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SEPTEMBER 2001 54
西濃運輸の業績は九〇年代前半には
連結営業利益段階で一〇〇億円を超え
る水準にあった。 ところが二〇〇一年
三月期には単独営業利益が赤字に転落、
連結営業利益も一〇億円を下回る結果
となった。 さすがに業績低迷に伴う同
社の危機感は強く、直近では連結子会
社の再編や積極的なアライアンス施策
など、これまでになかった事業戦略を
打ち出している。
その変化を感じとって、株式市場で
は従来よりも株価の面で高い評価を受
けている。 もちろん収益性の改善など
課題はそのまま残っており、中期見通
しを楽観視することはできない。 それ
でも西濃運輸のマネジメントに変化の
兆しが見られるのは確かだ。
今回は同社の経営において何が変わ
り、何が変わっていこうとしているの
かについて整理してみたい。 それによ
って、特別積み合わせトラック事業者、
さらには物流事業者が「今何に着手す
べきか」を示唆できるはずだ。
西濃が抱える五つの課題
これまでの西濃の課題及び問題点を
振り返ってみると、以下の五点に集約
されよう。
●
得意分野への経営資源の集中が叫
ばれる中で、総花的傾向が見られた
●
グループ間のネットワークに重複投
資が見られ、投下資本の使途に非効
率性が目立った
●
グループ間の資本関係が脆弱で経
営のグリップが効かない部分があっ
た
●
間接部門のコストが大きく、低収
益性の一因となっていた
●
運用資産からの金融収益に依存し、
本業の利益に対するコミットが希薄
な点が見受けられた
こうした過去からの問題点に対して、
現在の経営計画の中では、次のような
施策を掲げている。 ベースは「商業小
口
No
.
1計画」で、その旗印の下、「コ
ア事業の明確化」、「利益体質への構造
改革」の二点を重点項目として挙げて
いる。
前者については、物量で一〜五〇〇
キログラムの小口商業混載貨物の獲得
に特化することを打ち出している。 事
業エリアを国内マーケットに集中し、
他の事業分野(海外事業や引越、流通
加工事業など)については、積極的な
アライアンスによって補完することを
目論んでいる。
既に、倉庫・港湾運送分野では、山
九、澁澤倉庫との提携を打ち出した。
流通加工分野では東京納品代行への出
資を行った。 さらに、SCMの領域で
は三菱商事と合弁会社「ロジウェル」
を設立。 また、引越事業ではアートコ
ーポレーションと提携を進めた。 海外
事業ではドイツのシェンカー・グルー
プとの提携により、アウトソーシング
をより進めていく計画である。
同時に、利益確保のために採算性重
視の運賃政策を志向し、収受運賃の是
正、すなわち単価の引き上げと不採算
貨物の選別集荷を行い、小口貨物の取
り扱いに注力する。
後者についての対策としては、組織
をフラット化し、間接コストを削減するため、国際貨物や引越、個人向け宅
配は分社化を含めて、組織の独立性を
高めていくという方針を打ち出してい
る。
また、グループ間の重複コストを見
直すために、連結関係会社の見直しに
着手した。 関東西濃運輸、濃飛西濃
運輸、関東西濃運輸といった主要関
連会社の株式を買い取り、一〇〇%
子会社化を実現。 これによって、グル
第6回
西濃運輸
西濃運輸のマネジメントに変化の兆しが見ら
れる。 子会社再編、機能補完のためのアライア
ンスが株式市場からも一定の評価を受けている。
同社に残されたリストラの期限は約三年。 その
間に営業利益重視の経営へと方向転換できるのかが問われている。
北見聡
野村証券金融研究所
運輸担当アナリスト
施策の実行可能性について懐疑的であ
る、からであろう。
実行精度が高まれば、一株当たりの
株主資本まで株価が回復することもあ
り得るだろうが、期待以上の実行スピ
ードが伴わなければ、再び低水準の株
価に下落するリスクも並存している。
これまで掲げてきた「連邦経営」から、
「中央集権体制」へ大きく舵が切られ
たばかりであり、中期的には経営のタ
ーニングポイントに差し掛かったと判
断しているが、本格的な利益回復を見
極めたいというのが、株式市場の正直
な気持ちではないかと思われる。 これ
まで以上に、経営の舵取りに対する期
待と不安は高いのである。
同社の経営施策の方向性については、
他の物流事業者も参考にすべき点は多
いだろう。 得意分野への経営資源の集
中、グループ全体でのコスト削減、ア
ライアンスによる補完、といった考え
方が、なかなか業界全体に浸透しない
が故に、供給過剰→運賃低下→利益悪
化という、逆スパイラル状態を生み出
しているのが物流市場の現状である。
業界全体の収益が回復し、産業とし
て蘇生していくためには、少なくとも
志を共有する事業者同士が手だてを講
ずる必要があるだろう。 西濃の取り組
みが業界の試金石となるか。 同社の今
後の経営は非常に興味深いと感じてい
る。
55 SEPTEMBER 2001
ープ全体の意志決定を迅速にし、事業
展開を機動的に行っていこうと目論ん
でいる。
さらに、トヨタカローラ岐阜、岐阜
日野自動車の株式保有比率を高め、連
結子会社にした。 いずれは純粋持株会
社の下、個別事業の採算管理を計数的
に行う計画である。
リストラ期間は三年
こうした事業構造改革の方向性につ
いては、基本的には異論はないだろう。
少なくとも、これまでのような利益率
低下をくい止め、諸計画を実行に移す
ことで「利益の回復→株価の回復→競
争力の増大」へと結びつけば、株主や
従業員、さらには荷主に至るまでの関
係者各位にとっては、喜ばしいことに
なろう。
ただし、問題は実行の精度とスピー
ドである。 同社のリストラに与えられ
た時間は最大限に見積もって五年間で
ある。 まだまだ時間があるといえばあ
るが、足元の輸送需要が予想以上に低
迷している環境を考慮すると、本質的
には三年程度の執行猶予期間しか残さ
れていないのかもしれない。
五年間という期間は、今回の連結子
会社再編で発生する連結調整勘定の償
却に伴う会計上の利益が約二九〇億円
発生し、これが五年間で償却されると
いうところから設定されている。 すな
わち、会計上の利益が今後五年間につ
いては、年間六〇億円弱計上されるこ
とになり、見かけ上の利益が上乗せさ
れる。 その間に、数々のリストラ施策
を講じ、従来のような営業外利益で調整した経常利益重視の経営から、本業
での競争力を高めたうえでの営業利益
重視経営にシフトする必要があるわけ
だ。
ただし、足元の輸送需要が前年比マ
イナスに転じている状況では、さらに
期間損益が悪化する危険性もはらんで
おり、リストラの効果が予想よりも薄
れてしまう可能性もある。 これを考慮
すると、三年間という期間が妥当だろ
う。
市場はまだ懐疑的
株式市場が期待しているのは、早急
に過去のしがらみを裁ち切り、膿を出
し、新しい西濃運輸グループを形成し
て、利益を出すことでマーケットにア
ピールすることであろう。 現時点の株
価は七〇〇円台で、一株当たりの株主
資本である一三四四円より低い水準で
あるのは、まだ株式市場が同社の経営
1998/8 1999/2 1999/8 2000/2 2000/8 2001/2
900
800
700
600
500
400
2000.00
1000.00
0.00
1998年08月〜2001年07月
株価
出来高(万株)
株価(円)
西濃運輸の過去3年間の株価推移
出来高(万株)
短期(6カ月)
長期(12カ月)
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