ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年9号
特集
マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 デジタル的マテハン活用法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

「高価なマテハン機器が、逆にセンターの制約となって、導 入前より効率が低下した」「導入後一度も使われずに償却を 終えた」などなど。
マテハン投資の失敗には枚挙に暇がない。
デジタル技術を活用することで、そんなリスクを回避できる。
SEPTEMBER 2001 38 「ザ・ゴール」の教え 「ザ・ゴール(The Goal) 」という本が話題である。
企業にとって究極の目的とは何かを主題としているが、 実はサプライチェーンを考える上で重要な「TOC (Theory Of Constraints: 制約理論)についての入門 書である。
その内容もさることながら、感心するのは なんと言ってもキャッチコピーである。
本のカバーによると、「ザ・ゴール」は一五〜一六 年前に書かれた大ベストセラーで、海外では既に多く のエグゼクティブに愛読されているのだという。
しか し、あまりに優れた理論なので、日本人に教えるとと んでもないことになる(ジャパンアズナンバーワンの 頃か?)と、著者の意向で当時、日本では販売されな かったのだとか。
何とも日本人経営層のマインドをくすぐるではない か。
読者層を狙った秀逸なマーケティングである。
古 今東西、ヒットを生みだすビジネスの陰には天才的な マーケティングが存在するのである。
(落語に「怪談牛の首」という恐ろしい話があるの だそうな。
ひとたびこの話を掛けると、語った者、聞 いた者には末代までも祟りや恐ろしい災いを及ぼす。
だから、今まで誰ひとりとしてこれを聞いた者がいな いのだという‥‥。
この話、先の「ザ・ゴール」とは デジタル的には似ても似つかぬ云々であるが、アナロ グ的な類似点は見つかりそうである) そもそも、ある体系を、ある目的で最適化しようと する時、目的を数式化(目的関数を設定)し、初期 条件や境界条件等の与えられた条件下で最適解(極 値)を求めることは、工学系の人間にとっては日常茶 飯事である。
そのため改めて「TOCは最適化のため の制約条件理論です」といわれても、「いまさら」と いう感じがしないでもない。
とはいえ一般のビジネスでは、最適化をひたすら求 めるがゆえに、かえって当たり前の初期条件や境界条 件を忘れてしまい、目前の部分的な結果だけを追う方 向に走ってしまうことが多いことも、また事実である。
そんなわけで「ザ・ゴール」は工学系、文化系を問 わずTOCの観点からSCMの理解を深めるためには 好材料といえるだろう。
さしずめ、この夏の課題図書 といったところだ。
厚い本ではあるが物語風のストー リー展開で一気に読める。
そしてマテハンを考えるう えでも、本書の教えが役に立つ。
マテハンのメソドロジー かつての「作れば売れた時代」には、大量生産・大 量消費に合わせて生産効率を上げるための様々なマテ ハン機器が、生産機械とともに開発された。
同時に、 生産性・コスト・品質などに関して、持てる資産を組 み合わせて、生産量、あるいは利益を最大にするため の方法が盛んに研究された。
その一つは、機械の性能をより向上させることであ る。
そしてもう一つが、OR(オペレーション・リサ ーチ)に代表される「手法」を開発することだった。
このうち前者は、わかりやすく即効性があるので日本 でも著しく発達した。
しかし後者、理論と実践による 検証が必要となる「機械を有効に活用する手法(メソ ドロジー)」については、日本人には馴染みにくいの か、これまで敬遠されてきたきらいがある。
その結果として、高性能なマテハン機器を導入した にもかかわらず、生産性が期待したほどは上がらず、 反対に効率が下がってしまうといった「ザ・ゴール」 さながらのケースが頻発している。
高い生産性を約束 されたはずのマテハン機器が、センターの制約となっ Degital Logistics《第6回》 デジタル的マテハン活用法 Columns 田中純夫エクゼ 社長 Part ? マテハン機器 39 SEPTEMBER 2001 て導入前より効率が低下した、あるいは導入後一度も 使われずに償却を終えたなど、枚挙に暇がないほどの 事例がある。
こうなると、やはり「メソドロジー」の観点から全 体を見直す必要が出てくる。
そこで制約理論である。
いかに高性能な設備を導入したとしても、他にボトル ネックが存在すれば、その部分がシステム全体の能力 を規定してしまう。
そこを効率化しない限り、他をど う改善しても効果が得られない。
それが制約理論の考 え方だ。
クリティカルパス そして、システムのあちこちに存在するボトルネッ クを繋げた不可避のルートを「クリティカルパス」と 呼ぶ。
このルート上に存在する要素を改善しない限り、 全体の最適化は得られない。
さらにクリティカルパス の課題をひとつ解決すると、いままでなかった要素が 新たなボトルネックとなって浮上する。
新たなルート のクリティカルパスが生成されてしまうわけだ。
高性能なマテハン機器を導入してスループットの向 上を図っても、そのプロセスを迂回した新たなクリテ ィカルパスが発生する。
つまり最適化の対象は常に変 化する。
マテハン設計の勘どころは、このようなクリ ティカルパスの性質を理解し、先回りし、予測するこ とにある。
かつて、生産性向上のためには三倍働けば良いなど というアナクロ的な精神論の時代があった。
それに比 べると、最近の物流センターでは積極的に生産管理の 考え方を採り入れて、効率化が図られるようになって きている。
ところが、ことマテハン機器の導入となる と、いまだにアナログ的な部分最適がせいぜいで、人 間系を包括する全体の効率化に結びついていないもの が多い。
これはクリティカルパスの考え方が欠如しているた めだ。
マテハン機器を上手く活用するコツは、まずは マテリアルフロー(モノの流れ)を分析し、導入前・ 導入後のクリティカルパスを見つけること、そしてモ ノの入りと出のベストバランスを把握することである。
すべてのモノの出入りを正確に管理することはもち ろん重要である。
ただし、すべての在庫を均等に管理 する必要はない。
要は、システムのボトルネットとな るモノの「入り」と「出」の「ツボ」を押さえてキッ チリ管理すれば、こと足りる。
在庫の変動要因となる 要素を重点管理するのである。
江戸時代の「入り鉄 砲・出女」的な考え方だ。
マテハン機器の導入に合わせてシステム面ではWM S(Warehouse Management System )の導入と活 用が効果的である。
WMSは旧来の在庫管理システ ムに較べて、原価管理・作業管理・マテハン機器管 理・システム連携が強化された統合システムだ。
見えないモノが数値として見えてくるからクリティカルな 部分を発見するのに役立つ。
(図1)WMSのうち特 にマテハン機器の管理部分をクラスタ化したものをW CS(Warehouse Control System )などと称する。
コンサルタントの活用法 これまでに国内外の数多くの物流センターを見学し、 比較調査して気が付いたのだが、我が国のマテハン設 備は、欧米にくらべるとWMSと言うよりはWCSと 呼んだ方が良い設備志向のシステムが多いようだ。
ゼ ネコンやマテハン機器メーカー主導の設計が、そうさ せているのかも知れない。
コスト・品質・納期を厳しく要求される現場施工 の立場では、数値で割り切れない業務系システムに関 特集 マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査 SEPTEMBER 2001 40 わるよりも、計画通り設置施工を完了し、制御仕様 通りに動くハード/ソフトを、早く引き渡すことが優 先される。
「ちゃんとデータを入れれば制御仕様通り 動くはずです」「業務運用は当社の範囲ではありませ ん」などなど。
後はどうにでも逃げようがある。
機械は業務の運用を支援するものであるが、運用設 計をしっかりせずに機器をカタログ性能等で決めてし てしまうと、いざ機械の能力を超えた問題が発生した とたん業務はアウトである。
簡単なことであるが、機 械は設計仕様以上の仕事をしてくれない。
機械が止ま ったときの対処を標準化しておくこと等が肝要だ。
といっても企業の物流マンが新規の物流センターや システム、またはマテハン機器の導入に携わることが できるのは、二〇年に一回くらいのことだろう。
過去 の経験は当てにならない。
そうかといって、メーカー の意見を聞いてばかりいては冷静で客観的な判断など できようはずがない。
そのため経験豊富で最新情報にも精通した物流コ ンサルタントをメンバーに招き、意見を求めるケース が多くなっている。
しかし、それも万全ではない。
マ テハンという小さなマーケットゆえか、成果がコンサ ルタント個人の経験や技量に大きく依存すること、ま た専門分野を見極めて依頼しないとミスキャストにな る可能性がある。
シミュレーターとエミュレーター そこでITが活きてくる。
今やシミュレーターやエ ミュレーターが簡単に利用できる時代だ。
これらを活 用しない手はない。
システムやマテハン機器の導入な しに効率化を図ることができたり(事例1)、効率を 見込んだはずの設備投資が実は短期間の効果しかない ことが判明し、後で多大な改修が発生する可能性が 見つかったり(事例2)、静的や定量的な分析だけで は分からないものが見えてくる。
デジタル技術の恩恵 である。
ちなみにシミュレーターとは対象を数理的にモデル 化し、想定した条件下で検証するツールだ。
これに対 してエミュレーターは数理的なモデルと言うよりは、 むしろ対象の外面的な動きをできるだけ忠実に再現す る一種のアニメーションだ。
検証と再現の違いはあるが、これらを用いて一度 モデルを作ってしまえば制約条件を変化させ、様々 な検討ができる。
「もし、‥‥であれば、どうなる、こ うなる」が思いつきで何度でもできる。
ピーク時対応 や日々の改善、新規要件の発生など、物流センター のハードやソフトを取り巻く環境変化への迅速な対 応、センターの運用寿命の算定など、応用範囲は極 めて広い。
様々な条件を想定して、実験を繰り返せばいい。
だ れも怒らないし、だれも傷つかない、また損もしない。
なによりも結果が一目瞭然なのが良い。
現場担当者か ら管理者、経営層に至るまで、同じモデルを見ながら 議論して、知識を共有できるという優れモノである。
もっとも使用頻度の少ないソフトをわざわざユーザー が購入する必要はないので、このようなシステムを装 備しているモダンなコンサルタントを活用するのが手 っ取り早い。
物流におけるマテハン機器導入の歴史は古いが、全 体としてのシステム最適化の研究は、まだ緒に就いた ばかりである。
とりわけ物流の現場における人間の動 きと施設・機器との連携については研究すべき課題が 山積している。
これからは物流におけるマテハン機器 やシステムのあり方、人が働くことの本質を、デジタ ル技術が明らかにしてくれることになるのだろう。
特集 マテハン機器/トラック車両 ユーザー満足度調査

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