*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
JUNE 2005 36
通過型センターから在庫型へ
東急ストアは、首都圏を中心に九六店舗を
展開する総合小売りチェーンだ。 スーパーマ
ーケットの「東急ストア」をはじめ、大型店
の「とうきゅう」、ハイクオリティーな食品専
門店「プレッセ」の三つの業態からなる。
店舗の大半が東京と神奈川に集中している
ことから、同社は二〇年前から、川崎市東扇
島に流通センターを設けて店舗配送を集約し
てきた。 ほとんどの店を二時間以内でカバー
できる好条件の立地である。
「東扇島流通センター」が初稼働したのは
一九八五年。 六万平方メートルの敷地にまず
一般物流棟(一般A棟)を建設し、続いて低
温物流棟が完成した。 これ以来、東急ストア
の取り扱う商品の九割以上を、加工食品から
生鮮品、日配品、生活用品、衣料品に至るま
で、同センターから全店に配送してきた。
この二棟はいずれも通過型センター(TC)
で、卸がカテゴリー別に納める商品を店舗別
に仕分けて配送するだけの拠点だ。 センター
の管理・運営には東急ストアの物流部が直接
携わり、庫内作業と輸配送業務はグループ会
社の東急ロジスティックに委託する――。 こ
うした運営形態をずっと続けてきた。
そして二〇〇四年九月、一般A棟の隣に、
新たに「一般B棟」を竣工した。 二階建てで
延べ床面積二万三七〇〇平方メートルの建物
である。 この一般B棟は、既存二棟のような
東扇島に初の在庫型センター稼働
作業を効率化し店舗在庫を一割減
小売りチェーンの東急ストアは昨年秋、
東扇島に初の在庫型センターを稼働、物
流体制を一新した。 取引先とのEDI(電
子データ交換)に基づく検品レスや、店
舗へのカテゴリー納品を実現。 店舗納品
に要する時間を大幅に短縮し、陳列作業
も効率化した。 半年間で店舗在庫を1割
削減するなどの成果を上げている。
東急ストア
――物流センター
37 JUNE 2005
通過型センターではない。 同社が初めて在庫
型センター(DC)として運営するために建
設したものだ。
東急ストアは二〇〇四年度(二〇〇五年二
月期)から、ロジスティクス改革に取り組ん
でいる。 発注から店舗納品までの物流体制を
刷新し、情報を取引先と共有し高度活用を図
る。 これによって店舗支援を強化し、さらに
マーチャンダイジング(MD)支援にまでつ
なげていくことを改革の目的としている。
その第一段階として、昨年は、現場管理を
担当する物流部とは別組織のロジスティクス
推進室が中心になって、いくつかの施策を実
行した。 店舗での納品作業時間の短縮や、店
頭での陳列作業の負担軽減、在庫削減などの
サポートを行う狙いからだ。 そうした施策の一つが、通過型センターから在庫型センター
への転換だった。
食品だけで六七〇〇アイテム
東急ストアの店舗ではこれまで、陳列作業
の生産性の低さがオペレーション上の大きな
問題になっていた。 これは同社の扱う商品の
アイテム数が、競合他社と比べて著しく多い
ことに起因している。
同社は五年前から?上質化〞をキーワード
とするMD戦略を進めている。 東急線沿線を
中心とする東急ストアの出店エリアには、所
得水準の比較的高い顧客層が多い。 これらの
顧客のニーズに応えるため、他社と横並びの
低価格路線ではなく、価格は多少高くても、
高品質でこだわりのある商品を豊富に品揃え
することで差別化する方針をとったのだ。
従来のナショナルブランド(NB)商品を
中心とする品揃えに対して、このMD戦略に
よる品揃えを同社では「NB+(プラス)」と
呼んでいる。 「NB+(プラス)」を進めた結
果、商品のアイテム数は大幅に増えた。 食品
を例にとると、大手量販店でも流通アイテム
が五〇〇〇前後と言われるなかで、東急スト
アは六七〇〇アイテムを扱っている。
これを店頭での棚割りに換算して比較する
と、違いを理解しやすい。 一般的なスーパー
の売り場では、一つの棚の一段に平均五アイ
テムを並べて、六段分を約三〇アイテムで棚
割りする。 しかし同社の店では平均でこの
一・五倍にあたる四五アイテムを品揃えして
いる。 つまり、その分だけ他店よりも商品の
棚割りや陳列作業の負荷が大きくなる。
しかも東急ストアのABC分析によると、
「NB+(プラス)」には、NB商品のように
販売量が多く、回転の速い商品がほとんどな
い。 どちらかといえば販売量が少なく、回転
の遅い商品が多い。 このため「NB+(プラ
ス)」の扱いが増えるにつれて、店の在庫が
増加してしまう傾向があった。
同社が?上質化〞のMD戦略を進めるうえ
で、陳列作業の効率化と在庫問題の改善は欠
かせない課題となっていたのである。
ロジスティクス推進室では、改善点を探る
ためにまず店の実態調査を行った。 その結果、
商品を売り場の陳列棚に補充する作業動線が
複雑に入り組んで重なっており、ここに生産
性を低下させる原因があるとわかった。
前述したように、商品は取引先の卸がカテ
ゴリー別に仕分けを行った状態で店に納めら
れる。 だが、仕分け作業は各卸がそれぞれ別
の拠点で行うため、売り場でも卸別の梱包単
位で棚への補充を行っていた。 このことが動
線を錯綜させるばかりか、同じカテゴリーの
商品を複数の卸から仕入れているケースでは、
同じ棚に別々の台車で補充するという事態に
つながっていた。 明らかに非効率だった。
この非効率を解決するために東急ストアは、
新たに在庫型センターを設けて、卸が別々に
図1 ロジスティクス改革の方向性
基本構図
カテゴリー
納品
環境対応
回収物流
リードタイム
短縮
SCM
(供給連鎖)
LCS
システム
自動発注
物流EDI
MD支援
商品管理支援
店舗支援
新センター稼働 在庫型センター
CPFR
FSP
(顧客管理)
物流改革
情報改革
▼
▼
▼
行っていた仕分けを一カ所に集約することを
決めた。 新設センターに卸の在庫を移し、東
急ストアが管理する、いわゆる?預かり在庫〞
のかたちである。
仕分けを集約しカテゴリー納品実現
仕分け作業を一カ所に集約すれば、売り場
で商品を補充しやすいように、陳列棚のレイ
アウトに合わせて仕分けることが可能になる。
しかも、DC型ならセンター在庫の中から出
荷できるため、卸がセンターへ横持ちする時
間を短縮でき、TC型と比べて納品までのリ
ードタイムを大幅に短縮できる。 結果として、
店では安全在庫を少なくできる。 これによっ
て店舗オペレーションの問題点が、かなり改
善できると判断したのだ。
卸の在庫を東急ストアのセンターに移すの
に伴い、メーカーにも協力を求めて、卸の拠
点を経由せずセンターへの直接納品に切り替
えてもらった。 従って新体制では、東急スト
アのセンター内にある卸の在庫に対してメー
カーが補充を行い、センターでは東急ストア
が卸に代わって在庫管理と仕分けを行ってい
る。 調達先の卸は物流上の機能を一切、果たさなくなったことになる。 ただし東急ストアには、長年に渡ってTC
を運営してきた実績はあるが、DCの運営経
験はなかった。 卸に代わってさまざまなカテ
ゴリーの商品在庫を管理するノウハウもない。
このため在庫型センターの運営は、実績とノ
ウハウのある大手卸に業務委託することにし
た。 同社の扱う商品群のうち加工食品と生活
用品の分野を在庫型に切り替え、加食につい
ては伊藤忠食品を、生活用品は中央物産をそ
れぞれ業務委託先に決めた。
まず九月に、新しく完成した一般B棟で加
工食品のDCをオープン。 生活用品のDCは
翌一〇月にA棟の二階を転用してスタートし
た。 新設したB棟への投資も従来のように単
独では行わず、総額三〇億円のうち建物の建
設費一五億円を東急ストアが出資し、自動倉
庫やピッキングシステムなど物流機器への投
資額一五億円は伊藤忠食品が負担した。
もっとも、新たな運営形態であっても、セ
ンターの運営主体が東急ストアであるという
点は従来と同じだ。 東扇島流通センターの事
務棟には東急ストアの物流部のスタッフが常
駐し、全体を統括している。 センターに在庫
を預ける取引先の卸は東急ストアにセンター
フィーを支払い、その中から同社が二社に業
務委託費を支払うという関係である。
こうした管理体制をとっている一つの理由
は、業務委託先が分散しても、東扇島一カ所
に拠点を集約している強みをそのまま活かそ
うという狙いがあるためだ。 これまでのTC
では、店舗配送車両の積載率を高めて、店で
の荷受けが一度ですむように、なるべく商品
を混載して配送してきた。
JUNE 2005 38
佐藤隆ロジスティクス推進
課長
図2 補充業務の問題点 (別々の台車が何度も同じ通路を訪れていた)
ビール
ワイン
焼酎日本酒
ビール
フリー
スナック
つまみ・珍味
スナック
フリー
歳月
米菓
おやつ 和菓子
フリー
フリー
米 玄米・餅
ペットフード
フリー
フリー
文具管球 電池
ペーパー・収納
フリー
フリー
ドリンク・ミネラル
紅茶・コーヒー・RJ
ドリンク
フリー
シリアル・スープ
ジャム ケーキ材料
ジャム
フリー
ラーメン
米飯
乾麺
ラーメン
フリー フリー
瓶詰のり
缶詰
カレー
香辛料
ふりかけ
パスタ
中華
・ソース・タレ
フリー
1
2
3
39 JUNE 2005
「この構図を崩さないためには、当社の物
流部が各センターの間で配車などの調整を行
う必要がある」と東急ストア・ロジスティク
ス推進室の佐藤隆ロジスティクス推進課長は
説明する。 結果として、低温棟も合わせた三
つのセンターの輸配送業務は、これまで通り
東急ロジスティックが担当している。
台車の商品が一目でわかる
東急ストアがロジスティクス改革の第一段
階で対象にしたのは、一般A棟とB棟で扱う
すべての商品、すなわち低温品以外の加工食
品・生活用品・衣料品などだ。 もう一つの施
策の柱として、これらの全商品群を対象に、
取引先の卸・メーカーとのEDI(電子デー
タ交換)化による検品レス・伝票レスシステ
ムを導入した。
こうしたカテゴリーのうち、衣料品は従来
通り通過型をとる。 また食品であっても米と
菓子は通過型のまま残した。 米は流通センタ
ーの敷地内に関連会社の精米棟があるため、
もともとセンターに在庫する意味がない。 ま
た菓子は、商品の改廃が頻繁に起こり加工食
品のカテゴリーでの在庫管理が難しいと見て、
従来通りの取引先に任せることにした。 従っ
て現在、一般A棟とB棟では、DC型とTC
型のオペレーションが並存している。 このい
ずれについてもEDIシステムを導入した。
TC型では、東急ストアの発注した商品を
取引先が出荷の際に単品別にバーコードをス
キャンしてASN(事前出荷情報)を作成し、あらかじめEDIでセンターに送っておく。
センターではこの情報に基づいて入荷検品を
行い、仕入れ計上を行う。 また、DCの場合
は、発注情報が取引先と同時にセンターにも
流れる。 これを元にセンターでピッキングを
行い、取引先からEDIで送られる出荷指示
情報と照合。 ここで初めて仕入れが確定する。
ピッキングが終わるとカテゴリー別に台車
に積み込む。 その際に、取引先から送られた
事前出荷情報と台車番号を紐付けし、これを
納品確定データとして事前に店に送っておく。
この情報によって店では、欠品情報を事前に
把握できるうえ、入荷時に商品がどの台車に
積んであるかが一目でわかるようになり、検
品も不要になった。
この際に使用する台車は、店の通路へも進
入可能な軽量小型カートを採用。 店のバック
ヤードで積み替えることなく、そのまま売り
場に搬送して商品を陳列できるようにした。
EDIはこれまでに加工食品では全取引先
二〇〇社と、生活用品は一八〇社中一二〇
社と、衣料品は一〇〇社中八〇社と実施済
みだ。 一連のシステム化によって、発注から
店舗までの納品時間は従来の二一時間から最
短で九時間まで短縮し、午前中に発注した商
品を当日中に店に入荷できるようになった。
売り場への補充作業時間も、一個当たり平
均一五秒かかっていたのが九・一秒に短縮で
きた。 店舗在庫については、当初目標の二割
削減に対して、昨年一〇月からの半期で一
一・八%削減を達成。 これによって一億六三
〇〇万円の店舗作業コストを削減し、在庫削
減額は五億六一〇〇万円になったという。
ロジスティクス推進室は、今回の改革で、
店舗支援による間接費用効果とともに、セン
ター運営の収支改善という直接効果も狙って
きた。 そのためには六七〇〇ものアイテムを
抱える加工食品DCの生産性をいかに高めら
図3 物流EDIを活用した課題解決の仕組み
商品の流れ
情報の流れ
発注 EOS発注 取引先 センター 店 舗
?
単品別に
スキャンして梱包
SCMラベル
? 受信
事前出荷
データ送信
●SCMラベルで自
動検品
●事前出荷データと
付け合せ
ペーパーレス 検品レス 検品レス
正確な納品情報
仕入計上の
スピードアップ
スピーディーな検品で
待たされない
仕入計上データ 納品確定データ受信
商品と情報が
リンクして
納品される
どの台車に
何が
乗っているか?
JUNE 2005 40
れるかが大きなカギとなっていた。
業務委託先の伊藤忠食品は、これまでにも
数多くのセンター運営を手がけてきた。 「そ
の伊藤忠食品さんから、こんなにアイテム数
が多く手こずるセンターはほかにないと言わ
れた」(佐藤課長)ほど課題は大きかった。
目標をはるかに上回った生産性
そこで生産性の向上を図る手段として、東
急ストアは伊藤忠食品と共同でLCS(レイ
バー・コントロール・システム)を開発し、
新センターに導入した。 リアルタイムで作業
の進捗を管理し、作業が滞っている箇所があ
ると人員配置の修正を行いながらセンター全
体の生産性を上げていくシステムである。
伊藤忠食品にとってもこうしたシステムの
導入は初めての経験だった。 過去のセンター運営による経験から同社では、DCが実質的
にスタートした一〇月時点でのバラピッキン
グ数の目標を、一人あたり毎時八〇個と設定
していた。 ところが実績値はこれをはるかに
上回る一〇八・八個という数字だった。 その
後も実績が目標を上回ったまま推移した。 L
CS導入の効果が如実に現れた格好だ。
LCSの予想を上回る効果などから、東急
ストアは、流通センター全体の収支を二億二
四〇〇万円改善することに成功した。
もっともセンター運営が始めから順調だっ
たわけではない。 当初、同社ではセンターで
の在庫日数を平均七日間にすることを目標と
していた。 ところが「オープンしてみると商
品がセンターいっぱいにあふれており、思わ
ず青ざめた。 二〇万ケース程度を想定してい
たところへ二七万ケースも入ってきていた」
と、佐藤課長は当時を振り返る。
メーカーが欠品を恐れて多めに送り込んで
しまったためで、連休の前などは一四日分ま
で膨れ上がったこともあった。 また、センタ
ーを立ち上げる前に、取引先とは日付の逆転
や納入期限切れの商品は受け付けないルール
を設けていたにもかかわらず、こうしたルー
ルへの違反も頻発した。
そこでロジスティクス推進室は、取引先と
東急ストアの商品部を交えた業務改善会議を
催して協力を求めた。 そしてセンター内で一
定の在庫期間を過ぎた商品はメーカーに引き
取ってもらうといった荒療治を行い、鮮度管
理の徹底を図った。 その後、在庫は徐々に減
り、年末のピーク時にも稼動当初より少ない
在庫で対応できるほど改善された。 年が明け
てからは、目標よりも短い平均五日の在庫日
数で推移するまでになっている。
この成果を踏まえて東急ストアは、今年度
から第二段階のMD支援をターゲットとする
改革に着手している。 「発注した商品が店頭
までスムーズに流れる仕組みはできた。 この
インフラを使って、これからは取引先と情報
を共有することによって、どんな商品を品揃
えして、どう売るかという部分を支援してい
く。 それで初めて改革の目的を達成できる」
と佐藤課長は意気込む。 東急ストアは現在、従来通りの本部による
一括仕入れを基本としながらも、消費者の嗜
好の変化に合わせてMDを高度化するうえで、
地域の個店ごとに品揃えを工夫し、商品の切
り替えのスピードを速めていかなければなら
ないという課題に直面している。 これに伴う
商品の企画・選定や棚割り作業などを支援し
ていくのが当面の目標だ。
この施策を具体化するため、今年の秋口に
も生活用品メーカーなど三社とトライアルを
実施する計画を進めている。 DCの運営を軸
とする改革によって、東急ストアが端緒をつ
かんだ取引先とのコラボレーションの成果が
問われるのはこれからだ。
(フリージャーナリスト・内田三知代)
図4 小分けピッキングエリアの生産性の推移
2004年
10月
(稼働時)
2004年
11月
2004年
12月
2005年
1月
2005年
2月
108.8
143.3
130
140
167.3
150
161.0
150.2
120
80
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
生産性(人時あたりピッキング個数)
147.9%
|