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自前の青果物卸で産直流通を管理
生鮮品をコールドチェーンで宅配
AUGUST 2001 22
購買生協や医療生協などを合わせると、日本には
千数百の生協組織がある。 このうち日本生活協働組
合連合会(日本生協連)に加盟している購買生協、つ
まり物販を手掛けている組織の数は四五九。 この四五
九生協の取扱高を合算すると、年間三兆三四二億円
(二〇〇〇年度実績)の売り上げがある。
生協の活動は、戦後間もない一九四八年に施行さ
れた「消費生活協同組合法」で規定されている。 従
来は都道府県を越えた活動が制限されていたのだが、
九〇年代初めの規制緩和で、県域を越えて複数の生
協が共同事業にあたる?連合会〞の設立が認められ
た。 現在ではこうした団体が全国に一〇以上あり事実
上、生協の本部機能として活動している。
生協の購買事業は主に「店舗事業」と「共同購入
事業」からなる。 一都五県の八会員生協で構成する
「首都圏コープ事業連合」(首都圏コープ)は、このう
ち共同購入の分野で先駆的な活動を続けてきた。 かつ
ての共同購入は近所に住む三〜五人がまとめて注文
を出す「グループ購入」だったが、これをいち早く個
別宅配事業(個配)にシフトして業績を伸ばした。
「毎週、四〇万余りの所帯にカタログを配布して生
鮮品や日配品の共同購入を行っている。 九七年に個
配とグループ購入の取扱高が逆転した。 すでに全体の
三分の二が個配で、グループ購入は三分の一だけ。 個
配は毎年一〇〇億円ぐらいずつ伸びている」と首都圏
コープの針生圭吉企画広報グループ長は説明する。
子会社として青果物卸を設立
カタログ通販で生鮮食品を売るのは難しい。 鮮度や
保管状況によって品質レベルが変わるため、現物を手
にとって選ばなければ信用できないという消費者が多
いためだ。 この点、生協には歴史的な強味がある。
もともと組合員の多くは、?安心〞を求めて生協に加
盟している。 公害問題が多発した七〇年代に食品へ
の信頼感が揺らいだとき、安心して食べられる食材を
入手したいという消費者ニーズが生協の成長を後押し
た。 生協自身も、こうした期待に応えるために産地直
送(産直)と称する市場外流通を積極化するなど、独
自の流通ルートの開拓に励んできた。
「既存の卸売市場を通じて商材を仕入れると、流通
経路が複雑なためコストがかかるし、鮮度も落ちる。
どこで作られたものかも分からなくなってしまう。 生
産者の顔のみえる自前の流通ルートを開拓する必要が
あった」(針生企画広報グループ長)のである。
実際、約一兆円といわれる青果物の市場外流通の
なかで、生協は大口の買い手として知られている。 農
協や生産地の任意団体との直接取引を手掛け、自前
でまかなえない部分についても、全農の直販事業を利
用するなどして産直流通を実現している。
とりわけ青果物流通において、首都圏コープのやり
方はユニークだ。 子会社に自前の青果物卸を持ち、中
間流通のみならず産地の管理まで手掛けている。 九二
年に首都圏コープと運送業者の「全通」が共同出資
により設立した「ジーピーエス」は、産地との折衝、
青果物の購入、中間流通での小分けやカットといった
流通加工を一手に担っている。
同社の野村和夫常務は、「首都圏コープ事業連合の
青果部門が当社と考えてもらえばいい。 取引をしてい
る約一五〇の産地のうち、約一〇〇カ所については農
家や産地の任意団体と直接やりとりをしている。 残り
五〇カ所は農協を経由してはいるが、産地を指定する
ことで顔の見える取引をしている。 全農を通す約一割
についても同様の産地指定をしている」と説明する。
ただし、一〇〇%産直を前提としてはいても、現実
販売する青果物のほとんどを産地直送の市場外流通でまかなっ
ている。 自前の青果物仕入れ会社を設立し、産地管理から購入
までを直接管理。 産直と市場を使い分けることによって生産量の
変動に対応している。 急成長を続ける宅配事業を支えるため、約
100億円を投じた定温施設も整備した。
Case Sutdy 市場外流通の最前線
小売り生活協同組合連合会 首都圏コープ事業連合
第2部
第3部
第1部
23 AUGUST 2001
の青果物の仕入れは天候や作柄による波動が避けられ
ない。 このリスクヘッジのために、ごく一部は市場も
利用している。 昨年の実績では全仕入れ量の四%程
度を全農が運営する市場から調達した。
一〇〇億円を投じて物流を刷新
ジーピーエスは、首都圏コープの物流拠点として今
年六月に本格稼働したばかりの「岩槻センター」(埼
玉県)に入居している。 延床面積一万五〇〇〇平方
メートルの同センターは、関東の北部をカバーする冷
蔵・冷凍センターだ。 急成長を続ける共同購入事業
を支えるインフラとして新設した。
過去六年の間に、首都圏コープは物流の刷新を進
めてきた。 まず九六年から三年間かけて常温の物流セ
ンターを整備した。 次に九八年から二〇〇〇年の三
年間で、エリア内の五カ所に分散していた定温センタ
ーを二カ所に集約。 約一〇〇億円を投じて、相模セ
ンター(神奈川県)と岩槻センターの二拠点で、組合
員四〇万世帯に商品供給をできる体制を整備した。
岩槻センターの建設に企画段階から携わり、現在で
は現地責任者を務めている太田賜嗣夫所長は、「定温
の物流設備はコストがかかる。 従来は拠点が分散して
いたために満足な設備投資ができなかったが、二カ所
に集約することによって投資効率を高めることができ
た」と満足そうに語る。
岩槻センターでは、基本的に三つの温度帯を使い分
けている。 冷凍と冷蔵、そして青果物を管理するため
の温度帯である。 冷蔵品は原則として零度、冷凍品
にはマイナス二五で管理している。 また、要冷蔵の野
菜を一時保管する入荷冷蔵庫は一〇度、通常の野菜
の保管庫は一八度、セット作業をする二階については
二〇度――と、かなり細かい温度管理を実現している。
センターでは野菜、日配品、冷蔵品、冷凍品を、温
度帯別に個配の利用者別にセットしている。 一日の出
荷件数は約五万件。 冷蔵品は発砲スチロールの専用
容器に、冷凍品は専用の折り畳み式のアイスバッグに
入れる。 セットした商材は、計一九カ所ある会員生協
のセンターへ、四トンの定温車両で運ぶ。 ここで小型
の保冷車両に積み替えて、各組合員の家庭にルート
配送するという手順になっている。
生協の個配事業では、組合員ごとに週一回の配達日
をあらかじめ決めている。 決まった曜日の、ほぼ決ま
った時間(前後三〇分が目安)に配達している。 不在
の場合は、保冷状態のまま所定の場所に商材を置いて
くる。 配送容器には、真夏でも数時間は持つ保冷材や
ドライアイスを入れて定温を保っている。 この配達時
に、一週間前の配送で使用した空ケースと、次週のた
めに記入済みのオーダー用紙を回収する。 さらに次回
のオーダーのために必要なカタログを置いてくる。
組合員は、一回のオーダーにつき一八〇円から二〇〇円(値下げは会員生協の裁量)を支払う。 これは
?カタログ配達代〞のため商品オーダーの有無にかか
わらず必要で、逆にどれだけ多くの商品を購入しても
変わらない。 つまり、生協の宅配事業は、一週間に一
回の届けを、月に八〇〇円程度の?会費〞によって
まかなうという構造になっている。
こうしたサービスに対して、配送回数を増やして欲
しい、配送時間を変更したいといった利用者の要望は
絶えない。 しかし、「週一回のルート配送だからこそ
個配事業は成り立つ。 これを週二回にしろという意見
もあるが、一回あたりの単価が落ちてしまえば事業そ
のものを続けられなくなる」(針生企画広報グループ
長)。 最近では生協同士の組合員の奪い合いも激化し
ており、協同組合といえども安閑とはしていられない。
特集定温ビジネスの誤算
10
0
20
30
40
100
200
300
400
500
600
700
800
900
(億円) 1996 1997 1998 1999 2000 (年度)
563.8
618.2
713.5
796.6
858.7
グループ
利用
個人利用
カタログ
その他
店舗
321.6
196.4
27.5 28.3 28.4
31.0
11.7
3.8
14.2
1.0
15.7
1.0
18.3
0.8
16.6
28.4
0.8
299.0
267.9
361.0
303.7
463.9
285.7
551.2
260.8
●首都圏事業コープ連合の業績の推移
首都圏コープの
針生圭吉企画広報グループ長
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