ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2001年9号
FOCUS
トラック事業者の「安全格付け制度」国交省の及び腰で早くも「期待薄」の声

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2001 76 トラック運送事業者の安全性を格付 けする制度が今秋の実証実験を経て、 二〇〇二年度に正式に導入されること が決まった。
監督官庁である国土交通 省が「情報公開によってトラック運送 事業者の安全に対する意識を向上させ る」(自動車交通局貨物課)目的で進 めてきたプロジェクトが、構想から約 三年の歳月を経てようやく実を結ぶこ とになる。
横並び意識の強いトラック運送業界 内には依然として「経営基盤を揺るが しかねない迷惑な制度」(関東地区の 中堅トラック運送事業者)という意見 が根強く残っているが、「正式決定し た以上、格下げされないよう安全確保 に努めるしかない」(大手トラック運 送事業者)とすでに気持ちを切り替え ている事業者も見受けられる。
一方、ユーザー側である荷主企業は ひとまず「六万社に上るトラック運送 事業者の中から安全性の高い事業者を 見つけるのは容易なことではなかった。
御上のお墨付きの事業者を選ぶことが できるという意味で、ユーザーである 我々にとって新制度導入は朗報」(加 工食品メーカー)と歓迎しているよう だ。
「事業者安全性評価システム」と呼 ばれる格付け制度は、安全性という観 点からトラック事業者をランク付けし、 さらに一定基準を満たす事業者および 事業所(営業所)を?安全性優良事業 所〞として認定しようというものだ。
「法令遵守状況」「行政処分・違反・ 事故状況」「安全対策への取り組み」 の大きく分けて三つの項目、計一〇〇 点満点で評価し、合計得点が八〇点以 上の場合はインターネットのホームペ ージや一般紙、専門紙などを通じて ?安全性優良事業所〞として公表する。
見事に基準をクリアした事業者にはそのほかにも国土交通省から特権が与 えられる。
普段使用しているトラック の車体、各種メディアでの広告、名刺 などに「我々は国土交通省から認めら れた?安全性優良事業所〞である」と 謳うことができるのだ。
マル適マーク なのか、それとも扇千景大臣の似顔絵 入りステッカーなのか、国土交通省が 使用を認めるデザインの詳細は明らか ではないが、いずれにしてもトラック 運送事業者にとって営業上欠かせない 認定証となるのは間違いない。
国土交通省では「高い評価を受けれ ば、ISOと同様、荷主企業に自社を アピールする材料になるはず。
逆に認 定されなければ、営業上のマイナス要 因になるのは必至だ」(鈴木壽子自動 車交通局貨物課トラック事業適正化対 策室専門官)とにらんでいる。
身内が身内を評価 トラック運送事業者、そしてユーザ ーである荷主企業の双方にメリットを もらたすと目されている格付け制度だ が、一部の市場関係者の間では早くも 期待薄とも囁かれ始めている。
その理 由の一つは、国土交通省が「評価の客観性および透明性、公平性を確保す る」ために格付け機関として指名した のが「全国適正化事業実施機関」だっ たからだ。
この選択が物流市場で波紋を呼び、 とりわけ荷主企業を落胆させたのは全 国適正化事業実施機関がトラック運送 業界では全日本トラック協会、そして 下部組織である各都道府県トラック協 会を指しているためだ。
身内(トラッ ク協会)が身内(トラック運送事業者) FOCUS トラック事業者の「安全格付け制度」 国交省の及び腰で早くも「期待薄」の声 トラック運送事業者の安全性を格付けする制度が今 秋の実証実験を経て、いよいよ来年度に導入される。
荷 主企業からはトラック事業者選びの際の参考になると 歓迎の声が上がっている。
ただし、国土交通省がトラッ ク業界の身内であるトラック協会を格付け機関に指名 したことで、徐々に同制度への期待は薄れつつある。
(刈屋大輔) 格付け制度は経営基盤を揺るがしかねないとの声も根強い 77 SEPTEMBER 2001 の安全性を格付けする――。
そんな奇妙な構図が浮かび 上がってきたのだ。
もちろ ん、身内によって格付けさ れる評価の信憑性が低くな ることは言うまでもない。
国土交通省では同機関内 に学識経験者など数人で構 成する評価委員会を設置し、 その委員会に評価基準や評 価項目の決定、安全性の評 価、結果の公表などを委ね るという方針を打ち出している。
評価委員会というク ッションを設けることで、同 省への批判をかわそうとい う狙いのようだ。
しかし、市場関係者の間 では「トラック協会内に設 けられる以上、評価委員会 は完全な第三者にはなり得 ない」という意見が圧倒的。
評価委員会はどちらかとい えばトラック運送事業者寄 りで、評価の客観性・透明 性・公平性を欠くのではな いか、と導入前から色眼鏡 で見られている。
ムーディーズのような民 間格付け機関、とりわけト ラック運送事業者を専門と する民間格付け機関が存在 しない現段階で、格付け機関として 適任なのは他でもない国土交通省で あると目されていた。
ところが、その国土交通省は構想が 持ち上がった当時から格付け機関とし て名乗り出ることに乗り気ではなかっ たと言われている。
運賃や新規参入の 規制緩和を進める一方で、規制強化と 受け取られてもおかしくない事業に加 担するのは本末転倒で、既得権益にし がみつこうとする官僚のエゴであると の批判を受けかねないからだ。
加えて、格付け制度は官主導ではな く、トラック運送業界があくまでも自 主的に実施する安全対策であるという イメージを一般社会に浸透させたいと いう思惑も働いていたようだ。
さらに国土交通省が格付け機関とし て機能することを避けた背景について、 よりうがった見方をする関係者も少な くない。
国土交通省が単に、格付けす ることによって生じると予想されるト ラック運送事業者との軋轢やトラブル を嫌ったためではないか、という説だ。
既にトラック運送事業者の格付け制 度をスタートさせている米国では、事 業者が「評価が正当ではなく営業妨害 である」として格付け機関を相手取り、 訴訟を起こているケースもあるという。
この報告を受けた国土交通省が完全に 及び腰になり、格付けを評価委員会に 委ねたというわけだ。
この見方が正し ◆法令遵守状況 ・「貨物自動車運送事業者実態調査・  指導報告書」のうち、以下の内容 ○事業計画  ・休憩・睡眠施設 ○帳票類の整備、報告等  ・従業員・運転者台帳、車両台帳  ・事故報告書等 ○運行管理等(全般) ○車両管理等(全般) ○労基法等(全般) 適正化事業における「貨物自動車運送事業者実態調査・ 指導報告書」の内容は、全て法令に沿った項目であり、 法令の遵守状況を判断するものとなっている この中から、別表に示す項目を評価対象として各項目の 点数の合計を適用する 過去3年間に、自動車事故報告規則に基づき、 事業者から報告された重大事故1件につき −20点とする 【項目案】 事故対策マニュアルを策定している 定期的に職場毎のQC活動を実施している 定期的に荷主企業との安全対策会議等を実施している 定期的に協力会社、下請け会社との安全対策会議等を 実施している 協力会社、下請け会社においても、行政処分につながる ような安全性等に問題がない 自社内での独自のドライバー研修を実施している ドライバーを外部の研修機関・研修会等へ派遣している ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 0点 1〜5点 5〜10点 10〜20点 20〜49点 50点以上 ・行政処分の累積点数 ±0点 −5点 −10点 −20点 −30点 −40点 ●34点満点 別表の通り ●40点満点から下記に該当する場合は減点 ・優良事業者表彰を受けた事業者は、その結果を加味する ・自動車事故報告規則に基づき、事業者から報告された  ものを対象とする 注)国土交通省による点数は、事業者毎による ものであるが、これを該当申請事業所に適 用する ・当面は国土交通省で把握している情報を適用する ・国が実施する監査等(過積載、最高速度違反を含む)  により把握している違反等による処分歴を対象とする ●26点満点 ●22点 ●4点 ・地方運輸局長等による表彰を加点する ◆行政処分・違反・事故状況 ◆安全対策への取り組み ?監査等(過積載、最高速度違反  を含む)に基づく違反、処分歴 ?自社の安全対策評価 ?重大事故歴 ?優良事業者表彰 項目 項  目 概  要 点  数 評 価 項 目 ・ ●「事業者安全性評価システム」の評価項目(案) SEPTEMBER 2001 78 FOCUS いとすれば、厄介なことを外部に任せ ようとする官僚の事なかれ主義の典型 例と批判されても仕方がないところだ。
希望者のみを格付け? 国土交通省の消極的な姿勢は、格付 け制度の対象を当面は「希望者のみ」 としている点からも窺える。
格付け評 価が下されるのは、所定の様式に必要 事項を記載し各都道府県の「地方適正化事業実施機関(トラック協会)」に 申請したトラック運送事業者のみ。
つ まり、約六万社すべてのトラック運送 事業者が対象となるわけではない。
?安全性優良事業所〞として認定さ れれば、営業上のプラス材料となるた め、申請がゼロという事態には至らな いだろう。
ただし、安全性に自信のあ る事業者だけが申請するようになると、 すべての事業者が?安全性優良事業 所〞と評価され、各事業者の実力を明 確化するという格付け本来の目的が失 われかねない。
そして、この中途半端さが荷主企業 の不信感を増幅させている。
「公表さ れる事業者がすべて優良だったら、逆 にパートナーを選びようがない」(加工 食品メーカー) 言うまでもなく、格付け制度創設の 背景にはトラックによる重大事故が多 発したことがあった。
高速道路で飲酒 運転のトラックが幼い二人の尊い命を 奪った事故はまだ記憶に新しい。
国土 交通省もトラック事業者の安全に対す る意識高揚を促し、事故を減らすこと を最大の狙いとして挙げている。
しかし、身内を保護する要素が随所 に見られる制度のままで、その目的を 果たすことができないのは火を見るよ り明らかだ。
トラック業界の御用制度 であるとの風評を甘受するつもりなの か。
それとも問題点の改善に動くのか。
全体の一%強、約一〇〇〇社で実施さ れる今秋の実証実験後に、批判の矢面 に立たされている国土交通省がどのよ うな方針を打ち出すのかに注目が集ま る。
事業計画等 区  分 調査事項 ●貨物自動車運送事業実態調査項目のうち安全性評価の評価対象項目 配点 帳票類の 整備・報告等 運行管理等 車両管理等 労基法等 合  計 乗務員の休憩・睡眠施設の位置、収容能力及びその管理・保守は適正か 従業員・運転者台帳、賃金台帳、車両台帳が整備され、適正に記載されているか 営業報告書、事業実績報告書及び事故報告書をもれなく提出しているか 事業計画に伴い、必要な員数の運転者を確保しているか 過労防止を配慮した勤務時間、乗務時間を定め、これを基に乗務割が作成され、休憩時間、睡眠のため の時間が適正に管理されているか 過積載による輸送を行っていないか 点呼の実施及びその記録・保存は適正か 乗務員記録(運転日報)の作成・保存は適正か 運行記録計による記録及びその保存・活用は適正か 乗務員に対する輸送の安全確保に必要な指導監督を行っているか 運行管理者が選任され、届け出され、所定の研修を受けさせているか 運行管理規定が定められているか 乗務員に適正診断を受けさせているか 日常点検基準を作成し、これに基づき点検を正確に行っているか 整備管理者が選任され、届け出され、所定の研修を受けさせているか 整備管理者が権限を行使するにあたって必要な定めがされているか 定期点検基準を作成し、これに基づき点検・整備を行い、点検整備記録簿等が適正に保存されているか 就業規則が制定され、届け出されているか 36協定が締結され、届け出されているか 労働時間、休日労働について違法性はないか(運転時間を除く) 賃金体系が賃金規則に基づき、適正に定められている 所定の健康診断を実施し、その記録・保存が適正にされているか 出勤簿は備え付けてあるか 最重点指導項目 最重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 重点指導項目 1点 1点 1点 1点 3点 3点 2点 2点 1点 2点 1点 1点 1点 2点 1点 1点 2点 2点 1点 1点 1点 2点 1点 34点 注)実態調査時に、現認できない等により「適」「否」の判定ができなかった項目があった場合には、当該項目を除いた項目の合計点数(A)を、満点の34点から当該項目の   配点を差し引いた点数(B)で割り返した割合を点数化する   当該ケースの点数=34点×【(A)÷(B)】 高速道路での重大事故は後を絶たない。
格付け制度は事故防止につながるのか

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