ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 卸売市場は商物分離すべきだ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「卸売市場は商物分離すべきだ」 AUGUST 2001 28 ――青果物のコールドチェーンが途切れているという 話をよく聞きます。
「定温流通のネックになっているのは卸売市場です。
産地から卸売市場までの温度管理に比べて、まだまだ 体制が整っていません。
徐々に定温施設を備えた卸売 市場も増えてはいますが、青果物の場合は、もっとも 進んでいるところでも全館空調ではない。
つまり、せ っかく産地で冷やしてきたものが、卸売市場で常温に さらされているんです」 「それでも品質に影響の出ないぐらい短時間で卸売 市場から運び出せれば、次は仲卸などがきちんと定温 で管理すればいい。
しかし、この段階でも一部しかで きていません。
その先の青果物を買い入れる量販店の 配送センターまでいけば、比較的しっかりと温度管理 がなされている。
量販店のバックヤードや、店頭のシ ョーケースでもそれなりの温度管理をしています」 ――この問題を関係者はどう解決しようとしているの でしょうか。
「コールドチェーンは確かに途切れています。
ただね、 卸売市場での温度管理が本当はどこまで必要なのかと いう議論がないんです。
卸売市場を全館、温度管理しよ うと思ったら莫大な設備投資が必要になります。
でも 行政にも卸売会社にも、量販店にもそんな力はない。
だ としたら、もっと現実的に定温流通を確立する道があ ると私は思っているわけです。
全館空調がもっとも望 ましいのは当然ですが、違うやり方もあります」 「まずは産地がきちっと冷やしているか、それを定 温で運んでいるのかどうかを、卸売市場の温度管理の 問題と同列に考える必要があります。
産地と輸送には 問題がないことを前提に、卸売市場だけを別扱いする べきではない。
そのうえで現実に卸売市場が定温管理 をするのが無理なのであれば、実質的に求められてい る鮮度を保てる仕組みを考えればいい。
私は、産地や 輸送の運用によって、鮮度保持を今より高める方法は あると思いますよ」 商物分離で卸売市場は生まれ変わる ――行き詰まりを打開する方法がありますか。
「ありますよ。
いろいろなやり方があります。
例えば、 いまは卸売市場法によって条件付きでしか認められて いない?商物分離〞をもっと自由化するという手があ ります。
そうなれば、いまさら卸売市場に設備投資を しなくても、産地から直接、量販店に運ぶことが可能 になります」 「商物分離を実現する方が、卸売市場にお金を投入す るよりも有効です。
時間が短縮できるし、温度管理も しやすくなる。
道路の混雑も減るし、労働力も少なく て済む。
いいこと尽くめですよ。
それが現実には卸売 市場法に縛られて、商物分離は開設区域内でしか認 められていないんです」 ――しかし、現実に卸売事業法があるわけですから、 商物分離は簡単には進みそうもありませんね。
「もう一つの解決方法としては、卸売市場を立体自 動倉庫化してしまうという手があります。
しかも二四 時間稼働にして、いつ持ってきてもいいし、いつ出し てもいいようにしてしまう。
そうすれば現在のような 場内の混雑は解消するはずです。
今は入っているモノ を持ち出してからでなくては、新たな搬入はできませ ん。
そのため市場に持ち込む時間というのが、かなり 制限されています。
入荷のための車両は混むし、二時 間ぐらい築地に入れなくて待たされるなんてこともあ る。
非常にムダです」 「それこそ、長期保管が可能なものはこの自動倉庫 に入れ、短期でさばくものは商物分離をして郊外の物 卸売市場に求められる役割は変わった。
かつて市場の存在価値と言わ れていた、「評価機能」や「分散機能」は、もはや絶対的なものではない。
規制緩和によって卸売市場の商物分離を進めれば、多くの問題が解決す る。
過去三〇年以上にわたって取り組んできた流通のコールドチェーン 化は、新たな投資ではなく運用によって解決すべき問題だ。
流通システム研究センター初谷誠一 社長 Interview 食品物流の担い手に訊く 食品物流スペシャリスト 第2部 第3部 第1部 29 AUGUST 2001 流センターに入れてしまえばいい。
法律上の問題はい ろいろとありますが、ロジスティクスを考えたときの 最大の解決法は、?商物分離〞によって郊外に物流セ ンターを作ることと、卸売市場の?物流センター化〞 ですよ。
この二つだけでも、いま抱えている問題のか なりの部分を解決できる」 今後も市場外流通は伸びる ――これまで市場流通が果たしてきた役割というのを、 改めて教えてください。
「どんなに有機野菜や安全性への関心が高まっても、 絶対多数の消費者はそこまでのこだわりは持っていま せん。
ですから卸売市場が大量に商品を集めて、大量 に発送するという機能は今後もなくならないはずです。
また、市場には生産地から販売の?委託〞を受けて、 その商品を?評価〞して売りさばくという機能があり ます。
これは産地にとっては、まことに便利な仕組み です。
送り込んでしまえば、売ることは考えないでい いわけですから。
しかも法律上、どれだけの量を持ち 込んでも卸売市場は受け取りを拒絶できない」 「逆に、こうしたことが産地を怠惰にさせてきたと いう面はあります。
補助金だのみで自らマーケティン グ的なことをしてこなかった。
しかし、これからはそ うはいきません。
産地も卸売市場を選ぶし、卸売市場 も産地を選ぶようになるはずです」 ――卸売市場法の役割が終わったということですか。
「役割が終わったというより、変わったんでしょう ね。
卸売市場の存在価値として?評価機能〞や?分 散機能〞などが言われていますが、これはしがみつい ているだけの話です。
もはや、卸売業者でなければ流 通を担えないという時代ではありません。
そういう意 味では従来の卸売会社の役割というのは、ほとんどな くなっています。
卸売会社は商物一致だと考えている と、そこから先には進めません」 ――全流通量の約二割といわれている市場外流通は、 今後も伸びていくのでしょうか。
「当社の調査によると、産地でも経済連や全農は、市 場外流通を増やしたいという姿勢を明確に持っていま す。
セーフティガードがらみで、農水省も商物分離を ゆるめていく方向性を明らかにしつつある。
商社の参 入は市場外流通を増やす要因ですが、商物分離にな れば一層進むはずです。
そして卸売会社は商社化する。
そうなれば、市場と市場外という言葉を使い分けるこ と自体、ナンセンスになりますよ」 ――消費者の要求は、コストアップにつながる設備投 資と、コスト削減の両方を迫っていますね。
「鮮度保持や品質保持というのは世の中の強いニー ズです。
また、農業就労者の高齢化が進み、機械化し ないと出荷作業自体ができなくなるという現実も無視 できません。
農業の維持そのものに投資が必要になってくるわけです。
その一方で、海外から良質の青果物 が入ってくるようになって価格競争が激化している。
必然的に低コスト化が求められています」 「こうした状況での新たな投資というのは、コスト は上がるけれども、コストパフォーマンスも上がるも のでなければいけない。
単位コストを下げられれば、 低コスト化とコストアップを両立できます。
そのため にも卸売市場の機能そのものを根本的に変えていくこ とが重要です。
鮮度保持や品質保持の面でも、より効 果のある方法を探っていく必要がある。
もちろん定温 流通もそうですが、風を送ることで鮮度を保持できる のであれば、それで十分なわけです。
どの程度の鮮度 保持が必要なのかという線をきちっと出して、それを 低コストで実現すべきです」 特集定温ビジネスの誤算 流通システム研究センターが2000年 6月に刊行した『産地のための青果物流 通システム改善のすすめ』。
青果物をとり まく流通の課題を包括的に取り上げてお り、青果物流通の入門書として手頃。
青 果物の供給にかかわる産地の経済環境の 変化、青果物流通システムの実態、卸売 市場や小売業の変化――などについて詳 述してある。
同社は農産物流通技術研究会の事務局 を20年間務めるなど、農産物流通や食品 流通の出版・調査・コンサルティングの 会社として知られる。
18ページに記載し た図表「北海道から都内小売店までのニ ンジン輸送の温度変化」(「平成11年度・ 食品流通安全・品質確保対策事業」)は、 社団法人日本農林規格協会の委託を受け て同社が実態調査を手掛けたもの。

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