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SEPTEMBER 2001 46
製紙業界の再編が続いている。 今年三月に
は業界第二位の日本製紙と同四位の大昭和
製紙が完全持ち株会社、日本ユニパックホー
ルディングの下、経営統合に踏み切るなど、
国際競争力を高めるための合従連衡が加速し
ている。 一連の再編劇をリードしているのは
業界大手、王子製紙の積極的な事業展開だ。
王子製紙は一八七三年に渋沢栄一氏が設
立した日本初の製紙会社で、?製紙業界の長
兄〞とも呼ばれる。 同社は一九九〇年に神崎
製紙、さらに九六年には本州製紙との合併に
踏み切り、規模の拡大によってグローバル化
の進む市場で生き残りの道を探ってきた。 そ
んな同社が現在、国内市場におけるリストラ策の最重要課題の一つとして挙げているのが
物流を中心とするサプライチェーン改革だ。
平井創常務執行役員物流本部長は「価格
の安い輸入紙に対抗するため、日本の製紙会
社はこれまで生産コストの圧縮を進めてきた。
しかし、それももはや限界に域にまで達して
いる。 社内では物流こそ最後に残された宝の
山だと認識されている」と説明する。 合併劇
による工場の統廃合など生産面でのリストラ
にはひとまずメドがついた。 次はいよいよ物
流にメスを入れる番だというわけだ。
紙特有の複雑な流通構造
紙の流通は「業界内の人間でも完全に理解
するまで何年も掛かる」(小林昭忠物流本部
子会社5社を統合して権限委譲
100億円の物流コスト削減へ
合併相手の物流子会社など、生い立ちの異なる
子会社5社を統合し、今年10月に王子物流を発足
させる。 2002年6月をメドに本社の物流部門は廃
止し、物流業務をすべて王子物流にアウトソーシ
ングする計画だ。 約530億円に上っている1年間の
物流費を今後5年間掛けて100億円程度削減すると
いう。
王子製紙
――物流子会社
く変わる。 実際、工場が物流を手配するケース、代理店が手配するケース、物流部門が手
配するケースなどさまざまだ。 製品の種類に
よって配送費の負担者が異なるなど、荷渡し
条件もおのおの違っている(表1参照)。
従来から製紙業界では、こうした複雑な商
慣習が、高コスト体質の原因になっていると
指摘されてきた。 製紙会社の売上高物流費比
率は七%台と、およそ五%台で推移している
他の製造業に比べて高い水準にある。 そのう
え近年は物流の多頻度小口化が進み、コスト
比率が悪化する傾向にある。
王子製紙も例外ではない。 合併による生産、
物流統合の効果が多少出始めているとはいえ、
グループ全体としての売上高物流費比率は依
然として七%強という水準にある。 流通在庫
は全体で約一カ月分を抱えている。 旧態依然
としたサプライチェーンをこのまま放置して
おけば、コストが伸び続けて収益が圧迫され
るのは明らかだった。
メーカーによる垂直統合を実現できるのな
ら、話は早い。 取引条件や物流条件の簡素化
などに着手し、中間流通を含めたサプライチ
ェーンをドラスティックに変えれば、大きな
効果が期待できる。 ところが、それが一筋縄
にはいかない。
「代理店や府県商には昔から、それこそ創
業間もない頃から販路の拡大でご尽力を賜っ
た」と早野裕康物流本部担当部長。 その丁寧
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副本部長)と言われるほど複雑な仕組みにな
っている。 生産工場、代理店と呼ばれる紙専
門商社、府県商と呼ばれる地方卸、需要家で
あるユーザーで構成されるサプライチェーン
は、フロー図に落とすと一見シンプルに見え
る。 ところが、それに個々の取引条件(商流)
や物流条件を加えると、たちまち混乱に陥る
(図1参照)。
市況が順調で需要の高い時期には、代理店
や府県商が少しでも多く製品を確保しようと
するため、工場内倉庫内や消費地倉庫内で
?売り〞(所有権の移動)が立つ。 ところが、
市況が悪化し供給過多に陥ると、代理店や府
県商の倉庫内でもメーカー在庫の扱いとなる、
といった具合だ。
物流管理の主導権も取引条件によって大き
な言葉使いからも
分かるように、製
紙業界では中間流
通業者が絶大な力
を持っている。
メーカーの物流
体制からも、それ
はうかがえる。 王
子製紙では全国に
二五〇以上もの消
費地倉庫を設置し
て、中間流通業者
からの注文に素早
く対応できる体制を整えている。
「国際競争力をつけるという観点からする
と、製紙業界全体で効率化を追求する時期に
差し掛かっているとは思う。 ただし、一足飛
びにSCMにまで進むと様々な弊害や抵抗が
予想される」(平井常務執行役員)。 そこでま
ずは自社でできる範囲での効率化策に取り組
む――。 そう判断した同社が取り掛かったの
は物流子会社の再編だった。
物流子会社間の見えない壁
現在、王子製紙は王子運輸倉庫、本州物
流センター、神崎物流センター、KSウイン
グ、北海道王子物流の五つの物流子会社を傘
下に持つ。 これを今年一〇月一日付けで一本
表1 主要製品の荷渡し条件
品 種
新聞用紙
一般紙
中質紙
上質・塗工
クラフト
貨車直送(地方)
貨車直送(東京)
トラック直送
A在庫品
新聞社指定納入場所渡し
需要家軒先渡し、配送費代理店負担
需要家軒先渡し、配送費代理店負担
オンレール渡し
需要家軒先渡し
需要家軒先渡し
需要家引取
需要家軒先渡し、
但し4t未満は配送費代理店負担
荷渡条件
図1 紙の流通の仕組み
王子製紙
新聞用紙など
中間流通
大口、定期品
小口、一般品
需要家
・新聞社
・出版業
・印刷業
・加工紙製造業
・紙製品製造業
・官公庁
代理店
府県商
工場・工場倉庫
需
要
家
王子製紙倉庫
代理店倉庫
府県商倉庫
消費地倉庫
商 流
物 流
王子製紙の輸送分担 中間流通の輸送分担
など
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化して、新会社「王子物流」を発足させる
(表2参照)。 物流業務の一元管理体制を確立
することで重複業務などを解消。 約五三〇億
円の一年間の物流費を、今後五年間掛けて一
〇〇億円程度削減する計画だ。
ただし、既存の物流子会社五社の生い立ち
や組織には大きな違いが見られる。 王子運輸
倉庫が王子製紙の物流子会社だったのに対し
て、本州物流センターはもともと本州製紙、神
崎物流センターとKSウイングは神崎製紙の
物流子会社だった。 そして、北海道王子物流
は二社との合併後に設立された新しい会社だ。
九六年に本州製紙と合併してから現在まで
の約五年間、王子製紙はそれぞれの物流子会
社をそのまま存続させてきた。 五社体制には
「競争意識が働いて物流品質が高まる」(平井
常務執行役員)という利点があったが、その
一方で交錯輸送が発生したり、サービス内容
にばらつきが見られるなどの弊害もあった。
各物流子会社の間には目に見えない壁があ
った。 五社は同じ親会社の傘下にある物流子
会社であるにもかかわらず、情報の連携がほ
とんどとれていなかったという。 合併までは
製紙業界でしのぎを削ってきたライバル同士
だっただけに、自社の情報開示に対して抵抗
があったのだろう、と王子製紙では見ている。
しかし、結果としてそれがコストダウンの進
まない要因になっていた。
「今回の合併の目的は子会社間にある壁を
取り除き、情報の流れをスムースにすること
にある。 物流の効率化とは情報を一元管理し
てこそ実現できるものだと認識している」と
平井常務執行役員は力説する。
新生・王子物流は社員八八〇人、年商約
八〇〇億円でスタートする。 同社が親会社か
ら求められているのは、いわれた仕事を黙々
とこなすだけの作業会社的な機能や、輸配送
の管理をする元
請け機能だけ
にとどまらない。
王子製紙の物
流部門として、
工場から消費
地倉庫、さら
に
は
代
理
店
、
府県商、需要
家までのサプラ
イチェーン全体
をコントロール
することが期待
されている。
そのために王
子製紙は物流の権限をすべて王子物流に委譲
する。 二〇〇二年六月を目途に本体の物流部
門を廃止、王子物流に完全に一本化する予定
だ。 「王子製紙本体に物流部門を残しておく
と、結局その部門と物流子会社とで業務が重
複するから意味がない。 王子物流が全責任を
負ってサプライチェーンを管理する体制にす
る」(平井常務執行役員)という。 一部営業
部門や製造部門が行ってきた物流の手配も王
子物流に担当させ、営業は製品を売ることに、
生産はモノづくりに専念できる体制を築く。
さらに将来は各拠点での在庫管理、生産計
画の立案など需給調整業務全般を王子物流
に任せることも視野に入れている。 これによ
設立
資本金(百万円)
出資比率
本社所在地
社長
従業員数
王子運輸倉庫 本州物流センター 神崎物流センター KSウイング 北海道王子物流
合併後
王子物流
2000年度売上高
(百万円)
1961年
554
100,0%
東京都
平井 創
400人
18,500
1974年
600
100,0%
千葉県
浅倉 裕
61人
3,100
1979年
100
100,0%
千葉県
安田宗義
49人
2,200
1955年
160
100,0%
大阪府
藤岡正勲
243人
10,700
1999年
20
100,0%
北海道
中村總兵
16人
100
2001年10月
1,434
100,0%
東京都
平井 創
880人
(王子製紙との兼務者含む)
※ 約80,000
表2 物流子会社5社と新会社の概要
※王子製紙本体の物流費531億円及びグループ全体の物流費を加えると王子物流の売上高は約800億円の見込み
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って、約一カ月分に設定している現在の在庫
水準を見直すと同時に、製品アイテム別在庫
管理を徹底して無駄なコストを削減していく。
王子物流は親会社の物流部門として機能を
果たす一方で、外部荷主獲得を強化し、一物
流事業者としての自立が求められている。 既
存の物流子会社五社の親会社への依存度は六
〇〜七〇%に達していた。 王子物流はこれを
五〇%まで引き下げ、残りを外販で賄うよう指示されている。 外販の具体策として王子物
流ではまずは工場〜消費地倉庫間の帰り荷を
一〇〇%確保することを目標に掲げている。
消費地倉庫の再配置
今回の物流子会社の再編は同社の所属する
サプライチェーン全体から見れば、ごく一部
の改革にすぎない。 これからクリアすべき課
題は山積している。 その一つが消費者倉庫の
扱いだ。 サプライチェーンの簡素化が叫ばれ
ている中で、すべてが自社保有ではないとは
いえ、一社で国内に二五〇以上もの消費地倉
庫を抱えているような業界はほかに見当たら
ない。
この異常さを王子製紙も十分承知している。
「立地の面でいえば、港にたくさんの倉庫を
抱えることが本当に正しいのだろうか。 かつ
ては工場から艀で運ぶため港に倉庫を持つこ
とに意味があった。 しかし最近はシャーシ輸
送が主流。 内陸部の倉庫でも問題ないはずだ。
いずれにしても、立地と数の両方の観点から消費地倉庫の再配置に取り組む」(平井常務
執行役員)方針だ。
王子製紙では、国内市場で競合する日本ユ
ニパックホールディングはもちろんのこと、世
界最大の製紙会社である米国のインターナシ
ョナル・ペーパー、第二位で北欧のストラ・
エンソを今後の競争相手として見据えている。
これらライバルと互角に渡り合うためには、
複雑な流通に深くメスを入れて、コスト構造
を抜本的に変えるという改革が避けられない。
物流子会社再編はその通過点にすぎない。 過
去のしがらみを捨て、SCMを進めることが
できるか。 デフレによる単価下落の懸念が常
につきまとっている製紙業界に残された時間
は少ない。
(刈屋大輔)
――物流子会社再編の背景は。
「五つの物流子会社は生い立ちがまったく異な
っているため、これまで独立独歩でやらせてきた。
このスタイルだと競争意識が働いて物流品質が良
くなるというメリットもあったが、その一方で五
社の利害が一致せず、統制が取れないというデメ
リットもあった。 王子製紙の物流効率化を考えた
結果、子会社の一本化を決断した」
――従来の体制では特に何が問題だったのか。
「情報が一元管理できないという点が一番の問
題だった。 その結果、工場から消費地倉庫までの
一次輸送で、交錯輸送が生じるなど無駄が発生し
ていた。 生い立ちが異なるという歴史的背景から
か、物流子会
社の間に目に
は見えない壁
があり、情報
の共有が図れ
なかった」
――新会社の
業務範囲を
拡げる計画だ。
「物流に関する権限を新会社に集約するつもり
だ。 営業、製造部門はコア業務に専念してもらう。
理想は新会社が需給調整業務までを担当する体制
だ。 王子製紙本体は物流部門を持たず、すべての
業務を新会社にアウトソーシングする」
――外販比率拡大を指示している。
「外貨(外販)を獲得して自立することが連結
決算時代の物流子会社の役目だ。 親会社の仕事だ
けをやっていても意味がない。 親会社のコスト削
減に寄与して、なおかつ外でも稼ぐ。 それがこれ
からの物流子会社のあるべき姿だと思う」
――物流改革もさることながら、複雑な流通構造
そのものの見直しが必要なのではないか。
「小手先だけの改革だけでなく、サプライチェー
ン全体の最適化が欠かせないというのは製紙業界
の共通認識だ。 ただし、既存の流通の仕組みを一
気に変えるのは不可能に近い。 多少時間は掛かる
だろう」
(インタビューの詳細はLOGI-BIZ
メールマガジン
九月号www.e-logi.com
で掲載予定)
「本体では物流部門を持たない」
王子製紙
平井
創 常務執行役員物流本部長(一〇月一日付で王子物流社長を兼務)
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