*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
NOVEMBER 2001 56
受注生産にシフト
本田技研工業(ホンダ)が受注生産(BT
O
:Build To Order
)を本格化させている。
完成車在庫を持って販売するのに比べて、B
TOでは納品までのリードタイムが課題にな
る。 しかし自動車の場合、在庫販売でも車両
の登録手続きなどが発生するため、実際には
納車までに一週間程度はかかる。 ホンダの独
自調査によると、顧客の注文を受けてから、
完成車を二週間以内に納品できれば、ほとん
どの顧客に満足してもらえるのだという。
受注後、生産と登録手続きを並行して処理
する。 そして、生産リードタイムを二週間に縮める――。 これによって完全な受注生産に
移行すれば、理論上は完成車の在庫はゼロに
なる。 目指すは、実需と生産を一対一で連動
させる「無在庫経営」の実現だ。 そのために
ホンダは現在、生産リードタイムの短縮に積
極的に取り組んでいる。
「調達から販売まで含めたリードタイムをい
かに短縮するかが重要。
これによって在庫が減
り、在庫管理にかかわ
るコストが減れば、お
客様にとっても、我々
にとってもメリットは
大きい」と、ホンダの
生産本部・生販在物流
受注後に生産して2週間で納品
部品メーカー巻き込み無在庫化へ
技術力やブランド力には定評のあるホンダだが、
サプライチェーン全体の効率化となるとトヨタ自
動車の「かんばん方式」に匹敵するような仕組みを
持っていたわけではなかった。 ところが最近のホ
ンダは、実需に応じた生産体制を実現するために
矢継ぎ早に手を打っている。 生産リードタイムの
短縮による在庫圧縮が狙いだ。
本田技研工業
――SCM
ホンダの生販在物流管理部・業務管
理部の樋野嘉昭生産システム主幹
導入を全社的に打ち出した。 柱の一つが、生産方法の改革だった。 昨年八月に鈴鹿製作所
で稼働した最新の生産ラインでは、一本の生
産ラインで従来よりはるかに多品種の車を作
ることができる。 人手とロボットを上手く組
み合わせるとともに、機種変更に欠かせなか
った「段取り替え」を不要にすることで、容
易に機種を変えられるようにした。
プレス工程のように、型の段取り替えなど
がどうしても発生する工程についても、従来
は一週間単位で実需と生産の同期を図ってい
たのを、三日単位、一日単位、あるいは五時
間単位といった具合に短縮化を進めた。 すで
に鈴鹿製作所だけでなく、世界中で稼働して
いる生産ラインに同様の仕組みを導入済みだ。
部品メーカーとの生産の同期化にも取り組
んできた。 顧客を満足させるための生産リー
ドタイムを二週間とすると、車が完成してか
ら顧客に納品するのに約六日かかるため、残
りの八日間で生産をする必要がある。 このう
ち完成車の組み立てに要する期間は一〜二日。
つまり、部品メーカーが生産ラインに部品を
届けるまでの猶予は、正式発注を受けてから
六日以内ということになる。
情報共有を徹底することによって、部品メ
ーカー側もこれに十分に対応できるとホンダ
は考えている。 今年一〇月に本格的な運用を
開始した情報管理システム「IMPACT
―
?
(
Information Management of Parts
57 NOVEMBER 2001
管理部・業務管理部企画管理ブロックの樋野
嘉昭生産システム主幹は強調する。
こうしたサプライチェーン・マネジメント
(SCM)を、ホンダの社内では?全同期流〞
と呼んでいる。 「お客様の確定注文に合わせ
て生産計画を作り、その順番に合わせて塗装
ラインも、溶接ラインも流す。 すべての工程
をお客様の確定注文と一対一で同期させるの
が最も望ましいという考え方」と樋野主幹は
説明する。 実はホンダは、この実需に応じた
生産体制を二〇年ぐらい前から追求してきた。
その試みが、最近になってようやく実現に近
づきつつある。
ネット調達システムが稼働
ホンダは九八年の中期経営計画でSCMの
suppliers Contact and Totalization
System
)」は、こうした生産指示などの情報
を調達先の部品メーカーに伝達するためのシ
ステムだ。 従来の「IMPACT―?」では
専用線と専用端末を使っていたが、これをイ
ンターネットとパソコンで利用できるように
した。 関係帳票には自動車工業会の標準フォ
ーマットを採用。 柔軟な取引関係の構築を可
能にしている。
すでに国内で取引している主要部品メーカ
ー三七〇社への導入を完了し、今後は二次、
三次の取引部品メーカーに導入を進めていく。
これにより従来は専用線がなかったために紙
ベースでしか取り引きできなかった部品メーカーとの情報伝達を効率化し、同時に全ての
取引メンバーが瞬時に情報を共有できる仕組
みを構築する方針だ。
末端の販売情報を吸い上げる情報インフラ
もすでに整備されている。 全国に一六〇〇あ
るホンダの販売店(ディーラー)では、営業
マンが車を売ると、その日のうちに成約情報
を端末に入力する。 成約情報は入力順に本社
のコンピューターに登録され、その時点で在
庫を引き当てる。
在庫がないものは生産指示に回す。 この際
に、注文を受けた順番のまま生産計画を作成
する仕組みになっている。 毎日、営業マンか
ら寄せられる成約情報を午後九時ぐらいに締
めると、コンピュータが夜中に計算して、翌
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
(カ月)
自動車大手3社の棚卸資産回転期間の推移
ホンダ
日 産
トヨタ
92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年
NOVEMBER 2001 58
朝一番には各地の工場に生産指示として流す。
同時にこの指示は「IMPACT
―?」を通
じて部品メーカーにも送信される。
週次生産計画の精度に配慮
このシステムをベースに現在、部品調達と
実需との同期レベルを従来の四分の一から、
八分の一に短縮することを目指して改革に取
り組んでいる。 ただし調達先との同期化は一
歩間違えると、部品メーカーに在庫リスクを
押しつける?下請けイジメ〞にもなりかねな
い。 そのためにも「情報が変われば、すぐに
部品メーカーにも開示している」と樋野主幹
は強調する。
情報共有をより有効なものにするため、事
前にホンダが立案する生産計画の精度向上に
も注力している。 ホンダの社内で『多段階生
産計画方式』と呼んでいるものだが、まず向
こう三カ年の生産台数を計画して、そこから
年次、月次、週次、日次の計画を順次策定す
る。 しごく当たり前のやり方だが、ここでの
計画値の精度を高め、さらに情報を部品メー
カーと共有することで調達先のリスク軽減に
務めている。
というのも、部品メーカーの立場では、完
成車の販売情報だけを基にして部品を生産す
るのでは、とても間に合わない。 そのため一
般的には月次、週次の生産計画に基づいて、
ある程度の見込み生産をしている。 つまりホ
ンダが事前に提示する月次、週次の生産計画
の数値が、実際の販売動向に近づくほど部品
メーカーの生産ロスが減ることになる。
ここでの予測精度を上げるため、ホンダの
社内では毎週末、計画策定のための会議を開
いている。 「在庫を受け持っている物流担当
者、営業部、それから我々の部隊が集まって、
在庫状況と販売動向をみながら週次の計画を
作っている。 計画に携わっている人達は年が
ら年中、変更を繰り返しているため大変だが、
もう慣れて当たり前になっている」と樋野主
幹は苦笑する。
実際の販売状況があまりにも変動する場合
には、人為的に生産の平準化を図るケースも
ある。 成約状況が少なすぎて生産ラインにム
ダが出るのであれば、過去の販売実績から必
要車種を割り出して見込み生産をする。 逆に、「全体の情報を取りまとめて不足分があれば、
どこそこの工場の何番ラインで休日出勤して
もらうといった調整をしている」(樋野主幹)
のだという。
物流業者がJIT納品
改革の影響は当然、物流にも及ぶ。 かつて
ホンダの国内工場での部品調達は、部品メー
カーの仕立てた納品トラックが生産ラインに
直接納品する「ダイレクト輸送」という仕組
みを採用していた。 例えば狭山工場では、工
場内に二本ある生産ラインの間の広い通路に
直接、納品トラックが入ってきて、必要な工
程の必要な場所に部品を降ろすというやり方
を約二〇年前から続けてきた。
従来の取引先との情報ネットワーク
部品 生産
研究・開発
Honda
発注/搬入
見積り書
発注/搬入 図面情報
発注/搬入/支払
固有情報
見積りシステム CAD転送
CAD転送
発注システム? 発注システム?、?
専用/公衆回線
公衆回線
(デジタル)
EWS
専用線
パケット回線
(INS-P)
専用線
公衆回線
(アナログ/デジタル)
VANネット DDX-P網 CAD授受
INS
公衆回線
(アナログ・ISDN)
ワランティー 生産計画
新たなネットワーク(IMPACT?)
部品 生産
研究・開発
Honda
発注/搬入
見積り書
発注/搬入 図面情報
発注/搬入/支払
固有情報
統合ポータルサイト
専用/公衆回線
業界共通ネットワーク
JNX&IP-VAN
CAD授受
ワランティー 生産計画
Hondaと取引先間の
ネットワークを一本化
アプリケーション毎の専用回線であり
1社で3本の回線が必要となっているケースもある
59 NOVEMBER 2001
しかし、九〇年代の後半にホンダの業績が
上向くと、工場では増産に次ぐ増産が続き、
本来であれば一〇〇〇台を作る生産ラインで
一五〇〇台を作るといった状況が生まれた。
当然、ライン横に納品される部品の物量も膨
れあがり、通路にはみ出しすようになった。
やがて後続のトラックをやり過ごすことすら
難しくなって、先頭のトラックが荷下ろしの
ために停車している間、後続車が渋滞すると
いう状況に陥った。
さらに悪いことには、想定していた以上に
納品車両の数が増えたため、それまでは十分
に機能していた排ガス換気のための空気清浄
器の能力が追いつかなくなってしまった。 そ
こで約五年前に、工場の一角に部品の納品窓
口を設けて、すべての部品を一度そこに納品
し、そこから生産ラインまではバッテリーカ
ーで運ぶというスタイルに切り換えた。 この
方式は現在でも基本的には変わっていない。
ホンダも過去には、トヨタのように納品頻
度を二時間ごとに細分化することで在庫を減
らそうと試みたこともあった。 しかし、調べ
てみると一日に二〇〇〇台の車を生産する工
場に、四〇〇〇台の納品車両が出入りしてい
ることが分かった。 車一台を作るために、ト
ラック二台を動かしている計算だった。 こん
なバカげた話はないと考えたホンダは、あっ
さりと多回納入の取り組みをやめてしまった。
現在、部品メーカーが仕立てるトラックの
ホンダへの納品頻度は「一日一六時間稼働で多くても四回ぐらい」(樋野主幹)だという。
この頻度はライバルメーカーに比べると決し
て多くはない。 そのためホンダの国内工場の
周囲には、同社の納品業務に精通した物流業
者が必ず倉庫を構えて、そこから生産ライン
へのJIT納品を担っている。
基本的に全国で四社の物流業者を使い分け
ており、物流子会社のホンダエクスプレスと
光明、日本梱包運輸倉庫、ホンダ運送が主要
なパートナーになっている。 こうした協力物
流業者の倉庫にはホンダが設置した情報端末
があり、そこで工場の生産状況を確認できる
ようになっている。 工場での生産状況に応じ
てJITで部品を納品してもらうための工夫
だ。 この情報を見ながら物流業者は、次工程
で必要な部品を、順番通りに並べて生産ライ
ンに供給していく。
部品メーカーと実験
しかし、前述したように、昨年八月に鈴鹿
製作所に本格導入をしたフレキシブルな生産
ラインでは、従来の生産ラインにくらべて二、
三倍の車種を混合生産できるようになってい
る。 こうした生産改革は部品調達の仕組みに
も大きな影響を及ぼす。
「一つの生産ラインで作る車種が三種類か
ら八種類に変われば、八種類の部品をきちん
と整列させてラインに供給するという新たな
ニーズが出てくる。 場合によっては、生産ラ
インの近くに部品の整列作業をするための共
同作業場のような場所を設けて、そこで特殊
なパレット上に生産計画の通りに部品を配置
してラインに流すといった工程も必要になる。
工場の生産ラインが自動化されれば、搬入の
形態も変わってくる」と樋野主幹は説明する。
実需に基づく部品調達を実現するため、ホ
ンダは部品メーカーも巻き込んだ実験を三年
前から手掛けてきた。 「当社と直接取引のあ
る部品メーカー約四〇〇社のうち、まず十数
社のメーカーを対象にテストをした。 ここで
のノウハウを水平展開して現在では対象メー
カーを五〇数社に拡大している」と樋野主幹は言う。
取引条件にも課題がある。 ホンダの調達物
流コストは、部品代のなかに含まれている。
商談の際には管理費として扱い、名目上は部
品代と分けているものの、最終的にはトータ
ル調達コストとしてしか管理していない。 ホ
ンダとしても現状の物流費をきちんと把握し
て、その理由まで踏み込んで管理できれば、
調達物流コストを下げるための具体的な方策
が見えてくるはずという考えは持っている。
実際、社内で取引先部品メーカーの改革を
支援しているチームでは、調達物流のさらな
る効率化を検討している。 現状では部品メー
カーの物流に任せてはいるが、ミルクラン方
式による調達もテーマの一つに挙がっている
という。
(岡山宏之)
|