ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年8号
特集
定温ビジネスの誤算 チルドができれば何でもでき

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「チルドができれば何でもできる」 AUGUST 2001 36 ――今年六月末に社長に就任したわけですが、協同 乳業から名糖運輸に移った当時、メーカーの世界と物 流の世界のギャップに戸惑いませんでしたか。
「違いはモノづくりの部門の有無だけで、メーカー も物流も基本的な部分は変わりません。
本当は物流 企業もメーカーが持っているような機能をどんどん持 つべきなんです。
例えば研究所。
物流企業だって排ガ ス対策や燃費、温度管理技術などの研究機関を自社 で持ってもおかしくない。
開発の専門部隊も必要でし ょう。
物流企業で商品開発に力を入れているのはヤマ ト運輸さんぐらいじゃないですか」 ――メーカー出身者からすると、物流企業には穴がた くさんあるように見えるのでは。
「物流企業のコスト管理ってまだまだ甘いんだろう な、という先入観はありました。
しかし、不思議なも のでこちら側の立場になると、何を勝手なことばかり 言っているんだよ、と思うようになる(笑)。
自社で できるコスト削減策は出し尽くした観がありますので、 これからはお客さんと協力してムダを排除していくし か術はない」 「メスを入れるとすればトラックの部分でしょう。
積 載効率をいかに上げるかが、この商売の最も重要ポ イントです。
ただし、時間指定などお客さんの要求 通りに運んでいては積載効率はいつまで経っても改 善できません。
『時間指定さえ外してもらえれば、コ ストダウンのメリットを還元できます』と思い切って 交渉してみる。
案外理解してもらえるものです」 利益は労務管理に左右される ――一般に定温物流業者は収益性が高いと言われて います。
何故でしょうか。
「一つには新規参入が少なかったことが挙げられま す。
定温物流では主に食品を扱うため、基本的に二 四時間、三六五日営業。
これが参入障壁になってい た。
単価の安い食品には運賃負担力はありませんが、 毎日必要ですから、トラックも毎日稼働する。
他の物 流よりは平準化しやすい。
利幅は薄いが回転率のいい 仕事なんです」 ――本当に儲かるのであれば、新規参入が増えるはず ですよね。
「決算の数字だけを見れば魅力的な分野なのかも知 れませんが、利益の確保は簡単ではありません。
成功 のカギは労務管理にあります。
当社ではパート・アル バイトの活用を積極的に進めています。
ただし、闇雲 に雇用すればいいというわけではない。
肝心なのは管 理の方法です。
フリーターでも茶髪のお兄さんでも責 任のある仕事を与えれば、きちんとやりますよ。
社員 にひけを取らないくらいに働く。
その点、当社の営業 所長は人の管理が上手い。
完全な能力主義、しかも 利益主義ですからきちんと管理できなければ、給料が 減るので皆必死です」 ――定温物流業者の高収益性はいつまで続くのでしょ うか。
今後は新規参入もあって競争が激しくなるので はないでしょうか。
「競争の激化は当然あるでしょうね。
ただし、食品 物流の市場には依然としてフォローの風が吹いている のは実感しています。
当社がもっとも得意とするチル ドの分野では商品そのものの数が増えています。
さら に、以前はドライで扱っていた商品をわざわざ冷やし て運ぶようにもなってきました。
自家物流だった中小 のメーカーが、当社のような専門業者にアウトソーシ ングする動きも出てきています」 ――単価維持が厳しくなってきたようです。
「業界全体としてギリギリの水準にまで落ちてきて 定温物流のなかでも最も品質管理が難しいとされるチルドの分野 に特化している。
チルドの仕事ができれば、冷凍、ドライを取り込 むのは比較的容易と断言する。
コストに厳しいコンビニエンス・ス トアや量販店の物流管理を請け負いながら、能力主義に基づいた労 務管理のノウハウによって着実に利益を確保している。
Interview 名糖運輸滝澤昭 社長 食品物流の担い手に訊く 食品物流企業トップ 第1部 第3部 第2部 37 AUGUST 2001 います。
定温の運賃はドライに比べ数%高いと言われ てきましたが、その差が徐々になくなりつつある。
そ れだけ値下げ要請は厳しい」 ――堅実な投資を続けています。
「設備投資はだいたい年間で二〇億円ぐらいを続け ています。
キャッシュフローより少し足が出るくらい の金額です。
特に今年は少し多めに三五億円を計画 しています。
今年がピークで来年からは徐々に減らし ていくつもりです。
拠点の新設はほぼ一巡しましたの で、今後は老朽化した設備の改築などの費用がメーン になります。
設備投資額は三年後には現在の半分くら いになるでしょう」 ――定温は大きくチルドとフローズンに分かれますが、 メーンのターゲットはどちらになるですか。
「当社の場合はチルドです。
チルドで生きていこう と思っています。
チルドの分野で日本一になる自信も ある。
フローズンもそれなりのノウハウが必要なので しょうが、定温の分野ではチルドが一番品質管理が難 しいと言われています。
チルドの仕事を完璧にこなせ れば、フローズン、そしてドライだってできるわけで す。
まずはチルドの品質を高めることに注力したい」 ――品質がどう影響してきますか。
「品質がよければ、ビジネスの可能性は無限に拡が る。
メーカーの製造工場から出荷された商品のその先 の品質管理は当社に任せてもらうことだって可能だと 思うんですよ。
当社がチェックしてダメなら出荷しな い。
仮にOKを出して、問題が生じたら当社がすべて の責任を負うかたちだってあり得る。
そのほうがメー カーさんだって楽ですよね」 宅配便会社とも戦える ――現在はチルドのB to Bに特化していますが、将来 はB to Cの分野に進出する可能性もあるのでしょうか。
「いわゆる宅配便の分野に進出するつもりはありま せんね。
確かに産地直送便などチルドのB to C需要は 年々伸びていますから、ある程度の準備はしておかな ければならないという意識はあります。
ただし、当社 の場合はまずB to Bの部分を完璧にこなすようにする ことでしょうね」 「お付き合いのあるコンビニさんからこんな話を聞 きました。
コンビニの店舗と自宅の両方で宅配便の荷 受けができるようになると、約九〇%が人がコンビニ を希望するそうです。
配達時間指定はだいたい二時間 刻みですよね。
慣れてくるとこの二時間ですら長く感 じるようです。
また若い人、特に女性の中には自宅に 配達員がくるのを嫌がる人もいる。
この傾向がこのま ま続くとすると、宅配便であっても店舗までの配送で 済むことになる。
つまり、B to Bの領域でサービスが 完結する。
そうなると、コンビニの配送に強みがある 当社でも、宅配便会社とも十分戦っていけるわけです」 ――定温物流業者がこれまで青果物に手を出してこな かったのは何故ですか。
「興味はあるんですよ。
ただし、青果物はチルドの 中でも特に温度管理が難しい商品だと言われています。
適温を間違えると、葉がしおれて使いものにならなく なる。
農水省が開いている野菜のロジスティクスに関 する勉強会にも参加していますし、今後も引き続き研 究していくつもりです」 ――今秋には一部上場を予定しているそうですね。
「一部でそれなりの評価を受ければ、知名度アップ でビジネスチャンスが拡がるのではないかと期待して います。
一部上場は資金調達というよりも、ブランド 力をつけるという意味合いが強いのです」 特集定温ビジネスの誤算 51.6% 24.8% 16.4% 3.5% 1.9% 1.8% 52.9% 25.7% 3.1% 14.7% 1.8% 1.9% 52.2% 27.0% 2.4% 14.8% 1.6% 2.0% 54.1% 28.6% 2.3% 11.9% 1.4% 1.8% 53.5% 31.1% 11.1% 1.9% 0.5% 2.0% ●名糖運輸・過去5年間の業態別販売実績の推移 1997.3 1998.3 1999.3 2000.3 2001.3 1 食品製造・販売 コンビニエンス 量販店 化粧品・雑貨卸 食品卸問屋・生協 その他

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