ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年10号
特集
ヤマト・佐川二強時代 物流市場の新たな座標軸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

特集 ヤマト・佐川二強時代 宅配市場の寡占化が進んだことで、10年近く続いた運賃 単価の下落に今年は歯止めがかかりそうだ。
今後、市場競 争は次の段階に突入する。
業界の勢力図は新たな座標軸の 基に組み替えられる。
宅配市場の勝ち組が、そこでは不利な 展開を強いられる。
OCTOBER 2001 38 今年三月、特別積み合わせ業者の名門、フットワ ークエクスプレスが経営破綻に追い込まれたことで、 同社の商圏は通常であれば他社の「草刈り場」となる はずだった。
ところが実際には、物流大手各社はフッ トワークの商圏にほとんど手を付けなかった。
「あま りにも単価が安過ぎた。
今年に入って大手は日通を始 め各社とも収益改善に取り組んでいる。
昨年までと明 らかにスタンスが変わってきた」と一連の事情に詳し い関係者はいう。
規制緩和以降、長く続いたダンピング競争は今年 で終わりそうだ。
景気の低迷は続いているが、市場の 寡占化が進んだことで、物流業者側の価格交渉力は 増している。
今年を底として、運賃単価は反転する可 能性がある。
ただし、荷主側のコスト削減圧力が弱ま ることはない。
価格競争は運賃単価からトータルコス トに舞台を移す。
そこでは輸送や保管など物流の単機能の提供ではな く、荷主企業の物流業務全体を管理するロジスティク ス・サービスが求められる。
SCMの普及とともに、 荷主企業はリストラを加速させている。
これに伴い物 流アウトソーシングに対するニーズも高まっている。
日本の物流市場に3PL企業を育む土壌が整った。
3PL業者は荷主企業に代わり協力物流業者を管 理する役割を果たす。
そこでは宅配市場の勝ち組とい えども、3PLの下請けの地位に立たされることにな る。
現在、ビジネスモデルの再構築を余儀なくされて いる特積み業者の多くは目標とする業態に3PLを 掲げている。
業態転換のリストラに成功した特積み業 者は「元請け」として復権を果たす。
既に欧米の物流市場では、3PLに特化した強い 物流企業がいくつも誕生している。
これに対して日本 では、まだ3PL専業と呼べるような有力企業は存在 しない。
現状では日立物流など一部の物流子会社が 先行しているが、特積み業者にも十分チャンスはある。
その最有力候補が日通だ。
もともと日通を始めとする日本の特積み業者は、特 定の荷主企業向けにサービスをカスタマイズすること 物流市場の新たな座標軸 Report 第3部 第1フェーズ 「宅急便」誕生 ・規制との争い 宅配便運賃認可 ・「全国翌日配送」へ ・全国高速道路網完成 物流二法施行 ・メニュー競争 ・バブル崩壊 ・ダンピング激化 ・格差の拡大 ・旧路線業の凋落 ・3PLの拡大 ・SCMの普及 ・グローバル化 淘汰の終わり 差別化要因 コア機能 コア人材 制約条件 成功のカギ 第2フェーズ 第3フェーズ 76年 83年 90年 2001年 スピード 長距離幹線輸送 大型トラックドライバー 輸送能力 許認可権取得 サービスレベル 末端集配網 セールスドライバー 運賃単価 宅配専業体制 提案力 3PL機能 改革提案スタッフ トータルコスト コスト管理能力 39 OCTOBER 2001 には長けている。
本来、特積み事業はインフラの完成 度がモノを言うプラットホーム・ビジネスだ。
しかし、 特積み業者の多くはこれまで自らの業態をあいまいに してきた。
その分、3PLには馴染みやすい。
従来の 弱点が新たなフェーズでは強みに変わる。
これに対してヤマト・佐川の二社は、これまで強み だった専業体制が3PL事業では足かせになる。
両社 とも宅配便に次ぐ新たな収入源として3PLの事業 化に乗り出してはいるものの試行錯誤が続いている。
宅配のビジネスモデルが強固なだけに、異質のモデル を取り込むには手を焼いている。
ヤマトは昨年、3PL子会社としてヤマト・ロジス ティクス・プロデュースを新設した。
その上で今年四 月には本社内にロジスティクス事業本部を設置した。
現在は両社の業務分担や棲み分けを曖昧にしたまま、 並行して3PLの事業化に取り組んでいる。
ヤマトの山崎篤常務は「当社には配送に関するノウ ハウはあるものの倉庫はまだまだ。
流通加工のノウハ ウをもっと磨いていかなければならない。
現場のレベ ルもまちまちで提案ができる営業所もあれば、作業だ けしかできない営業所もある。
全体の底上げが必要だ。
それに比べて物流子会社が展開している3PLは先 進的だ。
当社よりも一歩、二歩先を進んでいる」と3 PL事業の遅れを認める。
一方の佐川も、昨年まで子会社として佐川物流を 全国一〇カ所に展開すると同時に、スタッフ部門とし てのロジスティクス部隊を別に抱えていた。
今期はこ れを全国統合し、3PL事業を本体から完全に分離させる。
現在、佐川物流の売上高は全国で約三〇〇 億円。
九七年以降、佐川物流の売上高は年率三〇% のペースで拡大を続けており、今期は四〇〇億円を見 込んでいるという。
しかし「これまでロジスティクス事業を含め、急便 以外の事業は全て急便によりかかっていた」と栗和田 社長。
各地域の佐川物流は実質的に支社の下請け的 な存在であり、社内の位置付けも低かった。
3PL事業では、宅配市場の勝ち組が不利な競争 を強いられる。
足下ではコンビニを始め、コスト競争 力の強い軽トラック専業者、流通加工に優れた百貨 店・通販系の子会社など、異業種から「B to C」の ライストワンマイル市場に参入するアウトサイダーが 台頭している。
物流市場は新たな段階に入った。
百貨店のギフト配送はここ数年で、自社化と完全外 注化に大きく二つに分かれた。
三越は自社化の戦略を 貫いているが、今後もその方向性は変わらないだろう。
商品を届けて初めて商売が完了するという意識がある ので、配送はあくまでも自社化にこだわる。
年間二四〇〇万個のギフトを自社で組み上げたネッ トワークを使って届けているが、このうち緊急性の高 い商品や温度管理が必要な商品の一〇〇〜一五〇万個 については宅配便専業者に委託している。
クール便や時間帯指定などのメニューも豊富になり、 宅配便のサービスレベルは高まっている。
価格も満足 できる水準にある。
ただし、配達マナーなど品質面で は百貨店配送のほうがまだまだ優位性を持っている。
顧客からのクレームの数は当社が業務委託している地 場業者よりも多い。
百貨店配送はそれこ そ宅配便が誕生する前 から存在していたサー ビスだ。
協力会社との 研修を重ね、常にサー ビス向上に努めてきた。
一万件の配達でクレー ムが一件あった場合でも品質が悪いと言われるくらい 高いレベルで切磋琢磨している。
百貨店配送の課題はスピードだったが、これも解消 の方向に進んでいる。
宅配便専業者のように、全国く まなく翌日配送できるまでには至っていないが、まず は全国の主要都市をカバーできる体制は整えた。
時間帯指定サービスもヤマト運輸とほぼ同じ時期に 始めている。
曜日と時間が指定できる点が三越の特徴 だ。
宅配便専業者の場合、荷物を一時保管するわけに はいかないから、例えば一週間後に届けて欲しいとい うオーダーに応えることは難しいはずだ。
逆に、宅配便専業者から学びたいことは情報システ ムの仕組みだ。
百貨店配送でも最近では貨物追跡情報 へのニーズが高まっているが、残念ながら専業者のレ ベルにまで達していないのが実情だ。
これからは百貨店配送のネットワークと宅配便専業 者のネットワークとで競争が始まる可能性もあるだろ う。
百貨店の物流子会社は商品の在庫管理、流通加工、 配送、代金回収など宅配便専業者と同じようなサービ スメニューを用意している。
これを活かせば通販業者 の物流業務を一括して受託することができる。
その際、 ネットワーク力で劣るという指摘もあるが、高島屋、 松坂屋、大丸などとの同業種共同配送を開始したこと で、網の目が徐々に細かくなってきており、十分に対 抗できるはずだ。
(談) 三越物流・鈴木伸之 社長 「百貨店配送は宅配便に負けていない」

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