ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 市場流通に切り込むも資金難に直面青果物の一括物流センターに活路

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

市場流通に切り込むも資金難に直面 青果物の一括物流センターに活路 AUGUST 2001 26 二〇〇〇億円を直販 全国農業協同組合連合会(全農)は、農産物の流 通において商社のような機能を担っている。
農業協同 組合(農協)や経済連を補完して、購買事業と販売 事業を手掛ける。
肥料や農機具の共同購入などを行 う一方で、農畜産物の販売事業にも取り組み、年間 取扱高は約五兆円。
頭打ちの状態が続いているものの、 大手総合商社に次ぐほどの取扱高を誇っている。
卸売市場が生産者にも小売りにも偏らずに中間流 通を担っているの対し、全農はあくまでも生産者の立 場で農産物の販売にあたってきた。
しかし?セリ〞が 原則の市場流通では、生産者主導の価格設定は叶わ ず、消費者の望む?顔のみえる流通〞も実現しにくい。
こうした状況に長年、不満を抱いてきた。
このため一九六〇年代には、インフレによる青果物 の価格高騰になすすべのない市場流通に業を煮やして、 自前の販売ルートを全国に設けるという構想を打ち出 した。
実際に六八年には埼玉県戸田市に「東京集配 センター」を稼働し、全国一五カ所に直販センターを 立ち上げて、市場流通のバイパスとして活用するとい う計画をスタートした。
しかし、この計画は難航した。
いまだに四センター が稼働しているだけで、二〇〇〇年度に扱った青果物 の取扱高は約二〇〇〇億円。
約四兆円と言われる青 果物流通の五%程度に過ぎない。
全農・大和生鮮食品集配センターの高田隆一営業 開発部副部長は、「現在の取扱高は、まだ面ではなく 点に過ぎない。
全農で青果物の販売を手掛けている園 芸販売部は、本部の人件費も計算に入れると三〇年 ほどの歴史のなかで一回しか黒字になったことがない。
青果物のように単価の安いものを売って利益を出すと いう商売は、それだけ難しい」と明かす。
協同組合である全農は、原則として利益を出す必 要はない。
それでも活動を続けていくうえで必要な原 資は自ら確保しなければならない。
しかし、「七、八 年前にも一度、直販事業のインフラを再整備しなけれ ば生産者の負託に応えられないという議論が出た。
だ が経済状況がそれを許さなかった」(高田副部長)と いう苦い経験を持つ。
逆ザヤも発生 とは言え、全農の直販事業は、現存する市場外流 通としては最大のチャネルだ。
生協のように自前の中 間流通機能を構築している事業者以外は、既存の卸 売市場流通に代わる機能を見つけるのは簡単ではない。
このため、全農の直販センターから青果物を仕入れる という選択をする小売店や外食チェーンは多い。
全農の直販センターの機能自体は卸売市場とほと んど同じだ。
「市場の卸と仲卸が合体したのが農協の 直販事業。
いわば会員制の卸売市場と考えてもらえば いい」と高田副部長。
卸と仲卸の二重構造が解消さ れている分だけ効率化されていて、生産者の顔も見え やすい。
価格の決め方も予約制の相対取引が主流だ。
大和集配センターの顧客は、七割弱を生協や量販 店が占め、二割強は無店舗販売や外食チェーン向け。
残りの約一割弱が専門店向けになっている。
事前に予 約ができるうえ全農の集荷能力を活かせるため、小売 りチェーンにとっては青果物の安定供給を確保しやす いというメリットがある。
もっとも、全農にとって量販チェーンとの取引は、 物流コストの面で頭の痛い課題を抱えている。
「全農 の青果物流通の物流コストは対売上高で七〜八%程 度。
しかし、大手量販店の試算ではこの部分は五% 全農が運営する全国4カ所の直販センターは、年間およそ2000 億円の青果物を扱う市場外流通の最大手だ。
多くの生協や量販 チェーンが利用している。
しかし、約4兆円の青果物流通に占め る構成比はわずかに過ぎず、新たなインフラ投資によって取扱高 の急拡大を図れる状況でもない。
Case Sutdy 市場外流通の最前線 生産者 全国農業協同組合連合会 第1部 第2部 第3部 27 AUGUST 2001 程度でしかない。
このため彼らに代わって店舗配送を 手掛けても、五%しか運賃をもらえないケースが出て きてしまう」と全農の奥野和男総務広報室長は嘆く。
温度管理への対応も悩ましい話だ。
「卸売市場でコ ールドチェーンが途切れていることが青果物流通の大 きな課題」(奥野室長)という全農は、かつて全国規 模の直販事業に打って出たとき、定温物流の整備も 念頭に置いていた。
しかし現実には、莫大な設備投資 をまかない切れず、主力の大和集配センターでも、定 温化しているのは一割程度のスペースに過ぎない。
量販店向け一括物流に活路 大和センターには毎日、約二〇〇台の車両が青果 物の入荷に訪れる。
ほとんどが一〇トン車か四トン車 だが、このうち冷蔵車もしくは保冷車の割合は全体の 三割程度でしかない。
もちろん、全農も定温化を進めたいという意志は持 っている。
直販事業の定温インフラを整備できれば、 それが有力なセールスポイントになることも分かって いる。
実際、特定の小売りチェーンの要請に応えて、 産地から小売り店頭までを一貫したコールドチェーン でつないでいるケースもわずかにある。
こうした商材 については、小売りの店頭でも目玉商品として陳列さ れるケースが多いという。
問題はコストだ。
定温管理を徹底したところで、そ の青果物の販売価格が高くなるわけではない。
「特定 の大口顧客の囲い込みには効果的かもしれないが、価 格については下げ止まる程度」(高田副部長)でしか ない。
つまり、定温管理のために投資をしても回収が 難しいのである。
一キロ当たり二〇〇円程度と単価が安く、体積が かさむ青果物の物流で利益を出すのは簡単ではない。
それでも回転率が高いため、保管から流通加工、そし て配送まで請け負うことができれば採算にも乗ってく る。
市場規模が大きいだけに物流ビジネスとしては大 きな可能性を秘めている。
そこで、最近では全農も頭を切り換えつつある。
イ ンフラビジネスとして直販事業を捉えるのではなく、 付加価値を高めることによって活路を見出そうとして いる。
例えば、「特定の販売先に入り込んで、マーケ ティングまで含めて請け負う。
また量販チェーン向け に青果物の一括物流センターを担うという手もある」 と高田副部長は強調する。
実際、大和集配センターでは、イトーヨーカ堂向け 一五店、東急ストア向け三二店舗、いなげや向け二 五店舗――など大手量販店のセンター業務を数多く手 掛けている。
いずれもセンターの近隣の店舗には直接 配送する。
それ以外は小売りのセンター向けに横持ち をかける。
もちろん車両は冷蔵車だ。
「大和集配センターから直接、店舗に供給できる距離はかなり制限される。
専用車両を使う場合は、納品 車両の回転率を上げなければ採算が合わないため、カ バーできるのはせいぜい半径三〇キロぐらい」(高田 副部長)。
それ以上に遠い店舗への配送を請け負うこ とは、全農にとって採算割れになりかねない。
既存のインフラを使うだけでなく、顧客ニーズに応 じて物流拠点を新設する試みもスタートしている。
生 協の連合会組織「ユーコープ」からは、急伸する個配 事業のための物流業務を受託した。
そのために大和集 配センターから二キロほど離れた場所に倉庫を確保。
全農のリスクで三億円を投じて定温倉庫に改装した。
すでに一日三万件の出荷作業を手掛けている。
全農 の直販事業は、物流事業者として脱皮する道を模索 している。
特集定温ビジネスの誤算 400 350 300 250 200 150 100 50 0 野菜・果実の売上高(億円) 600 500 400 300 200 100 0 合計売上高(億円) 野菜 果実 合計 ●伸び悩む大和生鮮食品集配センターの業績 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 海外からの 原料輸入 消費者 メーカー 量販店・生協 肥料・農薬・飼料 石油・LPガスなど 直輸入 小売店 卸売業者 J A 全 農 県本部 JA経済連 農 家 農協JA ●全農は生産者と消費者の間で商社的な役割を担っている

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