ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年9号
アングロ
スピード経営の速度とは?

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2001 72 プライチェーンを構成する企業体全体の問題 として「アダプティブ」を扱ってきた。
これ は企業に限らず生物でもそうですが、組織体 というものは環境に適応しなければ生き残れ ない。
それでは環境に適応するモデルとはど のようなものなのか、ということをテーマに してきた。
――それで「アダプティブ」というのは、ど のようなものなんですか。
基本的に「アダプティブ」というのは二つ の条件で定義されます。
それがこの図1です。
横軸に「ダイナミック」、縦軸に「コラボレー ション」をとります。
この図で説明すると、従 来のビジネスモデルはダイナミックではなく スタティック(固定的)であり、コラボレー ションの度合いも低かった。
つまり一つの会 社の中で閉じた固定的なビジネスモデルだっ た。
これがその後、中間段階に移っていった。
中間段階とは、今までSCMというコンセプ トで取り組まれてきた、全体最適を目指す段 階です。
しかし全体最適というのは、結果的 に中央集権型で動かしていく仕組みにならざ るを得ない。
全体を最適化する場合には、全 ての前提条件を一カ所に集めて、一つのコン ピュータで結果を検索しなければならないわ けですから。
バッチ処理の弊害 ――サプライチェーン上に一人の「チャネル キャプテン」が必要だということですね。
そ 「アダプティブ・エンタープライズ」 ――アメリカの景気がすっかり冷え込んでい ます。
とくにハイテク業界がひどい。
不良在 庫が大量に発生しているそうです。
SCMに よってタイトな在庫のコントロールが可能に なったという昨年までの話はウソだったので しょうか。
直接その答えになるか分からないけれど、 今年に入ってアメリカで「アダプティブ・エ ンタープライズ」というコンセプトが注目を 集めているのを知っていますか? ――アダプティブ?? もちろん全く知りま せん。
IT系の調査機関などが盛んにもてはやし ています。
恐らくこれから一〜二年は、この 「アダプティブ」が時代のキーワードとなるで しょう。
――どういう意味なんですか? 従来の全体最適を目指すSCMが終わって、 次は環境適応型のSCMになっていくという ことを言っています。
まあ、以前から私が主 張してきたことと同じですが、ようやく時代 が私に追い付いてきた、というところですか ね。
――よくそこまで言いますね。
実際、私はそう言ってきたし、そう書いて きた。
私の場合は「アダプティブ・サプライ チェーン」という言葉を使っていましたけれ どね。
そこでは一つの企業の話ではなく、サ 企業経営にとって何より「スピード」が大事な時代に なったと言われる。
しかし、経営のスピードとは一体、 何を意味しているのか。
それがどれぐらい速ければいい のか。
経営スピードが遅いと、どのような問題が起きる というのか。
入江仁之 キャップジェミニ・アーンスト&ヤング副社長VS 本誌編集部 横文字嫌いのアナタのための 《第6回》 アングロサクソン経営入門 スピード経営の速度とは? 一番分かり易い例は、飛行機の座席予約で す。
アメリカの航空会社の国際線に乗ると、 隣の席に座っていてる人が全く違う料金を払っている。
人によって、チケットを予約する 時によって、値段が違う。
リアルタイムのプ ライシングを実施している。
売れる時はできるだけ高く売る。
ただし売 れない時は安くして全部の座席を売り切る。
つまり価格をドライバーに客の需要を喚起し ている。
ここに「ダイナミック」性が必要に なる。
もう一方の「コラボレーション」もそ こでは十分に活用されている。
価格をドライ バーにした顧客との対話が行われているわけ です。
――そこでいうコラボレーションというのは 同じサプライチェーンを構成するパートナー 企業だけでなく、顧客そのものまで入ってく るのですか。
そうです。
もちろん、チケットの例ではプ ライシングが外部から眼に見える最終的な需 給調整の接点になっていますが、その背景に は全ての供給能力の準備がある。
飛行機と機 材を手配して、ルートを決めて、座席をどう 売っていくかという一連の意思決定をアダプ ティブに行っている。
それによって初めて利 益が最大化できる。
逆に言うと、そうやって 現場で意思決定していかない限り、利益を最 大化するチケット販売ができないからそうし ているんです。
――従来のバッチ処理のサプライチェーンで 73 SEPTEMBER 2001 れが日本では大部分の場合、組み立てメーカ ーだった。
そうですね。
その場合でいえば、組み立て メーカーはサプライヤーや小売りから、全て の情報を集めて全体の計画を意思決定する必 要があった。
しかし、このモデルでは情報を 集めて、そして指示を出すところで時間をと ってしまう。
――情報を末端から集めてくるのに時間がか かるし、末端に指示を出すところでまた時間 がかかるということですね。
遅い会社だと、それが一カ月単位でした。
SCMの仕組みを入れだしたところで週次、 もっと速い会社でも日次が限界だった。
「アダ プティブ」では、これをリアルタイムで動か していく。
しかも、中央集権型ではなく、現 場でどんどん意思決定していく。
は、それができないのですか。
リアルタイムでないとムダが発生するんで す。
情報を集めるのに時間がかかりますから、 意思決定した時には既に環境は変わっている。
つまり環境に対して最適な意思決定ができな い。
――従来のSCMでは、効率の向上によるコ Dynamic 反応の程度 Static 協調の程度 アダプティブ・エンタープライズ 全体最適サプライチェーン 業務改革 図1 high Low SEPTEMBER 2001 74 ストダウンが目標とされました。
しかし、売 り上げを伸ばすという部分に壁があったとい うことですか。
売り上げを伸ばす部分もそうだし、需要に ぴったりの供給をする。
必要以上の供給をし ないという両面で、 アダプティブが必 要になる。
ブレー キとアクセルの両 面があります。
従 来のSCMのテー マが効率性の追求 だとしたら、アダ プティブでは利益 の最大化がテーマ になる。
SCMの限界 ――つまりこれま でのSCMには限 界があったわけで すね。
そうです。
従来 のSCMはダイナ ミックではなくス タティックでした。
既に存在する固定 化された需要を前 提に、それに対し て供給を最適化 させるというモデルを目指していました。
つ まり需要を所与にして、需要をいじれないこ とを前提に動いていた。
そもそもSCMというコンセプトは、需要が供給を上回っている 時代に生まれてきたものでしたから自然とそ うなっていた。
――そうかなあ。
SCMが騒がれるようにな った九〇年代後半は確かに米国は全体として は景気が良かったかも知れませんが、価格破 壊は世界に共通して起こっていた。
デフレ気 味だったと思うのですが。
デフレでも需要はあった。
つまり単価は安 くなっても量は出ていた。
そこで上手く供給 を最適化させるためのコンセプトとしてSC Mが出てきた。
これに対してアダプティブは 需要そのものにも切り込んでいこうというコ ンセプトです。
――なるほどねえ。
そのアダプティブが今年 に入ってアメリカで注目されているというの は、やはりITバブルが崩壊してモノが売れ なくなったから、供給過剰になったからなん ですか。
いや、そうじゃない。
不況かどうかという ことよりも、環境の変化があれだけ激しくな ってきたということが大きい。
従来だったら 業績のアップダウンはせいぜい一年単位、も しくは数年単位で動いていました。
ところが 今年ぐらいから事情が変わってきた。
前の半 年に過去最低の業績だったのが、次の四半期 で業績最高などということが頻繁に起こるよ うになった。
――これだけ変化の大きい時代になると従来 のようなスタティックな企業体では対応でき ないというわけですね。
そうです。
だから変化に対応できるモデル にしようという話になっている。
需要超過の 環境においてコスト削減や在庫削減を目的に 75 SEPTEMBER 2001 するだけではなく、供給超過にも対応できる モデルにしようとしているわけです。
リアルタイム経営のモデル ――アダプティブ・エンタープライズのモデ ルは既に用意されているのですか。
ええ。
それを最も単純化したのが図6です。
全てウェブ上でリアルタイムに動くことが特 徴です。
――この図をどう理解すればいいのですか。
この図を使った議論の直接的な対象になる のは、ITをいかに全体のモデルに適用する かということです。
実際にはこの図の下にた くさんのレイヤーがあり、それぞれの機能を カバーするITのツールがある。
――ビジネスモデルというのはITの話だけ では済まないでしょう。
もちろんです。
ITのレイヤーの上には経営判断のレイヤーがある。
環境変化に適応す るため、この図のうち、どの部分を自社でカ バーし、どの機能をどのプレーヤーに任せて 全体をデザインするのかというレイヤーです。
――なるほどねえ。
だんだん抽象度が高くな ってきたなあ。
難しくなってきた。
で、この 図のなかで、とくに焦点になっているのは、ど の部分なんですか。
先進企業の場合、最近注目を集めているの は製品開発の部分です。
サプライチェーンの ところは、やるべきところは八割がた終わっ たという認識です。
売れない製品の在庫をい かに少なくして高く売るかということより、売 れる製品をいかに早くマーケットに提供する かという部分に重点がシフトしている。
――一〇年ぐらい前にSCMが出てきた時に も「コンカレント・エンジニアリング」とい うコンセプトで、従来は順番に処理していた 開発プロセスを並列に進めることによるスピ ードアップが図られましたよね。
それを一歩進めて、今は製品開発における 「ナレッジ・マネジメント」がテーマになって います。
製品開発にかかわる知識、ナレッジ をエンジニアたちがシェアすることで開発作 業の重複をなくす。
既存の研究成果をできる限り再利用して、新しいものを作っていく。
それも社内のエンジニアだけでなく、社外の 協力会社のエンジニアまでシェアする。
バー チャルな環境で開発するということが重要な ポイントになっています。
――その辺の話になると、理解しやすくなる なあ。
実はアダプティブについては、こうした一 つひとつの機能の話が深いんです。
でも、そ の前提として、今回お話した全体像もしっか りつかんでおかないといけません。
――了解しました。
落第しないようがんばり ます。

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