ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 早朝収穫の野菜を夕方には店舗にリスク覚悟で専用流通網を構築

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

早朝収穫の野菜を夕方には店舗に リスク覚悟で専用流通網を構築 AUGUST 2001 24 首都圏を中心に四三五店舗(六月末現在)を展開 するイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」。
同 社は低価格メニューを数多く用意している。
ミックス ピザ四八〇円、ミラノ風ドリア二九〇円など、お腹い っぱい食べても一〇〇〇円札でお釣りがくるという低 価格で、消費者からの支持を得ている。
その中でも特に人気のあるメニューが二九〇〜五八 〇円の「こだわりサラダ」だ。
トマト、レタス、キュ ウリ、ルーコラ菜など数種類の野菜が入っていて、ど れも一人では食べきれないほどのボリュームがある。
実に売り上げ全体の一〇%以上を占める主軸メニュ ーだという。
「来客者の三人でサラダ一皿を食べてい ただいている計算になる。
この手のレストランでサラ ダの売り上げが全体の一〇%を超えるのは極めて異 例」と柴田良平取締役経営企画部長は説明する。
サラダの人気の秘密は値段の安さだけではない。
安 さに加えて、使用されている野菜がどれも新鮮なのだ。
シャキシャキとした歯ごたえや口に含んだ時のみずみ ずしさは他のレストランのそれとは明らかに違う。
実はサイゼリヤではサラダ用として当日収穫した野 菜を使用している。
契約農家が早朝に収穫した野菜 を定温トラックで自社カミッサリー(食品加工機能を 備えた物流拠点)まで運び、洗浄・カット・パッキン グ後、その日の夜までに各店舗へ供給している。
この 当日配送の仕組みのおかげで、来客者はいつでも新鮮 なサラダを口にすることができるというわけだ。
かつて、サイゼリヤでは野菜の調達を完全に市場流 通に委ねていた。
卸業者から各店舗に供給される野菜 は収穫から四〜五日経過したもの。
決して鮮度がいい とは言えなかった。
「外食チェーンの場合、大量一括購入なので市場経 由でも野菜を安く調達することはできる。
ただし、当 社は安いだけでは満足できなかった。
おいしいサラダ を提供することで他社との差別化を図るために鮮度の いい野菜が欲しかった。
生産者、農協、卸売市場と 続く複雑な既存の流通チャネルではどうしてもリード タイムが長くなる。
野菜の鮮度を考えるとマイナスだ った」と長岡伸取締役商品一部部長は述懐する。
これを直接、農家から野菜を調達するかたちに切り 替えたのは九七年秋、カミッサリーが稼働した頃だっ た。
卸業者が各店舗にバラバラに食材を納入する体制 から、カミッサリーにいったん集約した後に一括で納 品する体制に改めた。
これによって、農家から直接大 量の野菜を買い付けることができるようになった。
サイゼリヤが構築している生鮮野菜の当日配送シス テムのフローはこうだ。
午前四時、福島県西白河郡の契約農家はサイゼリ ヤ本部から前日に送られてきた出荷情報を基にレタス、 キュウリといった野菜の収穫を始め、午前六時半頃ま でにサイゼリヤが設けている集荷場に野菜を持ち込む。
集荷場には庫内を冷やした状態の冷蔵車二台が待機 しており、次々と野菜を積み込んでいく。
午前八時、トラックが現地を出発。
四時間後の正午 には埼玉県吉川市にある自社カミッサリーに到着する。
その後、野菜はカミッサリーで洗浄・カット・パッキ ングなどの処理が施される。
仕分けなど作業を終え、 各店舗へ向けて納品用の定温トラックが出発するのは 午後五時頃。
カミッサリーからの距離に応じて、一時 間ないし二時間後の午後六〜七時には店舗に野菜が 届く。
夕食で来店する顧客に朝採りの野菜を出せる 時間帯までに配送を終えるという仕組みだ。
一般に市場流通を経由した場合、収穫からレスト ランで調理されて来客者の胃袋に入るまでの野菜のリ ードタイムはだいたい三〜七日掛かるといわれている。
イタリアンレストランチェーンのサイゼリヤは生産者から直接野菜を購入すること で低価格で鮮度の高いサラダを提供している。
それを支えているのが早朝に収穫した 野菜を夕方には店舗に供給する当日配送システムだ。
リードタイムが掛かりすぎて鮮 度が悪いうえ価格も高い市場流通の野菜に依存せず、独自の調達ルートを確保・維 持するために在庫や廃棄ロスのリスクを負う覚悟が必要だという。
Case Sutdy 市場外流通の最前線 外食チェーンサイゼリヤ 第1部 第3部 第2部 25 AUGUST 2001 これに対して、サイゼリヤの場合は原則として当日。
カミッサリーから遠く宅配便を利用せざるを得ない遠 隔地の店舗で一日とリードタイムは極端に短い。
この 差がサラダの鮮度、ひいてはサラダの売り上げ構成比 率の高さに結びついている。
それだけではない。
サイゼリヤでは「農家からの直 接買い付けによって、市場を経由するより二割も安く 野菜を調達できるようになった。
POS情報を基に本 部が必要な量だけ収穫を依頼するため、基本的に野 菜の在庫はゼロ」(長岡取締役)だという。
生産リスクを負う 早朝に収穫した野菜をその日のうちに顧客に提供す るという理想的なサプライチェーンを築き上げ、サラ ダの売り上げ拡大を実現したサイゼリヤだが、その裏 側では実に地味な努力を続けてきた。
生産委託農家と 共同で取り組んでいる、野菜の品種改良や肥料の開発、 苗の栽培といった農業研究がそれだ。
生産者から直接 野菜を購入する外食チェーンは増えたきたが、生産に まで深く関与している企業はまだ希だ。
何故、買う側であるサイゼリヤが門外漢の生産部分 にまで目を配っているのか。
長岡取締役はこう説明す る。
「欠品防止のために多めに発注して、出荷直前に なると急に減らす。
そんなやり方では農家は新鮮な野 菜を供給してくれない。
リスクを負わずに鮮度の高い 野菜を安く売ってくれというのは虫が良すぎる話で、 買い手側のエゴにすぎない」 要するに、生産に関与することで不作だった場合は 野菜を調達できない可能性もあるというリスクを負っ ているのだ。
そうすることで、契約農家と信頼関係を 築いている。
自らもリスクを負うという姿勢は物流にも反映され ている。
サイゼリヤでは生産地からカミッサリー、さ らにカミッサリーから店舗までの物流をすべて自社で コントロールすることで、温度管理の不備による野菜 の鮮度低下の責任を農家に転嫁しないようにしている。
「いろいろな食べ物があるが、口に入れる頻度が一 番高いのは野菜だ。
それなのに日本の場合、各チャネ ルにおける野菜の温度管理があまりにも杜撰すぎる。
野菜の扱いに特化した物流業者もない」と長岡伸取 締役商品一部部長は日本の定温物流の現状に苦言を 呈する。
物流の自社コントロールに踏み切った背景に はベンダーや物流サービスプロバイダー任せの仕組み では理想とするコールドチェーンが構築できないとい う判断もあった。
現在、サイゼリヤでは野菜の使用量の約八割を直 接買い付けで賄い、残りの二割を市場から調達してい る。
市場分を残しているのは天候不順などで契約農家 から調達できない場合を想定しているためで、あくま でもリスクヘッジという意味合いが強い。
これを一割にまで減らすことを当面の目標として掲げている。
ただし、そのためには新たな生産地の開発が欠かせ ないという。
「野菜の生産にはどうしても端境期が生 じる。
年間を通じて野菜を安定的に調達するためには 生産地を日本全国に分散させる必要がある」と堀埜 一成取締役商品三部部長は説明する。
実際に、店舗 数の拡大に合わせて、福島県西白河郡以外の生産地 の開発を徐々に進めている。
野菜の鮮度維持、調達コストの低減など農家から の直接買い付けによってもたらされるメリットは確か に大きい。
ただし、安定供給が約束される市場流通を 捨てた企業は、その一方で生産への関与や物流の自 社コントロールなど本業以外の部分でたくさんの汗を かかなければならないようだ。
特集定温ビジネスの誤算 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 ●サイゼリヤの過去5年間の売上高の推移 (百万円) 96/8 97/8 98/8 99/8 00/8 サイゼリヤの 長岡伸取締役商品一部部長

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