、使用済み複写機を富士ゼロ
ックスに送っても経営的なメリットはほとん
どない。 他方、モノ作りを本業とする富士ゼ
ロックスの立場では、効率的な生産のために
は回収品から取り出すリユース部品といえど
も計画的な安定供給が欠かせない。 この意識
の差が、回収物流を具体化する際に障害にな
ったのである。
IT活用で静脈分野を効率化
こうした経緯があったため、九五年にリサ
イクル活動をスタートした当初の富士ゼロッ
クスの回収物流は非効率なものになってしま
った。 ARM部で全体戦略を担当している小
堀睦郎マネージャーは、こう振り返る。
「当初は全国に散らばっている拠点を同じよ
うに扱い、指示も手作業だった。 輸送距離や
客先での利用状況にかかわらず、使用済み機
種をすべて回収していたため、ムダな物流コ
ストがかなり発生していた」。 有効な対処方
法を見出す間もなく走り始めてしまったという事情が大きかった。 問題の解決は、前述したリサイクル・プロ
ジェクトに委ねられた。 プロジェクトに付随
して設置された「物流分科会」は、リサイク
ル活動の進展にともない全社横断的な組織へ
と脱皮していた。
参加メンバーは、リサイクル推進を担うA
RM部、動脈物流を担当する販売計画部(物
流グループ)、販社管理を担うマーケティング
部の担当者。 そして、実際のオペレーション
を行う物流子会社の富士ゼロックス流通の担
当者も加わっていた。
ここでの検討を重ねた結果、富士ゼロック
スは「物流ネットワークの見直し」と「IT
の活用」という二つの柱をたてて回収物流の
効率化に乗り出した。
まずは別々だった直販倉庫と販社倉庫の一
体化を進め、懸案だった回収率の向上を図っ
た。 会社としては別のままでも、双方の中間
流通拠点を集約すれば回収業務はずっとやり
易くなる。 横持ち輸送をなくすことによって、
ムダな輸送コストを削減できるという狙いも
あった。
すでに現在では全国の中間流通拠点は五九
カ所まで集約されている。 プロジェクトの狙
い通り、「リサイクルを開始した五年前に五
〇%に過ぎなかった回収率が、いまでは八
五%まで向上している」と渡辺部長は誇らし
げだ。
静脈物流を管理する情報システムの構築に
も力を注いだ。 九七年に稼働したUNICO
R
N
(ユニコーン: Used-machine Nice
Control Navigator
)は、いわば?静脈SC
M〞ともいうべきシステム。 発生した使用済み機種はリサイクル可能な製品か、回収予定
時期はいつ頃になるのか、実際の使用状況
(品質)はどうなっているのか――。 日々の営
業活動を通じて蓄積されるメンテナンス情報
をフル活用して、静脈物流全体の最適化を図
るユニークなシステムである。
現実の物流オペレーションも、それまで全
国一律だった管理手法を改め、全国を一〇ブ
ロックに分けてコントロールする体制に変え
た。 ブロック単位で物量をまとめることによ
って、全国で発生する使用済み製品を最適な
コストとタイミングで海老名事業所に集荷で
きるようにした。
実務を担う富士ゼロックス流通への作業指
示も、UNICORNを通じて出す。 「当初
ARM部の小堀睦郎マネージャーは
「UNICORNの稼働で静脈物流
の効率が高まった」と説明する
AUGUST 2001 56
は電話やファクスで作業指示が伝えられてい
た。 それが現在では、まずUNICORNか
らデータを取り込み、これを当社が自社開発
した業務支援システムに落とし込んで具体的
な指示に加工すればよくなった」と富士ゼロ
ックス流通の長谷川勝義取締役は、その効率
の良さをアピールする。
リユースを生産計画に組み込む
ここまで見てきたように、富士ゼロックス
の静脈物流の先進性は明らかだ。 しかも、同
社はこうした静脈物流の仕組みを生産活動に
活かし、製品の設計にまで遡ってフィードバ
ックしている。
同社では資源循環型の生産システムを三つ
に分けて考えている。 一つは、部品の再利用
を前提に環境負荷の少ない製品を作る「イン
バース・マニュファクチャリング」。 二つめは、
リユース部品を再び自社製品に活用する「ク
ローズド・ループ・システム」。 そして三つめ
は、どうしても再利用できない部品を素材ご
とに分別し、再び資源として活用する「ゼ
ロ・エミッション」である。
一般的な複写機は約四〇〇〇の部品で構成
されているが、消耗部品のなかには、ちょっ
とした工夫で再利用できるものがある。 しか
し従来は、こうした部品を廃棄していた。 新
たに部品サプライヤから購入した方が、安い
うえに部品の信頼性も高いためだ。
現在、同社の海老名工場では、使用済み複
写機から部品を取り出すリサイクルラインと、
新製品を作る生産ラインを隣接させている。 こ
のうちリサイクルラインを管理するのがAR
M部で、ある部品は分解後に洗浄し、またあ
る部品は検査や修理を施してから生産ライン
へと送り込んでいる。 「部品サプライヤーの一
社として、生産ラインにリユース部品を供給
する」(渡辺部長)という役割を担っている。
当然のことだが、信頼性の劣る部品を生産
ラインに供給するわけにはいかない。 言い換
えれば、部品に残された寿命を的確に判定できる技術がなければ、リユース部品を使った
生産は絵に描いた餅でしかない。 従来は不要
だったこの?部品寿命の判定技術〞を、富士
ゼロックスはリサイクルの開始から五年間か
けて蓄積してきた。
回収してきた使用済み複写機を、使われた
コピー枚数ごとに分類し、その中の部品の消
耗度や汚れを丹念に調べる。 外観や機能はも
とより、最新機種の設計に適合するかどうか
などを厳しくチェック。 同様の作業を繰り返
して、経験値を積み上げることによって部品
に残された寿命を判定する。 こうした技術的
な裏付けがあるからこそ、リユース部品を再
び使うことが可能になった。
さらに、リユース部品の利用を計画生産に
戻入機回収量
(シミュレーションシステム)
静脈物流
(コントロールシステム) Asset Recovery Stream
(マネジメントシステム)
リサイクル
設計データベース
資源循環型商品
リサイクル生産基幹
情報システム
静脈物流を管理する一連の情報システム
カストマー情報サービス
(資源循環型商品ラベル)
リサイクル
部品品質保証システム
×
「作業指示はすべてUNICORN
から出される」と富士ゼロックス流
通の長谷川勝義取締役
57 AUGUST 2001
組み込むためには、発生個数を事前に予測し
なければならない。 このために、過去の実績
から回収量を予測するシミュレーション・モ
デルも開発した。 「一年間に使用済み機種が
どれだけ発生するかを予測し、ここから月次
や日次の数値を割り出して生産計画に反映さ
せている」と小堀マネージャーは説明する。
特筆すべき工夫は、他にもある。 富士ゼロ
ックスが「インバース・マニュファクチャリ
ング」を実現するためには、設計段階にまで
手を入れることが避けられなかった。
「複写機というのは営業上の都合で三〜五
年で代替わりする。 この代替わりのたびに利
用する部品を変えてしまえば、せっかく回収
してきたリユース部品を再利用することはで
きない。 とく
に寿命の長い
部品ほど、世
代を越えて設
計を共通化す
る必要があっ
た」(渡辺部長)。
これは同社が
?多世代型の
設計モデル〞
と呼ぶ取り組
みで、すでに
大半の機種で
実践している。
物流コストの低減が課題もっとも、どんなに技術レベルを高めても
再利用できない部品や部材は残る。 これを廃
棄せずに再資源化する取り組みが「ゼロ・エ
ミッション」で、同社の循環型生産の三つめ
のポイントである。
回収してきた複写機の総重量を一〇〇%と
すると、九八年度の時点では最終的に一五%
をダストに、五・四%を単純に燃やしたり輸
出に回していた。 全体の約二割を廃棄処理し
ていたことになる。 これをなくすために、リ
サイクルラインでの徹底的な分解と、もっと
も純粋な状態まで再資源化できるリサイクル
会社への業務委託という方針を推進してきた。
すでに二〇〇〇年八月の段階で?廃棄物ゼ
ロ〞のネットワークを構築済みだという。 現
在では〇・三%の工程ロスこそ出るものの、
九九・七%は再資源化することが可能になっ
た。 富士ゼロックスまで届けられた機種につ
いては、実質的なゼロ・エミッションを達成
しているのである。
順調に稼働している同社の循環型生産シス
テムだが、悩みも尽きない。 その一つがリサイ
クルにまつわる物流コストだ。 「工場レベルで
は収支トントンだが、回収コストまで入れると
赤字になってしまう」と渡辺部長は漏らす。
手は打っている。 使用済み機種一台当たり
の物流コストは、九七年度と比較すると二〇
〇〇年度には約四割減った。 積載率の向上や、
保管費の削減に取り組んできた結果だ。
それでも、まだ下げる余地はある。 たとえば海老名事業所の周辺では、生産ラインに安
定供給するために一〜二カ月分の在庫を持っ
ている。 回転率の高い機種、すなわち頻繁に
生産ラインにリユース部品を供給する機種に
ついては、高コストを承知で海老名事業所の
目の前に倉庫を借りている。 それ以外の機種
については、ずっと保管費の安い小田原に置
くようにしている。 こうした工夫の余地はま
だ少なくないという。
渡辺部長は「今後はトータルの物流コスト
をいかに下げるかが課題」という。 リサイク
ル事業といえども、採算がとれない以上はど
んどん工夫を重ねる。 このコスト意識の高さ
が、富士ゼロックスの静脈物流の効率を高め
ている。
(岡山宏之)
すべての使用済み機種をリユース包材で梱包している。
損傷を防ぐとともに積載効率の向上などの狙いがある
台数
1世代目商品
の回収率
時間
「1世代目商品」
の生産量
「2世代目商品」
の生産量
「3世代目商品」
の生産量
「多世代型の設計モデル」によってリユース率を高めている
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