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41 SEPTEMBER 2001
直販と間接販売を併用
ソーテックはメーカーでありながら自社の
製造拠点を持っていない。 自らはマーケティ
ングと商品開発に特化し、製造業務は東南ア
ジアのEMS(電子機器の製造受託サービ
ス)に全面委託している。 それ以外の業務も、
ほとんどがアウトソーシングを利用している。
販売チャネルも独特だ。 デルコンピュータの
ように直接販売に特化しているわけでもなけ
れば、間接販売が大部分の国内大手パソコン
メーカーとも違う。
「当社は他社にない販売形態をとっている。
直販をやりながら、そこで扱っているのと同じ製品を量販店でも売り、さらにディストリ
ビューター経由で法人顧客にも売っている。
売上構成は直販が約二五%で、残りは量販店
とディストリビューターが、それぞれ半々ぐ
らい。 三つの販売チャネルを上手く融合した
ビジネスモデルを実現できている」とソーテ
ックの中尾俊
哉専務は胸を
張る。
通常ならパ
ソコンメーカー
が間接販売と
直接販売を併
用すれば、多く
の困難を避け
独自のビジネスモデルで低価格化
物流管理は宇徳運輸に全面委託
パソコンメーカーのソーテックは、徹底した低
価格戦略によって国内市場で急成長を遂げた。 韓
国メーカーとの業務提携による“少品種大量生産”
と、短い輸入リードタイムが低価格販売を可能に
している。 ロジスティクスのオペレーションは港
湾運送業者の宇徳運輸に一任している。
ソーテック
――3PL
「売上高物流費比率を将来的には
1.0%まで引き下げたい」とソーテ
ックの中尾俊哉専務
SEPTEMBER 2001 42
OEMメーカーからの脱皮国内のパソコン市場が絶好調だったという
幸運にも恵まれて、ここ数年の間にソーテッ
クの業績はすさまじい勢いで伸びた。 二期前
に約二〇万台だった出荷台数は、二〇〇一年
三月期には約六二万台に急伸。 年間八四二
億円を売り上げるまでになった。 IT専門の
調査会社IDCジャパンによると、ソーテッ
クの二〇〇〇年度(一〜十二月)の国内シェ
アは四・八%で、コンパック(同四・九%)
とデル(同四・二%)に拮抗する勢力として、
シェアランキングでも第七位に名を連ねた。
二〇〇〇年九月には新興市場のナスダック・
ジャパンに上場。 ?少品種大量生産〞が、パ
ソコン市場の急拡大という時流に乗った。
もっとも、ソーテックという会社が脚光を
浴びるようになったのは、ごく最近の話だ。
それ以前にはかなり長い?下積み期間〞を過
ごしている。
会社の創立は八四年。 当初は「パソコンメ
ーカーというより、むしろエンジニアリング
会社に近かった。 自分達が作りたいパソコン
を作り、それを他のパソコンメーカーに製品
として供給していた」と中尾専務は振り返る。
九〇年代の前半までは、黎明期にあった台
湾のパソコンメーカーに生産を委託し、米国
市場向けのOEMメーカーとして活動してい
た。 「データビュー」という製品名で米国の
られない。 間接販売チャネルで抱えている流
通在庫が足かせになって、直販チャネルの強
味である柔軟な価格設定ができなくなるため
だ。 二つのチャネルを両立させるためには、
大量生産によってコストを下げる一方で、流
通在庫を最小限に抑えるという相反するオペ
レーションが求められる。
販売チャネルを直販だけに絞り込めば、在
庫リスクは小さくなる。 しかし、「直販チャ
ネルだけでは全体のボリュームが出せない。
個人ユーザー向けの量販店チャネルと、法人
向けのディストリビューター・チャネルがど
うしても当社には必要だった」と中尾専務は
事情を説明する。
そのためにソーテックは、小売業者との取
引をラオックスやコジマといった大手家電量
販店七社に集中させた。 販路をシンプルにす
ることで流通在庫を完全に掌握する体制を整
えた。 同時に市場動向に敏感に反応する直販
チャネルをアンテナとして活用しながら、全
チャネルの在庫量を調整している。
現在、ソーテックが国内で抱えている在庫
の量は、年間平均にして三週間分程度だとい
う。 この数字には量販店が抱える流通在庫も
含まれているが「基本的に量販店に余分な在
庫を持ってもらうようなオペレーションはし
ていない。 一週間ないし二週間分の在庫で運
営してもらうよう量販店にはお願いをしてい
る」と中尾専務は強調する。
パソコン販売会社向けに供給していたノート
パソコンは、全米でも上位五指に数えられる
ほど売れた。 その他にも、「OEM先を明か
すことはできないが、聞けば『えっ』と言う
ような大手メーカーに製品を供給していた」
という。 裏方に徹していたため知名度は低か
ったものの、知る人ぞ知る実力派だった。
しかし、IT分野における事業環境の変化
は目まぐるしい。 かつて日本メーカーの技術
指導を受けて勃興した台湾のパソコンメーカ
ーは、ほどなく自主独立の道を歩みはじめた。
従来はソーテックが担っていた企画や開発を
自社でまかない、自らOEMメーカーとして
名乗りを上げたのである。 当然、彼らが直接
NEC 21.7%
富士通 20.4%
日本IBM
9.8%
ソニー
8.8%
東芝
6.2%
コンパック
コンピュータ
4.9%
デルコンピュータ
4.2%
日立製作所
4.0%
アップルコンピュータ
3.9%
2000年度の国内パソコン市場のシェア
ソーテック
4.8%
出典:IDC Japan
43 SEPTEMBER 2001
手掛けた方が価格競争力があるため、ソーテ
ックはサプライチェーンから弾き出されてし
まった。
低価格戦略に転換
追い込まれたソーテックは九三年、背水の
陣で自社ブランド製品の国内販売に乗り出し
た。 といっても当時の日本のパソコン市場は
NECが過半のシェアを握る寡占市場。 資本
力も知名度もないソーテックが真っ向からぶ
つかっても勝ち目は薄い。 そこで同社は米国
市場向けのOEMで技術力の蓄積のあったノ
ートパソコンにターゲットを絞った。
「当時の主流はデスクトップ。 一台四〇〜
五〇万円もするノートパソコンは高価でニッ
チな製品だったが、当社はこの分野では国内
でも先駆的な存在だった」と中尾専務。 しか
し、業績は伸び悩んだ。 話題性のある製品を
発表し続け注目はされたものの、「新規参入
業者にかなり排他的な日本市場」の壁を打破
するのは簡単ではなかった。
九七年に韓国の大手EMSであるトライジ
ェムコンピューターと、本格的な業務提携に
踏み切ったことが転機になった。 「韓国メー
カーは当時、対日本市場の攻略という面で台
湾メーカーに完全に立ち遅れていた。 それだ
けに日本市場に参入したいという気持ちは強
く、ずっとチャンスを狙っていた。 我々と組
むことによって互いにWIN
―WINの関係
を築けると彼らも判断したのだろう」と中尾
専務はパートナーの戦略を解説する。
その翌年の九八年には国内のパソコン基盤
メーカー大手、キョウデンの資本を受け入れ
て財務体質を強化した。 さらに同年、韓国の
大手EMSのコリア・データ・システムとも業
務提携を結んだ。 各社はソーテックの大株主
として資金を提供するだけでなく、それぞれ
の得意分野で能力を発揮することで大手メー
カーに対抗できるビジネスモデルを目指した。
技術開発力に自信を持つソーテックが設計
を担当。 基盤メーカーのキョウデンが素早く
それを試作する。 実用化のメドがつけば、コ
スト競争力のある韓国の二つのEMSが製造
を手掛ける。 こうして韓国で大量生産したパ
ソコンを船便で日本に輸入すれば、通関に要
する時間を入れてもリードタイムは国内生産
とほとんど変わらない。
ポイントは価格だった。 全ての分野でアウ
トソーシングを徹底してコストを限界まで下
げ、それまで作っていたノートパソコンとは
別に、デスクトップ型の低価格パソコンの販
売に踏み切った。 これが大当たりした。
ロジスティクスは宇徳運輸に一任
ただし、物流に関しては当初、ソーテック
自身で手掛けていた。 九八年当時の物流拠点
は横浜に一カ所あるだけで、その運用を自社
で行っていた。 韓国で生産した製品を北九州
市の門司港で水揚げし、横浜まで横持ちする。
このうち門司港での港湾業務と横浜への横持
ちだけを、宇徳運輸に任せていた。
「門司にはほとんど毎日、釜山からのコン
テナ船が入ってくる。 リードタイムも一日あ
ればいい」(中尾専務)。 横浜の物流拠点まで
の横持ち業務を考えても、横浜港で水揚げす
るより有利だった。
九八年から九九年にかけてソーテックの業
績は飛躍的に伸び、現場は急拡大する物量の
処理に追われた。 そもそも「作った製品を一
ソーテックの現在のサプライチェーンの概要
※各物流拠点から、個人ユーザー向け(宅配)、量販店向け、法人向けの3チャネルに出荷している
生産拠点 物流拠点(全国4カ所) ユーザー
韓 国
2カ所
(デスクトップ)
台 湾
1カ所
(ノートブック)
九州
横浜
ごく一部の製品は空輸
北海道
(恵庭)
九州 他
中部 他
関東 他
北海道 他
(新門司)
(大黒ふ頭)
通 関
通 関
名古屋
SEPTEMBER 2001 44
括して納品するだけのOEMメーカーの頃は、
物流を考える必要などほとんどなかった。 ロ
ジスティクスの重要性は、直販や通販をやっ
ていけばいくほど増えていった」と中尾専務
はいう。
物流体制の整備が急務だった。 販売チャネ
ルの一つである消費者向けの直販でつき合い
のあったヤマト運輸や日本通運といった大手
宅配業者などに相談を持ちかけた。 他にも複
数の物流業者と話しをしたものの、ソーテッ
クの語るビジネスプランに最も積極的に対応
してくれたのは、すでに付き合いを深めつつ
あった宇徳運輸だった。
当時からソーテックとの折衝を担当してき
た宇徳運輸の内田憲司九州支店長は、「当初
は門司で揚げて、横浜に横持ちするという業
務だけを請け負っていた。 それが九州にも物
流拠点を設けるという話になり、九九年の秋
に当社の拠点を使うかたちで具体化した。 そ
れから徐々に現在のような包括的な取引に移
行してきた」と、これまでの経緯を振り返る。
結局、ソーテックは今年三月、宇徳運輸へ
の物流業務の全面的な委託に踏み切った。 「当
社のニーズに対応する物流体制を、どんどん
作ってきてくれたことがパートナーに選んだ
決め手」と中尾専務はいう。 全国の物流管理
を宇徳運輸に一元化し、元請け業者として一
任する新たな体制をスタートした。
現在、ソーテックは全国四拠点体制で国内
の物流をまかなっている。 従来からある九州
に加え、今年三月に横浜の大黒ふ頭に新たな
物流拠点を稼働。 それまでの横浜拠点の機能
をすべてこちらに移管した。 さらに、ユーザ
ーへのサービスレベルを高める狙いで、名古
屋と北海道(恵庭)にも物流拠点を設けた。
四拠点とも宇徳運輸の倉庫を利用しており、
管理もすべて同社に委託している。
宇徳にとって初めての3PL
宇徳運輸にとって、ここまで包括的な物流
契約を結ぶのは初めてだった。 同社大黒ター
ミナルの能登満部長は、「今回のケースでは、
現場まで含めてすべての管理を任せされてい
る。 保管や輸送といった機能を一部分だけ請
け負ってきた従来の物流契約とはまったく異
なる」という。 実際、直販チャネルで利用す
る宅配業者をどこにするかといった判断まで、
基本的には宇徳運輸に任されている。
それだけに、この取引には多くの人材を投
入している。 現在、ソーテックの業務部には
宇徳運輸の社員が四人出向しており、荷主の
物流管理業務を肩代わりするとともに、両社
の橋渡し役を担っている。 全国四カ所の拠点
にも、それぞれにソーテック専属の担当者を
配置して、在庫管理や輸配送管理といった業
務を手掛けている。
宇徳運輸の大黒ターミナルでは、延べ床面
積一万五〇〇〇平方メートルのスペースのう
ち約三分の一をソーテックが使っている。 こ
こへの入荷は大半がコンテナ単位で、門司で
水揚げしてから横持ちをかけるものと、横浜
の本牧ふ頭で水揚げしているものとがある。
積載効率を高める狙いで九割は四〇フィート海上コンテナを使っており、残りの約一割も
二〇フィートコンテナで輸入している。
宇徳運輸の業務は、船会社からコンテナ着
岸の連絡を受け取るところからスタートする。
ソーテックの代わりにターミナルにコンテナ
を引き取りに行き、通関作業を済ませた後で、
全国四拠点に在庫状況に応じて補充していく。
そして、こうして全国で保管している製品を、
ソーテックから出される出荷指示に従ってユ
ーザーに届けるところまでを管理している。
ソーテックから宇徳運輸への出荷指示は、
毎日一七時頃にオンラインで出される。 「翌
日出荷分として、どの製品を、どこに、いく
つ持って行けという指示がある。 これを当社
が組み直して実際の出荷プランにしている」
「この取り組みを3PLの成功事例に
したい」と宇徳運輸の能登満大黒タ
ーミナル部長
45 SEPTEMBER 2001
と宇徳運輸の能登部長は説明する。 全国四拠
点のどの在庫を引き当てるかは基本的に宇徳
運輸が判断する。
出荷プランの作成は毎日、一九時頃までに
終わる。 量販店やディストリビューター向け
の出荷については、それから路線業者に車両
の手配を依頼する。 路線業者は翌日の夕刻に
一〇トン車で集荷にきて、自らのターミナル
に持ち帰ってから店別仕分けなどを行い、そ
のまた翌日に顧客へと届ける。 現在のところ
関東以北は王子運送に、以西については西濃
運輸に輸送業務を委託している。
物流コスト比率は一・五%
宅配を必要とする直販チャネルは、ヤマト
運輸を利用している。 前日のうちにソーテッ
クから寄せられる出荷指示を、宇徳運輸の物
流拠点でヤマトが使うソーテック専用の荷札
に印字。 倉庫内の在庫から製品をピックアッ
プしてきて荷札を貼る。 これを夕刻までにヤ
マトに引き渡せば、後は宅急便のネットワー
クによってユーザーに届けられる。
一連の業務を処理する情報システムはシン
プルだ。 倉庫内での入荷検品や在庫管理は基
本的に紙ベースで行っている。 出荷時には必
ず製品固有のシリアルナンバーと出荷先コー
ドのバーコードを読みとってはいるが、これ
は物流管理のためというより、ソーテックが
顧客情報を管理するための作業に過ぎない。
宇徳運輸としては、こうした情報システムの
高度化を進めるなどして、「この取り組みを
3PLの成功事例としたい」(能登部長)と
意気込んでいる。
ただし、楽観してばかりもいられない。 当
のソーテックが現在、ロジスティクスとは異
なる次元の壁に突き当たっているためだ。 同
社は昨年一〇月に新たな路線を打ち出したの
だが、これが結果として裏目に出てしまった。
「単なる低価格パソコンのメーカーというイ
メージから脱却するため、スタイリッシュな
パソコンを売り出したのだが、生産面などの
トラブルがあって納期が遅延してしまった」
(中尾専務)。 ここに、昨年の夏頃から顕在化
したパソコン市場の低迷が重なり、ソーテッ
クの成長路線には現在、急ブレーキがかかっ
ている。
この八月に
は、今期の業
績予想を大幅
に下方修正し
た。 発表による
と二〇〇〇年
三月期の売り
上げ見込みは
前期比三二%
減の五七二億
五〇〇〇万円。
経常赤字に転
落する見通し
だ。 年間出荷台数についても従来予想の七五万台を、四七
万台に減らした。
「安定した企業体質を作るためには、もう
一度きちんと体制を見直す必要がある。 売り
上げ先行、シェア先行ではなくて、足下を固
めるというのが今年度の一つの目標」と中尾
専務は事情を説明する。
体制固めのなかには、ロジスティクスの一
層の改善も含まれている。 在庫水準を圧縮す
るなどして、「いまは約一・五%かかってい
る売上高物流費比率を、将来的に一・〇%
まで引き下げたい」と考えている。 物量が減
るなかでのコスト削減は容易ではない。 物流
パートナーとして宇徳運輸の真価が問われる
のはこれからだ。
(岡山宏之)
500
400
300
200
100
0
40.2
162.9
352.8 341.6
305.2
98/10
99/3
〜
99/4
99/9
〜
99/10
00/3
〜
00/4
00/9
〜
00/10
01/3
〜
急拡大したあと伸び悩んでいる
ソーテックのパソコン出荷台数
(半期ごとの推移)
出荷台数(千台)
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