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OCTOBER 2001 58
時価総額は一時
200
億円台
陸運業界の公開企業の中では、日
本通運、ヤマト運輸、西濃運輸に続き、
第四位の売り上げ規模(二〇〇〇年
度の連結売上高は約三五〇〇億円)を
誇るが、この数年間利益や株価水準で、
同業他社に比べ圧倒的に出遅れてしま
った感があった。 過去のピーク時価総
額(=株価×発行済株式数)は二〇
〇〇億円超であったが、一時は二〇〇
億円程度にまで縮小した。
九一年度に過去のピーク営業利益
二一〇億円台を達成した時には、その
約半分の一一〇億円が機工事業から
生み出され、他部門の業績も堅調であ
った。 ところが、景気後退による粗鋼
生産量減、プラント輸出減、建設事業
の採算悪化など事業環境の逆風を遮る
ことに遅れて、九九年度の営業利益は
約六七億円と、ピーク利益の三分の一
の水準に落ち込んでしまった。
同時に配当も無配となった。 これが
時価総額低迷の主な要因で、株式市
場からは経営の継続性に対する警告シ
グナルが出されていた。
しかしながら、同社はこうした苦境
をバネに事業構造改革に取り組んでき
た。 この一〜二年は改革の成果も出
始め、二〇〇〇年度の営業利益は八
四億円(前年比二五%増)となった。
株価も一時の低水準から脱出し、現
在の時価総額は四〇〇億円強(八月
末現在)まで回復した。 日本通運の
五五〇〇億円強、ヤマト運輸の一兆
一〇〇〇億円強、西濃運輸の一一〇
〇億円強と比べると見劣りするが、業
績の底打ち感が見えてきたことで、資
本市場では好感されている。 二〇〇〇
年三月以降は中期経営計画の公表及
びIR活動にも積極的で、外部投資
家の関心度も高まりつつある。 社内で
の意識改革にも変化が顕れているよう
だ。
3PLと3PMが柱
基本戦略の柱は物流事業の3PL
(サードパーティ・ロジスティクス)と
機工事業の3PM(サードパーティ・
メンテナンス)の二つである。 アウト
ソーシングニーズを取り込む仕組みを
構築する一方で、雇用体制の見直しな
どコスト構造改革にも取り組んでいる。
3PL事業では、素材メーカーなど
の構内物流で培ったノウハウを応用す
るかたちで受注拡大を図ろうという戦
略を打ち出している。 このノウハウと
アジア地域を中心とする国際物流網や
新物流情報システムを武器に、業務を
アウトソーシングすることに抵抗がな
い海外メーカーからの受託を狙ってい
る。
メーカーの調達・構内物流ばかりで
ない。 最終的には、国内外のエンドユ
ーザーに至るまでの物流を取り込んで
いこう、という構想もある。 これまで
に中国を中心に築いてきた海外物流拠
点、グループ全体を含めて三六〇カ所
ほどある情報ネットワーク拠点を有機
的に結びつけることができれば、実現
の可能性は極めて大きいと言えるだろ
う。 特に中国はWTO加盟などによる
輸送需要の拡大が見込まれており、中
長期的な収益を牽引することが期待される。 一方、3PM事業では鉄鋼・石油・
化学メーカーのプラントメンテナンス
関連のアウトソーシングニーズ囲い込
みを図っている。 これらメーカーの多
くはこれまでメンテナンス作業を子会
社や関連会社に委託してきたが、規制
緩和で定期修繕の期間が二年から四
年に延びたことを背景に、山九のよう
な専業者にアウトソーシングする傾向
第7回
山 九
山九が構造改革の積極化で息を吹き返しつつある。 グループ企業の
再編などリストラ策を進める一方で、3PLと3PMに経営資源を集
中させる戦略が株式市場からの評価され、低迷を続けていた時価総額
は四〇〇億円台にまで回復。 二〇〇〇年度の営業利益は八四億円にま
で戻った。 不採算の続く建設事業のテコ入れが当面の課題となっている。
北見聡
野村証券金融研究所
運輸担当アナリスト
はカバー出来ない状況にまで追い込ま
れている。 建設事業が他部門の業績改
善効果を無駄にしてしまうのであれば、
事業継続を含めた抜本的な対策を早
急に打つ必要があるだろう。
第二に、バランスシートの強化であ
る。 連結ベースの有利子負債一四〇
〇億円強、株主資本比率八・九%と
いう水準、かつ配当が無いという現状
は、年金資産などを運用している保守
的な機関投資家にとって、中長期的
なスタンスで株式を保有するにはリス
クが低いとは言い難い。 年度ごとのフ
ローの利益を安定・改善させると同時
に、資本強化という点でもアライアン
スや金融スキームの導入など、何らか
の対応施策が必要になってくるかもし
れない。
株主資本比率の向上と復配というハ
ードルを克服できれば、リスク許容度
の高くない投資家でも、銘柄選別の対
象として選別することが出来よう。
同社のリストラの成否は、必ずしも
成長するマーケットとは言えない事業
分野を保有する企業や、緻密なリスト
ラ計画の策定に苦悩している企業にと
って参考となる点も多いと思われる。
そもそもの物流の原点を感じながら、
物流産業がどのように蘇生していくか
を捉えることの出来る、ひとつの事例
に成り得るかは、中村公一社長の経営
手腕に掛かっている。
59 OCTOBER 2001
が強まっている。 外注化によって補修
費削減や設備稼働率の向上が可能に
なるからだ。
山九にとっても、メンテナンス技術
を駆使して企画段階から施工管理まで
を取り扱うことができれば、メンテナ
ンス市場そのものは拡大しないまでも、
市場内でのシェア拡大を図ることで安
定収益の源泉となるだろう。 総花的に
物流事業の拡大を志向するのではなく、
ニッチな得意分野に経営資源を集中し
ていく施策は、結果的に投下資本利益
率の改善にも結びついていくはずだ。
建設事業のテコ入れ不可欠
コスト構造改革も順調に進んでいる。
これまでに労務外注の標準化、支払方法の見直し、システム導入などによ
る購買費や外注費の削減、給与・賞
与体系の見直しによる総固定費の圧
縮、寮や社宅、遊休資産の売却によ
る資産のスリム化などを実施してきた。
また、グループ全体では作業専門会社
の設立やグループ企業の再編、グルー
プ内事務部門の集約化などに取り組
んでいる。
今後は、外注生産性の向上や資材
費単価の削減、事業特性に合わせた
雇用体系の検討、パート・アルバイト
活用などによる雇用の多様化を図り、
トータルコストの削減及び資産効率の
改善を図っていく計画を打ち出してい
る。
ただし、将来の課題も少なくない。
第一に、採算の悪い建設事業のテコ入
れが不可欠である。 前期も部門別営業
利益の赤字幅が拡大しており、事業環
境を鑑みても、単純なリストラ施策で
2001年3月期の業績
売上高
営業利益
経常利益
当期純利益
350,089
8,403
5,433
△25,053
8.9
25.4
108.6
――
(百万円) 前年比伸び率( %)
出典:Yahoo! JAPAN
出来高(千株)
株価(円)
過去5年間の株価と出来高の推移
1996年10月〜2001年9月
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