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「物流業者は中間流通を担え」
AUGUST 2001 30
リーダー不在の青果物流通
――これまで青果物のサプライチェーンは誰が主体と
なって管理してきたと考えればいいのでしょうか。
「残念ながら、青果物のサプライチェーン全体を管
理している組織はありません。 青果物流通にもSCM
を導入すべきだという考え方は業界のなかにも出てき
てはいる。 しかし、誰がリーダーシップをとるのかが
決まっていない。 どう具体的に手を付けていくか、コ
ストはどう配分するのかをマネジメントするリーダー
がいない。 結果として、生産から消費まで横串を通す
仕組みはできていない」
――それでは産地から小売店頭までのコールドチェー
ンは、どう管理されているのですか。
「完全に切れています。 チェーンになっていない。 基
本的に産地には定温倉庫が整備されています。 収穫
後、定温で保管しておいて出荷調整をする場合などが
ありますから、どうしても必要なんです。 本来なら、
産地から出荷した後も店頭まで定温で運べば良いわけ
ですが、卸売り市場に入荷した後は温度管理ができな
くなる」
――卸売市場には定温機能はないのですか。
「もちろん卸売市場にも一応、定温倉庫はあります
が入りきらない。 実際は野ざらしです。 ここ数年、農
林水産省が主体となって青果物のロジスティクス改革
を進めていますが、それもまだ調査・実験段階です」
――なぜSCMの導入が進まないのでしょうか。
「それで誰か得している人がいるからだと思います。
流通をブラックボックスにすることで利益を得ている
人がいるんでしょう」
――それは誰なんですか。
「まあ、中間流通でしょうね。 セリを仕切っている
卸売市場は公的な機関のように見えるかも知れません
が、あれは純粋な民間企業です。 市場の土地や建物は
自治体のものですが、それを民間企業として借りてい
るわけです。 しかも、この世界には新規参入がない。
他の企業でも、組合に入れば卸売業者として参入でき
るわけですが、実際にはできない」
――ということは、そこが一番おいしい。
「おいしいんでしょうね。 それで八%もマージンがも
らえるわけですから。 しかも、卸売市場には基本的に
物流機能はありません。 ほぼ純粋な仲介手数料として
マージンを得ている」
――その結果として、やはり日本の青果物は諸外国と
比較して高いわけですか。
「めちゃめちゃに高い。 世界でもトップクラスの価
格になっています。 物流費がかかる輸入品と比較して
も三割は高い。 もちろん、日本は人件費や経費自体が
高いということもありますが、やはり流通構造の問題
が大きい」
――どうすれば下がりますか。
「人件費や土地の値段を下げようとしても実際には
難しい。 価格を下げるには、やはり流通構造にメスを
入れなければならない。 それには『中』を抜くんです。
少なくとも卸と仲卸は機能統合させる。 そして産地か
ら直送すれば、現在のように大規模な中央卸売市場
は物理的に必要なくなる」
――しかし、物流機能以外にも卸売市場が果たしてい
る役割があるでしょう。
「一つは決済です。 生産者にとって、卸売市場は売
れた後、数日で現金化してくれるので集金の心配がな
い。 それともう一つは売りさばきの問題です。 卸売市
場は法律上、生産者が出荷してきたものは荷受けを拒
否できない。 必ず売りさばかなければならないルール
現在の青果物流通はSCMを欠いている。 多段階流通によ
ってコールドチェーンはとぎれ、需給調整も機能していいな
い。 しかし、保護行政にあぐらをかいた既存のプレーヤーに
自己改革を期待するのは難しい。 アウトサイダーの参入が待
たれている。 物流業者はその有力候補だ。
チェンジマネジメント・インターナショナル(CMI) 吉田行雄代表
Interview 食品物流の担い手に訊く
食品物流スペシャリスト
第2部
第3部
第1部
31 AUGUST 2001
になっています。 だから生産者から見れば、値段はと
もあれ必ず現金化できるという安心がある」
「青果物は鮮度の問題がありますから、今日は相場
が安いので一週間後に売ろうという操作ができない。
収穫したら全て捌かなくてはならない。 だから市場が
必要になる。 魚も近海物の場合は同じように市場が必
要です。 逆に在庫保管が可能な加工食品は、卸売市
場など全く必要としない」
――となると青果物の卸売市場の場合、少なくとも商
流機能は必要なんですね。
「卸売市場は大きな問題を抱えている。 しかし、市
場がないと流通が形成できないのも事実です。 全国の
末端までモノが行き渡らなくなってしまう。 問題だと
言われながらも、市場には荷が集まるわけです。 そし
て市場にはそれを捌く義務がある。 だから流通してい
る。 売り残しがないから市場流通が残っている」
「その意味で市場はやはり必要なんです。 ただし、い
かんせん現在の卸の機能レベルは低い。 本来は卸は需
要と供給をマッチングさせる機能を持たなければいけ
ないのに、それができていない。 捌く機能はできてい
る。 しかし、ニーズに合わせて産地開発をするという
重要な機能ができなくなっている」
物流業者の「産直」は化ける
――現在、総合商社や外資系メーカーなどの大資本
が、産地開発を含め、市場外で日本の青果物のサプラ
イチェーンを構築しようと動いています。 この動きを
既存の中間流通業者たちはどう見ているのですか。
「今、おっしゃった商社やメーカーは自分で在庫リ
スクをとって販売しようとしている。 実際には、まず
量販店や外食チェーンと商談をまとめて、それから調
達に走るわけですが、完全に民間ベースのしごくノー
マルなビジネスです。 本来なら力のある卸が自分の力
で、それをやればよかった。 その機能を既存の中間流
通を持てばよかったのに、それをしてこなかった」
「やはり卸はリスクを犯すのが怖かったんだと思い
ます。 市場法の枠内で商売しているほうが楽ですから
ね。 既存の流通では卸はモノさえ集めれば、後は値段
がいくらであろうと自動的に決められた手数料が入る。
ところが、自分で仕入れてそれを販売するということ
になると、在庫リスクが発生する。 売れ残った場合を
考えれば怖い。 そもそも卸には仕入れという概念がな
い。 結局、価格を高くしているのは彼らです」
――総合商社をはじめとする新興勢力は既存の流通
にとって敵になるのでしょうか。
「実際には持ちつ持たれつという面が強いようです
ね。 もちろん新興勢力のほうは自分のリスクで購入す
るわけですが、それでも売れ残れば市場を利用してい
るようです。 また注文を受けた分を調達しきれなかっ
た場合も、市場から調達するしかありません。 結局、両方が並立して、必要に応じて選択できる形になるの
が一番いいと思います」
――物流業者の出番はありますか。
「私は産地と小売りが直接、取引をするのなら物流
業者が中間流通を担うべきだと考えています。 既存の
流通業者の中には、全国に定温ネットワークを持って
いるところなどないわけですから、それは強い。 その
時期の筍の食材を全国に配送できる。 物流業者も一
部は既にそうした事業を手掛けているようですが、も
っと大規模なビジネスになるはずです」
「さらに物流業者が商流機能を持つようになったら
一番強い。 卸売市場にとって代わることにはならない
が、一方のカウンターパワーになる可能性が高いと考
えています」
特集定温ビジネスの誤算
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