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価格のトヨタ、製品開発力のトーヨーカネツ、提案力のダイフク――
マテハン機器のユーザーは、ベンダーに対してそんな評価を下している。
そう何度も機会があるわけではないだけに、マテハン投資に失敗は許され
ない。 ニッチなテーマだが物流マンにとっては必須科目だ。 しかし、ユー
ザーが入手できる情報は限られている。 そこで本特集では、マテハン機器
のヘビーユーザーに、ベンダー各社の「裸の実力」を評価してもらった。
SEPTEMBER 2001 12
上位メーカーのプロフィール
このたび本誌は、国内マテハン機器メーカーのユー
ザー評価調査を実施した。 主要ユーザー企業の物流
担当責任者にアンケートを送付。 「価格」「性能」「提
案力」「導入管理能力」「トラブル対応」「メンテナン
ス対応」「メンテナンス価格」の七項目について、過
去に取引経験のあるメーカー各社の実力を、それぞれ
五段階で評価してもらった。 一〇〇社にアンケートを
送付し、三三社の有効回答を得た。
その結果をまとめたのが次頁のランキングだ。 七項
目の合計点でトップに立ったのはトヨタL&F(豊田
自動織機)だった。 「製品価格」と「メンテナンス価
格」、そしてアフターサービスが高く評価された。 実
際、同社は最近のマテハンのコンペでは、かなり積極
的な価格攻勢をかけているというコメントが複数の関
係者から得られた。
同社は今年四月、トヨタ自動車からフォークリフト
とマテハン機器の販売部門を譲渡され、社内に「トヨ
タL&Fカンパニー」を設置。 二三億円を投じて千葉
県にマテハン機器のショールームを新設するなど、同
分野への進出に本腰を入れている(一五頁囲み参照)。
今日のマテハン市場では台風の眼ともいえる存在だ。
二位のトーヨーカネツは製品の「性能」でトップだ
った。 主力のタンク事業の低迷で、ここ数年業績の低
迷に苦しんでいるものの、各種ピッキングシステムな
ど、流通の川下向けマテハン機器では常に業界を先駆
けてきた。 同社の製品開発力は依然として高い支持を
得ている。
三位のダイフクは「提案力」で最高点を上げた。 国
内のマテハン市場の約三割のシェアを握る最大手であ
り、フルラインのマテハン機器を揃える唯一の物流機
器専門メーカーである同社は、豊富な導入実績を背
景に、物流センターのトータルな運用ノウハウを着々
と蓄積しているようだ。
この上位三社以外では、外資系メーカーのサンドビ
ックが「導入管理」でトップとなったことが目に付い
た。 世界的に見てもマテハン機器市場はドメスティッ
クな産業だと言われる。 しかし同社はトラックターミ
ナル向けの自動仕分け機をメーンに、日本の国内市場
に既に強固な地盤を築いている。
軽視されるメンテナンス価格
今回の調査では、マテハン機器を選ぶ時に、何を重
視しているかという質問も用意した。 複数回答にした
結果、最も多くの票を集めたのは「価格」だった。 こ
れに対して「メンテナンス価格」は全項目中、最も得
票が少なかった。
「最近、導入費用については各社共、低価格で提案を
受けるものの、導入後の保守費用が高額であるケース
が多い。 そこで設備導入時に保守契約提案も提出し
てもらい、導入判定のファクターとしている」(文具
メーカー)というユーザーは、日本ではまだ少数派の
ようだ。
マテハン機器のように、長期間にわたって使用する
設備を導入する際に、初期投資の金額だけでなく、運
営費やメンテナンス費などを含めたトータルコストで
評価する方法を「ライフサイクル・コスティング」(L
CC)と呼ぶ。 米国では国防総省が購買活動にLC
Cを導入したことから、民間企業へと普及していった。
日本でも重機械やプラントなどでは導入が進められて
いるが、マテハン市場での普及は遅れている。
しかし、「メンテナンスに関する事項は入念に取り
決めておく必要あり。 それが原因でトラブったことが
MHメーカー評価ランキング
Part ? マテハン機器Research
13 SEPTEMBER 2001
特集
マテハン機器/トラック車両
ユーザー満足度調査
メーカー
トヨタL&F
トーヨーカネツ
ダイフク
住友重機械工業
オークラ輸送機
サンドビック
村田機械
キトー
岡村製作所
NKK
ホクショー
石川島播磨重工業
西部電機
日本ファイリング
小松フォーク
イトーキ
三菱重工業
椿本チエイン
日立製作所
3.67
3.13
3.24
3.50
3.46
3.00
2.71
3.60
2.75
3.14
3.58
3.14
2.63
3.18
2.87
2.60
2.80
3.57
2.83
3.50
3.80
3.66
3.33
3.69
3.17
3.71
3.20
3.38
3.43
3.08
3.07
3.38
3.36
3.07
2.80
3.20
3.57
2.67
3.42
3.27
3.45
2.33
2.62
3.00
3.14
2.60
2.50
2.57
2.75
2.86
2.75
2.91
2.53
2.40
2.40
2.71
3.00
3.33
3.47
3.10
3.33
3.08
3.50
2.86
3.20
3.13
3.14
2.83
2.93
3.25
2.82
2.93
2.80
2.80
2.43
2.83
3.58
3.40
3.07
3.33
3.08
3.17
3.14
3.20
3.13
2.86
3.00
3.00
2.88
2.64
3.00
3.00
2.60
2.43
2.67
3.58
3.33
3.07
3.50
3.08
3.00
3.14
3.00
3.38
3.00
2.83
3.07
2.88
2.73
3.13
3.40
2.60
2.29
2.50
3.00
2.87
2.76
2.83
2.69
2.83
2.86
2.60
2.88
2.71
2.75
2.64
2.75
2.73
2.80
2.80
3.00
2.29
2.33
24.08
23.27
22.34
22.17
21.69
21.67
21.57
21.40
21.13
20.86
20.83
20.71
20.50
20.36
20.33
19.80
19.40
19.29
18.83
●マテハンメーカー「ユーザー評価ランキング」上位19社
価 格
性 能
提案力 導入管理 トラブル対応
メンテ対応
メンテ価格
総得点
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
順位
1
2
3
価 格
トヨタL&F
キトー
ホクショー
性 能
トーヨーカネツ
村田機械
オークラ輸送機
提案力
ダイフク
トヨタL&F
トーヨーカネツ
導入管理
サンドビック
トーヨーカネツ
トヨタL&F
トラブル対応
トヨタL&F
トーヨーカネツ
住友重機械工業
メンテ対応
トヨタL&F
住友重機械工業
イトーキ
メンテ価格
トヨタL&F
三菱重工業
岡村製作所
●評価項目別上位3社
アイ・イー、曙ブレーキ工業、味の
素物流、旭硝子、イオン、イトーヨー
カ堂、NECロジスティクス、コカ・
コーラウエストジャパン、コクヨロジ
テム、サッポロビール、サンデン物流、
三洋電機ロジスティクス、J&Kロジ
スティクス、シャープ、ジョンソン・
エンド・ジョンソン、第一貨物、ダイ
カ、大成建設、日本トイザらス、日本
能率協会コンサルティング、日本バイ
リーン、はごろもフーズ、パルタック、
バンテック、三菱商事、三菱電機、メ
ルシャン、ヤマトロジスティクスプロ
デュース、ユニ・チャーム、ライオン
流通サービス、菱食、良品計画、ロジ
スティクス・プランナー
(全33社・社名アイウエオ順)
・「メンテナンスに関する事項は入念に取り決めておく必要あ
り。 それが原因でトラブったことがある」食品メーカー
・「当社のセンターは休日も稼働しているが、その時のトラブ
ル対応に困った」家電メーカー
・「メンテナンスは別会社(子会社)が行っているが、ネジの
トルク等本社エンジニアのコメントとサービスのコメントが
違い困惑したことがあった」日雑メーカー
・「システムダウンをした時(仕分け機)全仕分けラインに人
を立て監視させた事がある。 約
50
名近い人。 もちろんメーカ
ー負担において」量販店
・「何もなくとも営業が報告してくる(住重)」部品メーカー
・「トラブル対応やアフターサービスの条件を購入時にメーカ
ーを取り交わし文書で残しておく事が重要である」電機メー
カー
・「最近導入費用については各社共低価格で提案を受けるもの
の、導入後の保守費用が高額な提案を受けるケースが多い。
設備導入時に保守契約提案も提出頂き導入判定ファクターと
している」文具メーカー
・「LCCの広まりによりランニングコスト重視の傾向が強ま
っている」ゼネコン
・「導入前の作業分析のレベルが高い(ダイフク)。 したがって拡張性を考慮した適正なシステム導入が行える」物流コンサ
ルティング
・「設備導入の前提条件をラフに押さえただけで、ピーク時の
作業量に対応できず、夕方で終わる予定が深夜までかかって
しまい、改善するまで作業者からボイコットされたピッキン
グシステムを見たことがある」物流コンサルティング
●回答各社のコメント(抜粋)
アンケート協力会社
SEPTEMBER 2001 14
ある」(食品メーカー)、「トラブル対応やアフターサ
ービスの条件を購入時にメーカーを取り交わし文書で
残しておく事が重要である」(電機メーカー)という
指摘は絶えない。
機器が高度化し、構造が複雑になるほど、メンテナ
ンス・コストの比重は大きくなる。 さらに今後、マテ
ハン機器の導入は従来の購入型から、日々の運用ま
でをベンダーに任せるサービス型へとシフトしていく
ことが予想されている。 初期投資の見積り金額で評価
する方法は、もはや時代遅れになろうとしている。
実際、製品価格偏重の弊害は大きい。 国内のマテ
ハン市場では過去一〇年近くにわたり、市場規模の
縮小と同時に、ダンピングまがいの価格のたたき合い
が横行してきた。 その結果、「現在、経営の苦しくな
いマテハンメーカーなど一社もないといっていい。 実
際の業績を見てもトップのダイフクでさえ物流システ
ム事業の営業利益は一%余り。 他は推して知るべしで、
ほとんどが赤字」(野村証券金融研究所・岡嵜茂樹企
業調査部アナリスト)という状態だ。
日本のマテハン市場を一〇年単位のスパンで見ると、
八〇年代後半から九〇年代にかけては、バブルに加え
て「FA(Factory Automation
)ブーム」と呼べる
ような盛り上がりがあった。 この時期にマテハン専業
以外の造船重機メーカーやフォークリフトメーカーな
どが、相次いでマテハン分野に進出してきた。 ところ
がその後、景気が反転すると、極端な供給過剰の状
態に陥ってしまった。
岡崎アナリストは「マテハン市場というのは比較的、
参入しやすく見えるようだ。 大手メーカーともなれば、
いずれも社内で自動化を進めているので、それを外販
しようと安易に考えてしまう。 実際にそう判断して参
入したメーカーは結局、利益を出せず、大部分が現在
●国内の主なマテハンメーカー
ダイフク
村田機械
椿本チエイン
オークラ輸送機
石川島播磨重工業
トーヨーカネツ
小松フォークリフト
トヨタL&F
三機工業
中西輸送機
サンドビック
キトー
957
403
250
244
140
135
105
100
99
81
75
49
1,161
1,222
1,063
294
8,041
306
883
74,080
1,970
81
213
208
82%
33%
24%
83%
2%
44%
12%
0%
5%
100%
35%
24%
トータル・マテハンメーカー
自動倉庫、無人搬送車に強い
新聞、アパレル、自動車に強い
物流仕分け機に強い
大型立体自動倉庫に強い
流通小売向けが7割
フォークリフトを活かし、営業展開
小型自動倉庫に注力
コンベヤ中心
大半が自動車生産ライン用
ベルトコンベヤに強い
立体自動倉庫の老舗企業
企 業 マテハン売上 全売上 売上構成 特 徴
(億円)
注)ダイフク、椿本チエイン、トーヨーカネツ、小松フォークリフト、キトーは99年度の連結ベース。 石川島播磨、トヨタL&F、
( トヨタ自動車、現在は豊田自動車織機に事業移管)三機工業は99年度の単独ベース。 他は98年度の単独ベ
ース
出所)野村証券金融研究所(石川島播磨、トヨタ自動車のマテハン売上は推定)
野村証券金融研究所
岡嵜茂樹企業調査部アナリスト
●マテハン機器の購入で重視する項目(3つ回答)
価 格
信頼性
提案力
性 能
実 績
メンテ対応
トラブル
担当者
導入PJ
IT活用
メンテ価格
115
65
60
50
40
35
35
20
15
10
5
価格
性能
提案力
トラブル 導入管理
メンテ対応
メンテ価格
●上位19社の平均値
――メンテ価格、提案力に対する満足度が低い
3.5
(優れている)
3.0
(普通)
2.5
(劣っている)
15 SEPTEMBER 2001
は撤退・縮小基調になっている。 それでも需要の減少
には追い付いていないという状態だ」と解説する。
低価格にひかれて選択したのはいいか、その後ベン
ダー自体が市場から撤退してしまえば、ユーザーにと
っても大きな打撃となる。 ベンダーとは機器の導入後
も長くつき合うことになるだけに、製品価格だけでは
なく、ベンダーの安定性や運用能力、将来性までを総
合的に見極める「目利き」がユーザーには問われる。
「目利き」がメーカーを育てる
本来なら近年のSCMの盛り上がりは、マテハンメ
ーカーにとって追い風であるはず。 既存の物流インフ
ラを刷新したいという潜在的なニーズも依然として大
きい。 現場のオペレーションに精通したマテハンメー
カーはユーザー企業のSCMをサポートする有力なパ
ートナーになり得る。
しかし、これまでマテハンメーカーの利益の源泉と
なっていたのは、実はラックやパレット、小型の自動倉庫など、モノを販売するだけすむ単純なマテハン機
器だった。 これに対して現在、求められているのはコ
ンサルティングやセンター全体の運用、さらにITの
活用を含めた複合的なサービスだ。 この分野で利益の
出せる体制をいち早く作ることが、マテハンメーカー
にとっては現在の閉塞状況を抜け出すカギになる。
優れたユーザー層の存在が、そんな「頼りになるメ
ーカー」を育てる土壌となる。 現状では複雑なSCM
システムを導入して、それを活かすだけの体制の整っ
たユーザー企業の数はかなり限られている。 それがマ
テハンメーカー側の言い分だ。 とすれば中堅以下クラ
スのユーザー企業のSCMが、ある程度のレベルまで
底上げされることが、マテハン市場の革新にとっても
必要な前提条件となりそうだ。
特集
マテハン機器/トラック車両
ユーザー満足度調査
今年四月、豊田自動織機は二三億円を投じて千葉
県市川に「トヨタL&Fカスタマーズセンター」を
開設した。 センター長を兼務する同社の稲場泰雄物
流システム営業部部長にその狙いを聞いた。
――カスタマーズセンターを作った狙いは。
「大きく分けて二つありました。 一つはメーカーとし
ての事情です。 フォークリフトというのは物流の一つ
の機械に過ぎず、これから大きく需要が拡大する商品
ではありません。 数年前に我々の事業領域をL&Fと
したのもそのためです。 ただ『L』の部分では、我々
はかなりの後発です。 そういう意味で何か新しい施設
が必要だと考えたんです。 単純に言えばマーケティン
グ手法の一つです」
「もう一つは、L&F事業を一歩前進させるという狙
いがあります。 世の中では『トヨタ生産方式』などと
言われていますが、これを本当に理解していただくの
は簡単ではない。 言葉だけは分かっていただいても、消
化してもらうのは非常に難しい。 このセンターを見て
いただくことによって、少しでも理解していただければ
ということです」
――投資金額は小さくありませんが、どうやって元をと
りますか。
「ストレートに元をとろうと思ったら何もできません
よ。 カスタマーズセンターを営業の拠点と考えるかど
うかも社内で議論が分かれた点ですが、結局、モノは
売らないことにしました。 ?コンサルティング型〞の
ショールームという位置付けです。 お客様が抱えてい
らっしゃる問題点をここで発見してもらえればいい」
――展示物のなかには他社のマテハン機械もあります。
これは自前のハードにはこだわらないという姿勢の現れ
なのでしょうか。
「ハードで差をつけることは非常に難しい時代です。 そ
れよりも運用です。 そもそも当社がフルラインでハード
を揃えることなどできません。 すでに、この業界にはた
くさんの会社があり、それぞれが強味を持っている。
我々はそれを組み合わせて提案をさせていただきます」
「トヨタ生産方式」のショールーム開設
トヨタ生産方式
のノウハウを実
際に体験できる
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