ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
特集
ヤマト・佐川二強時代 聖域にメス入れ第二の創業に挑む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2001 20 ――九一年の東京佐川急便事件から今年でちょうど一 〇年が経ちました。
この一〇年を振り返って、どのよ うな感想を持ちますか。
「よくここまで来れたなというのが率直な感想です。
本当に色々なことがありました。
当初は会社更生法の 申請まで覚悟した場面もありました。
しかし、グルー プ力を結集することで周りに迷惑をかけずに返済でき るという試算を立て、経営の目標を東京佐川急便事 件の処理という一点に絞ることで、何とかここまでこ ぎつけた。
振り返ると、目標とするところの八割ぐら いは達成できたと思っています」 ――債務の返済も進んでいるようですね。
「東京佐川急便事件で当社が抱え込んだ債権は約六〇 〇〇億円ありました。
それが今年の三月期時点で残り 五一億円まで返済が進みました。
ほぼ完済したといっ ていい。
借入金全体で見ても、九三三六億円あったも のが約四八〇〇億円まで減りました。
東京佐川事件 以前の水準まで戻ったことになります。
さらに今期か ら始まる中期計画『第二次アクションプラン』では借 入金の総額を三〇〇〇億円まで削減する予定です」 ――今年三月期の業績を教えて下さい。
「連結売上高が七四三一億円で前年比約一〇四%。
営業利益は五二二億円。
前年比で一〇八%ぐらい。
経 常利益が四四三億円です。
単価は前年比でほぼ横這 い。
九九%程度です。
単価を下げれば売上高で二桁 増も可能だったでしょうが、利益は落ちたはずです。
この業績には満足しています」 運賃の社内配分を変更 ――今期の目標は。
「前年以上の売上高と前年並みの利益を目指します。
売上高で一〇三%程度。
同じく利益は一〇〇%を維 持しようという計画です。
今年度、当社は内部配分 制度の改革を行っています。
ですから無理はしない。
残る借入金の返済がまず第一です。
売上高や利益、市 場シェアはその次の問題になります。
扱い個数にも全 く拘っていない」 ――内部配分制度というのは、顧客から収受した運賃 を社内でどう配分するかということですね。
その配分 方法を変えるわけですか。
「そうです。
当社にとっては創業以来の聖域と言わ れた部分です。
とくにグループ各店の店別損益評価は 当社が長年にわたり懸案として抱えていた問題でした。
そこにメスを入れました。
これによって原価が明確に なり損益の判断や経営判断が容易になる。
業界の最 大の課題である『品質』を上げるためにも配分を変え る必要があったんです。
原価に則した形に整理する必 要がありました」 ――なぜ内部配分方法を変えることが聖域だったので すか。
「それによって評価が従来より下がる店や支社が出 てくるからです」 ――平成一〇年に佐川は事業内容の届け出方法を変 更し、それまでの「佐川急便」を新たに宅配貨物とし て計上して社外に発表しました。
これによって宅配市 場の勢力図は大きく変わりました。
何が狙いだったの ですか。
「一般の消費者はもはや特別積み会わせ便と宅配便 を区別していません。
『ドア・ツー・ドア』のサービ スを全て『宅配便』として認識しています。
そうであ る以上、当社が自分達でどう思っていようと、『宅配 便』という土俵で意志を明確にしない限り、存在を問 われることになると考えたんです。
『 to C』に関する 機能を明確にしないと、周囲から何の会社かさえ理解 特集 ヤマト・佐川二強時代 「聖域にメス入れ第二の創業に挑む」 東京佐川急便事件で背負った債務6000億円を完済し、昨 年6月の取締役会で起きた混乱も乗り切った。
今期は抜本的 な組織改編に着手する。
地区法人を全て本社に統合。
これ まで地区別に分かれていた機能別子会社も全国統合した上 で、宅配事業から分離する。
事件から10年を経て、ついに栗 和田新体制が整った。
佐川急便栗和田榮一 社長 Interview 21 OCTOBER 2001 してもらえません」 他社とは異なるモデル目指す ――もともと佐川は「B to B」で始まりました。
それ がだんだんと「B to C」の比重が増えてきた。
その結 果、それまで「C to C」をベースにしてきたヤマト運 輸とぶつかるようになってきた。
逆にヤマトは「C to C」から「B to C」、「B to B」へ拡げようとしている。
そこでネットワークの問題に直面する。
ヤマトの場合 は「B to 」の部分が弱い。
逆に佐川は「 to C」のイン フラに欠ける。
どうなさるつもりですか。
「『 to C』の問題は実は二〇年以上前から当社の課 題でした。
きっかけは通信販売の登場でした。
彼らは 『B to C』のネットワークを必要とした。
それにどう 対応するかというのは当社にとって大きな課題であり 続けた。
まだベストな解答は出ていません。
しかし、 当社が今後も『B to B』、『B to C』を中心ターゲット にしたネットワークをとっていくことは変わりません」 ――佐川急便の現在の拠点数は三三〇。
ヤマト運輸 の二七〇〇に比べて圧倒的に少ない。
「確かにヤマト運輸さんと比べて、当社の拠点数は ずっと少ない。
だからといって、拠点数をいたずらに 増やそうとは思いません。
拠点を増やせば固定費がか さむという問題もありますが、それ以上に、扱うサイ ズやサービスに制約が生まれてしまいます。
顧客の要 請に柔軟に応えるという当社の強みが失われてしまい かねない。
(ヤマト運輸と)同じ市場でバッティング するようになったとしても、拠点展開、建物の作り方、 全てが違う形になります」 「顧客から問われているのは拠点の数ではなくサー ビスです。
実際にデータを見ると、拠点に対する受け 取り要請や拠点に直接、持ち込まれる数は全体の五% 程度です。
その五%のために当社が二〇〇〇以上の 拠点を構えることが得策とは思えない。
実際、拠点が 少ないことで大きなクレームの対象になることがある かといえば、ありません」 ――取次店の数については? 他社はとくにコンビニ エンス・ストアの取り込みに躍起です。
佐川の四万店 という数は、ヤマトや日通の数十万店に比べると大幅 に劣ります。
「当社の場合、まずは消費者に宅配事業者として認 識して頂くほうが先決です。
ご存じのようにコンビニ 以外の取次店のヒット率はかなり低い。
またコンビニ にこれから当社が入っていこうとすればかなり無理を する必要がある。
そこまでして取次店を増やそうとは 現段階では考えていません」 ――ライバルとしてヤマトを強く意識されているよう ですが、日通をどう評価しますか。
「日通さんは余りにも当社と業態が違い過ぎて、比 較する対象にならない。
日通さんが当社のように宅配に特化するのは難しいのではないでしょうか。
当社に しても日通さんの真似をできるかといえば、これは全 くできないわけです。
そもそも違うビジネスモデルな んです。
もちろん日通さんもメニューとしては宅配を 持っているのでしょうけれど、基本的なモデルは違う」 佐川流コンサルタントを育成 ――宅配専業者のヤマトと佐川は宅配事業では勝利し ましたが、ロジスティクス事業では必ずしも成功して いるとは言えません。
「当社の場合、ロジスティクス事業を含め、急便以 外の事業は全て急便によりかかっています。
未だに急 便事業の売上高が全体の八割を占めている。
もっと バランスのいい事業構造にしたい。
そのために急便以 特集 ヤマト・佐川二強時代 OCTOBER 2001 22 外の事業を拡大していきます。
具体的には佐川物流 をベースにしたロジスティクス事業に力を入れていき ます」 「これまで佐川物流のロジスティクス事業は当社の 物流センターである『SRC(佐川流通センター)』 を起点にしたサービスを提供するのがその役割でした。
これを改め、当社のアセットには拘らずノン・アセッ ト的な3PLまで手掛けていきます。
従来、各支社の 傘下にあって各地に分散していた佐川物流を今年中 に全国統合し、完全に急便から離して、独立組織と して自立させます。
本社のロジスティクス部門も佐川 物流に統合します」 ――そこにはセールスドライバーではなく、コンサル タント的な人材を配置することになりますね。
「そうですね。
その管理も独立することで容易にな る。
もっとも、急便との人事交流は継続的に行います。
コンサルティング一辺倒だと、現場が分からないこと になってしまいますから。
人事交流によって、直に顧 客の仕事と関わることで改めて提案できることも出て くる。
グループの人材の層も厚くなる」 ――佐川の経営陣は栗和田社長を含めて、ほとんどが セールスドライバーの出身者です。
これはライバルの ヤマトや日通とは大きく違うところです。
そのメリッ ト・デメリットについて、どうお考えですか。
「現場出身の良いところは、現場の気持ちが分かる ことです。
悪いところは、経営判断が現場に引っ張ら れやすい。
現場のことが実感として分かってしまいま すからね。
だから私は東京佐川事件の後に社長に就任 して以来、ほとんど現場には出ていない。
現場に出て しまうと、どうしても昔の自分の姿とオーバーラップ してしまう。
そうすると言いたいことも言えない。
当 社にとって必要な施策も、現場が可愛そうかなと考え てしまう」 「当社の他の経営陣も、私と同じようにセールスド ライバー出身者です。
だから皆、私と似たような傾向 がある。
バランスをとる意味でも、私は現場に出ない ほうがいい。
実際は自分がズボラで出不精なのを正当 化しているだけかも知れませんけれどね(笑)。
トッ プが現場を知らないのは全く話になりませんが、分か りすぎるのもよくない」 ――今後はセールスドライバーだけでなくコンサルタ ントタイプの人材も必要になるはずです。
「それはそうでしょう。
しかし、そういう人材でも基 本的に当社の教育方針は変わらない。
やはり現場を経 験してもらいます。
そもそも人間の持っている資質と いうものは、その場になってみないと分からない。
良 い大学を出たから、良い発想が出てくるのかというと、 そうではない。
確かにロジスティクス事業にはコンサ ルタント的な人材も必要ですが、私個人の考えとして は、基本的には人間というのは変わらない部分のほう が大きいわけで、当社は当社なりのやり方で管理して いけばいいと考えています」 「当社のビジネスは基本的にサービス業です。
そう である以上、お客様に対して、気持ちよく対応するこ とが何より大切なんです。
お客様に何か言われた時に、 理屈をこねるようでは、サービス業とは言えない。
お 客様にアナタの考えは間違っているなどと平気で言う ようでは商売になりません。
例えお客様が間違ってい ても、それをいったん飲み込んで、その上で相手に不 快感を与えないようにご提案できるのが一番いいわけ です。
実際、間違っていようがなかろうが、お客様の 意見の中にこそヒントがあるわけですから」 ――そうはいっても、ロジスティクス事業に必要とな るコンサルタント的な人材の労務管理とセールスドラ 23 OCTOBER 2001 イバーの管理では違いがあるでしょう。
「佐川急便というと、いつも走っている。
明るくて 元気がいい、という印象を皆さんに持っていただいて いる。
それは当社のブランドイメージですから、ロジ スティクス事業のコンサルタントであっても大事にし ていかなくてはならない」 「3PLというと外資系型の洗練されたコンサルタ ントをイメージされると思いますが、当社はいくらM BAを持っていても荷物に触ったことがないのなら、 どうにもならないと考えます。
実際、それで失敗して いるケースが世間には少なくない。
当社には当社に相 応しいタイプのコンサルタント、佐川流のコンサルタ ントを育成して、社内、グループ内に確保していくつ もりです」 外資とのアライアンスを検討 ――海外展開については、どうお考えですか。
日通な どと比較すると佐川の弱い部分ですが。
「海外について、当社はスタートが遅れました。
今 から独自で海外に拠点展開するのは賢明とは思えませ ん。
しかも、グローバル市場は今、どんどん変化して います。
そのリスクの大きいところに巨額の投資を行 うことがいいのかどうか。
いったん海外進出してしま えば、簡単には撤退できません。
今は海外展開につい て将来に負担になるような投資はしたくない」 「これだけ環境の変化が大きいと、場合によっては 当社が業態を変えなければならない可能性だって出て くるかも知れません。
そうなった時でも社員の生活を 保障できるような体制をとっておくことが、経営者の 責任だと考えています。
自分のところで全部抱えて固 定化することはない」 「国際展開についても当面はアライアンスを中心に 考えていきます。
昨年、近鉄エクスプレスさんと提携 したのもその一貫です。
他の物流業者のアライアンス と比較して、当社と近鉄さんとのアライアンスはかな り繋がりが強固であると思います」 ――具体的な提携先は? 
妝丕咾ヤマトと組んでい るとなると、ドイツ郵便、フェデックス当たりが可能 性としてあるはずですが。
「海外の航空キャリアについても検討はしています が、まだ結論は出ていません。
しかし、これから四〜 五年の間に、宅配貨物市場ではグローバルなグループ 化が間違いなく進むと思います。
その時に当社がどう 対応するのかということは、今から考えておく必要が ある。
実際、国際宅配業者からのお話はいくつか頂い ています。
またアジアに関してはブランドフィーとい う形で展開します。
既にシンガポールや中国では着手 していますが、それをアジア全域に拡げる」 ――郵政民営化については。
「多少、小荷物は当社に流れてくるかもしれませんが、それほど大きな影響はないと考えています。
実際、 現在も民間の運送会社のほうがサービスはいいし、値 段も安い。
既に当社はメール便も手掛けていますし、 郵政の民営化で当社が特別に準備するということは考 えていません」 ――最後に株式の公開についての考えを聞かせてくだ さい。
「株を公開するつもりはありません。
当社が東京佐 川急便事件の後、ここまで回復してこれたのには株を 公開していなかったという側面も大きい。
それだけ内 部に集中できましたから。
また当社に現在、株を公開 しなければならないような資金需要があるわけでもな い。
もちろん将来、環境が変われば分かりませんが、 現状では必要性を感じていません」 業界に先駆けて導入したカード決済サービス 「e-コレクト」の決済金額は今期3000億円 を超える見通しだという

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