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SEPTEMBER 2001 50
三菱商事はグループ外に向けた物流サービ
スの事業化では後発組に属する。 「総合商社
の中でもっとも遅れていた」と西田純隆新機
能事業グループ物流サービス本部物流ソリュ
ーション企画・統括ユニットマネージャーが
自ら指摘する通り、三井物産、住友商事、伊
藤忠商事といったライバル商社が早い時期か
ら物流ビジネスに食指を動かしていったのに
対して、三菱商事の物流部門はあくまでも各
事業部の後方支援部隊という立場を貫いてき
た。
物流部門のプロフィットセンター化へと大
きく舵を切り始めたのは二〇〇〇年からだ。
同年二月に長野県で病院向け物流事業を開始したのを皮切りに、三月にはCVS(コン
ビニエンスストア)のミニストップ、日立物
流とインターネット通販の運営会社「MMH
―ECサービス」を設立。 九月には三井物産、
住友商事、トヨタ自動車など一七社と共同出
資して、求貨求車システム運営会社「ロジリ
ンクジャパン」を立ち上げた。
二〇〇一年に入ってからも物流ビジネスへ
の投資を続けており、二月には物流ベンチャ
ーのイー・ロジットへの資本参加を決定。 四
月には次世代の物流管理ツールとして注目さ
れている非接触型ICタグの販売でシャープ
と合弁会社「日本アールエフソリューション」
を設立した。
さらに今年七月、西濃運輸との共同出資で、
全体最適を提案するコンサル部隊
西濃運輸と共同出資で新会社設立
西濃運輸と共同出資して3PL会社「ロジウェル」
を設立した。 総合商社と大手物流企業との提携は
初めて。 両社は社員数人ずつを派遣し、提案営業
部隊を編成。 自社のインフラに固執ぜず、コンサ
ルティングからセンターオペレーション、決済ま
でのトータルソリューションを提供する。
三菱商事
――アライアンス
一歩前に出た格好だ。 ライバル商社の物流担当者たちは「三菱が物流ビジネスの分野でど
れだけやれるのか注視している」と警戒心を
強めている。
物流ビジネスへ積極進出するのに先立ち、
三菱商事は組織改正によって「新機能事業グ
ループ」を発足させている。 同グループは
「FT(Financial Technology
)」、「IT
(
Information Technology
)」、「
L
T
(
Logistics Technology
)」、「
M
T
(
Marketing Technology
)」の頭文字をとっ
た「FILM」と呼ばれる四つの機能の組み
合わせによって、最適なソリューションを顧
客に提供していくことを目的として
いる。
社内での位置付けとしても従来
の後方支援部隊ではなく、エネルギ
ー、金属といった商社の伝統的な事
業グループと並列に扱われている。
それだけ同社は物流ビジネスの今後
の伸長に大きな期待を寄せている。
「物流部門の社内での位置付けが大
きく変わったことが昨年から今年に
かけての積極的な物流関連投資に
つながっている」と西田マネージャ
ーは説明する。
脱・後方支援部隊
とりわけ、今回の「ロジウェル」
51 SEPTEMBER 2001
物流コンサルティングからセンターオペレー
ション、決済までを含めたトータルロジステ
ィクスサービスを提供する3PL会社「ロジ
ウェル」を発足させた。 新会社の資本金は一
億五〇〇〇万円。 出資比率は三菱商事五〇%、
西濃運輸五〇%。 会長には田口義嘉寿西濃
運輸社長、社長には前出の西田マネージャー
が就任した。
この新会社の設立によって、三菱商事はコ
ンサルティングからeコマースまでの、幅広
い物流サービスメニューを提供する体制を整
えたことになる。 わずか一年余りの間に他の
商社に対する遅れを取り戻しただけでなく、
設立は三菱商事にとって大きな意味を持つ
案件だった。 日本初となる総合商社と大手
物流企業の提携に漕ぎ着け、三菱商事が物
流ビジネスに本腰を入れていることを各方面
にアピールできたことはもちろん、それ以上に「物流サービスの受け皿としての機能を持
ったことが大きかった」(西田マネージャー)
という。
これまでの商社の物流部門の役割は、各営
業部門の商取引によって生じる物流を各営業
部門に代わって手配することだった。 船舶、
航空、トラックなどの輸送枠を確保し、さら
には貨物にまつわる保険を斡旋することが主
な仕事だった。 各営業部門から寄せられる
様々な物流手配要請を集約し、最適な輸送モ
ードを選択する。 いわばフォワーダーとして
の機能を果たしていた。
しかし、近年ではこうした後方支援機能の
ほかに、物流改善を提案したり、物流戦略そ
のものを立案するなどブレーンとしての機能
三菱商事は物流ビジネスへの積極投資を続けている
2000.2
2000.3
2000.9
2001.2
2001.3
2001.4
2001.6
2001.7
長野県で病院向け物流事業を開始
ミニストップ、日立物流とネットショップ
「MMH-ECサービス」設立
総合物流サイト運営会社「ロジリンクジャ
パン」設立
イー・ロジットに資本参加
中古IT機器リサイクル会社「デジタルリユ
ース」設立
非接触型ICタグの販売でシャープと合弁会
社「日本アールエフソリューション」設立
業務用食材供給会社「フードサービスネッ
トワーク」設立
3PLで西濃運輸と共同出資で「ロジウェル」
設立
西田純隆新機能事業グループ物流サ
ービス本部物流ソリューション企
画・統括ユニットマネージャー
SEPTEMBER 2001 52
が求められるようになっている。 「商社の営
業部門自体が現在、物流という切り口から商
圏の維持、拡大を図ろうとしている。 物流部
門には、そのための知恵を借りたいという依
頼が後を絶たなかった」と西田マネージャー。
社内からだけではなく、外部の顧客から直接
依頼されることも少なくなかった。
ところが、これまで物流部門ではそうした
社内外からの期待に十分に応えることができ
ていなかったという。 提案営業の専門部隊を
組織しているわけでもなく、物流現場のノウ
ハウにも乏しかった。 とくに「国内物流のノ
ウハウはゼロに等しい状態。 総合商社は国際
物流に関する知識や経験は豊富で、川上のビ
ジネスには長けているが、川下は近年ようや
くテコ入れし始めたばかり。 国内物流分野で
3PLを展開するには力不足である点は否め
なかった」(西田マネージャー)。
社内外からの依頼を何とか収益に結びつ
けたい――。 常々そう考えてはいたものの、
単独での3PL進出には一抹の不安を感じ
ていた。 そこで、通常業務で付き合いのある
物流業者のうち、西濃運輸をパートナーに
選んだ。 その理由を「長い歴史の中で蓄積
された物流ノウハウもさることながら、提案
力で群を抜いていた」と西田マネージャーは
説明する。
三菱商事にとっては、西濃運輸が有する国
内のネットワークも魅力的だった。 海外製品
の調達から国内物流拠点、さらに最終消費者
に至るまでのB
to
B
to
Cの物流で、三菱商事
が手薄だったのは国内のB
to
Bの部分と最後
のB
to
Cの部分。 その点、西濃運輸は全国四
五〇カ所のターミナル、二万二〇〇〇台のト
ラックで構成される日本有数の国内のネット
ワークを持っており、特に国内のB
to
Bに相
当する商業貨物の扱いには定評がある。 さら
に、最後のB
to
Cについても、今年七月に軽
トラ大手の軽貨急配と業務提携するなどネッ
トワーク強化策を打ち出していた。
一方、今回の提携は西濃運輸にとっても悪
い話ではなかった。 折しも、西濃運輸は今年
四月にスタートした中期経営計画の中で、3
PL事業の強化を今後の課題の一つに挙げて
いた。 一度は店じまいしたロジスティクス部
門を復活させるなど3PLのテコ入れを始め
た矢先に、三菱商事から新会社設立の話が持
ち込まれた。
西濃運輸の丸田秀実取締役は「完全なノン
アセット型で事業展開している3PLの成功
事例は少ない。 海外でもほとんどがアセット
型にシフトしてきている。 これからの3PL
はアセットをベースにした事業が主流になる
という考え方が当社と合致していた」と三菱
商事との提携に踏み切った理由を説明する。
収入源はコンサル料
「ロジウェル」は今後、サプライチェーンの再構築といった大規模プロジェクトの支援か
ら、レイアウト変更など物流センターの改善
までの幅広い領域を対象に営業を展開してい
く。 背後には三菱商事と西濃運輸が控えてい
るが、あくまでも「ロジウェル」自身はコン
サルティングをメーンにした、トラックや倉
庫などの資産を持たないノンアセット型の3
PLという位置付けになる。 物流の現状診断
や改善案の提示など実務には、両社がそれぞ
れ社員数人ずつを派遣して編成する提案営業
部隊があたる。
「ロジウェル」の3PLらしさを挙げるとす
るならば、顧客に提案を行う際に三菱商事と
西濃運輸のインフラを利用することに固執し
ないというスタンスを明確に打ち出している
――三菱商事との提携の狙いは何だったので
すか。
「新しい中期経営計画が今年四月にスタート
したのですが、その中で当社は小口商業貨物
「あえて旗色を鮮明にする」
西濃運輸
丸田秀実 取締役
53 SEPTEMBER 2001
点であろう。 両社のインフラだけでは賄いき
れない案件、例えば食品など定温管理が必要
な場合は率先して外部の力も借りる方針だ。
「顧客にトータルロジスティクスソリューシ
ョンを提供するのが目的である以上、三菱商
事の営業力と国際ネットワーク、西濃運輸の
国内ネットワークの双方を組み合わせても補
完できない機能は外部から調達するほかない」
(西田マネージャー)と割り切っている。
主な収入源はコンサルティングフィー。 た
だし、案件によっては「ロジウェル」が元請
けとなって、通過貨物量の数%をマージンを
取るという契約形態も採用する。 いずれは情
報システムの構築や金融決済など付帯業務のサポートに乗り出すことも視野に入れており、
この部分からの収入も見込んでいる。 業績目
標は二〇〇五年度に売上高五〇億円、最終
利益四億円と設定している。
会社設立からまだ一カ月強だが、「ロジウ
ェル」には既に一日数件のペースで案件が飛
び込んでくるという。 売り上げが立つまでに
は時間がかかるが、出足としては好調だ。
これまでコンサルティングを主体とする3
PLのビジネスモデルは絵に描いた餅に終わ
ることが少なくなかった。 この通説を打ち破
り、日本を代表する3PLに成長できるか。
「ロジウェル」の可能性と実力は具体的な事
例が立ち上がってから見極められることにな
りそうだ。
(刈屋大輔)
への特化と3PL事業の強化を今後の課題と
して挙げています。 当社はトラックターミナ
ル四五〇カ所、車両二万二〇〇〇台で国内
のネットワークを構築しているのですが、3
PLを進めていくうえではまだまだ足りない
機能があった。 ここ数年の積極的なアライア
ンスはそれを補うためのものでした」
「既に国際輸送で独シェンカー、流通加工
で東京納品代行、倉庫や物流センターで山九、
港湾関係で渋沢倉庫と、それぞれ協力関係を
築いています。 今回、三菱商事と手を結んだ
のもこうした展開の一環です。 三菱商事の持
つ海外ネットワークと突出した営業力は当社
にとって大きな魅力です」
――特定の商社と手を組むことのデメリット
もあるのでは。
「確かに当社は三菱商事に限らず、いろい
ろな総合商社とお付き合いさせていただいて
います。 社内にも他の総合商社との関係を危
惧する声もありました。 特定の会社と提携す
ることにはメリットとデメリットの両方があ
りますが、今回はメリットのほうが大きいと
判断しました。 もっとも今回の件について、
さほど大きな反発といったものはありません
でした。 これが二、三年前ならともかく、最
近では系列へのこだわりという意識は急速に
薄れつつあるのではないでしょうか」
――西濃運輸は早い段階から3PL企業への
転身を目指していましたが、具体的な事例を
ほとんど耳にしません。
「相手のある話なので、これまであまりオー
プンにしてこなかった。 そのせいですかね(笑)。
最近では事例も増えてきているんですよ。 例
えば、名古屋地区ではホームセンター向けの
一括物流センターを丸ごと運営しています」
――3PLを展開する上での西濃の強みは何
ですか。
「国内の輸配送ネットワーク、特にB
to
B
のネットワークです。 この分野では恐らく、
大手物流企業の中でも当社が最も安い運賃で
サービスを提供できるのではないでしょうか。
B
to
CやC
to
Cに強いヤマト運輸の場合、拠
点をたくさん抱えているので荷物一個当たり
の単価が七〇〇円くらいないとペイしない。
これに対して当社は、協力会社や提携企業の
インフラをうまく組み合わせることで、ヤマ
ト運輸よりもはるかに安い単価を実現してい
ます」
――日本ではノンアセット型の3PLは浸透
しないのでしょうか。
「世界的に見て、成功を収めている例のほ
とんどはアセット型の3PLです。 日本でも
現状は同じです。 自社のインフラに固執する
かしないかは別として、やはりある程度のネ
ットワークがないとうまくいかないのでしょ
う」
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