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「定温の世界は甘くない」
AUGUST 2001 32
フル稼働でようやく儲かる
――定温物流は儲かる分野だと言われています。
「正しくは、やりようによっては儲かるでしょうね。
トラックにしても、倉庫にしても三六五日二四時間フ
ルに活用することが前提条件です。 一日に一回しかト
ラックが動かないような仕事では採算を取ることはと
ても無理。 コンビニエンスストア向けの配送は一日に
二便ないし三便あって、三六五日動くから採算が合う
んです。 要は配送に関して言えば、トラックの稼働率
が高い仕事を受注しなければダメです。 一日一便だっ
たり、土日が休みの仕事だときついと思いますよ」
――ドライ貨物と定温貨物の配送とでは運賃にどのく
らいの差があるのでしょうか。
「国土交通省の届け出運賃では、定温貨物の運賃は二
〜三割増しという規定があるのですが、実態はそうで
はないですね。 カサイ経営の調査によると、ドライに
比べて四%ぐらい高い程度ではないでしょうか」
――四%で採算が合うのですか。
「定温トラックは普通のトラックに比べて価格が高
いし、電気代や燃料代などランニングコストも掛かり
ますから、確かに四%では苦しいはずです。 だからこ
そ、三六五日二四時間トラックを稼働させる必要があ
るのです」
「コンビニ向けの配送を手掛けている物流業者は利
益を確保するために、契約社員のドライバーや年齢層
の低いドライバーを雇用するなど労務管理で工夫を凝
らすことで、ローコスト化を実現しています。 ドンブ
リ勘定の業者が多い中で、定温物流の業者は比較的
コスト管理がしっかりしている。 そうしないと、いつ
まで経っても利益が出ないわけですから」
――
定温物流業者の業績はいずれも堅調です。 この
分野をターゲットにする物流業者は多いのでは。
「儲かると思ってトラックや倉庫を用意して参入し
たものの、結局はノウハウがなくて採算ラインに乗せ
られずに撤退を余儀なくされている業者も少なくあり
ません。 定温の世界はそう甘くはありません」
「ただし、引き続き、定温物流が有望な市場である
ことは間違いないでしょう。 食品物流に占める定温の
割合は年々高まっています。 私の試算では食品物流
全体の約四割が定温管理されている計算です。 ドライ
食品を定温で管理しようという動きがあったり、食品
の温度帯をさらに細分化したりと、ニーズは拡大して
います。 冷凍食品の消費量はマイナスに転じましたが、
潜在需要はまだまだあるはずです。 ビジネスチャンス
はいくらでもあると思いますよ」
――今後伸びそうな定温分野はありますか。
「まず介護食など給食宅配の分野。 既にミニバンを
使った宅配サービスがありますが、今後はバイク便事
業者もこの分野を攻めてくるでしょうね。 中食と呼ば
れる惣菜や弁当の分野やネットスーパーなど買い物代
行サービスの分野も新たな定温市場として注目を浴び
ています。 いずれも消費者に近い物流でリピート率が
高い。 きちんとしたオペレーションさえできれば仕事
は減らない。 定温ができる業者は将来は安泰といって
も過言ではないでしょう」
青果物物流はチャンス
――定温市場の一つに青果物の物流があります。 しか
し、これまでこの分野のプレーヤーはごく一部に限ら
れていました。
「定温物流業者が青果物の物流に本格的に取り組んで
こなかったのは青果物が運賃負担力がなく、なおかつ
品質管理の難しい商品だからです。 呼吸によって炭酸
現場に近いコンサルティングで定評のあるカサイ経営の一員
として、定温物流というニッチな分野に特化して日々研究を進
めている。 コールドチェーンの入門書「低温物流とSCMがロ
ジ・ビジネスの未来を拓く」を上梓した同氏に、定温物流で儲
けるための秘訣や青果物流通が抱える問題点などを聞いた。
Interview
カサイ経営野口英雄 主席研究員
食品物流の担い手に訊く
第1部
食品物流スペシャリスト
第2部
第3部
33 AUGUST 2001
ガスが発生したり、水分が出たり、熱が出たりするの
で、扱いを間違うとすぐに鮮度が落ちてしまい使い物
にならなくなる。 臭いの関係で混載できない青果物の
組み合わせもある。 こうした課題を克服するノウハウ
がだいぶ蓄積されてきましたが、それでも定温業者に
は依然として『青果物には手を出すな』という意識が
根強く残っているでしょう」
――
青果物の市場流通には温度管理を徹底するとい
う発想が欠落していたような気がします。
「農協、卸売市場、仲卸、小売りと続く青果物の市場
流通にはコールドチェーンという概念はありませんで
した。 鮮度維持のための温度管理は、例えば市場で調
達してから店頭に並ぶまでの間のみで、川上の農協で
は野ざらしの状態といったように分断されていたのが
実情です。 多段階流通の弊害だとも言えるでしょう」
――何故、そんな状況に陥ってしまったのですか。
「乱暴な言い方をすれば、これまで農家は闇雲に野
菜を作って、それを市場に送り込めばよかったんです。
消費者が口にするときの鮮度など意識してはいなかっ
た。 自分たちは生産だけで、後は勝手に市場が品物を
さばいてくれる。 マーケティングの概念や、新鮮な野
菜を供給するためのロジスティクスを構築するという
概念がまったくなかった」
――これが徐々に変わりつつあるのですか。
「変わらざるを得なくなってきたというのが本音で
しょうね。 市場流通の野菜のリードタイムと中国や韓
国からの輸入野菜のリードタイムはほとんど差がない。
つまり鮮度もほとんど変わらない。 消費者が価格の安
い輸入野菜のほうを手に取るのは当然です。 この市場
流通による弊害をなくすにはまず生産者の姿勢を変え
なければならない。 最近ではマーケティングやロジス
ティクスの教育に熱心に取り組む先進的な農協も見
受けられるようになりました」
――しかし、市場流通には任せられないということで、
生産者と直接取引する市場外流通の割合が年々高ま
っています。
「市場流通の機能が小売りや消費者のニーズを満た
していない以上、仕方のないことでしょうね。 新しい
取引形態が登場したことで物流業者のビジネスチャン
スも当然拡がると思いますよ。 市場に代わって、生産
者から消費者までのサプライチェーンをコントロール
する機能が必要になりますから」
――物流業者はその担い手になると?
「可能性は十分あると思いますよ。 ただし、帳合い
の部分までも一気に中抜きするのは難しいので、事業
の立ち上げ当初は仲卸などを介在させる必要があるで
しょう」
――物流業者の業務範囲はどこまでになるのでしょう
か。
「野菜の集荷、一時保管、配送といった基本的な物流業務はもちろんですが、農協がやっているような野菜
の計量、アソート(仕分け)などの作業も請け負うよ
うになるでしょう。 もっとも、野菜のカットなど製造
に近い機能までは持たないでしょうね」
――主要プレーヤーはトラック業者でしょうか。
「国内の青果物は主にトラックによって運ばれてい
ますが、これからは鉄道や船舶の利用も考えていかな
ければならないでしょうね。 先述しましたが、青果物
には運賃負担力がないので、こうした大量輸送が可能
なモードを使って、規模のメリットを出す必要がある
でしょう。 農水省主導で鉄道を使った青果物輸送の
実証実験が進められていますが、残念ながらトラック
に肩を並べられるような輸送品質のレベルに達してい
るとは言えません。 まだまだ時間が掛かりそうです」
特集定温ビジネスの誤算
「低温物流とSCMが
ロジ・ビジネスの未来を拓く」
〜鮮度管理システムで顧客サービス競争に勝つ〜
野口英雄=著
俵信彦=監修
プロスパー企画発行 2500円(税別)
第1章低温物流とSCMが今、なぜ注目されるのか
第2章低温物流の基礎知識
第3章鮮度管理が基本の低温SCM
第4章拡がりを見せる対象領域と将来展望
第5章低温物流の技術的課題
第6章高品質・ローコスト化を支えるソリューシ
ョンと管理技術
第7章ロジスティクス・ニュービジネスとしての
展開
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