ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2001年11号
SCC報告
サプライチェーンの実力を測定する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2001 42 1. SCMとサプライチェーン実力測定 サプライチェーンマネジメント(SCM) という経営手法の有効性は、まず米国企業で 認識され実証されて、大きく広まった。
その 後、数年の時差をもって日本にも伝播した。
今では多数の日本企業がSCMの実行に取り 組んでいる。
しかし、赫々たる成果を挙げる企業がある 一方で、実行方法論や対象業務領域の策定 に膨大なエネルギーを費やしたり、SCMを ITやロジスティクス機能の向上だけを対象 にしたり、昔風の現場改善活動の延長として 位置付けたりする結果、成果が上がらないと 嘆いている企業も多い。
SCM実行に取り組む際、すべての企業が まず行なうべきは、各企業あるいは企業群の 持つ現行のサプライチェーンのうち、どこが 優れていて競争力があり、どこに問題があっ て脆弱な状態であるのかを、数値で検証し、 第三者の目で評価することである。
SCMは 企業内各部門を結び、さらに企業間を結んで 行なうプロセス改革である。
改革するには現 状サプライチェーンの実力の測定、把握が必 要である。
測定出来ないものは改革出来ない、 からである。
2. サプライチェーンメトリックス (業績測定/評価指標) それでは、サプライチェーンの実力は何で 測ればいいのだろうか? 従来、多くの企業 は業績や実力を測定するのに財務諸表上のデ ータをベースに、対前年比や対計画値の観点 で上回ったとか届かなかったと評価すること が多かった。
過去はそれでも事足りたが、ス ピーディなサプライチェーンを装備しないと 勝者になれない現在のビジネス環境の下では 通用しない。
このような方法では正確な実力 測定や結果評価は覚束ない。
サプライチェー ン性能が企業業績と収益性にどのような影響 を及ぼすかを明確に測定、管理すべきなので ある。
そこで有用となるのが、欧米でデファクト 化しているSCORビジネスプロセスモデル の持つメトリックスである。
日本企業の一部 にはSCORが日本製でないことに抵抗を示 す向きもあるが、日本企業発展のために役に 立つものは輸入物であろうと徹底的に活用す 第8回 サプライチェーンの実力を測定する 『 Best-in-Class計画手法による効果的在庫管理の進め方』 解説・抄訳=北風道彦 日本ビジネスクリエイト SCM業務推進本部長 サプライチェーンカウンシル日本支部 バイスチェアマン 昨年下半期、米国のIT産業では大量の余剰在庫が発生した。
その原因は、 需要予測の読み違えだけでなく、サプライチェーンの脆弱さにもあった――。
SCORに基づくベンチマーキングを事業化している米PMG社がそんなレポ ートを発表した。
同社の許可を得て、その内容を解説・抄訳する。
43 NOVEMBER 2001 べきである。
SCORについては、これまでも本連載で 解説してきたが、今回とり上げるのはSCO Rの持つ機能の一つである「メトリックス」 である。
企業のマネジメントがサプライチェ ーンの性能、実力を測定し評価するためにS CORは十二の適正項目を設定し(図1参 照)各々の項目の定義、数値計算式、関連項 目を決めている(レベル1メトリックス)。
こ れを使うことで現行サプライチェーンの性能 も改革活動の進捗も測定できるようになる。
3. サプライチェーン競争力測定 (ベンチマーキング) 自社の現行サプライチェーンの業績数値を 取れる体制にすることは必須であるが、それ だけではまだ半歩前進レベルである。
企業競 争には相手がいるからである。
自社の属する 業界で、あるいは自社が参考とする他の業界 と比べた時、自社のサプライチェーンの実力、 性能はどの程度の競争力を持っているのか。
それが判然としないとSCMをベースとする 改革を効果的に始め進めることは難しい。
そ こで有効となるのがサプライチェーン・ベン チマーキングである。
ご存知のようにベンチマーキングは長年に わたって使われてきた米国発の経営改革手法 の一つである(図2参照)。
ベンチマーキン グにはいくつかの種類があるが、ここでは特 定企業同士の競争力を比較する「競合(1: 1)ベンチマーキング」ではなく、産業別に 区分された企業群の中で自社のサプライチェ ーンの実力がどのレベルにあるかを数値判定 する「グループ(1:N)ベンチマーキング」 を対象とする。
ベンチマーキングは、それに参加する企業 が共通の定義、計算方法に基づいて準備した データを出し合わなければ成立しない。
前述 のSCORメトリックスはこの目的のために 格好の指標なのである。
米国にこのSCOR に基づくベンチマーキングを事業として行な っているPMG (パフォーマン ス・メジャメン ト・グループ) という企業があ る ( 本 社 : Boston 西郊の Waltham )。
筆者は一昨 年来、SCC 日本支部傘下 に目的意識を同 じくする企業の 皆さんとコンソ ーシアムを組織し、PMG社と 協業しながら、 日本企業のS CM改革活動の推進にベンチマーキングを役 立ててもらうべく活動を行ってきた。
既に松 下、日立という日本を代表する企業がこのベ ンチマーキングを利用したSCM活動に取り 組んでおり、ベンチマーキングサービスへの 参加に興味を示す日本企業の数は増えてい る。
PMG社のベンチマーキング(図3参照) は、参加費用が一四九五ドル(SCCメンバ ー用)と廉価なこともあり欧米を中心に多く の企業が参加している。
その特色は、 ?SCORで定められたメトリックスに基づ 1. 納期遵守率 2. 完全オーダー達成率 オーダー充足性能 3.・即納率 4.・オーダー充足リードタイム 5.サプライチェーン・レスポンス・タイム 6.生産能力柔軟性 7.SCM総コスト 8.COGS(売上原価) 9.付加価値生産性 10.保証コスト or 返品コスト 11.キャッシュトゥキャッシュ・サイクルタイム 12.在庫日数 SCOR レベル 1 サプライチェーン・パフォーマンス 信頼性 柔軟性 応答性 コスト 資 産 顧客視点 業績視点 ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ ✓ 図1 サプライチェーンの性能測定、評価    レベル1 メトリクス • • SCOR Ver.4.0 NOVEMBER 2001 44 き設問が準備されていること ?それに答えると自社のサプライチェーンの 評価表(スコアカード)がフィードバック されてくること(図4参照) ?すべてのサービスを三六五日二四時間オン ラインで実行していること である(www.pmgbenchmarking.com) 。
フィードバックされて来たスコアカードを 見ると自社のサプライチェーンの実力が一目 瞭然で分かる。
SCM改革活動の力点をどこ におくべきかを判断し、妥当な戦略や目標値 を策定することが可 能となる。
今年のP MG社のベンチマー キングサービスには この「定量」ベンチ マーキングに加え、 社内のSCM活動 実行のITインフ ラ/戦略に対する 「定性」ベンチマー キングも取り入れら れており(図5参 照)利用価値を高 めている。
前述のベンチマー キングコンソーシア ムではこのPMG社 のベンチマーキング 設問集や内容理解 補足虎の巻を日本 語で揃えベンチマー キングへの参加を容易にしている。
4. PMG社 「 Signal 」レポート抄訳紹介 PMG社は長期にわたって収集したベンチ マーキングデータを基にSCM状況について 観察、分析し、意見を述べたレポートを順次 発行している。
そこには日本企業にとっても 貴重な情報が含まれている。
今回はPMG社の転載許可を得て、「SC Mの観点から?効果的在庫管理〞について述 べられたレポート」の抄訳をご紹介する。
レ ポートは、昨年後半のアメリカの景気減速の 一因になったIT産業の在庫の積み増しが企 業、業界のサプライチェーン性能の脆弱性に あったことを看破し、効果的在庫管理のため にどのような手段を講じるべきかについて分 かり易く説いている。
米国企業が次の飛躍に 向かって着々と実力を磨いていることが伝わ ってくる内容になっている。
• • •          視点 (二人称) 顧客 視点 信頼性 応答性 柔軟性 顧客希望納期遵守率 約束納期遵守率 オーダー充足リードタイム 増産対応能力 メトリクス0ー20% 最劣位 20ー40% 劣位 40ー60% 中位 60ー80% 優位 80ー100% 最優位 自社 68.0% 74.7% 31.0 42.0 10.8 6.0 95.0% 93.5% 73.1% 82.5% 16.0 56.8 サプライチェーン性能比較 『 Best-in-Class 計画手法による 効果的在庫管理の進め方』 PMG社Signals レポートから抜粋 版権=PMG社・禁 無断転載 翻訳=日本ビジネスクリエイト 北風道彦 二〇〇〇年下半期、アメリカで景気の伸び が鈍化するにつれて、IT産業全体の在庫が 高水準に達し、コンピュータ/電子機器およ び通信機器業界は、大量の在庫を抱えること となった。
企業によっては、今回の景気減速 はこれまでに例のないものであり予測不可能 だったと主張している。
しかし我々の考えで は予測の誤りに加え、景気減速に際し柔軟な 対応が速やかに取れなかったこと、これが過 剰在庫の主たる原因である。
製品ライフサイクルが短く、テクノロジー がすぐに陳腐化する業界において、在庫の積 み増しが特に危険なのは理由を挙げるまでも ない。
本稿が検証するのは、IT業界におけ る在庫プランニングの実践とその結果である。
なお、検証は、PMG社が一九九七年から二 〇〇〇年末までに収集したベンチマーキング データに基づいて行った。
これにより明らか になったことは以下の通りである。
― Best-in-Class 企業(ベンチマーキングデー タに基づく上位二〇%の最優位企業:以 下、BIC)は、一九九七〜二〇〇〇年 45 NOVEMBER 2001 までに単位あたりの予測精度を高めている。
その一方で、平均的企業でも、同期間、予測精度の向上が見られる。
―平均的企業の在庫日数は、一九九七年以 来減少を続けている。
減少の幅は通信機器 業界で二六%、コンピュータ/電子機器業 界で一九%である。
―平均的企業とBIC企業の間には、サプラ イチェーン・レスポンスタイムに大きな違 いがある。
我々が検証した二つの業界では、 どちらも平均的企業のレスポンスタイムは、 BIC企業の約二・五倍以上長かった。
―レスポンスタイムと在庫の間には、強い相 関関係が存在する。
レスポンスタイムが長 くなるにつれて在庫も増加する。
在庫はま た、増産対応日数が長くなるとともに増加 することも明らかである。
業績結果を左右する重要要因 在庫日数をコスト/リスク管理の点から適 正水準に保ち、同時に売り上げを最大化する には、主として二つの条件――予測の正確さ とサプライチェーンの機敏な反応――を満た す必要がある。
反応がどの程度機敏であるか は、サプライチェーン・レスポンスタイムと 増産対応日数というメトリックス(業績測定 指標)によって捉えることができる。
顧客及 び企業双方のニーズを満たしつつ、在庫管理 の最終目標を達成するように全体の需要・供 給のバランスを取ることは、SCCが提唱す るSCORの主要プロセスの一つ、「プラン・ プロセス」の核心 部分である。
予測精度の向上 需要を正確に予 測することが、サ プライ・チェー ン・マネジメント の「プラン・プロ セス」の不可欠な 部分であるのは言 うまでもない。
予 測の精度が上がれ ば在庫を圧縮する ことができ、品切れを防ぎ在庫が陳 腐化する量を減ら すことができる。
BIC企業は、 単位当たり九五・ 七%の正確さで需 要を予測している。
先に指摘したよう に通信・ハイテク の二つの業界では 単位当たり予測の 精度は一九九七〜 二〇〇〇年の間に 大幅に改善してい る。
平均的企業が 達成した改善率は ’ ’ NOVEMBER 2001 46 ベストプラクティスにならって「BIC企業 との距離を詰めている」ことを示しているが、 一方でBIC企業はその間にも引き続きベス トプラクティスを手本に新たなレベルのパフ ォーマンスを達成している。
予測が全体的に改善したのは、予測ツー ル/手法の理解と利用が進んだ上に、サプラ イチェーン全体で需要/供給に関するコミュ ニケーションが改善したためと思われる。
アドバンスト・プランニング・システム (APS)の利用も、予測の精度を高めるこ とに寄与している。
このシステムは、サプラ イチェーンの各層を統合することによって需 要量と優先順位をオンラインで分かるように している。
これにより予測のブレが小さくな り、業務実行の時が近づくにつれて誤差も縮 小し、予測の精度は最後まで高められていく。
また、先ほど説明したコンセンサス予測も可能になる。
SCCは、APSシステムを導入 すると予測精度は二五〜八〇%の範囲で改善 すると認めている。
サプライヤーと顧客のプランニング・プロ セスの統合はかなり進んでいる。
我々が調査 した企業の七九%は、サプライヤーと予測情 報を共有しており、三八%は予測システムを サプライヤーの予測システムとコンピュータ で結んでいる。
すなわち、コンピュータ・シ ステムを使用して、サプライチェーンの一方 の端(たとえば、顧客)の需要の変化は、自 動的にシステムを共有するサプライヤーの予 測に反映されるという具合である。
このようにして予測の精度は向上している。
しかしながら我々の分析では、予測が正確に なったからといって必ずしも在庫が最適化さ れるというわけではない。
求められるサービ ス水準、調達/生産のリードタイム、プラン ニング・サイクルタイムなども、在庫水準に 大きく影響を及ぼす要因である。
サプライチェーン・レスポンスタイム テクノロジー製品の需要は非常に不安定で あり、需要を正確に予測することにはおのず と限界がある。
そこで、生産計画データを修 正予測に基づいて調整し、これを生かして素 早く運用できるかどうかが重要になる。
連結車両を何両もつなげた非常に長い輸送 列車が休止している場合を想像していただき たい。
機関車が動き出してから、最後尾の車 両が動き始めるまでには時間がしばらくかか る。
サプライチェーンも、人間、プロセス、 コミュニケーション・チャネルという「車両」 を相互に結んでいる点では、これと同じであ る。
「機関車」は需要である。
車両数を削減 すれば、反応の遅れを減らせるだろうが、よ り優れた現実的ソリューションはサプライチ ェーンの上に機敏さと反応時間の短縮を実現 することである。
機敏さは、不安定な需要と いう試練に耐えてコストを管理しながら適正 在庫の維持を決める決定的な要因である。
企業が、市場の需要変化にどの程度速やか に反応できるかを示すメトリックスは、プラ 47 NOVEMBER 2001 ンと実行の両プロセスで構成されるサプライ チェーン・レスポンスタイムである。
見込生 産(Make-to-stock )を行っている企業のベ ンチマーキングデータによると、平均的企業 のレスポンスタイムはBIC企業の二・五〜 二・八倍程度長いことが分かる。
反応の鈍い企業は、需要変動に備えてより 多くの在庫を抱えることになる。
長いレスポ ンスタイムは戦略、経営上の負荷なのである。
ベストプラクティスへの取組みは、需要変化 をサプライ計画に直ちに組み込んで需要・供 給のバランスを適正に再調整することである。
データを見るとサプライチェーン・レスポン スタイムと在庫の間には強い相関関係がある。
予想される通り、レスポンスタイムの長い企 業は多くの在庫量を抱えているのである。
増産対応能力 増産対応能力は、予期できない需要に対す る対応力を測る尺度である。
社内の生産能力、 労働力、資材調達力が対応力を左右する要因 である。
このメトリックスと在庫の相関関係 を見ると、予期せぬ需要に対するレスポンス タイムが長くなるにつれて、在庫も積みあが ることが確認される。
これは変動の激しい市 場に参入している企業にとって驚くべきこと ではない。
というのも、需要の変動に素早く 対応できなければ品切れを防ぐために緩衝在 庫を積み上げることになるからだ。
原材料の調達管理は対応力にとって非常に 重要である。
主要サプライヤーと強固な関係 を築き、サービス協定を結んでいれば、必要 な時に必要量だけ原材料を調達できる可能性 は高くなる。
サプライヤーの整理・統合、サ プライチェーンの簡素化も、資材調達のスピ ードアップに繋がる。
スリムであればあるほど有利になる ベンチマーキングデータによると、通信機 器業界の平均的企業の在庫日数(手持ち在 庫量を測る標準尺度)は、BIC企業よりも 七〇%も長かった。
コンピュータ/電子機器 業界では、平均的企業の在庫日数はBIC企 業の倍の長さである。
在庫回転率のデータから分かるように、B IC企業は平均的企業よりも七〇〜一〇〇% パフォーマンスが高い。
同じ販売高をあげる のに、BIC企業は平均的企業の約半分の在 庫量を有効管理することで実現している。
データを見ると、BIC企業の場合、計画 した在庫量と実際の在庫量の差が小さいこと が分かる。
この数値を見ると、BIC企業と 平均的企業の差は非常に大きい。
通信機器業 界、コンピュータ/電子機器業界のどちらで も、BIC企業における計画と実際の在庫量 差は、約二・五%を超えることはめったにな い。
一方、平均的企業の場合、その在庫量差 は通信機器業界の企業とコンピュータ/電子 機器業界の企業では、それぞれ平均一六%と 二五%である。
なぜこれほど大きな計画と実際の在庫量差 が生まれるのであうか。
市場要因を反映して 売上計画は策定されるが、この計画は、増産 る。
現状ではコンピュー タ・システムを顧客の需要状況とリンクさせ、主 要な顧客と協力して予測 を立てる企業は数少ない。
しかし、インターネットに よる電子商取引ツールが 利用できるようになり、ス テージ4の協力体制へ向 かっての動きは加速して いる。
ステージ3の段階でも、 企業は顧客からの予測と、 サプライヤーからの供給 能力を計算に入れるが、 ステージ4になると手作 業によらずに様々な企業 が協力体制を敷いている。
ウェブ・ベースのツール が生まれる前には、予測 は通常、フラットファイ ルやスプレッドシートの形 でeメールなどのファイ ル転送システムにより送 信されたものであった。
し たがって、予測の修正は 中央管理センターに送ら れ、そこで手動により 様々な入力データを選り 分けて最終的な需要状況 一覧を作成する必要があ NOVEMBER 2001 48 対応力が欠けているとき、在庫水準を計画段 階で押し上げる働きをする。
実際には、計画 との在庫量差はこの対応力の欠如から生まれ るだけでなく、様々な不手際からも生まれて いる。
確定注文ではないのに、それを計算に 入れて計画するのもその一つである。
このよ うな未確定の注文のために生産設備を用意し その挙句に再計画が必要になったりキャンセ ルしなければならず在庫計画システムに大き な混乱を生むのだ。
これが特に当てはまるの は、受注生産というサプライチェーン方式を 取っている企業の場合である。
単位当たりの生産コストに気を取られすぎ て生産ロットの大規模化にこだわり、結果と して過剰在庫を積み上げてしまうのもよくあ るケースである。
需要/供給のバランス・ゲームに勝つには、 サプライチェーン全体で需要/供給プロセス をしっかり統合すると共に、在庫を積み上げ ることなく納品する仕組みを作り、動かすた めの明確な役割、責任、インセンティブを持 った強固な部門横断的チームを形成する必要 がある。
需要/供給バランスをとる ベストプラクティス 我々が調査したメーカーの大半は、BIC 企業、平均的企業を問わずプランニングに関 してはステージ2(囲み記事を参照)の段階 にある。
しかし、プランニングが十分な競争 上の武器になるのは、ステージ4の段階であ 《プランニング能力の段階》 ベンチマーキングデータの分析を進めるうちに、我々は テクノロジー志向の強い企業の業務運営能力に関して四 段階あることを発見した。
その各段階の特徴は以下に要 約する通りである。
ステージ1 部門中心の段階 業務運営がこの段階にある企業では、サプライチェーン に関するデータの流れは文書化され理解されているが、サ プライチェーンの管理はばらばらな状況にある。
需要/供 給の情報は各部門に伝えられてはいても、工場全体で統合 された形で使われることはない。
ステージ2 社内統合の段階 需要/供給計画は社内全体で総合して決められるが、責 任の所在は部門ごとにマチマチである。
プロセスの改善は 通常、過去の実績との対比によって行われる。
サプライヤ ーとの関係は構築されていない。
ステージ3 社外統合の段階 サプライヤー及び顧客と戦略的提携が結ばれ、両者の間 で直接的にかつ協力体制の下に電子データの交換が行なわ れる。
サプライチェーン統合サービス協定により、プランニ ング・プロセスにおけるそれぞれの役割と責任が定められる。
ステージ4 企業横断的協力の段階 この段階の際立った特徴は、企業が終始一貫して、効果 的なプランニングを競争力の源と見る点にある。
意思決定 組織は、グローバル・サプライチェーン全体の情報を共有 し活用することができる。
需要/供給計画の決定は、ネッ ト市場、戦略的提携など様々なビジネスモデルを活用して 行われる。
49 NOVEMBER 2001 った。
ところが、インターネットにより可能 になった技術を利用すれば、サプライチェー ンのすべての参加者が同じ情報を同時に見る ことができる。
この進歩のおかげで予測のサ イクルタイムは大幅に短縮されると共に、需 要を部門横断的にまた企業横断的に管理でき るようになったのである。
予測の精度のセクションで説明したように、 新しいITツールが使えるようになってきて いる。
SCPやAPSが、サプライチェーン 全体をほぼ一瞬のうちに再設計することがで きるシステムとして使われている。
統合プラ ンニング・ツールを採用することで営業部門 が予測値を変更することも、調達部門が供給 情報を提供することも、企画開発部門が生産 能力に基づいて生産計画を変えたりすること も、すべて単一のシステムでできるようにな っている。
その結果、計画と再計画のサイク ルタイムは短縮された。
このような対応は、ステージ2のパフォー マンスを改善すると同時に、機能的にステー ジ3への発展を可能にする。
さらにステージ 4では、今あげたようなツールがインターネ ットを介して拡張されたサプライチェーン全 体と結ばれ、手作業の必要なしに運用される ことになる。
在庫を適正管理するもう一つのBICのプ ラクティスには、ベンダーによる在庫管理(V MI)や、企業が需要情報を共有し、消費量 と合意したサービスレベルに応じて出荷する CPFR(共同予測・製品補充)などがある。
しかしながら、本当の協力体制を構築せずに これらを採用した場合には、積み上げられた安全在庫によりサプライヤー側の在庫が過剰 になりかねない側面に留意すべきである。
「ポストポーンメント(postponement )」(製 造開始をオーダー状況に応じてギリギリまで 引き付ける手法)や「部品の標準化」などの 先進的戦略も、変化の激しい市場や業界にあ っては在庫管理やサービス水準を大きく改善 する。
完成品として組み立ててしまわずに部 品レベルでストックしておき、需要に合わせ て色々な製品を生産できるようにサプライチ ェーン管理を調整している企業は需要の変動 に合わせて在庫調整をすることができる。
コンフィギュレーション管理と原材料の標 準化もまた、在庫管理に大きな影響をおよぼ す。
幅広い製品ファミリー全体で共通の材料 を使用することができれば、需要が大きく変 動しても在庫の陳腐化を防ぎ、在庫を削減す ることができる。
その一例として挙げられる のは、自動車業界が共通の車台を使用して、 様々な車を生産していることだ。
ユニークな 部品の在庫を削減することに加えて、標準化 は増産対応力の改善にも役立つ。
サプライチェーンの設計 プランニングとは、異例の事態を素早く認 識して、解決することである。
だが、あまり にも複雑なサプライチェーンでは、異例の事 態を見通しても、プランニングの効果は薄い。
プランニング業務の効果が最も上がるのは、 サプライチェーンの設計と連携して行われた 時である。
企業があらゆる先端的なプランニ ング技術を採用しても、そのサプライチェー ンの構造が複雑な場合、実現できる成果はわ ずかである。
具体的に言えば、ある企業が数 多くのSKU、生産拠点、倉庫、顧客を持っ ている場合、改革の努力はプランニングだけ でなくサプライチェーンを簡素化する方向に 向けられるべきなのである。
ターゲット顧客の要求を満たしながら在庫 を管理するには、予測を調整し、レスポンス タイムを短縮し、変化対応力を常に向上して いかなければならない。
これが結論である。
我々のベンチマーキングデータによると、プ ランニングのパフォーマンス向上は全体の業務を改善していることが分かる。
平均的企業 でも、在庫日数を大幅に改善してきている。
これは、ベストプラクティスの活用が普及し、 オンラインによるプランニング・ツール、電 子商取引向けアプリケーションの導入が進ん だためである。
先進企業はベストプラクティスの活用とい う最初の波を経たあと、現在、新しいツール、 システム、技術的手法の活用に取り組んでい る。
これらにより、部門主導型の組織から企 業横断協働体制に進めると考えるからである。
こうして今日の最先端のツールと手法は、 インターネットの威力と遍在化(同時に至る ところにある)により、顧客をウェブ・ベー スの豊かなサプライチェーンの中に組み入れ ることを可能にしていくのである。
サプライチェーンカウンシル日本支部 ベンチマーキングコンソーシアム連絡先 TEL 03−5419−5588 FAX 03−5765−6377 メールinfo@supply-chain.gr.jp

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