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AUGUST 2001 14
食品物流の最終市場
食品物流市場の誕生
キユーソー流通システム、名糖運輸、ヒューテック
ノオリン――。 この三社を定温物流市場の「御三家」
と呼ぶ。 キユーソーとヒューテックが九五年、名糖が
九八年に、それぞれ株式公開を果たしている。 その後、
いずれも順調に事業規模を拡大させてきた。 直近の決
算でも、業績低迷に苦しむ一般の物流業者をよそに
増収を確保している。
他にも定温物流市場には、ビールメーカーや味の素
など大手食品メーカーの物流子会社を中心に、今後
の株式公開が期待される定温物流業者が少なくない。
ニチレイや雪印アクセス、加工食品卸などの異業種に
よる定温物流サービス事業や一般物流専業者の新規
参入も活発化している。
従来は同じ定温物流事業といっても各社で管理す
る温度帯や商材が違うため、比較的棲み分けができて
いた。 ところが近年、各社がサービス範囲をフルライ
ンの温度帯に拡大し、外部販売の拡大に乗り出した
ことで、正面から競合する機会が増えている。 これら
のプレーヤーがぶつかる市場を「食品物流市場」とい
う新たなカテゴリーとしてとらえる考え方も定着して
きた。
消費の低迷と新規参入の増加で、これまで比較的
高い収益性を誇ってきた定温物流ビジネスも、今日で
は価格競争を余儀なくされている。 しかし「引き続き、
定温物流が有望な市場であることは間違いない。 食品
物流に占める定温の割合は年々高まっている。 個人
的な試算では既に食品物流全体の約四割が定温管理
されていると認識している」と、カサイ経営の野口英
雄主席研究員は説明する。
実際、新規に登録されたトラックにおける低温車両
の構成比を見ると毎年着実にそのシェアが拡大してい
る。 九八年の段階でその割合は八・五%。 (表1)現
状では全登録車両のうち、約一〇%を低温車両が占
めているのではないかと見られる。 今後もこうした傾
向は続きそうだ。
野口主席研究員は「グロッサリーと呼ばれるドライ
食品を定温で管理しようという動きがあったり、もと
もと定温で管理されていた食品の温度帯が細分化され
てきたり、定温物流のニーズは現在も拡大している。
冷凍食品の消費量は最近マイナスに転じたが、潜在
需要はまだまだ大きい」と解説する。
そのうち最も巨大な潜在市場となっているのが肉、
魚、野菜の生鮮三品に、惣菜を加えた「生鮮四品」の
物流だ。 「本当は加工食品や冷食の分野より生鮮品市
場の方が物量的にも販売額でも圧倒的に大きい。 とこ
ろがこれまで大手の定温物流業者は生鮮品には手を
出さずにいた。 日配品などを中心に小規模にやってい
るところはあっても、全国規模で展開することはなかった」とニチレイの有里司低温物流企画部グループリ
ーダーはいう。
生鮮品には運賃負担力がなく、なおかつ管理が難し
いと考えられていたからだ。 実際、生鮮品は一つひと
つ大きさや形状が異なるうえ、品種によって扱いも違
ってくる。 気候次第で物量が大きく変動するため作業
の平準化も難しい。 保存の効く冷凍モノならまだしも、
青果物や近海モノの鮮魚ともなると大手業者はお手
上げの状態だった。
また青果物は同じ冷蔵というカテゴリーでも、乳製
品などの日配品とは温度帯が違う。 一般に「冷蔵」と
はマイナス二〇℃からプラス一〇℃の温度帯を指す。
また、冷蔵のカテゴリーのなかでもマイナス五℃から
プラス五℃の間を別に「チルド」と呼んでいる。 日配
日本の物流市場に「食品物流」という新たなカテゴリーが生
まれようとしている。 既に上場を済ませた先行組が堅調な業績
を見せているのに加え、大手食品メーカーの物流子会社を中心
に、数年以内の株式公開を計画する有力プレーヤーがいくつも
控えている。 巨大な未開拓市場となっている生鮮品の物流を制
したものが今後、市場の主導権を握りそうだ。
第1部 Report 食品物流市場の生態学
第2部
第3部
15 AUGUST 2001
品の多くがそれに当てはまるが、青果物の場合はむし
ろ五℃から一五℃の温度帯で定温管理しなければいけ
ないものが多い。 つまり定温物流業者が所有している
既存のインフラとは別に、設備や車両を用意する必要
があるのだ。
これまでは各地域の卸売市場を経由しなければなら
ないという流通上の制約も大きかった。 基本的に産地
から出荷された生鮮品は卸売市場でセリにかけられ、
仲卸が市場内で仕分けをして小売りへと運ばれる。 仕
分けと納品を担う仲卸はほとんどが地域に密着した中
小企業で、扱う量も限られている。
仲卸の下請けとして物流業者が納品業務を委託さ
れても収受できる運賃水準はたかが知れている。 また
セリに参加する「買参権」を持たない物流業者は市場
内に足を踏み入れることができないため、仕分け作業
にも手を出せない。 効率化を工夫する余地がないわけ
だ。 結局、青果物の物流は仲卸業者が自分で納品す
るか、もしくは地域の小規模運送業者のチャーター輸
送がもっぱらだった。
生鮮品のフルライン流通
ニチレイだけが大手としては例外的に従来から生鮮
品を積極的に手掛けてきた。 「当社は量販店向けに青
果物と他のチルド品を一括して納品できるセンターを
二〇年前から事業化している。 低温物流事業を強化
しようと思ったら、メーカーの代行をするより、小売
り業者の物流センターを手掛けた方が事業規模は大き
いと考えたからだ」と有里グループリーダーはいう。
もっとも当時は卸も含めてフルラインの定温商品を
扱う中間流通業者などいなかった。 そのためニチレイ
の社内でも事業化を疑問視する声が少なくなかった。
実際、一〇年ほどは芽が出なかった。 当初は小規模な
ボランタリーチェーンをターゲットにしていたが、物
量がまとまらないうえ、それぞれの店舗の要望がバラ
バラで効率が悪い。 採算がとれる状態ではなかった。
九三年にイトーヨーカ堂の生鮮品センターを請け負
うようになって風向きが変わってきた。 当時、量販店
のほとんどは生鮮三品と日配品の物流を、それぞれ別
に扱っていた。 これに対してヨーカ堂は店舗納品を基
本的にドライと生鮮品の二系統だけで処理したいと考
えていた。 この運営を軌道に乗せたことで、ニチレイの
センター事業は初めて利益が出るようになった。
その後はヨーカ堂の後を追うように、マイカル、ジ
ャスコ、西友、関西スーパー、富士シティオ、サンク
スといった大手チェーンから次々にセンター運営の依
頼が来た。 現在、同社が運営する量販店向けセンター
は全国十一カ所。 これを二〇〇三年までには二四カ
所に増やす計画を持っている。 もちろん業績も好調だ。
二〇〇一年三月期の実績が一一五億円。 過去五年ほ
ど毎年二桁の伸び率を示しているという。
現在、大手量販店や外食チェーンは卸売市場を経
由せずに生鮮品を産地から直接調達する「市場外流
通」を拡大させている。 これに伴い、新たな物流機能
が必要となっている。 しかし、これまで青果物の物流
を担ってきた仲卸にその機能はない。 ニチレイの定温
事業は、こうしたニーズに上手く合致した。
一括物流の行方を占う
雪印アクセスの井上考営業本部商品制作部チルドチ
ーム部長は「ここ数年、生鮮三品を扱って欲しいと小
売りから強く要請されるようになっている。 小売業で
扱っているもの全てのフルライン化が現在、急速に進
んでいる。 生鮮品は食品の一括物流で残された最後の
分野だ。 この生鮮を抑えられた中間流通業者が今後、
90,000
80,000
70,000
40,000
30,000
20,000
10,000
0
71,885
76,397
79,071
91,536
39,738
36,567
34,071 34,204
32,641
22,161 21,459 23,360 19,271 20,716
1997.3 1998.3 1999.3 2000.3 2001.3
注)キユーソー流通システムは11月決算
主要上場物流3社の売上高推移
キユーソー流通システム
名糖運輸
ヒューテックノオリン
(百万円)
項 目
新規登録台数における
低温車構成比
車種内訳・小型2〜3t
特殊車両における
低温車は34%
1996年 1997年 1998年 備 考
6.0%
6.3%
6.8%
1.3%
9.5%
6.7%
6.5%
8.5%
0.9%
10.8%
8.5%
8.2%
10.7%
0.8%
13.4%
中型4t
大型10t
超大型12t
出典:『ニュートラック』No.370. 日新出版より作成。
表1 新規トラックにおける低温車両構成比推移
ニチレイの有里司低温物流
企画部グループリーダー
特集定温ビジネスの誤算
AUGUST 2001 16
特集定温ビジネスの誤算
市場を制するだろう。 他の商材ならどこでもやる。 生
鮮が最後の勝負になるといって過言ではない」という。
既に同社は「MD(マーチャンダイジング)センタ
ー」と呼ぶ一括物流センターで、従来の冷食品や日配
品に加え、生鮮三品と日用雑貨、菓子まで同じセン
ターで扱うようになっている。 ただし、今のところ生
鮮品については、基本的に同社に帳合いは通らない。
商流には手を出さず、純粋な物流事業として運営して
いる。
「野菜だけでも一世帯当たりの消費は月間八〇〇〇円
ぐらいある。 年間一〇万円と考えても、全国ではすご
い規模の市場になる。 当社が卸である以上、本来なら
その商流も抑えたいところだ。 しかし、実際にはそう
容易なことではない。 青果物に関する専門知識がいる
うえ、相場の変動がある。 これまで当社が手掛けてき
た加工食品とは全く違う。 安定供給していくにはかな
りのノウハウがいる」と井上部長はいう。
だからといって手をこまぬいているわけにもいかな
い。 扱い商品のフルライン化を進めてきた大手加工食
品卸は現在その矛先を青果物に向けようとしている。
菱食や伊藤忠食品など、ライバル卸も既に生鮮品への
参入を打ち出している。 ニチレイや定温物流業者など
異業種の動きも活発だ。 雪印アクセスにとってメーン
顧客である食品スーパーが今日、強くフルライン化を
望んでいる以上、対応の遅れは命取りになりかねない。
井上部長の率いる営業本部商品制作部チルドチー
ムは、その手始めとして今年四月に新設された部署だ。
まずは漬け物や豆腐や佃煮などの「和日配」を扱う。
「和日配は非常に小さなベンダーが無数にいる分野だ。
そのために市場規模が明確ではない。 しかし当社では
全国を集めると二兆五〇〇〇億円から三兆円近い市
場があると踏んでいる」と井上部長は説明する。
アライアンスも視野に
現在、和日配をフルラインで扱うことのできる卸は
ない。 そのため従来は一括物流の枠外に置かれていた。
そこにメスを入れた。 地場の和日配のベンダーを雪印
アクセスがとりまとめて店舗に一括納品する。 同時に
帳合いも集約する。 メーカーと小売の直接取引を改め、
中間流通を経由させるという他の商材とは逆向きの改
革を進めようとしている。
井上部長は「和日配の物流は非常に手がかかる。 ロ
ットがピース単位で細かい上に鮮度の問題がある。 現
場は三六五日二四時間体制で、コストと時間との戦
いだ。 しかし、それだけ面倒だからこそビジネスチャ
ンスも大きい。 現在、一店舗当たり数百ものベンダー
が和日配を納品している。 当社がその窓口になること
で小売りはオペレーションを効率化できる」という。
この取り組みの中で、小売りから生鮮品の扱いを求
められる場面も増えている。 しかし、青果物の場合は和日配とは異なり、中間流通に厳然たる規制が存在
する。 物流サービスは提供できても、商流まではなか
なか踏み込めない。 生鮮市場に詳しいネットワーク研
究所の福山博之社長は「卸売事業への新規参入は、恐
らく無理だろう。 そこには既得権益に近いものがあ
る」という。
ただでさえ扱いが難しい上に、既存の中間流通を敵
に回す形で参入すれば軌道に乗せるまでに多くの時間
と労力がかかるのは目に見えている。 そこで雪印アク
セスの井上部長は「これまで当社を含めて大手の食品
卸はいずれも単独で扱い商品をフルライン化しようと
躍起になってきた。 しかし今後は、とくに生鮮品の分
野では他社とのアライアンスも有効な選択肢として検
討しなければならない」と考え始めている。
ー50 ー40 ー30 ー20 ー10 0 10 20 ℃
F4級 F3級 F2級 F1級 C1級 C2級 C3級
(ー50℃以下)
超低温
冷凍
冷蔵
常温
加温
チルド(ー5〜+5℃)
氷温(ー3〜0℃)
パーシャル(ー3℃)
温度帯区分
雪印アクセスの井上考営業本部
商品制作部チルドチーム部長
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